Essential Parfums(エッセンシャル パルファン)――香水の本質を、もう一度。

ブランド創業者

「香水業界のありかたに疑問を持ち続けてきた。なぜクリエイティブな香水がこんなに高いのか。なぜ調香師の才能はブランド名の影に隠れてしまうのか。なぜマーケティングが、香水本来の創造的価値を覆い隠してしまうのか。」
— Géraldine Archambault(ジェラルディン・アルシャンボー)、エッセンシャル パルファン創業者

基本情報

設立年: 2018年9月
創設者: Géraldine Archambault(ジェラルディン・アルシャンボー)
公式サイト: https://www.essentialparfums.com

創設者・ブランドの成り立ち

香水に囲まれた幼少期

ジェラルディン・アルシャンボーは、生まれながらに香水の世界に浸かって育った。幼い頃の最初のにおいの記憶を問われると、彼女はためらいなく答える。「母はシャリマー(Shalimar)を、父はオー・ソヴァージュ(Eau Sauvage)をつけていた。ずっと小さいころから香水に包まれて生きてきた」。

父は1970年代、フランスの老舗香水メーカー「ロシャス(Rochas)」に15年間勤めた。母も同じくロシャスで働き、その職場で二人は出会った。その後、両親は独立し、フランスのブランド「Parfums Aubusson(パルファン・オーブソン)」を共同で創設。ジェラルディンはそのブランドで15年間働いた。ロシャスでの親の時代、オーブソンでの自身のキャリア、そして後に探求するニッチフレグランスの世界——彼女の香水人生は、まさに三世代にわたる物語である。

業界への疑問と転機

オーブソンを離れた後、ジェラルディンはニッチフレグランスブランドの台頭を目の当たりにした。独自のクリエイションと大胆な香りを掲げる個性的なブランドが次々と生まれ、香水愛好家たちを熱狂させていた。しかし彼女にはひとつの疑問が拭えなかった——「なぜ、個性的な香りをまとうことが、こんなに高くなければならないのか」。

長年業界の内側にいた経験から、彼女はその答えをすでに知っていた。ライセンス料、広告費、有名人を起用したマーケティング……そういったものが積み重なり、価格に上乗せされているのだ。香水そのものの品質や、それを生み出した調香師の才能は、むしろ二の次に扱われていた。

さらに彼女が気づいていたのは、業界の「不透明さ」だった。

「調香師たちは長い間、ブランドや有名人やデザイナーの影に隠れてきた。彼らこそ真のアーティストなのに、ほとんど日の目を見ない。ほかのどんなアーティストの作品にも、作者のサインがある。香水だってそうあるべきだ」

ブランドの誕生——2018年9月

30年に及ぶ業界経験を武器に、ジェラルディンは2018年9月、エッセンシャル パルファンをパリで立ち上げた。その理念はシンプルでありながら、業界の常識に真っ向から挑むものだった。

「始まりは、ひとつのシンプルなアイデアだった。調香師に一切の制約なく、自由に創作してもらうこと」

ブランドのマニフェストには、こんな一節がある。「ケイト(Kate Moss)やジゼル(Gisele Bündchen)やケンダル(Kendall Jenner)はどうでもいい。調香師こそが、私たちの真のスターだ」。セレブリティ起用でも、華美なボトルでも、巨額の広告予算でもなく、香りの芸術を担う人間を前面に押し出す——それがエッセンシャル パルファンの出発点であった。

パリでの拡大と急成長

ブランドは2019年から、パリの高級デパート「プランタン・オスマン(Printemps Haussmann)」のセントルームに並ぶようになった。その後、パリのマレ地区に直営のフラッグシップブティックをオープン。ミニマルで清潔感のある空間に、調香師たちの肖像写真が一面に飾られた。

2020年以降、ブランドは急激な成長を遂げ、2023年の小売売上高は6,000万ユーロに達した。2024年6月にはシャンゼリゼ通りのギャラリー・ラファイエット(Galeries Lafayette)にポップアップストアを出店し、さらにサン・ジェルマン・ブールバールにも2軒目の直営店を構えた。「エッセンシャル パルファンは今、自己資金で運営しており、非常に好調だ」と創業者は述べている。リヨン、ボルドー、そしてロンドンへの出店も計画されており、2021年時点で世界200カ所以上の販売拠点を持つに至っている。

ブランドのこだわり

調香師を「スター」として前面に

エッセンシャル パルファンの最大の特徴は、各香水に調香師の名前がラベルに明記されていることだ。ボトルには、最終ラボテストの参照番号(例:ボア アンペリアルなら「MOD 1151EX」)も記載されており、他ブランドではまず見られない透明性が徹底されている。また、全香水の濃度(16〜17%)が明示されており、「これを公開しているブランドは他にない」とジェラルディンは言う。

各調香師には「カルト・ブランシュ(carte blanche)」——完全なる創作の自由——が与えられる。予算の制限も、スタイルの縛りも、マーケティング部門の介入もない。

自然素材へのこだわりとサステナビリティ

全香水の天然原料配合率は86〜93%に達する。ジェラルディンは、各調香師に対して「天然原料を高い比率で使用すること」「少なくとも1つのサステナブルプログラム由来の原料を使用すること」を必須条件としている。

ただし彼女は合成素材の意義も認めており、「合成素材も天然素材と同じように重要であることを、人々に理解してもらう必要がある。環境への負荷という観点では、合成素材の方が地球に優しいケースもある」と語っている。

アルコールはビーツ(甜菜)由来。人工着色料・フタル酸エステル不使用、ヴィーガン対応、クルエルティ・フリー(動物実験なし)。フランス国内で生産されている。

ボトルとパッケージのデザイン哲学

「シンプリシティこそ、究極のソフィスティケーション(洗練)である」——これがブランドのデザイン哲学を一言で表すフレーズだ。

創業当初のボトルはガラスサプライヤー「Coverpla(コヴァープラ)」の汎用モデルを使用していたが、売上規模の拡大に伴い、2024年からブランド独自のシグネチャーボトルに移行した。新ボトルのデザインを担当したのは、パリのデザインエージェンシー「Objets de Convoitises(オブジェ・ド・コンヴォワティーズ)」の創設者、Alnoor Mitha de Bharat(アルノール・ミタ・ド・バラト)。製造はイタリアのガラスメーカー「Zignago Vetro Brosse(ジニャーゴ・ヴェトロ・ブロス)」が担当した。

ボトルは25%リサイクルガラスで作られており、無限に詰め替え可能な「リフィラブル(rechargeable)」設計が採用されている。パッケージは、FSC認証を取得した段ボール素材で、プラスチックは一切使用しない。ボトルの底にはブランドロゴが刻印され、ラベルは調香師のサインのみという潔さ。「シンプルなキャップ(磁石付きではなく)、シンプルなヴァージンカードボードのボックス……そういった選択の積み重ねが、価格に直接反映される」とジェラルディンは説明する。

中間流通業者を介さないことで、コストをそのまま商品価格に還元。2024年時点で、100mlのオー・ド・パルファムは82ユーロ、150mlのリフィルは95ユーロという価格帯を実現している。

香水ラインナップ

コレクションの構造

エッセンシャル パルファンのコレクションは、各香水を「シニア・パフューマー」または「マスター・パフューマー」と称される世界最高峰の調香師が一人で担当する、シングル・パフューマー制を採用している。各作品には調香師の名前がそのまま冠されており、コレクション全体が「調香師の個展」のような性格を持つ。

ブリーフはシンプルで、「一つの素材またはアコードを中心にした、ユニセックスの香水を作ること」——名前からにおいの核が伝わる透明なネーミングが特徴だ。​​

香水名調香師主要ハウス特徴
ボア アンペリアル (Bois Impérial)クエンティン・ビスク (Quentin Bisch)Givaudanコレクション最大のベストセラー。アキガラウッドを核にした官能的でフレッシュなウッディ系
ローズ マグネティック (Rose Magnetic)ソフィー・ラベ (Sophie Labbé)IFFライチとグレープフルーツがローズの甘さを引き立てるフローラル系
モン ヴェチバー (Mon Vetiver)ブリュノ・ジョバノヴィッチ (Bruno Jovanovic)Firmenichハイチ産ベチバーを軸に、ジュニパーベリーとライムを合わせたアーシー系
オランジュ × サンタル (Orange x Santal)ナタリー・グラシア・セット (Natalie Gracia-Cetto)Givaudanオレンジとサンダルウッドによるシトラス × ウッディ系
ディビン バニーユ (Divine Vanille)オリビエ・ペシュー (Olivier Pescheux)Givaudanマダガスカル産サステナブル・バニラへのオード
ザ ムスク (The Musc)カリス・ベッカー (Calice Becker)Givaudanムスクを主役にした洗練されたアンバー系
ナイス ベルガモット (Nice Bergamote)アントワーヌ・メゾンドュー (Antoine Maisondieu)Givaudanベルガモットを中心にしたシトラス × フローラル系
フィグ インフュージョン (Fig Infusion)ナタリー・ロルソン (Nathalie Lorson)Firmenichイチジクを主役にしたグリーン × フルーティ系
パチョリ マニア (Patchouli Mania)ファブリス・ペルグラン (Fabrice Pellegrin)dsm-firmenichアーシー、チョコレート的なパチョリをフィーチャーした2023年作品
ネロリ ボタニカ (Néroli Botanica)アン・フリッポ (Anne Flipo)IFFネロリを中心にしたフローラル × スパイシー系
ベルベット アイリス (Velvet Iris)ドミニク・ロピオン (Dominique Ropion)Givaudan11作目。アイリスをウッディかつカーナルに解釈した野心的な作品

また、別作品としてオスマンサス アブソリュ(Osmanthus Absolu)もマチュー・ナルダン(Mathieu Nardin)の名でラインナップされている。

代表作:ボア アンペリアル

コレクションの中で不動の人気を誇るのが、クエンティン・ビスク作のボア アンペリアルだ。

「この香水は、ひとつの希少で卓越したウッド素材、アキガラウッドを中心に作り上げた。フレッシュなスパイスをまとったそれは、パチョリとタイバジルの対比を持つ、偉大なウッディだ」
— クエンティン・ビスク​

アキガラウッド(Akigalawood)は、バイオテクノロジーによってパチョリからアップサイクルされた独自の天然素材であり、このブランドのサステナビリティへのこだわりを象徴する素材でもある。天然素材比率は93%に達し、ヴィーガン認証済み、ビーツ由来アルコール使用という仕様は全ラインナップで共通だ。

エキストレとヘア&ボディミスト

2024年秋からは、ボア アンペリアル、ザ ムスク、ナイス ベルガモットの3作品が、よりリッチな濃度の「エキストレ ド パルファン(Extrait de Parfum)」30ml形式で登場。また、ボア アンペリアルとナイス ベルガモットの「ヘア&ボディミスト」もラインナップに加わっており、フラグランスの楽しみ方を広げている。

ちなみに…

  • エッセンシャル パルファンのボトルには、香水の製造番号(ラボテストの最終参照番号)が記載されている。たとえばボア アンペリアルの「MOD 1151EX」がそれだ。「本当に透明であるために、私たちはそうしている」とジェラルディンは語る。
  • 2024年に新設されたシグネチャーボトルの底には、ブランドロゴが刻印されている。内部にはラベルを収めるための凹んだ窓がデザインされており、「ファセリフト(顔を変える)ようでいて、本質を変えない改良」というデザイナーの言葉がそのままブランドの姿勢を表している。
  • 創業者ジェラルディンは自らポッドキャスト「Conversations Olfactive(コンヴェルサシオン・オルファクティーヴ)」を主催しており、調香師や評価士などの業界の人物と対談を重ねている。
  • ディビン バニーユを手がけたオリビエ・ペシュー(Givaudanのマスターパフューマー)は、ブランド参加後に他界した。公式サイトには彼の名が「故人(the late Olivier Pescheux)」として記されており、ディビン バニーユはその遺作のひとつとなっている。
  1. Essential Parfums公式サイト「Our Story」 – https://www.essentialparfums.com/en/our-history
  2. 「Everything you’ve ever wanted to know about Essential Parfums」Essential Parfums公式ブログ – https://www.essentialparfums.com/en/the-news/everything-you-ve-ever-wanted-to-know-about-essential-parfums-but-did-not-feel-aski
  3. 「ESSENTIAL PARFUMS: Naturally Restoring the Essence of Perfumery」by Karen Marin, Essencional.com(2021年10月)– https://www.essencional.com/en/posts/essential-parfums-naturally-restoring-the-essence-of-perfumery/
  4. 「Essential Parfums moves upmarket with a new bottle」Premium Beauty News(2024年7月)– https://www.premiumbeautynews.com/en/essential-parfums-moves-upmarket,24228
  5. 「Interview parfumée : Géraldine Archambault, Essential Parfums」Parfumista.net(フランス語)– https://parfumista.net/2021/04/interview-g-archambault-essential-parfums/
  6. 「ESSENTIAL PARFUMS NATURAL AND ACCESSIBLE PERFUMERY」Kams Paris – https://kamsparis.com/en/blogs/history-of-niche-perfume-brands/history-essential-parfums
  7. Discovery Set – Essential Parfums 11x2ml 商品説明, La Maison du Parfum – https://www.lamaisonduparfum.com/en-cn/collections/all/products/discovery-set-11x2ml-essential-parfums
  8. 「Bois Impérial – Eau de Parfum par Quentin Bisch」Ecocentric.fr – https://www.ecocentric.fr/s/13546_372382_bois-imperial-essential-parfums
  9. Essential Parfums Bois Impérial Fragrance Refill, Saison(商品仕様詳細)– https://www.saison.com.au/products/essential-parfums-bois-imperial-fragrance-refill
  10. Essential Parfums Discovery Set 2025, Ministry of Scent – https://ministryofscent.com/products/essential-parfums-discovery-set-2025
  11. 「Essential Parfums: Niche For People With Real Budgets」Fragroom(2025年5月)– https://fragroom.com/2025/05/05/essential-parfums/
  12. Essential Parfums新作4種、NOSE SHOP Japan(日本語)– https://noseshop.jp/blogs/blog/251128-esp-debut
  13. Essential Parfums「2025年統括」note.com by kaz-san – https://note.com/archvision/n/ne9ce4faea5e6
  14. Essential Parfums公式サイト「Our Commitments」– https://www.essentialparfums.com/en/our-commitments
  15. Essential Parfums公式サイト(ホーム)– https://www.essentialparfums.com/en/
この記事を書いた人
Root

香りの学び場「ルシェルシェパルファム」の運営者。
元香水販売員で、現在はとあるIT企業の管理職。
香水への愛が抑えきれず、自身の学んだことをはきだすサイトを作ってしまう。エルメス・フレデリックマルを主に愛用。

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