Fragrances of the World(フレグランス・オブ・ザ・ワールド)とマイケル・エドワーズ — 香りの分類、本、データベースを築いた歩み

Fragrances of the Worldの英名と和名、香りを分類し好みをつなぐというコピーを配した、本と試香紙、香料サンプルの温かな静物 香りの世界を広げる

売場で尋ねるべき大切な質問は、「どんな香水をつけるのが好きですか?」です。

— マイケル・エドワーズ

香水売場で新しい一本を探すとき、好みをうまく説明できないことがある。花が好きなのか、木が好きなのかと聞かれても、愛用している香水にはどちらも感じられる。気に入った香水の名前なら言えるのに、その先の会話が続かない。

フレグランス・オブ・ザ・ワールド(Fragrances of the World)は、その名前から次の香りへ橋を架ける仕事である。香水を作るブランドではない。マイケル・エドワーズ(Michael Edwards)が売場のために始めた分類ガイドが、本、データベース、香水の推薦サービスへと広がったものだ。

その象徴が、香りの系統を円形に配置する「フレグランスホイール」である。しかし、エドワーズの仕事は香水を図のどこかへ収めることだけではない。作り手と香りを確かめ、発売の記録を整理し、名香が生まれた背景を本人たちの言葉で残す。香水を選ぶための分類と、香水を理解するための歴史が、同じ人物の仕事として続いている。

基本情報

  • 創設者・著者:マイケル・エドワーズ
  • 活動の出発点:オーストラリア。ガイドの制作には1983年に着手し、最初の『The Fragrance Manual』を1984年に刊行
  • 現在の書名への改称:2000年
  • フレグランスホイールの成立:1992年
  • オンラインデータベースの開始:2004年
  • 主な仕事:香水の分類と情報の整理、販売員の教育、香水を探す仕組みの開発、香水史の出版
  • 公式サイト:Fragrances of the World
  • 業務用データベース:Fragrances of the World.Info

マイケル・エドワーズとガイドの成り立ち

マラウイの記憶と、日用品のマーケティング

エドワーズは、現在のマラウイで生まれ、幼少期を過ごした。心に残っている匂いの一つは、木の削り片で香りをつけた風呂の湯である。乾いていながら蜂蜜のようでもある木の香りは、その後も記憶に残った。寄宿学校に通う少年時代には、小さな瓶に入ったラベンダーの香りを買い、密かに楽しんでいた。

職業として香りに近づいた入口は、調香ではなくマーケティングだった。生化学を学んだのち、1960年代にはビーチャム・グループで日用品に携わる。シャンプーの香りを変えるだけで、消費者が製品そのものも改善されたと感じることに関心を持った。香りは説明のための飾りではなく、製品をどう受け取るかまで変えてしまう。その力を、仕事の中で知ったのである。

1975年、香りを系統で比べる方法に出会う

1975年、フィルメニッヒのワークショップで、エドワーズは『Bouquet de la Parfumerie』という技術的なガイドを受け取った。香水をファミリー、つまり香りの性格が近い系統にまとめた資料である。

彼はガイドを持って香水店を訪れ、同じ系統に置かれた香水を嗅ぎ比べた。一つずつ覚えるだけだった香水に、比較できるまとまりが見えてくる。のちにパリを拠点としてホルストンの国際的な香水事業に携わると、この方法を販売員へ届けることも考えるようになった。フィルメニッヒがガイドの制作を終えた後、1981年には許可を得て内容を更新・簡略化し、各地のスタッフへ配布した。

当時、ワインでは品種名が選ぶ手がかりになっていた。複雑な産地の知識から入らなくても、シャルドネやソーヴィニヨン・ブランという言葉で好みを伝えられる。

ワインでそれがうまくいくなら、なぜ香水ではできないのだろう、と突然思ったのです。

— マイケル・エドワーズ

分類を一般の人へ渡すには、専門家のための用語を増やすより、すでに好きな香水と結びつく言葉が必要だった。

オーストラリアでの独立と1984年の初版

オーストラリアへ移ったエドワーズは、ホルストンなどの事業をマックスファクターと統合する仕事を担った。しかし親会社の買収後に職を失い、独立する。Michael Edwards & Coを立ち上げ、販売員の研修と、売場で香りのファミリーを活用する仕事を始めた。

研修には、嗅いだ香りをあとから調べ、接客へ持ち帰れる小冊子が必要だった。そこで生まれたのが『The Fragrance Manual』である。エドワーズは2024年の発言で1983年に制作を始めたと述べ、初めてのガイドが出た年を1984年としている。初版に収めた香水は323点だった。

出発点は、好きな香水を数本挙げてもらうことだった。名前をガイドで調べると、好みが一つか二つのファミリーに集まる場合がある。そのまとまりを手がかりに、まだ試していない香水を提案する。研修で使う冊子は、香水を暗記するためというより、客と販売員の会話を次へ進めるために作られたのである。

ノードストロームとの仕事と、男女を横断する分類

1988年、米国の百貨店ノードストロームがガイドを見いだした。米国の香水をもっと加えてほしいという依頼があり、1991年には男性用香水を女性用とファミリーごとに対応させる仕事へ進む。

匂いは、匂いです。

— マイケル・エドワーズ

男性用と女性用で別々の分類や言葉を使うことに、エドワーズは疑問を持っていた。性別の販売区分を越えて香りを比べれば、自分用にも贈り物にも、より広い候補を示せる。これは男女の香水がすべて同じだという主張ではない。花、木、柑橘といった匂いを、共通の言葉で扱うための選択だった。

1998年には小売側の要望を受けてニッチ香水の分類も加わった。知名度のある香水だけでは、売場に現れる新しい選択肢に応えられなくなっていたのである。2009年の25周年版では、掲載数は6,500点以上に広がった。

冊子からオンラインの検索へ

2000年、『The Fragrance Manual』はハードカバーになり、『Fragrances of the World』へ改称した。一方、香水を探す仕組みは、紙の本に先行して売場やオンラインへ広がっていく。1995年にはロンドンのハウス・オブ・フレーザーで店頭端末を使った検索が登場し、1999年にはBeauty.com向けのオンライン検索を開発した。

2004年にはFragrances of the World.Infoが始まる。年ごとにまとめる本と、継続的に情報を更新するデータベースの役割が分かれた。昔の版に載った香水を振り返ることと、今の情報を検索することは、同じ作業ではない。ガイドの蓄積は、ブランドを横断して候補を探すデジタルの仕組みにもつながった。

主な歩みの年表

年出来事
1960年代日用品のマーケティングで、香りが製品の受け取られ方を変えることに関心を持つ
1975年フィルメニッヒの研修で香りのファミリーを学ぶ
1981年許可を得て同社の分類ガイドを更新・簡略化し、スタッフへ配布
1983年自身のガイドの制作に着手
1984年323点を収めた『The Fragrance Manual』初版を刊行
1988年ノードストロームがガイドを採用
1991年男性用・女性用香水をファミリーごとに対応させる
1992年フレグランスホイールを作成
1995年ハウス・オブ・フレーザーで店頭の香水検索端末が登場
1996年香水史の書籍『Perfume Legends』を刊行
1998年ニッチ香水の分類を加える
1999年Beauty.com向けオンライン香水検索を開発
2000年ガイドを『Fragrances of the World』へ改称
2004年オンラインデータベースFragrances of the World.Infoが始まる
2019年『Perfume Legends II』を刊行
2021年6月に「Oriental」から「Ambery」への用語変更を発表
2024年米国の香水史を扱う『American Legends』を刊行

フレグランスホイールと分類の仕事

14のファミリーを、香りのつながりとして見る

フレグランスホイールは、香りの系統の関係を円形に表したものである。フレッシュ、フローラル、アンバー、ウッディという大きな方向を捉えつつ、現在の公式案内では14のファミリーを扱う。

たとえば、花を中心に感じる香りと、柔らかく粉っぽい感触を伴う花の香りには、共通する部分がありながら違いもある。フローラルとソフト・フローラルという区分は、その違いを話す手がかりになる。木の香りも、すべて一語でまとめず、苔を思わせるものや乾いたものへと視点を移せる。

円形の意味は、ファミリーを孤立した箱にしないことにある。好きな系統を見つけたら、その周辺の違いを比べてみる。同じファミリーであっても、甘さや強さ、肌で感じる印象まで同じになるわけではない。分類が示すのは、試す場所を絞るための香りの関係である。

分類の言葉も変わってきた。2021年6月には、従来の「オリエンタル」を「アンバリー」へ変えることが発表された。現在の公式ホイールは「Amber」「Soft Amber」などの表記を使う。地域を連想させる古い呼び名から、香りの性格を示す言葉へ移る変化として捉えられる。

なお、現行公式サイトの年表はこの変更を2022年の項目に置いている。ここでは、変更発表を同時代の報道で確認できる2021年と、現在の表記を分けて扱っている。

時間を置いた香りを嗅ぎ、作り手と確かめる

私たちは、トップノートではなく、ドライダウンで評価します。

— マイケル・エドワーズ

ドライダウンとは、香水をつけて時間が経った後の香りを指す。最初の印象は購入のきっかけになっても、繰り返し使いたくなる香りには、後から残る部分が関わる。エドワーズは2024年に、1〜2時間待って評価することや、チームには試香紙を翌朝まで机に置くよう勧めていることを話している。

評価は、彼一人の判定で終わらない。香水を長く作り込んできた相手と一緒に嗅ぎ、作品が何を目指しているかを理解する。分類を伝え、問題があれば連絡をもらう。この対話によって、一定の体系を保ちながら、作品の意図とのずれを確かめていく。

こうした照合を通じて分類を整えながら、チームはデータベースを日々更新する。香水が増えるたびに一覧を伸ばすだけでなく、互いに比較できる記録を保つ仕事である。

分類は、香料を分析して完全な成分表を公開する仕事ではない。データベースにあるノートや香りのピラミッドも、製品の配合をすべて示すものではない。同じノート名が並ぶ二本が同じように香るとは限らず、分類を科学的に唯一の正解として扱うこともできない。香りの輪と調香師の評価データを扱ったLCPの記事では、別の角度からその関係を見ている。

無料掲載と、データを使う事業

香水をガイドやデータベースへ掲載・分類することについて、エドワーズはブランドの大小を問わず料金を取らない方針を示してきた。掲載料を払った香水ほど有利になる仕組みでは、ブランドを越えて比較する基準を保ちにくい。

一方、事業としてはデータベースの購読や、小売向けの香水検索・推薦の仕組みを提供する。掲載するブランドに料金を求めないことと、誰もがデータベース全体を無料で使えることは別である。香りの情報を整理する仕事を、利用者向けのサービスが支える構造だ。

本に残す香水史

『Perfume Legends』で作り手を表に出す

1996年の『Perfume Legends』は、分類ガイドとは異なる目的の本である。名香をどのファミリーに置くかだけでなく、誰が、どんな考えで、どのように作ったかを伝える。

エドワーズがこの本を考え始めた1990年代初め、調香師の名前は今ほど表に出ていなかった。ギー・ロベールとエドモン・ルドニツカの協力は、作り手たちへの扉を開く力になった。

私は、彼らの創造性のキュレーターなのです。

— マイケル・エドワーズ

キュレーターは、作品を選び、つながりを示す役割である。エドワーズは自分の評価だけで名香を決めるのではなく、作り手にも象徴的な作品を挙げてもらった。革新的な香りやアコードであること、大きな影響を与えて流れを作ったこと、魅力が長く続くことが選定の軸となった。

2019年の『Perfume Legends II』では研究を更新し、52の作品を扱った。フェミニテ デュ ボワは、木の香りの革新と、その後への影響という視点で加えられた例である。人気順の名香紹介ではなく、作品から次の作品へ何が受け継がれたかを読むための本なのである。LCPの『Perfume Legends』紹介も、その入口になる。

『American Legends』へ広がる記録

2024年には、米国の香水の歩みを追う『American Legends』が刊行された。フランスの名香を扱った本の伴となる一冊で、調査には30年以上を費やした。

エドワーズは、米国を訪れるたびに関係者の話を聞き、記録を集めていた。新作の分類に追われて執筆を後回しにする時期も長かったが、コロナ禍でオーストラリアに滞在する時間が増え、本をまとめる作業が進んだ。

この仕事では、調香師だけでなく、経営者、商品を世に出した人、ボトルのデザイナーも歴史の担い手になる。香水は匂いだけで世の中へ出るのではない。名前、容器、伝え方、使う人々の暮らしまで見ることで、その時代に作品が持った意味が分かってくる。

香水好きと販売員のための使い方

好きな香水の「名前と仕様」から探す

一般の香水好きは、まず無料で開ける公式のホイールや香水検索から触れられる。現行サイトにはフレグランスホイールと、Match My Scentという入口がある。以前の案内で「Match My Fragrance」と呼ばれていた検索は、現在の導線と名称を確かめて使いたい。

たとえば、検索欄に「Eau Sauvage」と入力すると、オー ソヴァージュのオードトワレ、コロン、パルファンなどが別々の候補として現れる。ここで選ぶのは、名前が近い一本ではなく、自分が好きな仕様である。2026年10月14日の確認では、オードトワレを選ぶと、その香水を起点とする提案が表示された。

候補が出たら、自分の好きな一本と比べる。柑橘の明るさが似ていても、その後に残る木やハーブ、柔らかさは違うかもしれない。検索は香りを代わりに嗅ぐものではなく、比べる相手を見つけるための手がかりになる。

売場では、ブランドを越えて嗅ぎ比べる

エドワーズは、商品をブランドごとに並べながら、テスターをファミリーごとに並べる方法も提案している。商品の所属を保ちつつ、客は別ブランドの近い香りを嗅ぎ比べられる。

販売員にとっても、好きな香水の名前から始めると会話が具体的になる。「フローラルが好きですか」と分類名を先に問うより、「普段どれを使っていますか」と聞き、その香りのどこを残したいかを一緒に考える。分類を説明すること自体が接客の目的になるのではなく、相手の好みを聞き取るために使うのである。

無料の入口と有料データベースを分ける

業務用のFragrances of the World.Infoでは、発売年、ブランド、調香師、ボトルデザイナー、香りの方向などが検索項目として案内されている。個人向けにはログイン回数に応じた有料プランがあり、法人向けには組織の規模に応じた契約の案内がある。

2026年10月14日時点で、現行公式トップページは分類・照合した香水を65,000点以上とし、データベースの入口は収録情報を63,000点以上と表示している。両ページの件数表示は一致していないため、ここではそれぞれの表示値を示した。過去の本の掲載数や、特定の年に分類した件数と混同しないことも大切である。

入口役割・利用の範囲
公式フレグランスホイールファミリーの関係や例を知る公開の入口。確認時は会員登録なしで閲覧できる
Match My Scent好きな香水を起点に候補を探す公開検索。確認時は会員登録なしで検索・提案表示まで利用できる
Fragrances of the World.Info香水情報を複数の項目で調べる有料データベース。個人・法人向けの利用案内がある
分類ガイドの書籍その版に整理された香水を参照する。日々更新されるデータベースとは役割が異なる
『Perfume Legends』シリーズ/『American Legends』香水が作られた背景と、時代の変化を読む歴史書

エドワーズの仕事に触れる意味は、14の分類名を暗記することだけではない。好きな香水に何か共通するものがあるのか、それが少し変わると好みはどう動くのかを、実際の香りで確かめられる。分類はその会話の言葉を渡し、本は一本の香水がそこへ至るまでの時間を伝えてくれる。

参考文献