近年、フレグランスの世界でも、男性・女性の境界がなくなってきているように感じる。
それでも、まだまだ男性・女性がはっきり分かれている。分かれていることに異論があるのではない。明らかに男性向けの力強い香りや、女性らしい華やかな香りが多く存在するから。
個人的にはかなり以前から、ゴリゴリしたいわゆる男っぽいの香りがあまり得意ではなく、そういう香りの方が使用機会が少なかった。
例えば、キリアンにBLACK PHANTOMという傑作がある。
男性のクールな表情と、とろけるような甘さを併せ持った、キリアンの香りのなかでも、もっとも男前の香りだと思う。嗅ぐたびにその強烈な色気にしびれる。しかし、あまりにもセクシー過ぎて、日常生活になじまず、使用シーンがほとんどないのも事実だ。
逆に、女性フレグランスの代名詞N°5を使用する時がある。
確かに、N°5を手首や首筋などに振りまいてみようものならば、そのけばけばしさにたじろいでしまう。
ところが、例えばN°5を足首に1プッシュ使用し、身体全体を包み込むように香らせれば、上質なフローラルソープの香りがふんわりと広がり、とても心地良い。
また、先に挙げたキリアンには、かなりフェミニンなLOVEという香りがある。
このラブも足首に使用すると、マシュマロを浸したような甘美なネロリが明るめに広がり、とても中毒性が高い。
今では、自分自身が楽しめる程度のさりげなさであれば、男性であっても女性フレグランスを使用できると思っている。
そもそも、フレグランスの楽しさに気づいたのは、男性・女性の境界をなくし、シンプルに良い香りを探し求めたことが大きい。男性用に比べると、女性用は香りのバリエーションが豊富で、表現も多彩だ。女性用の世界を知ってしまうと、自ら境界線を引くのはもったいなのではと考えてしまった。
その結果、男性用は特に日常生活に使いやすいものを好み、女性用はある程度攻めた香りでもセレクトするような、逆転現象が生まれるに至った。
真の名香とは、性別や年代すらも凌駕するのではと考えている。似合う似合わないなどどうでもいい。
NAHEMA PARFUMなど、ムエットで香らすだけで、至福の時間に浸ることができる香りもあるのだから。