「あらゆる制約が、創造への道を開くのです。」
イレーヌ・ゴセ(2023年、Pochetグループ社長)
香水瓶を手に取るとき、私たちはまず輪郭や色を見る。だが、同じ輪郭でも、底の厚みや内側の空間が変われば、香水の見え方は変わる。透明な瓶にも、光をどこへ通し、液体をどう見せるかという設計がある。
Pochet(ポシェ)は、その設計をガラスの量産へ移す仕事を担ってきたフランスのメーカーである。瓶をつくるPochet du Courval(ポシェ・デュ・クールヴァル)を中心に、樹脂、金属、装飾、アクセサリーの仕事を結びつけている。香水の名前ほど表に出ないこの企業をたどると、デザイナーの線と、店頭で手に取れる一本との間に、幾つもの専門職の判断があることが分かる。
基本情報と、グループの仕事の分担
歴史の起点:1623年、フランソワ・ル・ヴァイヤンによるクールヴァルのガラス工場設立
主要なガラス製造拠点:フランス・ノルマンディー地方、オダン=オー=ボスクのギメルヴィル
主な事業:香水・化粧品の容器、装飾、付属部品の開発・製造
公式サイト:Groupe Pochet
「ポシェ」と「ポシェ・デュ・クールヴァル」は、対象の範囲が異なる。現在のグループは四つの事業部門を案内している。ポシェ・デュ・クールヴァルがガラス瓶とジャーを、Qualipac(カリパック)が樹脂・金属部品を、Aura(オーラ)がアクセサリーや装飾品・箱を、Solev(ソレヴ)が複雑な着色や金属調の装飾などを担う。
ただし、装飾をソレヴだけが行うわけではない。ポシェ・デュ・クールヴァルとカリパックにも装飾技術がある。「ポシェがつくった香水瓶」と言う場合も、ガラス本体、キャップ、表面仕上げのどの部分を指すかによって、現場は違うのである。
森のガラス工場から、香水瓶の工業へ
1623年の工場と、パリの仕上げ工房
出発点は、ノルマンディーのブレル川流域にある森だった。1623年、カトリーヌ・ド・クレーヴは、フランソワ・ル・ヴァイヤンに、ウーの森のクールヴァルという場所でガラス工場を営む許可を与えた。
現在の社名には、もう一つの系譜が重なる。1783年にパリでピエール・ドロシュが始めたメゾン・ドロシュである。磁器への絵付けからガラスの仕上げへ仕事を広げたこの会社は、クールヴァルの工場と関係を結んだ。1883年、ジャン=バティスト・ポシェとエステル・ドロシュの婚姻を経て、メゾン・ポシェという名になる。
ガラスを形にする地方の工場と、仕上げを担うパリの会社。その二つが、後の企業の土台になった。1853年のゲランのオーデコロン アンペリアルの瓶は、工場の歴史を香水へ結びつける重要な制作例である。香水の誕生についてはピエール・フランソワ・パスカル・ゲランの記事で詳しく扱っているが、ここでは、香水商のための専用の瓶をガラス工場が実現した節目として捉えたい。
二つの会社が結びつき、製造を自動化する
1919年に経営を引き受けたシャルル・コロンナ・ド・ジョヴェリーナと弟マルセルは事業を拡大し、メゾン・ポシェは1934年にクールヴァルの全株式を取得する。そこで「Verreries Pochet et du Courval」という名称になった。1623年は工場の起源であり、この社名の成立年とは異なる。
1971年には、ギメルヴィルに製造工程を全面的に自動化する工場が建設された。さらに1991年のカリパック設立、2011年のソレヴ買収などを通じ、ガラス以外の部材と仕上げも事業の中へ取り込んでいく。現在のグループが扱うのは、瓶一個の成形にとどまらず、異なる素材を組み合わせた容器全体なのである。
デザインを量産へ移す、金型とガラス配分
外形だけでなく、内側と光の通り道をつくる
ガラスの瓶では、外側の輪郭と、香水が入る内側の空間を別々に考えなければならない。底や肩にどれだけガラスが集まるかによって、透明な部分の重さも、液体の輪郭も変わる。ポシェ・デュ・クールヴァルは、外形と内形の双方を制御することを自社の技術の柱としている。
その検討を助けるのが、独自のモデリングツールMorphoz(モルフォズ)である。単に完成品を美しく描くためではなく、ポシェのガラス製造工程と装飾の制約を組み込み、瓶の中のガラス配分、肩や底を通る光、液色と塗装の相互作用を試作前に検討する。公式の説明では、Fentyの瓶のガラス配分や、SisleyのIziaの金属調装飾・レーザー加工などに使われている。
透明な容器では、液体を入れてから初めて現れる表情がある。その表情を製造可能な形で先に見定めることが、造形と生産の間の往復を減らす手段になる。
金型を整え、熱いガラスを形にする
デザインが金型へ移っても、仕事は終わらない。フランスのガラス業界団体がポシェ・デュ・クールヴァルの仕事を紹介する際にも、金型の精密な調整と丁寧な保守が、そこで吹き込まれる瓶の品質を支えると説明している。量産の均一さは、道具を繰り返し整える仕事の上にある。
ギメルヴィルの製造では、溶融したガラスが一滴ずつ成形機へ供給され、粗い形をつくる金型と仕上げの金型を使って瓶になる。続いて表面を整える再加熱を経て、徐冷炉へ進む。徐冷は、ガラスに残る内部の応力を取り除くための工程である。形ができた直後のガラスを、そのまま製品として扱うわけにはいかない。
ジュール ドゥ エルメスに必要だった21回の試作
こうした調整の厚みが分かる例が、ピエール・アルディのデザインによるジュール ドゥ エルメスの瓶である。エルメスの馬車のランタンを思わせる伝統的な瓶の形を踏まえながら、透明なガラスの厚みを大きな造形要素にした。
2014年に公表されたポシェの制作説明では、五つの容量を展開するために42の図面と21回のサンプリングを要したという。85mLの瓶の重量は450g。容量が違っても、ガラスと香水の見た目の釣り合いを保つよう配分を調整し、発売時には100万個を超える規模で製造したとされる。
背面側の印刷をガラス越しに読む逆向きのシルクスクリーン印刷も、この瓶の光学的な効果をつくる。厚いガラスを使えば同じ表情になるのではない。重さをどこへ置き、液体をどの大きさに見せ、その関係を異なる容量でどう保つか。それを繰り返せる製造方法に落とし込むことが、この仕事の難しさだった。
薄い瓶と複雑な瓶で、技術はどう変わるか
イドルの15mmと、ガブリエルの薄い壁
一方で、ガラスの存在を小さく見せる方向にも課題がある。ランコムのイドルについて、ポシェは厚さ15mmの瓶を制作例として示している。この15mmは瓶全体の薄さを示す寸法で、ガラス壁の厚みではない。
シャネルのガブリエルも、薄さを追求した仕事としてイレーヌ・ゴセが挙げた瓶だ。2023年の彼女の説明では、目指したのは、香水が宙に浮くように見え、瓶が目立たず、それでいて頑丈であることだった。
ジュール ドゥ エルメスの厚みと、こちらの軽やかな見え方は対照的である。ポシェの仕事に共通するのは、重厚な瓶という一つの様式ではない。ブランドが求める見え方に合わせ、ガラスの存在感を増やすことも、減らすことも引き受ける点にある。
ファントムのロボットを、成形と装飾に分けて見る
パコ ラバンヌ名義で登場したファントムでは、ロボット形の輪郭、凹凸、角、各部の厚みが課題になった。ガラス成形を担ったのはポシェ・デュ・クールヴァル。金属のような外観を仕上げたのはソレヴである。
ソレヴはメタライゼーション、すなわち表面に薄い金属膜をつくる装飾を施し、レーザーで膜を除去する加工によって「R」の文字を見せた。銀色に見えるからといって、瓶全体が金属製なのではない。立体の輪郭をつくる技術と、その表面を別の素材のように見せる技術が重なっている。
2022年にポシェが制作を公表したフェイムでは、厚み、凹凸、角の制御に加え、クチュールのドレスを思わせる細かな装飾や、ヒール付きブーツの表現が挙げられている。親しみやすい人物形の瓶の背後には、小さな形を曖昧にせず成形する仕事がある。
装飾と品質を支える、人と現場
瓶・キャップ・装飾を合わせる
オリンピア ブロッサムは、部門の分担が具体的に分かる例である。ガラス本体をポシェ・デュ・クールヴァルのギメルヴィルが、複数の部品を組み合わせるキャップをカリパックのオーリヤックがつくり、月桂樹の装飾の金属膜加工をソレヴが担った。
完成品は一つに見えるが、それぞれの部材には別の製法がある。組み合わせたときの形と仕上がりを揃えるために、ガラスメーカーの知識だけでなく、樹脂や金属を加工する人の知識が要る。グループの多素材化は、その接点を事業の中に持つ選択だった。
曲面の奥まで模様を届ける
ポシェが「パラシュヴマン」と呼ぶ仕上げには、塗装、シルクスクリーン印刷、パッド印刷、箔押し、レーザー加工などがある。色の濃淡をつくる、部分的に透明さを残す、下の色を露出させる。装飾は、形ができてから単に色を足すだけの仕事ではない。
2020年、ガマシュの装飾拠点で働くエマニュエル・ロアンとモハメド・エル・ファザジは、ジャンポール・ゴルチエの複雑な瓶へのパッド印刷について、こう説明した。
「ガラスのあらゆる入り組んだ場所まで、届かせなければならないのです。」
エマニュエル・ロアン、モハメド・エル・ファザジ
同じ時点で二人は、吹き付け用の塗料を溶剤系から水性へ変えるため、顧客とともに品質要件への対応を進めたことも語っている。塗料を変える判断は、色だけを置き換えることではない。要求された仕上がりを、新しい材料でも成立させる仕事を伴う。
手の精度と、カメラによる検査
ガマシュには、ゲランの蜂の瓶を手で彩る仕事も残る。2020年の現場紹介では、蜂や栓を筆で装飾する担当者の習熟に六か月を要すると説明されていた。ここで注目したいのは、香水の創業逸話よりも、筆を扱う技能が工場の中で受け継がれる時間である。
業界団体による同拠点の紹介でも、絵付けには、筆を動かしやすい濃さに材料を調整し、塗布した装飾を焼き付ける工程がある。手仕事の精度は、描く瞬間だけで決まるものではない。
他方、ギメルヴィルでは、冷えた瓶をカメラ付きの検査ラインへ通し、適合性や欠陥の有無を確認する。2025年の設備紹介では、選別や箱詰めなどの自動化も進められていた。細かな手作業と機械検査は、同じ製品を支える異なる工程なのである。
再生ガラスと電気炉が変える製造条件
シャネル N°5で試みた、家庭由来ガラスの利用
再生ガラスを使う場合、香水瓶では透明さと色の管理が重要になる。2021年9月、シャネルとポシェは共同発表で、家庭から回収した使用済みガラスを15%含む素材を公表した。最初の採用対象は、その年のN°5の100mLオードパルファムである。すべての時代、すべてのN°5が同じ仕様という意味ではない。
発表では、割れたガラスを洗浄・選別し、不純物を除く工程を整え、二年間の共同作業を経て実現したと説明している。回収ガラスを混ぜるだけでなく、香水を見せる透明さを保つために原料の流れそのものを管理した例である。
「そこで、生産の連鎖のあらゆる段階で、自らをつくり直さなければならないのです。」
イレーヌ・ゴセ(2023年)
これは、材料を変えると、その材料が関わる工程全体を考え直す必要があるという彼女の説明に続く言葉だ。環境への対応も、既存の工程に一つの材料を足すだけでは済まないのである。
2025年に稼働した電気炉と、学び直す技術者
ギメルヴィルでは2025年2月に新しい電気炉が稼働し、3月13日・14日に披露された。設計・供給を担ったFives(フィーヴ)の説明によると、従来のガス炉を、上部を原料で覆う方式の縦型電気溶融炉「Prium E-Melt」へ置き換えたものである。
ポシェの2025年の報告書は、溶かすガラス一トン当たりのエネルギー消費を、従来のガス炉に比べ半減できるとしている。これは企業が示す工程の性能値であり、完成した香水瓶のライフサイクル全体の負荷が半分になるという数値ではない。溶融炉の電化と、混合エネルギーを使う後続の供給設備も区別しておきたい。
設備の変更には、人の学び直しも必要だった。同報告書によれば、技術・溶融担当者らの研修に延べ一万二千時間以上を充て、電気炉をすでに運用するSGD Pharmaと連携して実地で学んだという。技術責任者アンドレ・フレゼルも、新設備を収める工場内の配置と動線の検討について述べている。
「3Dシミュレーションは、大いに役立ちました。」
アンドレ・フレゼル(2025年、ポシェ・デュ・クールヴァル技術責任者)
金型を整える人、ガラスの流れを扱う人、曲面へ模様を移す人、仕上がりを確かめる人。香水瓶の造形は、彼らが同じ形を繰り返し成立させることで、私たちの手元へ届く。瓶の底や肩、文字の見え方をもう一度見るとき、香水のデザインは、輪郭を描くところから量産を支えるところまで続いていると分かる。
参考文献
- Nez à Nez avec Irène Gosset, présidente du Groupe Pochet — Fragrance Foundation France、2023年3月2日
- Nos pôles d’activités — ポシェの四事業部門
- Pochet du Courval Guimerville — ガラス製造・仕上げ拠点
- Notre histoire — 工場・メゾン・社名の変遷
- Pochet du Courval — 外形と内形の制御
- Morphoz — ガラス配分と光・装飾のモデリング
- Les Gestes Verriers — Fédération du cristal et du verre、ギメルヴィルの金型とガマシュの絵付け
- Le groupe Pochet inaugure le premier four de flaconnage électrique en France — Emballage Digest、2025年3月28日、工場工程と担当者の発言
- Un gagnant trop discret : Pochet du Courval — Fragrance Foundation France、2014年4月15日、ジュール ドゥ エルメスの制作説明
- Repousser les limites de la finesse — イドルの瓶
- Des reliefs et des angles — ファントムのガラス成形・装飾
- La maîtrise du verre au service de Fame — 2022年7月1日、フェイムの成形
- Un décor en majesté — オリンピア ブロッサムの部門別の仕事
- L’Art du décor — 塗装・印刷・メタライゼーション・レーザー加工
- Pochet du Courval, un savoir-faire ancestral — La Gazette France、2020年12月28日、ガマシュの現場と担当者の発言
- Chanel et le Groupe Pochet unissent leurs savoir-faire — 2021年9月20日共同発表、再生ガラス
- Highly decarbonized glass packaging production for luxury brands — Fives、2025年4月14日、電気炉の設計・供給
- Rapport RSE 2025 — ポシェ、34–35ページ、電気炉の稼働・性能と研修


