ギヨーム・フラヴィニー(Guillaume Flavigny)──黒い墨も白いお茶も、香りの和音に変える

ギヨーム・フラヴィニー(Guillaume Flavigny)の鉛筆スケッチと代表作品

名前:ギヨーム・フラヴィニー(Guillaume Flavigny)
出身:フランス
所属:ジボダン
学びの場:ISIPCA、ジボダンの調香学校

コム デ ギャルソンの「Black(ブラック)」と、エリザベス アーデンの「White Tea(ホワイトティー)」。黒い墨を思わせる実験的な香りと、お茶のある静かな時間を描いた香り。この二つに同じ調香師が関わっていると知ると、少し意外に感じるかもしれません。

その人が、ギヨーム・フラヴィニーです。ジボダンでキャリアを重ねる一方、ピアノを弾き、香水づくりを教えるオンラインスクールも立ち上げてきました。香りだけを見つめるというより、音や色、味わいの中にある美しさを、調香の机へ持ち帰る人。その横顔は、Commodityの人物紹介にもよく表れています。

彼を知る手がかりは、「どんな香料を好むか」だけではありません。対照的なものをどう並べ、どこで響かせるか。フラヴィニーの作品をたどると、調香を作曲になぞらえる意味が、少しずつ見えてきます。

調香史

生い立ち

フランスで育ったフラヴィニーは、子どもの頃、公園で香りのするものを集めていたと紹介されています。身近なものの匂いを確かめる遊びが、やがて香水そのものへの強い興味に変わっていきました。Fragrance Du Boisのプロフィールには、その関心が十代になる頃には、夢中にならずにいられないほど大きくなったことが記されています。

もう一つ、彼らしいエピソードがあります。香水の豊かな文化を持つフランスで、なぜ学校では香りの「アルファベット」を教えないのだろう。若い頃の彼は、そんな疑問を抱いていたそうです。文字や音楽と同じように、香りにも覚え、組み合わせ、表現するための入り口があるはずだ。その発想は、後年の教育活動と重ねて読むと、いっそう興味深く感じられます。

ただし、最初から理系一筋だったわけではありません。高校では経済・社会系の課程に進んでいましたが、その途中で調香師になるという目標がはっきりします。そこで経済系のバカロレアを取得した後、科学系のバカロレアを取り直し、化学を学んで専門教育への道を開きました。ISIPCA同窓会の本人インタビューで語られている進路です。

この学び直しを、単に「化学が得意だったから調香師になった」と片づけるのは、少しもったいない気がします。彼の場合、まず香水をつくりたいという目的があり、そのために必要な学びを選び直した。後に自分の学校を始める行動力にも通じる、具体的な一歩でした。

調香師への道

フラヴィニーは1998年から2000年にかけてISIPCAで学び、修了後の2000年7月にはジボダンの調香学校に入ります。そこでさらに研鑽を積み、2003年にパリの香水制作チームへ加わりました。ISIPCAでの学びと、香料会社での実践的な訓練を重ねた経歴です。経歴を紹介したインタビュー

ISIPCA在学中には、香料会社シナローム(Synarome)で研修をしていました。この時期に、一人の顧客から香水のラインをつくる依頼を受けます。やがて依頼は、完成品をつくってほしいというものから、自分でも香水をつくれるように教えてほしい、というものに変わりました。

彼が調香を教えたその顧客は、約3年後、五つの香水を携えてブランドを立ち上げ、少しずつ世界へ販路を広げていったといいます。フラヴィニーにとっては、自分がつくることとは別に、誰かの創作を支える面白さに触れた経験だったのでしょう。後に始める「How to create perfumes」の原点となる出来事です。

ここで印象的なのは、教育の話が、キャリアを極めた後の余技として出てくるのではないこと。自身がまだ学んでいた時期から、技術を伝える機会を持っていたのです。調香師への道と、教える人としての道は、早い段階から並んで走っていました。

キャリアの変遷

ジボダンでのキャリア

2003年にジボダン・パリのチームへ加わった後、フラヴィニーはアントワーヌ・リーのもとで約2年間働きました。2026年のインタビューでも、この学びの期間が紹介されています。多様な素材や発想を扱う先輩と制作の現場を共にしたことは、学校とはまた違う経験を積む時間になったはずです。

その後、仕事の場はフランスからアメリカへ広がります。2015年にジボダンのニューヨーク拠点へ移り、約5年を過ごした後、2020年8月にパリの制作チームへ復帰。いずれも本人がISIPCA同窓会インタビューで明かした経歴です。

作品の幅も、その歩みに重なるように広がっていきます。バルマンやモスキーノのファッションの世界、エリザベス アーデンの親しみやすい香り、The Harmonistの抽象的なテーマ、コム デ ギャルソンの実験的な表現。ひと目で同じ調香師の作品だと分かるほど似た香りばかりをつくる人ではありません。

一方で、その幅広さは「何でもつくれる」という一言でも説明しきれません。ブランドが伝えたい空気や、香りをまとう人が求める距離感によって、同じ木や花の扱いも変わる。作品を横に並べてみると、自分の得意な形に相手を押し込めるのではなく、それぞれの世界観に応じて構成を組み替える調香師として見えてきます。

受賞歴と業界内での評価

キャリア初期の大きな節目が、2002年の「Prix International du Jeune Parfumeur Créateur」です。フランス調香師協会(Société Française des Parfumeurs、SFP)による若手調香師の国際賞を、ジボダンの学校に在籍していた時期に受賞しました。2026年にも本人は、特に思い入れのある賞として、この最初の受賞を挙げています。

学びの途中で得た評価が、20年以上を経ても特別な意味を持っている。華やかなブランド名が並ぶ現在の経歴を知った後だからこそ、その原点に触れる話は印象に残ります。受賞を一度の到達点とするのではなく、その後、異なる課題を持つ香水をつくり続けてきた時間まで含めて見たいところです。

また、フラヴィニーの仕事を理解する際には、受賞の肩書きだけでなく、どのようなブランドから異なる課題を任されてきたかにも注目したいところです。Blackの暗い抽象性と、White Teaの穏やかな親しみやすさ。両極に見える香りを担っていること自体が、制作の守備範囲を物語ります。

香水の好みが違えば、彼のどの作品を魅力的に感じるかも変わるでしょう。穏やかなものだけを選んでも、実験的なものだけを選んでも、人物像の半分が見えなくなる。その振れ幅ごと知ることで、調香師フラヴィニーの面白さが伝わってきます。

調香哲学・スタイル

フラヴィニーの調香を語るとき、繰り返し登場するのが音楽です。ピアノを弾く彼にとって、ジャズやモーツァルトの作品は、気持ちを動かし、制作への集中を深める存在だと紹介されています。香水にも、音楽にも、複数の要素を組み合わせたときに生まれる調和があるという考え方です。

香料を音に置き換えて考えると、この感覚は少しつかみやすくなります。一つの香料が美しくても、それだけで作品全体が成立するわけではない。前に出すものと、奥で支えるもの。明るさをつくる要素と、その明るさを際立たせる影。組み合わせが変われば、同じ素材の印象も変わります。これは本人の処方を解説するものではありませんが、彼の音楽的な比喩を読み解く入り口になります。

その姿勢は、天然香料と合成香料の関係にも表れています。Fragroomの本人インタビューでは、両者を対立させず、合成香料を現代的な表現や創造性のために必要なものと捉えています。天然だから豊か、合成だから簡単、という分け方ではないのです。

例えば「黒い墨」や「楽器のある空間」を香りにしたいとき、花や木の名前を並べるだけでは届かない表現があります。素材の由来を優劣の物差しにするよりも、どんな質感を描きたいか、どんな感情を呼び起こしたいかから考える。フラヴィニーの幅広い作品群は、そんな視点でつながっているように思えます。

ただし、音楽を愛する調香師だからといって、すべての作品が特定の曲を翻訳したものではありません。音楽が制作の気分をつくる場合もあれば、音楽そのものが香水のテーマになる場合もある。その違いが具体的に見えるのが、後に紹介する「Max Richter 01」です。

代表作とその背景

Balmain Ambre Gris(2008)──温かな樹脂に、少しの引っかかりを

バルマンの「Ambre Gris(アンブル グリ)」は、フラヴィニーの初期を代表する作品の一つです。2008年の発売で、彼の名前を追うときに繰り返し出会う香水でもあります。名前のAmbre Grisはアンバーグリス、つまり龍涎香を指しますが、作品名だけから天然の龍涎香が実際に使われていると判断することはできません。

紹介されるノートには、ミルラ、ベンゾイン、ピンクペッパー、シナモン、イモーテル、チュベローズ、ホワイトムスク、ガイアックウッドなどが並びます。樹脂の温かみだけでなく、スパイスや花の癖も含んだ構成です。Perfume Posseによるレビューでは、樹脂の厚み、塩気を思わせる感覚、花の少し奇妙な表情が語られています。

ここで面白いのは、心地よい甘さや温かさだけで説明が終わらないところです。穏やかにまとまる素材の間に、少し違う質感が入り込む。その引っかかりを欠点と見るか、香りに奥行きをつくるものと見るかで、受け止め方も変わってきます。

フラヴィニーを「調和の人」と呼ぶとしても、角をすべて丸めてしまうという意味ではない。Ambre Grisは、その点を考えるのに向いた一作でしょう。

Comme des Garçons Black(2013)──墨の黒さを、香りの構造へ

コム デ ギャルソンの「Black」は、フラヴィニーの大胆な側面に触れられる作品です。2013年に発表されたオードトワレで、同ブランドにある「Blackpepper」などの別作品とは区別しておきたい香りです。

ジボダンの香水史をたどったイベントを取材したFragranticaの記事では、日本の黒い墨を思わせる香りが制作の出発点だったと紹介されています。試作を重ねながら、方向性はさらに暗く、都市的なものへ。フラヴィニーはタールのアコードにブラックペッパーを強く効かせ、そのイメージを組み立てていきました。

墨というと、静けさや書斎の落ち着きを想像する人もいるかもしれません。しかしBlackの着想で注目したいのは、そこにある黒さを、タールや胡椒という別の質感に置き換えていることです。目に見える色を、そのまま一つの原料で再現するのではなく、いくつもの要素の重なりとして描く。その翻訳の仕方に、調香の面白さがあります。

ペッパーの鋭さ、煙を連想させる暗い調子、木やレザーの骨格。こうした構成をたどると、Blackを単に「スモーキーな香水」と呼ぶだけでは拾いきれない部分が見えてきます。何の匂いに似ているかに加えて、どんな色や密度を感じさせるのか。そんな見方が似合う作品です。

Elizabeth Arden White Tea Wild Rose(2019)──ローズのために、空気を残す

エリザベス アーデンの「White Tea Wild Rose(ホワイトティー ワイルドローズ)」は、2019年に登場したホワイトティー コレクションの一作。ロドリゴ・フローレス=ルーとの共同調香です。シリーズの出発点となった2017年の「White Tea」には、二人に加えてキャロライン・サバスも参加しています。作品の調香クレジット

Wild Roseの主役は、ホワイトティーの軽やかさに重ねられたローズ。ブランドは、海辺で野ばらに出会ったときのような、ささやかな喜びを香りのイメージとして掲げています。濃密な花束を正面から差し出すというよりも、風の中に花の存在を見つけるような方向性です。

エリザベス アーデンの製品ページに掲載される構成は、次のとおりです。

  • トップ:ホワイトティー、ペアツリーブロッサム、レッドカラント、パルマローザ
  • ミドル:ブルガリアンローズ、ターキッシュローズ、ピオニー、クラリセージ
  • ベース:ムスク、マテ アブソリュート、トンカビーン、シアーアンバー

この組み合わせでは、ローズだけでなく、お茶や果実、ハーブの要素も大切になります。花を大きく見せるために、周囲をすべて同じ甘さで埋める必要はない。ノートの配置からは、花の周りに明るさや空気感を残そうとする設計が読み取れます。

Blackの強い輪郭から、この作品の柔らかな花の世界へ。両方を同じ人の仕事として眺めると、フラヴィニーの個性は特定の濃さや暗さではなく、テーマに合わせて素材同士の距離を変えるところにあるのではないか、と感じられます。

The Harmonist Sun Force / Moon Glory(2020)──太陽と月を、別々の甘さで描く

ザ ハーモニスト(The Harmonist)は、陰陽や五行の考え方を香りの世界へ取り入れたブランドです。フラヴィニーはその香水制作を担い、「Sun Force(サン フォース)」と「Moon Glory(ムーン グローリー)」も手がけました。この二作は、太陽と月という対になるイメージを、異なる香りの構成で表しています。

Sun Forceの公式紹介に並ぶのは、ポメロ、ローズ、サフラン、カルダモン、インセンス、ハニー、サンダルウッド、ベンゾイン、ムスク。柑橘の明るさにスパイスと樹脂を重ねた、シトラス・ウッディ・スパイシーの方向です。太陽を、単なる爽快さではなく、熱や厚みを含むものとして扱っているのが興味深いところです。

一方のMoon Gloryでは、ジャスミン、イランイラン、ライチ、クイーン・オブ・ザ・ナイト、パッションフラワー、ハニー、ヒノキ、バルサム、サンダルウッドが紹介されています。夕暮れ以降に存在感を増す花々を軸にした、フローラルな世界です。

二作ともハニーやサンダルウッドが挙げられるのに、周囲に置かれる素材が違えば、描く風景は変わります。Sun Forceでは柑橘とスパイスの側へ、Moon Gloryでは花と果実の側へ。同じ音が別の和音の中では違って聞こえるように、共通する要素の役割を見比べると、二作を対にした面白さが伝わってきます。

風水というテーマを、香水の効果や運気の保証として受け取る必要はありません。ここでは、光と影、活動と静けさを考えるための創作上の枠組み。抽象的なテーマを、具体的な香りの違いへ落とし込むフラヴィニーの仕事に注目したいところです。

Fragrance Du Bois Oud Bleu Intense──涼しさの奥に、樹脂の温度を置く

フラヴィニーがフレグランス デュ ボワ(Fragrance Du Bois)で手がけた作品に「Oud Bleu Intense(ウード ブルー インテンス)」があります。青い名前から海や風を思わせながら、その内側にはウードや樹脂の厚みを備える香りです。爽快さと重厚さを、対立するものとして切り離していないところに注目できます。

ブランドが示すノートでは、マンダリン、カルダモン、ナツメグから、フランキンセンス、シスト、ミルラ、アンバーへ。ベースにはオポポナックス、スティラックス、ベンゾイン、ウードなどが並びます。いわゆる水っぽい爽やかさだけではなく、香辛料と樹脂を含んだ海のイメージなのです。

この作品を読む鍵は、「青い香りなのにウード」という意外性だけではありません。軽さを先に見せることで、奥にある温かさをどう感じさせるか。反対に、温かな土台があることで、最初の涼しさがどう際立つか。素材の名前よりも対比の設計に目を向けると、彼の調香哲学とのつながりが見えてきます。

Comme des Garçons Max Richter 01(2025)──音楽を聴く場所の匂い

2025年の「Max Richter 01(マックス・リヒター 01)」は、音楽と香りの関係を具体的な作品としてたどれる一作です。フラヴィニーは、弦の金属、ピアノの木、レコードの合成的な匂いなど、音楽を取り巻く物の質感を着想にしたと、本人インタビューで説明しています。

音楽を香水にする、と聞くと、旋律の明るさや悲しさを香りへ置き換えることを想像しがちです。しかしここでは、音を生み出す道具や、その場にある物質にも目が向けられている。木や金属、記録媒体という具体的なものを通して、音楽のある空間を描こうとしています。

Blackが墨の黒さから始まった作品だとすれば、Max Richter 01は音楽の周囲にある質感から始まった作品。色や音を、香料の名前に一対一で対応させるのではなく、いくつかの匂いの関係に置き換える。同じコム デ ギャルソンとの仕事の中にも、フラヴィニーの表現の広がりを見ることができます。

オンライン調香学校「How to create perfumes」

フラヴィニーのもう一つの活動が、オンラインで調香を学ぶ「How to create perfumes」です。きっかけは、ISIPCA時代にシナロームで経験した個人への指導。その後、教えていた内容をフランス語と英語のオンライン講座として届ける発想につながりました。

彼が2021年のインタビューで語った狙いは、年齢やこれまでの学歴にかかわらず、香水づくりを学びたい人に入り口を開くことです。自分のブランドを始めたい人、専門校への進学を目指す人、処方を組む力を効率よく伸ばしたい人。それぞれの目標に向けて、学びを後押しする場として説明されています。

ただし、講座を受ければ専門校に必ず入れる、短期間で職業調香師になれる、といった保証ではありません。彼が伝えようとしているのは、学びに取りかかるための選択肢を増やすということ。遠方に住んでいたり、年齢や学歴の条件から専門校の門をくぐりにくかったりする人にも、自宅から取り組める道を示しました。

興味深いのは、学校づくりのために、彼自身も新しい分野を学び直したことです。オンラインで教材を届ける仕組みをつくるため、いくつもの研修を受け、技術の変化に合わせて学び続けていると語っています。調香の経験を持っているだけでは、オンラインスクールは形にならない。その間を埋める作業にも、自ら取り組んだのです。

受講生からブランドを立ち上げた、最初の香水が好評だったという知らせを受けることが、続ける励みになっているという話も印象に残ります。自分の名を冠した成功とは違う喜びが、ここにはあるのでしょう。スクール設立の経緯を語ったインタビュー

若い頃に抱いた、なぜ香りのアルファベットを教えないのかという疑問。そこから学校の設立へ一直線だったと断定はできませんが、香りを一部の人だけのものにせず、学べるものとして開こうとする姿勢には、一つのつながりを感じます。

ちなみに…

音楽・芸術との関わり

フラヴィニーは、ジャズを愛するピアニストでもあります。Commodityの紹介には、ジャズの旋律だけでなく、日本の墨の深い色、スモーキーなウイスキーの味わいなど、異なる感覚の中に美しさを見いだす人物像が描かれています。

嗅覚の仕事をしている人が、嗅覚だけに閉じていない。この点が、彼の作品を知るうえで面白いところです。目で見た質感、耳で聴いた緊張感、舌で感じた余韻。そうした経験を香りと行き来させることで、素材名だけでは説明しにくい発想が生まれるのでしょう。

だからといって、彼の香水を楽しむためにジャズの知識が必要なわけではありません。前に出る香りと、奥で支える香り。その関係を少し気にしてみるだけでも、いつもとは違う聴き方ならぬ、香りの捉え方ができそうです。

ライフスタイルと趣味

ワインを好み、自分でビールを醸造することもあるフラヴィニー。ヨガや瞑想にも親しむ人物として、Fragrance Du Boisが紹介しています。つくること、味わうこと、集中することが、仕事の外にも広がっているようです。

これらの趣味を、そのまま特定の香水の誕生理由に結びつける必要はありません。むしろ、一人の調香師の感覚が、研究室の中だけで育つわけではないという話として読むと自然です。香水の専門知識を増やす時間と、別のものに夢中になる時間。その両方があるところに、彼の人物像の広がりがあります。

尊敬する調香師・影響を受けた作品

職業上の学びを語るうえで、アントワーヌ・リーは欠かせない存在です。ジボダン・パリで約2年間、彼のもとで仕事をしたという経歴は、フラヴィニーがどのように実践経験を積んだのかを知る、具体的な手がかりになります。

一方、師の作風と弟子の作風を、そのまま同じものとして扱うことはできません。フラヴィニー自身の仕事には、共同調香も、異なるブランドのための制作もあります。影響を受けながら、それを自分の仕事の中でどう使い直したのか。その答えは、一つの「好きな香水」の名前より、作品群をたどることで見えてくるのかもしれません。

モットー・座右の銘

ISIPCA同窓会のインタビューで、フラヴィニーは最後にこんな言葉を送っています。

「情熱を生き、行動に移してください」

原文は「Vivez vos passions, passez à l’action」。厳密には本人が座右の銘として掲げた言葉ではなく、読者に向けた助言です。発言の出典

学ぶ分野を変えたこと、パリとニューヨークで仕事をしたこと、香水づくりを教える場を立ち上げたこと。その経歴を見た後では、抽象的な励ましよりも、実際に踏み出してきた人の言葉として響きます。フラヴィニーを知る最後の手がかりは、才能という大きな言葉よりも、この行動の積み重ねなのかもしれません。

調香作品

主な作品を発表年順にまとめました。年は原則として初出年で、濃度違いや再発売版とは区別しています。共同調香欄の「—」は、ここに追加のクレジットを記載していないという意味で、単独制作を断定するものではありません。

発表年 ブランド 作品 共同調香・補足
2007 Daniel Hechter Hechter Paris —
2007 Balmain La Môme —
2008 Balmain Ambre Gris —
2008 Charriol Charriol Eau de Parfum —
2008 Eau Jeune Rose Nerolita —
2011 Azzaro Duo Men —
2011 Byblos In Black Eau de Parfum —
2011–2012 Charriol Royal Platinum 資料により発表年に差異
2012 Guess Seductive Homme Blue —
2013 Moschino Cheap & Chic Chic Petals —
2013 Comme des Garçons Black Eau de Toilette —
2013 Fragrance Du Bois Oud Bleu Intense —
2013 Ex Nihilo Vétiver Moloko —
2015 Initio Parfums Privés Divine Attraction —
2016 Ramón Molvizar Art & Gold & Perfume 2016年版
2017 Commodity Tonka —
2017 Elizabeth Arden White Tea Eau de Toilette キャロライン・サバス、ロドリゴ・フローレス=ルー
2018 The Harmonist Yin Transformation Parfum 2022年のEDP版とは区別
2019 Elizabeth Arden White Tea Wild Rose ロドリゴ・フローレス=ルー
2019 Valentino Uomo Born in Roma Eau de Toilette アントワン・メゾンデュー
2020 Montblanc Signature Eau de Parfum ナタリー・グラシア=セット
2020 Tom Ford Rose Prick —
2020 The Harmonist Sun Force —
2020 The Harmonist Moon Glory —
2020 The Nue Co. Forest Lungs —
2023 Sisley L’Eau Rêvée d’Isa —
2024 Tom Ford Black Lacquer —
2025 Comme des Garçons Max Richter 01 —
2026 Yves Rocher Bouquet Ambré —

このほかにも、Lacoste、Avon、Giorgio Armaniなど、多様なブランドの作品に関わっています。作品表はFragranticaの調香師ページとParfumoの作品一覧、ブランド資料、本人インタビューを照合したものです。データベースごとに濃度違いや再発売品の数え方も異なるため、掲載件数をそのまま創作した香水の総数とはしていません。

参考文献