香水ライターの綴るエッセイ~香水と人生~

香水ライター

初めての「香水」は忘却された~香水人生はまだ始まらない~

私が初めて香水に出会ったのは高校生の頃でした。
当時は周りの同級生が「ちょっといい匂いのもの」を付けていて、好奇心の赴くままに地元の駅ビルで見つけた同じようなものを香水と認識して出会いました。
周りが付けているし流行なのかといったイメージで幾つか手に取りましたが香りは目に見えないし先生の目もあって付けにくいし、香りにお金かけるのは、とその程度の気持ちでそのまま「香水」に関しては忘却されていきました。

二度目の出会いが初恋だった~香水人生のはじまり~

次に私が香水に出会ったのは大学入学して受験戦争が落ち着いた頃でした。
その時には入学祝と称して周りからお小遣いだとか貰えて都会に出る余裕も出たので思い切って伊勢丹新宿店に出かけました。
折角だから入学記念に何か良い感じの文房具だとか、ちょっと美味しい回らないお寿司だとか食べるかといった気持ちで入りました。

中に入ると煌びやかな装飾に、時計やジュエリーの一流品の面々と、何より従業員の方々も伊勢丹に入っただけで「いらっしゃいませ」と深々とお辞儀をされて一流の接客に驚きました。
足を踏み入れると様々な洗練されたものがあふれていて、場違いではと緊張をしていました。
そんな中、色とりどりの美しいガラス瓶が並べられた売り場に辿り着き、それが高校生の頃に見た「香水」であることに気づくのにタイムラグが要りました。
高校生の頃に見かけた「香水」はカジュアルなボトルで、もう少し日常感がありました。
しかし、目の前にあった「香水」はラグジュアリーでクラシカルで洗練されていて、非日常的な美術品のようで対照的でした。

立ち尽くしていると、お店の方に声を掛けられ、伊勢丹新宿で初めて香水を見ることを伝えると快く様々な香水のメゾンを紹介して下さりました。
英国の気品あるフローリスに鮮やかで色とりどりの装飾のアニックグタールに、クラシカルな格調高いラルチザンと知っていきました。
また、どの香水を嗅いでも、以前の高校生の頃試した「香水」とは別物だと香水に明るくない私でも解りました。

そんな中、ラルチザンのある香水を嗅いだ瞬間、雷鳴が落ちました。
新宿は快晴なのに、ゲリラ豪雨が嗅いだ瞬間に私の周りだけ降り出して、激しい雷鳴が響きわたる嵐が瞬時に去った刹那、雷が大地に直撃して土被った薔薇の香が漂う光景が見えました。
ヴォルール・ド・ローズ、薔薇泥棒、ラルチザンが誇る名香の1つだとお店の方からは教わりました。
右も左も香水を知らない私に解ったのは、ヴォルール・ド・ローズを一度嗅いだ瞬間から愛してしまったということでした。
そして、初めての香水、ヴォルール・ド・ローズと共に伊勢丹新宿を後にして、日常に戻った後も鮮烈さを忘れられず、そこから私の香水人生は幕を開けるのでした。

新宿伊勢丹でフローリスの当時の代表の講演イベントに参加して、代表から私に似合うとホワイトローズを選んで頂いて、10年程度経った今も心に残り香として佇んでいます。
結局入手じまいだった当時色とりどりのボトルが魅惑的のアニックグタールの中でも麗しの蒼き宝石のボトルから流れ出る森の泉の静寂のようなニュイ・エトワーレに想いを馳せます。
韓国の企業に買収がされ、魅惑の色彩がこの世界から消失したときは哀しかったです。

ヴォルール・ド・ローズが廃盤になったことも香水人生において指折りの哀しい出来事に入りますが、それ以上にラルチザンのブランディングの180度転換が最も悲劇的に感じました。
私の中でのラルチザンは格式高く高潔でいてクラシカルで洗練されながら、万人受けではなく香水が本当に好きな人間に好かれていく良い意味で媚びない敷居の高いメゾンでした。
が、大幅な路線変更により、伝統ある古き良き時代からモダン=現代派となっていきました。
ヴォルール・ド・ローズも含め今までのラルチザンを象徴する香水の大幅な廃盤、新作を嗅いだもののそれは私の知っているラルチザンではなく、万人受けのカジュアルな香りでした。
あぁ、私の知っているラルチザンは、私が一番好きだったメゾンが無くなってしまったんだなと放心してしまいました。

我が最愛なるフエギア殿~香水人生の黄金期幕開け~

それからというものラルチザンの代わりのメゾンを探したく、様々な香水メゾンに触れていくことになります。
トムフォードのノワール・デ・ノワール、クリードのラブ・イン・ホワイト、メゾン・ド・フランシスクルジャンのウード、ペンハリガンのザ・リベンジ・オブ・レディ・ブランシュと様々な香水に出会い、沢山好きな香りを見つけていきました。
特定のメゾンに縛られず転々としていた矢先、ある方に「フエギア 1833」というとても良いメゾンがあることを教わり、六本木のグランドハイアット東京に参りました。

着いた瞬間、我が目を疑いました。
それぞれの香水瓶のスプレー先端に対し、丸形フラスコが逆さに付属して所狭しと一律に並んでいたからです。
中に入るとフラスコを持ち上げて先端から香りがするようになっているとお店の方から教わり、すっと嗅ぐと直に香りが感じられて、普段のムエットからよりも生きた香りでした。
香りを順々に嗅いでいくと他のメゾンには無い香り、フエギア 1833 独特の自然がそのままそこにあるような草が生い茂って生命が満ち溢れたような唯一無二の世界観が存在していることに気づきました。
これぞ香水だと自然と畏敬の念を抱き、恋に落ちた瞬間でした。
この中に私の最愛の伴侶となりうるような香水、初恋を超え得る香水もあると私は確信し、探して見つけ出しました。

★香水データ
香水名:Chamber(チェンバー)
ブランド名:FUEGUIA 1833
発売:2015年
香調:グリーン&アーシー

チェンバー、湖の底の大理石の香り、苦さと甘さの混じった草生した苔のような土の香り。
嗅いだ瞬間、水の中に沈む自分が見えました。そのまま沈んでいって静けさに飲み込まれていく、それでも生命力に満ち溢れていて、どちらかというと私を中央に戻してくれるような香りで、大理石の硬質さと水の柔軟さ、爽やかなグリーンノートを感じながらも大人の渋さと甘さのミステリアスさも共存する最も香水らしい香水なのだと、ずっと求めていた心の奥底の古い宝箱にやっと辿り着いて、だけどこれから始まる未来を感じられるような香りでした。

現在に至るまでの香水の軌跡~我が香水人生はいつも全盛期~

それからというものフエギア 1833 とチェンバーの虜になり、芳醇なジャスミンのアマリアに惹かれていきました。
また、それ以降も新たな香水のメゾンが新宿伊勢丹にやってきて、エラケイの日本の大仙院を模した香りのメモワール・ド・ダイセンインに心を奪われ、香料を見るとローズアルバ、すなわちホワイトローズとあり、フローリスとの軌跡が継承されていて、香りは思い出を彩るのだと思い知らされたエピソードでした。今でも薔薇の香りではエラケイのこの香りが最も好きです。

他にも新たなメゾンではキリアンのラブ・ドント・ビー・シャイにブラック・ファントム・ メメント・モリ、バンブー・ハーモニー、フレデリックマルのロー・ディべールと惹かれていき、どうやら私の香水への欲求は底なしなのだと日々思い知らされています。
フエギア 1833 でもリンナエウス、エットヘム、ムスカラジャスミナムと以前からあった香水にも惹かれ、日々新しい自分に成長していくことで香水を味わう本能(嗅覚)までも磨かれて、時には過去の想いが蘇って、新しい自分にも香水にも真に出会えていくのだと感じています。

ココ・シャネルは「香水をつけない女には未来がない」と言ったけれど、私は「人は香水をつけると過去に想いを馳せ、今の現実と向き合う勇気を得られ、未来へと繋がる光り輝く道を歩ける」のだと思います。

もしこの記事を読んで、画面の前のあなたが香水との付き合い方を楽しんでもらえる一助になったならば、執筆者冥利に尽きます。

この記事を書いた人

とある企業ライターとして働く傍ら、
香水愛好家として、香りの学び場「ルシェルシェパルファム」にて寄稿を始める。
まあ、文章執筆活動を天命と考え、ライフワークとして個人でも活動を行っている。
香水はフエギア 1833を主に愛用。

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Le Chercheur de Parfum

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