超臨界二酸化炭素抽出法

co2 extraction 抽出法・分析法

ルイ・ヴィトンは、ジャスミンやローズを含めた花の抽出にクリーンなテクノロジーを使用した最初のブランドです。我々は匂いを捕らえ、香水に使用するために、ダイオキシンをこれまでよりも放出していないのです!この技術は、ノンカフェインのコーヒー(デカフェ)を作るなど、最初は飲食業界で発明されました。私は20年前(1999年ごろ)にこの技術を発見し、香水のためにこの技術を使って、二酸化炭素抽出法だけで生み出された香料コレクションを開発できないかをサプライヤーに尋ねました。

 実は、私は香水業界において、この抽出法で抽出された香料を使用した最初の調香師なのです。それは25年前のことで、インセンスやカルダモンといった乾燥した香料を二酸化炭素抽出法で抽出し、イヴサンローランの香水(注:恐らくオピウムプールオム)に使用しました。

ジャック・キャヴァリエ

歴史と方法

 1980年代からトレンドになってきた手法で、名前の通り、超臨界状態に達した二酸化炭素(CO2)を利用して抽出する方法です。英語では、CO2 extractionと呼ばれ、二酸化炭素以外を使用する場合もあるため、Supercritical Extraction(超臨界抽出)とかSupercritical Fluid(SCF、超臨界流体)とも呼ばれます。

超臨界とは…

 物質は、温度や圧力によって、固体液体気体の3つの状態をとります。水(液体)であれば、氷(固体)になったり、水蒸気(気体)になったりします。これらは温度・圧力が関係しているため、同一温度であっても、圧力が異なれば状態は変わります。
 液体と気体が同時に存在する温度・圧力をグラフにしたものを蒸気圧曲線と呼び、その上限を臨界点と言います。この臨界点を超える温度・圧力にした場合、液体とも気体とも区別のつかない1つの相となります。これを超臨界状態(supercritical state)にある物体、「超臨界流体」と言います。超臨界流体は、液体とも気体とも違う性質を持ち、わずかな圧力の変化で密度が大きく変化します。物質の溶解度(どれだけ溶けるか)は、密度に大きく依存するため、微細な圧力変化で密度をコントロールできる超臨界流体は、溶解によく使われるようになりました。

 臨界点が発見されたのは1822年のことでした。1978年にはコーヒー豆からカフェインを無くす(脱カフェイン)技術が工業化され、1982年にはホップエキスの抽出がなされました。

 臨界点は、物質によって異なりますが、例えば、水は温度374.2℃・圧力22.12MPaに対し、二酸化炭素は温度31.1℃・圧力7.38MPaと室温かつ低圧で超臨界流体になります。このため、二酸化炭素が非常に使われやすい傾向にあります。そして、低温かつ低圧のため、繊細な原料を変化・劣化させずに精油を抽出することが可能です。こうして得られた抽出物はSFE(Supercritical Fluid Extract)と呼ばれます。

 抽出プロセスはシンプルで、原料を抽出する円筒型の容器の中に入れ、CO2の温度・圧力を変化させ、香気成分をCO2に溶かすだけです。

メリット・デメリット

超臨界二酸化炭素抽出法のメリットとデメリットは下記です。

メリット
・低温のため、香気成分の熱変化が起こりにくい
・二酸化炭素による抽出のため、香気成分の酸化・変質が起こりにくい=原料に近い香りを抽出が可能
・プロセスがシンプルで簡単かつ短時間での処理が可能
・二酸化炭素が無毒性のため、残存溶剤が問題にならず安全
・二酸化炭素を使用するため、爆発の恐れも無く、環境にも良い、無臭でニオイが残らない
デメリット
・溶解度が有機溶剤より小さく、抽出量が少ない
・水分が多い原料(ジャスミンやラベンダーなど)だと追加コストがかかる=乾燥したものは相性が良い
・機械のコストがとてつもなく高いため、精油のコストも高くなる

この記事を書いた人

香りの学び場「ルシェルシェパルファム」の運営者。
元香水販売員で、現在はとあるIT企業の管理職。
香水への愛が抑えきれず、自身の学んだことをはきだすサイトを作ってしまう。エルメス・フレデリックマルを主に愛用。

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