Villa515(ヴィラ515)— ドバイで香水を迎える家と、選品・ラボの歩み

温かな光の中に香料の小瓶と試香紙、薫香を配したVilla515のスティルライフ 香水ショップ

「香水が私たちの客であるかのように。」

— ダーヘル・ビン・ダーヘル

客を迎える部屋の発想を、香水店に持ち込む。ドバイのVilla515(ヴィラ515)は、香水を選ぶ場所であるとともに、原料を知り、香りをつくり、異なる文化の表現に出会う場所として始まった。

その成り立ちには、家庭で香りを調合していた母と姉、自分のブランドを迎え入れる「家」を求めた創業者、そしてイタリア人調香師との協働がある。中東の香水文化を一種類の素材にまとめず、その内側から世界のニッチ香水へ窓を開いた店である。

基本情報

  • 店名:Villa 515(ヴィラ515)
  • 開業年:2013年
  • 創設者:Dhaher Bin Dhaher(ダーヘル・ビン・ダーヘル)、Alessandro Gualtieri(アレッサンドロ・グアルティエリ)
  • 誕生の地:UAE・ドバイ、ジュメイラ
  • 公式サイト:Villa 515

ヴィラ515は複数の香水ブランドを扱う店舗であり、ダーヘル自身の香水ブランドTola Perfumery(トーラ・パフューマリー)とは役割が異なる。現在の公式案内には、ジュメイラ3のジュメイラ・ビーチ・ロードと、DIFCのゲート・アベニューにあるPerfumery by Villa 515が掲載されている。

創設者と店の成り立ち

家庭の香りづくりから、自分のブランドへ

ダーヘルはドバイで生まれ育った。香水だけを仕事にしてきた人物ではなく、家業や政府関連の仕事にも携わってきた実業家である。香りの原点は、香油やブフールを自分で調合していた母にあった。ブフールとは、香りを含ませた木片などを熱し、住まいや衣服を香らせる薫香である。

母と長姉とのロンドン旅行で、香りが呼び起こす記憶や感情についての会話が、トーラの着想になった。家庭の内側にあった技術と物語を、外の世界へ伝えたい。ダーヘルは2022年、そうした出発点を次の言葉で表している。

「私たちは家庭の枠を越えて、世界全体に語りかける準備ができていました。」

— ダーヘル・ビン・ダーヘル

本人がトーラの設立年とするのは2010年。そこから約3年、出張の機会も使ってニッチ香水店を訪ね、原料の生産者や流通の担い手、グアルティエリ、イストワール ドゥ パルファンのジェラルド・ギスランらと出会った。2013年には最初の作品群が形になる。ブランドの設立と、店の開業は同じ出来事ではない。

グアルティエリと構想した、香水を迎える家

2013年、ヴィラ515がジュメイラに開いた。トーラを置くのにふさわしい家がなかったことが、店をつくる直接の理由だった。ダーヘルと構想をともにしたグアルティエリは、ナーゾマットとオルト パリージを手がける調香師である。

二人の発想は、アラブとイタリアの文化が出会う場所をつくること。周囲に椅子を配した空間には、客を迎える部屋であるマジュリスの考え方があった。冒頭の「香水が私たちの客であるかのように」という言葉は、香水をその部屋へ迎え入れる比喩なのである。

初期の空間をデザインしたのはリリアン・ドリーセン。壁に取り付けた椅子のインスタレーションには、ドリーセンがドバイの家で目にした、壁際に並ぶ椅子の風景が反映されていた。香水を整列させる棚だけでなく、迎えるという行為そのものを店の姿にした点が興味深い。

アブダビへの出店と、ヴィラの改修

2016年には、アブダビのアル・マリヤ島にあるザ・ガレリア・モールへ出店した。2022年のダーヘルはドバイとアブダビの3店舗について語っているが、それは当時の展開である。

一方、ジュメイラのヴィラは、香水だけに閉じない場所へ変わっていった。NON Architectsによる改修は2023年に完成。1980年代のヴィラを改修し、すでにあった香水店と昼間のカフェに加え、レストランや、仕事・会食・催し・展示に使う空間を設けた。

屋根を開いて加えた螺旋階段の着想は、ブフールの煙とUAEの古い砦。粘土の仕上げで質感を与え、上階には屋上庭園を設けている。これは店の開業でも移転でもなく、既存のヴィラで過ごす時間を広げた改修である。

ヴィラ515の歴史年表

年 出来事
2010年 ダーヘルがトーラを設立。ヴィラ515の開業に先立つブランドの歩み。
2013年 ジュメイラでヴィラ515が開業。香水店・相談のためのサロン・香水のカスタマイズ用ラボを組み合わせる。
2016年 アブダビのザ・ガレリア・モールに出店。
2018年 原インタビューで、地元の若い作り手へのラボ開放と処方の支援を語る。
2019年 公式沿革に、Perfume Houseの香りの展示ステーションと売店への、トーラ・IFFとの共同関与を記載。
2023年 NON Architectsによるジュメイラのヴィラ改修が完成。
2026年10月確認 公式がジュメイラとDIFCの所在地、香水・ブフール・キャンドルのワークショップ、ビスポーク制作を案内。

選品と、作り手をつなぐ仕事

価格より、物語・構想・香りの質を見る

ダーヘルはニッチ香水を、高価格や限定数だけで定義しない。2018年に挙げた軸は明快である。

「物語、コンセプト、そして香りの質。」

— ダーヘル・ビン・ダーヘル

現在の公式ブランド一覧にも、その幅が見える。ナーゾマットやオルト パリージに加え、イストワール ドゥ パルファン、エタ リーブル ド オランジェ、ノービレ1942、ロレンツォ・ヴィロレッツィ、バルチ、フォート アンド マンレなどを紹介している。一つの地域や香りの型に品ぞろえを揃える店ではない。

たとえば一覧では、人物や詩、音楽を香りで語るイストワール ドゥ パルファンと、スピロス・ドロソプロスの個人的な夢の感覚を表すバルチがともに掲載されている。原料名を比較するだけでなく、香水で何を語るか、その違いに触れる選品である。

地元の処方と、海外から来る学び手

ラボは、店の背景にある飾りではなかった。2018年のダーヘルは、UAEの作り手が持ち込んだ処方を一緒に整え、ラボを使えるようにした二つのブランドについて話している。またパリから研修生を迎え、学びを交換していた。

「主に、知識を分かち合うことなのです。」

— ダーヘル・ビン・ダーヘル

この交流を理解するうえで大切なのは、伝統を固定しない姿勢だ。ダーヘルは2022年にも、UAEの出身だからすべての作品にウードが入ると考えられることに異を唱え、花や柑橘、スパイスも使うと説明している。母から受け継いだ香りの文化と、国外の作り手への関心は、彼の仕事のなかで並び立つ。

処方を一緒に整え、ラボを使う機会を提供する。完成品の販売に加え、つくり手の入口にも関わる仕事である。2022年には、その先に研修後の才能を支えるインキュベーターを設けたいという構想も語っている。

現在の試香とラボ体験

完成した香水から、原料と制作へ

ヴィラ515の公式サイトは、オープンラボを通じて、原料の識別・分類・鑑賞から香りづくりへ進む体験を案内している。掲載されているのは、香水ワークショップ、ブフール・ワークショップ、キャンドルづくり、そしてビスポーク制作である。

香水の完成品を嗅ぐことと、香りを組み立てる素材を知ることは、同じではない。さらにブフールでは、身につける香水に加え、空間や衣服を香らせる方法へと関心が広がる。ヴィラ515には、この異なる入口が用意されている。

個別の開催日程や担当者、実施場所、ビスポーク制作の進め方は、公式の問い合わせ先で確認できる。グアルティエリ本人が常駐して調香を教えるサービス、といった約束はされていない。

ジュメイラのヴィラと、DIFCの店舗

ジュメイラの連絡先は、ジュメイラ3、ジュメイラ・ビーチ・ロード。DIFC側の公式施設案内でも、ゲート・アベニュー1のPerfumery by Villa 515を掲載している。同店の紹介では、世界の独立系を含む調香の作り手に加え、キャンドル、ディフューザー、ホームフレグランスも扱うことが分かる。

ヴィラのラボや庭園、改修後の空間を、DIFCの店舗にもそのまま当てはめることはできない。香水選びを楽しむ店と、原料や制作に踏み込む体験について、それぞれの場所を確かめておくと、この店の広がりを捉えやすい。

ヴィラ515の物語は、「ドバイらしい香り」を一つに決める話ではない。家庭から生まれた香りの知識を携え、国外の作り手を客として迎え、その違いを地元の人へ伝える。店、サロン、ラボを組み合わせた出発点に、今もその仕事の輪郭が残っている。

各地の店の歴史と試香の考え方は、世界の香水店でも紹介している。

参考文献