「香水を纏うことは、創造的な行為だと私は信じている。それは感情を表現し、気持ちを変え、自分自身を発見するための、目に見えない方法だ。」
基本情報
- 設立:2014年(ロサンゼルス)
- 創設者:Alia Raza(アリア・ラザ)、共同創設者 Ezra Woods(エズラ・ウッズ)は現在は離脱
- 現在の代表:Alia Raza(Founder / CEO / Creative Director)
- 公式サイト:regimedesfleurs.com
「Régime des Fleurs(レジーム・デ・フルール)」とはフランス語で「花の統治」あるいは「花の王国」を意味する。フランス語の名称は、ブランドをフランス系と誤解させる意図ではなく、アリア自身が「心の中ではフランス人」と語るほどフランス文化に親しみを感じていることから選ばれたものだ。
創設者・ブランドの成り立ち
花に囲まれた幼少期
アリア・ラザはニューヨーク州バッファロー出身。両親はパキスタンからの移民で、ともに医師という家庭に育った。寒冷な気候のバッファローでありながら、母は熱帯植物を育てることに情熱を注いでいた。
ライラックの茂み、スイカズラのつる、そして少女時代のアリアが最も深く刻み込まれているのは、自分の寝室へと続く階段の手すりに絡まっていたステファノティス(マダガスカル・ジャスミン)の香りだ。毎夏、寝室のドアを開けるたびに、白い花の爆発的な香りが出迎えた、とアリアは述懐している。
花への愛は、幼少期から家庭の空気そのものに溶け込んでいた。母の化粧台に並ぶ香水に憧れた記憶、中学生の頃にボディショップで初めて自分の香水を買った記憶、そして1995年の夏——16歳でニューヨークを訪れたアリアは、パーソンズで授業を受けながらウェスト・ヴィレッジを歩き回り、老舗のニッチ香水店「アエデス・デ・ヴィーナスタス(Aedes de Venustas)」に偶然迷い込んだ。オーストリア人オーナーのカールは、アリアが手に取るものすべてに「ガーデニアとチューベローズ」という共通点があることを見抜き、L’Artisan(ラルチザン)のチューベローズを勧めた。それが、アリアにとって生涯の「シグネチャー・フレグランス」となる一本となった。廃番になった今でも、12本のストックを手元に持つほどの愛着だという。
ニューヨーク、そしてLAへ——映像作家としての歩み
高校卒業の翌日、アリアはニューヨークへ飛び立った。数年間、映像制作の友人たちの短編映画に出演したり脚本を手伝ったりしながら、自身でも短編映画やビデオアートを制作するようになった。その後、独立映画の制作助手としてロサンゼルスへ活動の拠点を移した。
LAに移り住んで数週間後、アリアはルームメイトの友人を紹介された。それが、ファッション・スタイリストのエズラ・ウッズだった。
「初めて会ったその日、私たちは2時間も香水と花の話をした。」
エズラの生い立ちもまた、花と切り離せないものであった。ロサンゼルス出身の彼は、南カリフォルニアで4世代続くフローリスト一家に育ったのだ。祖父はダウンタウンLAの路上で花を売ることから始め、両親はブレントウッドで評判の花屋を経営した。花と植物は、エズラにとって幼少期からアイデンティティの一部だった。クロエ・セヴィニーやミシェル・ウィリアムズなどを顧客に持つセレブリティ・スタイリストとして活躍しながらも、彼の根底には常に花への親しみがあった。
決定的な転機——ギャラリーの香り
ふたりはその後も友人として交流を続け、「Indole(インドール)」と名付けたダンスパーティーを共同開催したこともあった。インドールとは、チューベローズやジャスミンなどの白い花が含む分子で、あの「官能的でとろけるような濃厚さ」の正体であり、同時に腐敗や死の匂いでもある——そんな逆説的な化学物質の名を冠した催しだった。
2013年、アリアはダウンタウンLAの小さなギャラリーで映像作品を展示する機会を得た。その展示に、彼女は香りのインスタレーションも加えようと考えた。「夜に咲く毒の花」をテーマにしたビデオシリーズを制作してきた彼女は、「その映像にインスパイアされた香りを作りたい」と思い立ち、自ら素材を集め、ミニチュアの調香ラボを自室に設けた。
「香りをギャラリーで発表したとき、人々の反応が素晴らしくて、私はその制作プロセスに恋をした。アートと映像に一度距離を置いて、何か違うことを試してみようと決めた。そして、それが私の人生を乗っ取った。不満はないけれど。」
ある日、久しぶりにエズラがアリアのアパートを訪ねてきた。テーブルに並ぶボトルと試験管、素材の瓶の数々を見てエズラは目を輝かせた。「1ヶ月の予定」でアリアはエズラのアパートに居候し、ふたりは一緒に調香を始めた。エズラも独自に集めていた素材のコレクションを持っていたことが判明し、共同作業はいよいよ加速した。
「数ヶ月のうちに6つのフォーミュラを完成させ、ボトルのデザインを始めた。そして2014年にローンチした。」
ブランドの誕生と成長
2014年3月、レジーム・デ・フルールは6本の手作り香水でデビューした。3つのティア(段階)に分かれたコレクション——リリックス、バラッズ、エピックス——として発表され、同年11月には3本を追加した「コレクション・ツー」が続いた。WSJはブランドをいち早く取り上げ、ふたりを「生涯のフレグランス・ギーク」と紹介した。
ニッチ香水界やファッション・アート界でカルト的な支持を得たブランドは、その後も着実に成長を続けた。2018年1月にはLAにアトリエを開設し、現代アートのイベントや展示を通じて文化的・創造的な交流の場ともなった。
2020年頃、共同創業者のエズラ・ウッズは「フレグランスとは別の方向へ進むことにした」とアリア本人が明かしており、現在はアリア・ラザが単独でFounder / CEO / Creative Directorとしてブランドを牽引している。アリア自身も拠点をパリへ移し、ニューヨークとパリを行き来しながら創作活動を続けている。
ブランドのこだわり
「香水は完成された小さな映画である」
レジーム・デ・フルールの哲学を一言で表すなら、香水を「マルチセンサリー(多感覚的)な体験」として設計することだ。映像作家だったアリアにとって、香水は単なる「いい匂い」ではない。視覚的なムードボード、歴史的なリサーチ、文学的なナラティブ——すべてが一つの香水に凝縮される。
「レジームのユニバースにはそれぞれ異なる世界がある、と私は思っている。視覚芸術、歴史的な時代、植物のテーマを探求する。どこへでも向かうことができる。でも常に出発点は自然と歴史と芸術だ。」
調香の工程でも、アリアはまず100枚もの画像を収集し、最終的に10枚程度に絞り込む。そのビジュアルと「キーワード」を調香師に渡し、フォーミュラを起こしてもらうというアプローチをとることもある。
希少素材への誠実さ
ブランドの最大の特徴のひとつが、稀少な天然素材の使用比率の高さだ。
「私は手作りで香水を作り始め、希少な花のアブソリュートに恋をした。今でも私たちは、多くのラグジュアリーブランドでさえ行わないほど高い割合で、希少で上質な素材を使い続けている。」
その象徴が、フラッグシップとも言える「ニンファエア・カエルレア(Nymphaea Caerulea、$990)」だ。インドの2エーカー規模のポンドで日の出前に採取される、エジプト産の青いスイレンの超高純度抽出物——これはレジーム・デ・フルールしかアクセスできない素材であり、「コピーしようのない香水」の象徴でもある。
ボトル・パッケージへのこだわり
映像とビジュアルを深く愛するアリアにとって、ボトルのデザインは最初から「アート・オブジェ」として捉えられていた。初期のフェマン(Fait Main)コレクションのボトルはすべて手描きで仕上げられ、シリアルナンバーが刻まれた。
長年「ストック(既製)のボトルを色やキャップでカスタマイズするしかなかった」アリアは、創業7年目にして初めてオリジナルのガラスボトルをスクラッチから制作することができた。その記念すべき一作が2021年の「ロック・リバー・メロディ」だ。
「ずっと既製のボトルを使い、さまざまなカラー処理やキャップでカスタマイズするしかなかった。でも7年後、ついに一からカスタムのガラスボトルを作ることができた。それは夢だった。」
ボトルのデザインを手がけたのは、NYを拠点とする建築事務所「ニュー・アフィリエイツ(New Affiliates)」。ブランドのシールド(楯)のエンブレムからインスピレーションを受け、正方形と円が交差する「上から見るとシールドの輪郭になる」形状を採用。一面はフラット、もう一面はなだらかな丸みを持ち、手になじむよう設計された。
パッケージ全体の哲学として、アリアは「ひとつのブランドが何十年も同じ見た目を保ち続ける」ことに意図的に抵抗してきた。香水と同様に、パッケージもブランドとともに進化・成長すべきだという考えを持っている。
香水ラインナップ
レジーム・デ・フルールのコレクションは、単なる「シーズンもの」の区切りではなく、テーマやコンセプトごとに異なる世界観を持つ「コレクション」として構成されている。
初期の3ティア構造(リリックス / バラッズ / エピックス)
2014年のデビュー当初から、作品は3つの複雑さのレベルに分類されていた。
- リリックス(Lyrics):さっぱりとした水系・葉系のノート。自然の控えめな側面を表現。
- バラッズ(Ballads):より概念的・メタ的な作品。参照がより抽象的。
- エピックス(Epics):希少素材をふんだんに使った大作。インド産・ハワイ産の青蓮、白アンバーグリスなど。
フェマン(Fait Main)コレクション
ブランドの原点とも言える、手作り・前衛的なコレクション。ボトルはすべて手描きで塗装され、シリアルナンバーが付く。最高傑作のひとつ「ニンファエア・カエルレア」は80種類以上の成分からなり、青スイレンの超稀少抽出物を中心に据えた作品だ。1度に最大250本しか生産できない限定品として、かつては日本ではエストネーション限定で取り扱われていた。
オードパルファム(Eau de Parfum)コレクション
2016年に追加されたメインライン。植物界のスペクタクルからインスパイアされた5つの香水(カクタイ、フォーリング・ツリーズ、ゴールド・リーブス、ウィロウズ、グラス・ブルームス)を中心に始まり、現在はブランドの中核を担う幅広いラインナップへと拡大されている。
近年の代表的な作品:
- ロック・リバー・メロディ(Rock River Melody):フォンテーヌブローの森での泥だらけの乗馬、タルコフスキーの映画『鏡』、タイラー・ザ・クリエイターの音楽からインスパイアされた、グリーンサップとアイビー、ベルガモットの香り。ブランド初のカスタムボトルを採用した記念碑的作品。
- チューベローズ・コレクション / ツア・ツア(Tóor-Tóor):世界的調香師ドミニク・ロピオン(「白い花のキング」と称される)と共同制作した「ブルータリスト・チューベローズ」。グレープフルーツの皮、スミレの葉、ベチバーで構成され、あの官能的な花を「生命感あふれる、緑で土くさく、苦い」新視点で捉え直した。アリアの言葉を借りれば——「複雑で、ユニセックスで、魅惑的で、まったく予想外の作品」。
- ティアーズ(Tears):ライラックへの愛と「スタンダール症候群」(美しい芸術作品が肉体的な反応——涙、胸の痛み、意識喪失——を引き起こす稀な現象)にインスパイアされた作品。調香師マチュー・ナルダンと共に制作。
- ブラッド・スパイダー・オーキッズ(Blood Spider Orchids):2024年に限定エクストレ・ド・パルファムとして登場し、2025年にEDPとして再登場。「血に染まった花びら」を持つ実在のランを題材に、シナモン、スモークドクローブ、フランキンセンス、パチョリを組み合わせた「ゴシック・ダーク」な香り。アリア自ら「ドラキュラの花」と呼ぶ。
クロエ・セヴィニー リトル・フラワー(Chloë Sevigny Little Flower)
女優・スタイルアイコンであるクロエ・セヴィニーとの2年がかりのコラボレーションから生まれたローズ香水。「かつてレジームにはローズがなかった」という事実とクロエのローズ好きが重なり、完成した作品は「スタートしてから最も多くの人に愛された香水」となった。「クールガール・フォー・ルーム」という言葉がよく使われる、酒石酸でタルトな、緑でデューイーなローズ。
パーソナル/スペース(Personal/Space)コレクション
2018年にハワイでのレジデンシーから着想を得て誕生したマルチユース・フレグランス。肌・髪・空間のどこにでも使えるという実験的なコンセプト。
アーティファクツ(Artefacts)キャンドルシリーズ
古代文明の物語・神話・遺物からインスパイアされたキャンドルシリーズ。各キャンドルは白い磁器の壺に入れられ、ミュージアムの展示品のように透明なキューブに収められている。テアレイア、ナイアード、リターン、スワンズという4つの香りで構成。
ちなみに…
- チューベローズの伝説:アリアの友人クリストファー・ニケは、共通の友人である歌手・チャン・マーシャル(キャット・パワー)に次のようなエピソードを聞いた。「アリアに最初の10〜20回会ったとき、彼女のチューベローズとガーデニアの香りが強すぎて、何を話しているか全然頭に入らなかった」と。
- スキンケアへの展開:2021年には、キュレーター兼起業家のクエンティン・スミスとともに「環境対応スキンケア」ブランド「トピ(Topi)」を共同設立。あらゆる気候環境から肌を守ることをコンセプトに、サン・セラムとスノー・セラムの2製品でデビューした。
- 日本との縁:レジーム・デ・フルールは「ヒミツ(HIMITSU VIOLETS)」という香水を制作しており、これは日本人女性写真家HIROMIXの作風や、京都の大学生にインスパイアされた作品だ。
- Autre Magazine「My Alchemical Romance: An Interview With Ezra Woods and Alia Raza of Regime des Fleurs」– https://autre.love/interviewsmain/2015/11/19/my-alchemical-romance-an-interview-with-ezra-woods-and-alia-raza-of-regime-des-fleu
- Vanity Fair「How Régime des Fleurs Reimagined Tuberose With a Brutalist Twist」(2023年11月)– https://www.vanityfair.com/style/2023/11/regime-des-fleurs-toor-toor-tuberose-perfume
- Something Curated「Interview: Régime Des Fleurs Founder Alia Raza On Perfume As A Multi-Sensory Experience」(2020年5月)– https://somethingcurated.com/2020/05/20/interview-regime-des-fleurs-founder-alia-raza-on-perfume-as-a-multi-sensory-experience/
- Perfume Posse「Five Questions: Alia Raza from Regime des Fleurs」(2020年10月)– https://perfumeposse.com/2020/10/26/five-questions-alia-raza-from-regime-des-fleurs/
- Into The Gloss「Alia Raza, Founder, Régime des Fleurs」(2019年)– https://intothegloss.com/2019/09/alia-raza-regime-des-fleurs-beauty-routine/
- Wallpaper*「New Affiliates architects make groundbreaking perfume bottle」(2022年10月)– https://www.wallpaper.com/beauty-grooming/new-affiliates-architects-design-regime-des-fleurs-perfume
- Assembly New York「Designer Spotlight: Régime des Fleurs」– https://www.assemblynewyork.com/blogs/journal/designer-spotlight-regime-des-fleurs
- WSJ「Name-to-Know: New Luxury Perfume Brand Régime des Fleurs」(2014年8月)– https://www.wsj.com/articles/name-to-know-new-luxury-perfume-brand-regime-des-fleurs-1409345723
- Feed Me(Substack)「Guest Lecture: Régime des Fleurs’ Alia Raza」(2024年4月)– https://www.readfeedme.com/p/bad-news-if-you-make-over-151k-per
- NST Perfume「Regime des Fleurs Toor Toor ~ new fragrance」(2023年10月)– https://nstperfume.com/2023/10/04/regime-des-fleurs-toor-toor-new-fragrance/
- NST Perfume「Regime des Fleurs ~ new niche line」(2014年4月)– https://nstperfume.com/2014/04/30/regime-des-fleurs-new-niche-line/
- Town & Country「High Art」(2014年8月)– https://www.townandcountrymag.com/style/beauty-products/a1614/high-art/
- Ministry of Scent「Alia Raza of Régime des Fleurs talks Tears」(2023年6月)– https://ministryofscent.com/blogs/news/alia-raza-of-regime-des-fleurs-talks-tears-a-new-scent-inspired-by-lilac-and-the-emotiona
- Beauty Independent「Curator Quentin Smith Partners With Régime Des Fleurs Founder Alia Raza To Launch Topi」(2021年10月)– https://www.beautyindependent.com/curator-quentin-smith-partners-regime-des-fleurs-founder-alia-raza-launch-climatic-skincare-br
- Régime des Fleurs 公式サイト – https://regimedesfleurs.com
- NST Perfume「Regime des Fleurs Blood Spider Orchids ~ new fragrance」(2024年10月)– https://nstperfume.com/2024/10/09/regime-des-fleurs-blood-spider-orchids-new-fragrance/
- NOSE SHOP ブログ「Regime des Fleursより新作3種が発売開始」(2022年5月)– https://noseshop.jp/blogs/blog/himitsulabas
- Irma’s World「REGIME DES FLEURS, Creating scents」– https://www.irmasworld.com/regime-des-fleurs-creating-scents-1918788
- Wallpaper*「Flower focus: Régime des Fleurs’ fascination with the past」(2022年10月)– https://www.wallpaper.com/lifestyle/flower-focus-rgime-des-fleurs-fascination-with-the-past
- Simon James「Regime Des Fleurs コレクション紹介」– https://simonjames.co.nz/collections/regime-des-fleurs/made-in-nz
- New Affiliates「Regime des Fleurs Bottle」– https://new-affiliates.us/Regime-des-Fleurs-Bottle


