Goldfield & Banks(ゴールドフィールド アンド バンクス) ― オーストラリア初を掲げる高級香水メゾン

ゴールドフィールド アンド バンクスの世界観と代表製品「Pacific Rock Moss Eau de Parfum」を表現したブランドイメージ ブランド創業者

「オーストラリアに高級香水メゾンが存在しないことを知った日が、自分が最初のメゾンを創らなければならないと悟った日だった。」
— ディミトリ・ウェバー(創設者)

基本情報

設立年: 2016年
創設者: ディミトリ・ウェバー(Dimitri Weber)
本拠地: オーストラリア
公式サイト: https://www.goldfieldandbanks.com

(読み方の注記:日本では「ゴールドフィールド アンド バンクス」と表記されることが多い。)

創設者・ブランドの成り立ち

幼少期と香水への目覚め

ディミトリ・ウェバーは、フランス人の父とベルギー人の母のもとに生まれ、ベルギーで育った。彼が最初に香水に親しんだのは、幼いころに母の持つフレグランスを品評していた記憶にまでさかのぼる。やがて1980年代に入ると、学校の先生たちが小瓶の香水サンプルを持って彼に意見を求めに来るほどになっていた。

「子どもの頃から、すでに母の香水を選んでコメントしていました。学校の先生たちが小瓶のサンプルを持って私に相談に来ていた。80年代に香水のサンプルを持つことは、ほんの一握りの人々だけの特別なことでした。」
— ディミトリ・ウェバー

その後ウェバーは芸術を学び、ファッション業界への進出も模索したが、すぐに「自分の居場所は香水の世界だ」という確信に至る。百貨店で週末や学校休暇のたびに香水を噴霧するアルバイトでキャリアをスタートさせ、ほどなくして業界の名門ブランドへと道を開いていく。

香水業界でのキャリア

1990年代初頭にYSL(イヴ・サン・ローラン)フレグランス部門に入社し、その後ジャン・ポール・ゴルティエ、イッセイ ミヤケ、ナルシソ ロドリゲス、グッチ、トム フォード、カルティエ、資生堂など、世界を代表するブランドでマーケティング・PR・教育トレーニングを担当し続けた。

「以前から自分のブランドを作りたいとは思っていませんでした。世界中を飛び回る非常に恵まれた生活を送っていましたから。」
— ディミトリ・ウェバー

実際、ウェバーが独立を考えなかったのは理由がある。「パリだけでも数えきれないほどのフレグランスブランドがある。なぜ同じことをしなければならないのか」というのが彼の論理であった。フランスやグラースのバラやジャスミンを語るだけでは、業界に「新しい波」を起こすことにはならない——そう感じていた。

オーストラリアとの運命的な出会い

転機はビジネス出張の形でやってきた。当時在籍していた企業のパリのオフィスで、「オーストラリアでPRイベントを開催したいが、誰も行きたがらない」という状況が生まれた。「あまりにも遠いから」という理由で敬遠される中、ウェバー自ら手を挙げた。

「誰もパリのオフィスから行きたがらなかったので、私が受けることにしました。ラグジュアリーフレグランスの世界では、オーストラリアの植物や原料はよく知られているんです。高級香水に使われるサンダルウッドは、すべて西オーストラリア産です——ディオールも、シャネルも、エルメスもゴールドフィールドも。」
— ディミトリ・ウェバー

その旅は単なる出張では終わらなかった。ウェバーはオーストラリアに恋をした。ほどなくして出会ったオーストラリア人のパートナーとの関係が、移住の決定的な動機となる。2014年、40歳に手が届くころ、彼はヨーロッパでの安定したキャリアを手放し、オーストラリアへ完全移住した。

「不毛の地」に香水メゾンを興す

移住後、ウェバーは驚愕した。オーストラリアは気候と肥沃な大地に恵まれ、世界の高級香水産業が密かに重宝してきた珍しい植物原料の宝庫であるにもかかわらず、彼の目には、その豊かさを伝える高級香水メゾンが見当たらなかった。イソップ(Aesop)やジュリーク(Jurlique)のようなスキンケア・ボディケア系のブランドはあったが、彼が目指す、オーストラリアの植物原料を主役とした本格的なメゾンには余地があると考えた。

問題は原料ではなく、技術とノウハウの欠如にあった。それならば自分が架け橋になれる——ウェバーはそう確信した。フランスで培った30年以上の調香業界の知識と人脈を活かしながら、オーストラリアの原料を最大限に引き出す「ハイブリッドなメゾン」を作ること。これがゴールドフィールド アンド バンクス誕生の原点である。

2016年、ブランドは正式にローンチされた。

ブランド名に込められた物語

ブランド名は二つの言葉から成る。

「ゴールドフィールド(Goldfield)」は、「サンダルウッドは金が埋まる場所に育つ」というオーストラリアの伝説に由来し、同時に「肥沃な大地」をも意味する。ウェバーにとってオーストラリアは、文字通り香料という「金」が埋まる大地であった。

「バンクス(Banks)」は、18世紀の植物学者・探検家ジョゼフ・バンクス卿(Sir Joseph Banks, 1743–1820)への敬意を表している。バンクスはキャプテン・ジェームズ・クックのエンデバー号(HMB Endeavour/エイチエムビー・エンデバー)に乗り、1770年にオーストラリアのボタニー湾(Botany Bay)に上陸し、それまでヨーロッパ科学界には未知であった植物を数多く記録した。バンクシア(Banksia)属の命名も彼の業績を称えたものである。ウェバーは自らを「探検家」になぞらえ、バンクスが感じたであろう「未知の豊かさに出会う興奮」を香水という形で世界と分かち合いたいと語っている。

「バンクスの精神に共鳴しました。私もオーストラリアを初めて訪れた時、彼がここに到着した時に感じたであろう興奮——私の場合はこの土地の香りに対する興奮でしたが——を経験したのです。」
— ディミトリ・ウェバー

さらに、ボトルのラベルに施された鋸歯状(スカラップ形)のデザインは、バンクスが発見・記録した植物「バンクシア(banksia)の葉」をモチーフにしたものである。ブランド名から包装デザインまで、ジョゼフ・バンクスの探求精神が一本の糸として貫かれている。

ブランドのこだわり

香りづくりの哲学:「一つの原料から始まる旅」

ゴールドフィールド アンド バンクスの香水づくりはつねにオーストラリア原産の素材を起点とする。ウェバーはオーストラリアやニュージーランド、パシフィック諸島から送られてくる原料サンプルをひとつひとつ吟味し、「これだ」と感じた素材をパリやドバイの調香師に送って可能性を検討するところから始める。時に、素材より先にオーストラリアの特定の「場所」が着想の源になることもある。

「私が香水を作る際の出発点は、常に素材です。フランスの調香師たちがバラやジャスミンについて語り続ける時代はもう終わりです。オーストラリアの原生植物こそが、はるかに美しいストーリーを持っています。」
— ディミトリ・ウェバー

フレグランスは20%以上の高い香料濃度を特徴とし、深みと持続性を追求している。初期の制作体制では、スイスに本拠を置く香料会社フィルメニッヒ(Firmenich)やメルボルンのオーストラリアン・ボタニカル・プロダクツ(Australian Botanical Products)との協働が紹介されてきた。

珍しい原料へのこだわり

ゴールドフィールド アンド バンクスが使用するオーストラリア産原料の中には、現代の香水業界でほとんど使われてこなかった素材が多数含まれる。

  • オーストラリアン・サンダルウッド:西オーストラリア産。ディオール、シャネル、エルメスも使用するが、その原産地は世界的にほとんど知られていなかった。アボリジニとのパートナーシップを通じて得られる野生のサンダルウッドも使用している。
  • アガーウッド(沈香):クイーンズランドの熱帯地域で栽培される100%オーガニックのもの。「シルキー ウッド(Silky Woods)」に使われるアガーウッドはゴールドフィールド アンド バンクスの世界独占仕入れで、価格は1リットルあたり最高10万オーストラリアドルにもなる。
  • ボロニア(ブラウン・ボロニア/Brown Boronia):タスマニア南端のブルーニー島(Bruny Island)で、9月の数週間だけ咲く極めて希少な花。1リットルのアブソリュートを得るためには1250万個もの花が必要とされる。日本円換算で1kgあたり約300万円という高価な原料だ。
  • ブッダウッド(Buddhawood):アボリジニが約1000年にわたり使用してきたとされる素材。スキンケアでは活用されてきたが、香水に使用したのはゴールドフィールド アンド バンクスが初とウェバーは語る。
  • クンゼア(Kunzea):タスマニア近くのフリンダース島(Flinders Island、ウェバーがインタビューで人口約500人と紹介した島)のブッシュ・ファーマシー(Bush Pharmacy)で栽培。グラッシーで爽快感があり、癒しと活力を感じさせる香り成分を持つ。

ボトル・パッケージデザイン

デザインのコンセプトはシンプルだ。「素材そのものを主役にしたい」というウェバーの考え方が、パッケージ全体に反映されている。各フレグランスの液体は異なるイメージカラーで着色され、ボトルを並べた際に鮮やかなコントラストが生まれる。

外箱には「夜空の漆黒」をイメージした深いダークカラーが使われ、ボトルのラベルにはバンクシアの葉をモチーフにした特徴的な鋸歯状のデザインが施され、蓋には「ヘリテージスタンプ」が刻まれている。

「シルキー ウッド(Silky Woods)」のボトルには、24金を含むパウダーをサンドブラスト技法で吹き付けた特別なゴールド仕上げが施されており、その輝きはアガーウッドの持つ価値を視覚的にも体現している。

サステナビリティと倫理的調達

ゴールドフィールド アンド バンクスは2016年の設立以来、農家や蒸留業者との長期的な関係構築を重視し、フィールドから抽出、最終ブレンドに至るまで完全なトレーサビリティ(追跡可能性)を確保している。フレグランスは一部を除いてヴィーガン処方で、動物実験を行わないクルエルティフリーを掲げ、国際香料協会(IFRA)基準に準拠している(ただし「シルキー ウッド」と「ベルベット スプレンダー」は有機蜜蝋を含むためビーガン非対応)。溶剤には有機ビーツ由来のアルコールを採用しており、これはクリーンなアルコール源として業界内でも先進的な取り組みとして評価されている。

香水ラインナップ

ゴールドフィールド アンド バンクスの全フレグランスは現時点で大きく二つのコレクションに分類される。

ネイティブ・コレクション(The Native Collection)

オーストラリア固有の植物原料を一作ごとの「主役」に据えたコレクション。砂漠、熱帯雨林、海岸線、島……オーストラリアの多様な風景が一本ずつの香水に凝縮されている。代表的な作品は以下のとおりである。

  • ホワイト・サンダルウッド(White Sandalwood):西オーストラリア産サンダルウッドの絹のようなクリーミーさを中心に、エキゾチックで包容力のある香り。
  • パシフィック・ロック・モス(Pacific Rock Moss):オーストラリアのロッキーコーストラインに着想を得たアクアティック系。世界的な人気上位作品の一つ。
  • ブルー・サイプレス(Blue Cypress):ブルーサイプレス精油を用いたスモーキーかつウッディな一作。
  • ウッド・インフュージョン(Wood Infusion):複数の木材エッセンスを重ね合わせた豊かなウッド系。
  • デザート・ローズウッド(Desert Rosewood):主素材のブッダウッド(buddhawood)は他のほとんどの香水では使われない希少成分で、調香師フランソワ・メル・ブドワン(François Merle-Baudoin)が独自の解釈で仕上げた。ウェバー自身がザ・リュクス・レビュー(The Luxe Review)の2023年11月のインタビューで「長い間もっとも愛した香水」と語った作品である。
  • サザン・ブルーム(Southern Bloom):タスマニアのブルーニー島で9月だけ咲くボロニアのアブソリュートを核とした、豊かなフローラル系。2019年ピュア・ビューティ・アワーズでベストニッチフレグランスの銀賞を受賞した。
  • ボヘミアン・ライム(Bohemian Lime):オーストラリアン・フィンガーライムを使ったフレッシュで爽快な柑橘系。2021年のベルジャン・ビューティ・アワーズのファイナリストに選出された。
  • サンセット・アワー(Sunset Hour):フルーティでウォームな香りは世界的な人気作品の筆頭。ウェバーは日本でも「サンセット アワー」「シルキー ウッド」「ボヘミアン ライム」「パシフィック ロック モス」が人気の上位を占めると語っている。
  • インジーニアス・ジンジャー(Ingenious Ginger):ウェバーが「完全に自分自身のために作った初めての香水」と語る作品で、オーストラリアン・ジンジャー・アコード、イタリアン・ベルガモット、レモン、オーストラリアン・サンダルウッド、アンバーなどで構成される。
  • ミスティック・ブリス(Mystic Bliss):フリンダース島産のクンゼア(Kunzea)精油を主役に据えたパウダリー・ウッディ系。調香師はフィルメニッヒのフロリアン・ガロ(Florian Gallo)。

ボタニカル・シリーズ(The Botanical Series)

「世界の植物がオーストラリアの豊かな土地で育ち、フランスの調香技術によって香水に昇華する」というコンセプトのシリーズ。ジョゼフ・バンクスが1770年に行った航海に着想を得て、探求と発見の精神が全作品に宿っている。

  • シルキー ウッド(Silky Woods):世界独占のオーストラリアン・アガーウッドを核とした濃密な一作。ボトルに24金のサンドブラスト加工が施されており、視覚的にも印象的である。
  • パープル・スウェード(Purple Suede):タスマニアン・ラベンダーを使ったコンテンポラリーなフローラルウッディ系。ウェバーが「コレクションの中で全時代を通じて最も好きな一本」と述べたことがある作品。
  • アイランド・ラッシュ(Island Lush):南太平洋産サンダルウッドを軸に、ナツメグ、ジンジャー、ガイアックウッド、ベチバー、アガーウッドが絡まるウッディ・スパイシー系。
  • その他、テイルズ・オブ・アンバー(Tales of Amber)、ローズ・マグニチュード(Rose Magnitude)なども同シリーズに属する。

フレグランスの「三段構成」という世界観

ゴールドフィールド アンド バンクスでは、各フレグランスのノートを「サンライズ(Sunrise)=トップ」「サミット(Summit)=ハート」「サンセット(Sunset)=ベース」と名付けている。これはオーストラリアの一日の光景——夜明けの清澄な空気から、午後の眩しい絶頂、そして黄昏どきの柔らかな余韻——を香水の時間軸に重ねたものだ。フランスの伝統的なピラミッド構造をオーストラリアの自然観で再解釈した、このブランドならではの語り口といえる。

ちなみに……

ウェバーは自ブランド以外でも「古典」を愛している。コレクション外で最も好きな香水として、セルジュ・ルタンスの「フェミニテ・デュ・ボワ(Féminité du Bois)」、ゲランの「シャリマー(Shalimar)」オリジナル処方版、シャネルの「ココ エクストレ(Coco Extrait)」のオリジナル処方版を挙げており、香水における処方の重要性をよく物語っている。

ブランドの初期認知向上に寄与した人物として、ウェバー自身がフレグランス・インフルエンサーのデミ・ローリング(Demi Rawling)の名前を挙げている。ソーシャルメディアでの口コミがブランドの世界展開に一役買った逸話として、今日のニッチフレグランス市場における「インフルエンサー経済」を象徴するケースの一つとも言えるだろう。

クンゼアのエッセンシャルオイルを供給するフリンダース島のブッシュ・ファーマシー(Bush Pharmacy)は、創業者である故スティーブ・バックハウス(Steve Backhaus)の息子ベン(Ben Backhaus)が引き継いだ家族経営の農園である。「父はドイツ生まれで、オーストラリアの原料を讃え、輸出市場がそれを高く評価することをよく知っていた。ディミトリと過ごした時間は、その父への懐かしさを呼び起こしてくれた」とベンは語っており、生産者とブランドの間に育まれた人間的な絆が、このブランドの香りを一段と豊かにしている。

参考文献