ボーン トゥ スタンド アウト(BORNTOSTANDOUT)―秩序の中の反抗

ブランド創業者

「”ノーマル”に反逆し、あなたの欲望を解放せよ。あなたはボーン トゥ スタンド アウトだ。特に私たちが生まれたところ——東アジアでは、個性を受け入れてもらえない。社会は自分自身を閉じ込めることを強いる。」

— Jun Lim(ジュン・リム)、創設者[1]

基本情報

設立: 会社設立 2020年、ブランド正式ローンチ 2022年4月[2][1]
創設者: Jun Lim(ジュン・リム)
本拠地: 韓国・ソウル(龍山区ハンナム)
運営会社: House by Lim(ハウスバイリム)
公式サイト: https://en.borntostandout.com

創設者・ブランドの成り立ち

ボーン トゥ スタンド アウトへの原点

創設者ジュン・リムは生まれながらの「ボエミアン(自由人)」だったと自らを語る。しかし、彼が歩んだキャリアは、そのイメージとはおよそかけ離れたものであった。ゴールドマン・サックスと野村證券で化粧品・小売部門の投資を担当するインベストメントバンカーとして、コンベンショナルな世界に長年身を置いていた。銀行業界という「規範の象徴」の中で、同僚たちからは「社会不適合者」「変人」「エキセントリック」と呼ばれ続けていたという。それでも彼は、自分の個性を封印したまま仕事を続けた。[3][1]

しかし、その傍らで、リムはもうひとつの人生を生きていた。香水への偏愛である。

最初の一本は、9年生(日本の中学3年相当)のころにカナダ・トロントのダウンタウンにあるディスカウント香水店で購入したヴェルサーチェの「ブルー ジーンズ」だった。リムはそのインタビューの中でこう語っている。「ベルガモットの爽やかな香りが、まるで世界を手に入れたような気持ちにさせてくれた。今でも手放せない、僕の人生の香りだ」。以来、週に1本ずつ小遣いで香水を買い続け、時が経つにつれてニッチ・パフュームリーの世界へと深くのめり込んでいった。インタビューによれば、その個人コレクションは最終的に約2,000本に及ぶという。[4][1]

「10代の頃から筋金入りのフレグランス・オタクだった。香水の持つ変容の力、それが人を変えるという魔法がずっと大好きだった。それが20年間にわたって香水を集め続けた理由だ」

— Jun Lim、Marie Claire UK 誌インタビューより[5]

「解雇」という転機

2020年、リムは職を失った。彼自身は後のインタビューでこの出来事を淡々と振り返っている。「幸いにも投資銀行の仕事は給与が良かった。長年の貯蓄があったし、そしてかつての職場が僕を解雇し、それなりの退職金を払ってくれた」。その自己資金をすべて注ぎ込み、描いていた香水ブランドの構想を現実へと動かし始めた。売れる見込みのない絵画を売ってまで資金を工面したという記録もある。香水への情熱と金融の知識——この2つが、ボーン トゥ スタンド アウトを生む土台となった。[6][5][4]

しかし、夢の実現は容易ではなかった。韓国国内には香水製造のインフラがほぼ存在せず、R&D・生産コストは非常に高かった。リムはまず世界有数の香料メーカーへのアプローチを試みた。当初の反応は厳しかった。「かなりの額の契約料と厳しいペナルティ条項を提示された。調香師の名前さえ開示してくれないとも言われた。でも調香師に直接ブリーフィングなしに誠実な創作はできない」とリムは語っている。粘り強い交渉の末、創業128年の老舗にして世界最大級の香料メーカーであるフィルメニッヒ(現Givaudan傘下)との協業を取り付け、ようやくスタートラインに立った。[1][3]

ブランドの誕生——会社設立から正式ローンチまでの2年間

会社を興したのは2020年だったが、正式なブランドとしてのローンチは2022年4月まで持ち越された。香りのレシピを完成させるまでに、「何年もかかった」とリムは語る。そして、ブランド立ち上げと同時にソウルのハンナム地区にフラッグシップストアをオープンするという、ほとんどのブランドが数年かけて行うことを一夜にして実行した。[4][1]

「情熱と愛情、そして僕の性格——これらが絡み合ったときにボーン トゥ スタンド アウトは生まれた。毎日正しい香水をつけることが、人の気持ちを変えるほどの力を持つと信じている。それは僕自身が経験してきたことだ」

— Jun Lim、Duft-Tagebuch インタビューより[1]

ブランド名には、リムの哲学が凝縮されている。東アジアの儒教的な社会規範——「普通」であることを美徳とし、個性を抑圧するカルチャー——に対する直接的な反逆の宣言だ。リム自身が感じてきた「社会的なはみ出し者」としての疎外感と、そこから解放への欲求が、ブランドのあらゆる要素に刻み込まれている。[1]

「ボーン トゥ スタンド アウトの中核にあるのは『反逆』だ。スローガンは『Who F***ing Cares?』(誰が気にする?)。非常に保守的な文化の中で育って、固定化された社会の期待に『合わせよう』とし続けることにもはや疲れ果てた。そして、まさにそれに反抗するブランドを作りたかった」

— Jun Lim、Cult Beauty コメントより[7]

ブランドのこだわり

香りづくりの哲学:「アートとしての香水」

ボーン トゥ スタンド アウトの香りづくりの最大の特徴は、「クラウドプリーザー(大衆受け)を目指さない」という徹底した姿勢にある。「僕がパフューマーと仕事をするときに常に言うのは、『ありきたりな香水を作ることには興味がない。独創性こそが僕の哲学の核心だ』ということだ」とリムは述べている。[5]

「香水はアートであり、アートとは自己表現の形だ」

— Jun Lim、Marie Claire UK 誌インタビューより[5]

創作プロセスはすべてリムの個人的な旅、情熱、インスピレーションから始まる。業界のトレンドは参照せず、彼の人生・愛・趣味・好みから直接着想を得る。調香師に対しては予算制限を設けず、最大限の芸術的自由を与えることで実現する香りへの投資を惜しまない姿勢をとっている。[8][9]

香りのスタイルは、ソフトオリエンタルとグルマン(食欲をそそる甘美な香り)の中間に位置し、「最も親密な瞬間に増幅される、自分自身の肌の香りのようなもの」を目指している。ウエスタン香水業界で一般的に使われない素材や組み合わせを積極的に取り入れ、既視感のない香りを追求する。公式FAQによれば、エドゥパルファムでありながら香料濃度は30〜40%と通常のエドゥパルファムを大きく上回る仕様で、「エクストレより低いと言っているが、それは過小評価して過大提供するためだ」と語っている。[10][1]

全製品がヴィーガン・クルエルティーフリー仕様であり、動物由来成分・サステナビリティへの懸念がある植物性成分・有毒なアレルゲンを含む精油は使用しない。アルコールベースは甘いコーンを由来とし、ボトルはリサイクルガラスと再生紙パッケージを採用するなど、サステナブルラグジュアリーへの意識も組み込まれている。[11][12][10]

ボトルデザイン:朝鮮白磁の再解釈

ボトルのデザインは、李朝(朝鮮王朝、1392年〜)の白磁——俗に「月壺(ムーン ジャー)」と呼ばれる、丸みを帯びた優雅な白い磁器——を現代的に再解釈したものだ。[13][6]

「韓国において、白は儒教——私たちが生き、従う基本的な理念——の色だ。そして韓国人は赤を禁忌とも関連付けている。実際、赤で名前を書くことは呪いとさえ言われる」

— Jun Lim、Marie Claire UK 誌インタビューより[5]

この相反する2色——白と赤——を同一のボトルに組み合わせることで、「秩序の中の反抗」というブランドの本質を可視化した。純白のボトルには官能的な曲線が宿り、それに重なるクリムゾンレッドの文字が挑発的な個性を主張する。「韓国らしいもの」と「韓国らしくないもの」、「古い価値観」と「新しい価値観」という矛盾する主張を一つのボトルに封じ込めたデザインは、ブランドのコンセプトそのものを体現している。[6][11]

調香師陣

ボーン トゥ スタンド アウトは、世界でもトップクラスの調香師たちとの協業によって香りを実現している。名前が確認できる主な調香師は以下のとおりである。[2]

  • オリヴィエ・クレスプ(Olivier Cresp)——ドルティ ライスなどを担当。グラースの香料一家に生まれた、グルマン香の先駆者[14]
  • フランク・フォルクル(Frank Voelkl)[11][2]
  • ダフネ・ブジェ(Daphne Bugey)[11]
  • オノリーヌ・ブラン(Honorine Blanc)[2]
  • ナタリー・ローソン(Nathalie Lorson)[3]
  • ハミド・メラティ・カシャニ(Hamid Merati-Kashani)[2]
  • アン=ソフィー・ベアゲル(Anne-Sophie Behaghel)[2]
  • クエンタン・ビッシュ(Quentin Bisch)、フロリアン・ガロ(Florian Gallo)、ドーラ・バグリシュ=アルノー(Dora Baghriche-Arnaut)ほか多数[15]

ビジュアルとコミュニケーション

ブランドのビジュアルは、人物の顔を一切使わないというスタンスを貫く。「顔を使うことはブランドの本質を希薄化させると考えている。インフルエンサーも関係ない。みんながやっていることには興味がない。私たちはオリジナルだ」。アートの発信と販売もブランドのアイデンティティの一部であり、フラッグシップストアでは韓国の現代アーティストとのコラボレーション作品(手作りの現代磁器アート、版画、ドローイング)が定期的に展示・販売されている。[16][8][1]

香水ラインナップ

ボーン トゥ スタンド アウトのフレグランスは、現在3つの主要コレクションに整理される形で展開されている。

ダーティ&スティッキー(Dirty & Sticky)コレクション

ブランドを代表する最初のコレクションで、「汚くて、べとついて、デカダントな肌の香り」というコンセプトを体現する。ファウンダー自身が「最も愛する香り」として挙げるダーティ ライス(Dirty Rice)は、ベルガモット・アーモンド・バスマティライス・ミルク・牡丹・サンダルウッド・ベチバーなどで構成され、「毎日母が炊いてくれた新鮮な蒸し米の記憶——しかし官能的でアバンギャルドにひねりを加えた」ものだという。開発は全作品中最も困難で、もともとシラージュ(香りの広がり)が弱い素材の組み合わせに「キック」を加えることに苦心した。[5][1]

その他の代表作としては、フィグ ポルン(Fig Porn)、インディーセント チェリー(Indecent Cherry)、ナナトピア(Nanatopia)、シュガー アディクト(Sugar Addict)、スガー アディクト(NSFW)、ハッピー ナッツ(Happy Nuts)などがある。[17][18]

ダーク&ドランク(Dark & Drunk)コレクション

夜の世界をテーマにした、より暗く官能的なコレクション。「深いウッド、温かいスパイス、陶酔的なフローラルのブレンドで夜の本質を映し出す」とされる。[19]

ブランドのヒーロー フレグランスに位置付けられるドランク ラヴァーズ(Drunk Lovers)はウッディ・スパイシーで、コニャックとレッドベリーのトップノートを持つ。米国での最大の売れ筋はドランク サフラン(Drunk Saffron)で、プラム・コニャック・サフラン・レザー・コーヒー・パチョリ・バニラ・ムスクが複雑に絡み合う。その他にDGAF(「Don’t Give A F***」の略)、ドランク メープル(Drunk Maple)、マッド ハニー(Mad Honey)、メアリー ジェーン(Mary Jane)、スモーキン ガン(Smokin’ Gun)、シン&プレジャー(Sin & Pleasure)などが収録される。[20][4][1]

オー・アンティミテ(Eau Intimité)コレクション(2025年)

2025年に登場した5本のコレクションで、従来とは打って変わった「第二の肌のような」内向きの官能を追求した。ブランド自身が「最もウェアラブルでアプローチしやすいコレクション」と位置付けており、ボーン トゥ スタンド アウトの入門として推奨されている。ラインナップは、キャンディ ダスト(Candy Dust)、キュヴェ スキン(Cuvée Skin)、ゴールド ジュース(Gold Juice)、ウォーム エア(Warm Air)、ムスク X(Musc X)の5種。米国のセフォラ(Sephora)と英国のハロッズ(Harrods)での限定取り扱いとなっている。[21][22][4]

エクストレ エクストレーム(Extrait Extrême)コレクション(2025年)

2025年に発表された、香料濃度50〜60%という前代未聞の超高濃度コレクション。最大の特徴は、伝統的な韓国の甕器(オンギ、kimchiや醤油の発酵に使われる陶器)で3ヶ月間熟成させるという製法にある。すべてのフレグランスが韓国国内でハンドブレンド・充填・梱包される。ボトルは通常の白/赤ではなく濃いベリー色が採用されている。ラインナップはブラック グアバ(Black Guava、調香師:スジー ル エレイ)、ブラック マンゴー(Black Mango、調香師:ヴィオレーヌ コラ)、ウード キャンディ(Oud Candy、調香師:マルゴー ル パイ ゲラン)、パープル ステイン(Purple Stain、調香師:ジョルディ フェルナンデス)の4種。[23][24][25]

グローバル展開と投資

ボーン トゥ スタンド アウトは創業から約2年で60カ国に展開、そして2025年2月、ロレアル(L’Oréal)のコーポレートVC「BOLD(Business Opportunities for L’Oréal Development)」と米国系ベンチャーキャピタルのタッチ キャピタル(Touch Capital)が主導するシリーズA資金調達を完了した。調達額は非公開。この投資によりヨーロッパおよびアメリカでの物理的展開加速が計画されている。[9][26]

「ボーン トゥ スタンド アウトがラグジュアリーフレグランスにおいてユニークな声を持つのは、コンベンションより創造性を優先するという異なる道への揺るぎない信念からだ。こうした著名な投資家からの支援を受けることは、単なる資本の注入以上の意味がある。独創性を注ぎ込んだフレグランスが人生における最高の贅沢のひとつであるという、力強い証明だ」

— Jun Lim、Series A 発表時のコメントより[26]

2026年2月にはアメリカのセフォラのオンラインでの販売を開始し、同年3月には実店舗への導入が始まった。「セフォラで最高に売れるブランドになりたいのではない。最もクレイジーなブランドになりたい」とリムはGlossy誌に語っている。同年の売上高は約1,000万ドルに達する見込みと報じられている。すでにセルフリッジズ(Selfridges)、ギャラリー ラファイエット(Galeries Lafayette)、ミッカ(Mecca)など世界的な高級小売店にも進出している。[4]

ちなみに…

  • ブランド設立資金の一部は、自分の絵画を売って調達した。今でも1部屋分の香水コレクション(推定250〜2,000本)が自宅に保管されているという。[6][4]
  • フラッグシップストアは「クリムゾンの館(House of Crimson)」とも呼ばれ、アートギャラリーのような空間として設計されている。韓国・ソウルのイテウォン(梨泰院)地区に位置し、1日11:00〜20:00で入場無料。[27][28]
  • ブランドの運営会社名「ハウスバイリム(House by Lim)」には、自身のファミリーネームと住まい・家への哲学が込められている。[29]
  • リムのモットーは「ネバー パーフェクト。オールウェイズ ジェニュイン(Never Perfect. Always Genuine.)——決して完璧ではなく、常に真摯に」。[1]
  1. Jun Lim へのインタビュー(Duft-Tagebuch / alzd.de、2023年)– https://www.alzd.de/en/2023/03/01/interview-with-borntostandouts-jun-lim-korean-fragrance-art/
  2. Parfumo ブランドページ – https://www.parfumo.com/Perfumes/borntostandout
  3. ボーン トゥ スタンド アウト 日本初上陸(AXIS Web、2023年7月)– https://www.axismag.jp/posts/2023/07/548942.html
  4. “I’ve Been Gatekeeping this Korean Perfume Brand” — Jun Lim インタビュー(Marie Claire UK、2025年)– https://www.marieclaire.co.uk/beauty/fragrance/borntostandout-fragrances
  5. Introducing: The BORNTOSTANDOUT brand(basler-beauty.ie、2024年)– https://www.basler-beauty.ie/blog/introducing-the-borntostandout-brand/14851/
  6. “Seoul-born Borntostandout aims to be the craziest fragrance brand in Sephora”(Glossy.co、2026年2月)– https://www.glossy.co/beauty/seoul-born-borntostandout-aims-to-be-the-craziest-fragrance-brand-in-sephora/
  7. Founder Story(rocket.beauty)– https://rocket.beauty/en/borntostandout/
  8. A 101 Guide To BORNTOSTANDOUT(Cult Beauty、2025年5月)– https://www.cultbeauty.co.uk/blog/guide-to-borntostandout/
  9. L’Oréal Invests in Borntostandout(beautynewsdaily.com、2025年2月)– https://beautynewsdaily.com/loreal-invests-in-borntostandout/
  10. L’Oréal makes strategic investment in Korean perfume brand Borntostandout(Premium Beauty News、2025年2月)– https://www.premiumbeautynews.com/en/l-oreal-makes-strategic-investment,25256
  11. Extrait Extrême Collection by BORNTOSTANDOUT(alzd.de、2025年5月)– https://www.alzd.de/en/2025/05/06/extrait-extreme-collection-by-borntostandout-beyond-imagination/
  12. BORNTOSTANDOUT Pushes Perfume to Its Limits(news.lelior.com、2025年2月)– https://news.lelior.com/news/borntostandout-pushes-perfume-to-its-limits-with-new-korean-aged-collection
  13. BORNTOSTANDOUT launches the refined Eau Intimité collection(t3.com、2025年8月)– https://www.t3.com/home-living/grooming/borntostandout-launches-the-refined-eau-intimite-collection-of-fragrances
  14. 香水愛にあふれる33歳が仕掛ける、韓国発ラグジュアリーフレグランス(fashionsnap.com、2023年10月)– https://www.fashionsnap.com/article/fragrance-vol4/
  15. BORNTOSTANDOUT FAQページ – https://en.borntostandout.com/pages/faq
  16. 新進気鋭のフレグランスブランド、ボーン トゥ スタンド アウトが韓国から日本に初上陸(fashionpost.jp、2023年8月)– https://fashionpost.jp/news/264171
  17. BORNTOSTANDOUT Dark and Drunk Fragrances – Discovery Set(Luckyscent)– https://www.luckyscent.com/products/dark-drunk-discovery-set-by-borntostandout
  18. Dirty & Sticky Discovery Set(so-avant-garde.com)– https://so-avant-garde.com/products/dirty-and-sticky-discovery-set-8-x-2ml-eau-de-parfum