朝に嗅いだときは気づきにくかったにおいが、夜には分かりやすい。同じ人の鼻でも、においへの敏感さは一日の中で動くのでしょうか。
2023年、Yiling Maiらは、成人56人に朝から夜まで一日4回の検査を行いました。目的は、においに気づく敏感さが時間帯によって変わるか、鼻の通りや、朝型・夜型といった生活リズムの個人差が、その変化に関係するかを調べることでした。嗅覚の検査や治療を考えるうえで、測る時刻が結果に影響する可能性を探った研究です。
調べたのは、薄いにおいに気づく能力
主な参加者は18~68歳の56人で、女性32人、男性24人、平均年齢は約31歳でした。全員が自分の嗅覚は正常だと答えていましたが、初回の総合検査では16人が嗅覚低下の基準に該当しました。自覚と検査結果が必ずしも一致しない集団だった点は、結果を読むうえで重要です。
検査は8~10時、12~14時、16~18時、20~22時の四つの時間帯に実施しました。最初は、どれくらい薄いにおいまで分かるか、におい同士を区別できるか、何のにおいかを答えられるかを調べ、その後の3回では、薄いにおいへの敏感さを繰り返し測っています。
この敏感さを表すのが、嗅覚の検出閾値です。一般に、より低い濃度まで気づけるほど敏感だと言えます。ただし今回の検査の「得点」は、敏感なほど高くなる仕組みです。点数が上がることと、気づくために必要な濃度が上がることを、取り違えないようにする必要があります。
鼻から最大の力で吸い込んだときの空気の流れ、血圧、脈拍、注意力も測定しました。本人にも、嗅覚の調子や鼻の通り、眠気などを答えてもらっています。朝型・夜型は、活動しやすい時刻などを尋ねる質問票で評価しました。
平均得点は朝より夜に高かった
薄いにおいへの敏感さの平均得点は、朝6.68、昼7.33、午後7.10、夜7.63でした。四つの時間帯を通した差が統計的に認められ、個別の比較では、夜が朝より0.95点高いという差が有意でした。昼や午後を含むほかの組み合わせは、有意な差には達していません。
これは平均として夜のほうが敏感だったという結果です。すべての人で同じ変化が起きたわけではなく、得点の違いから「夜は何倍よく嗅げる」と換算することもできません。また、一日4回比べたのは閾値の検査なので、香りの好き嫌いや、複雑な香水の成分を言い当てる力まで夜に高まると示したわけではありません。
本人が答えた嗅覚の調子には、時間帯による有意な差がありませんでした。測定で捉えた小さな変化が、そのまま自覚として現れるとは限らなかったのです。
鼻の通りもよくなったが、同じ変化とは言えない
最大限に鼻から吸い込んだときの流量は、平均で朝72.55リットル毎分、夜90.41リットル毎分でした。こちらも朝より夜に高く、鼻の通りが時間帯で変わることが示されました。
それなら、鼻を空気が通りやすくなったから、においにも敏感になったのでしょうか。研究チームが一人ひとりの朝から夜への変化を比べても、流量が増えた人ほど閾値得点が上がるという有意な相関は見つかりませんでした。各時間帯の流量と閾値得点にも有意な相関はありませんでした。
著者らは、鼻の通りと嗅覚の敏感さには、それぞれの変化がある可能性を考えています。ただし、鼻の流量とにおいの届き方が単純な比例関係とは限らず、測定法の限界もあります。今回の相関が有意でないことだけで、鼻の通りが嗅覚に無関係だとは言えません。
朝型・夜型の違いは、まだ手がかりの段階
ほかの条件も考慮した統計モデルでは、朝の検査、夜型であること、自己申告の身長・体重から求めたBMIなどが、閾値得点と関連していました。夜型の人は朝型より得点が低い傾向でした。BMIが高いほど得点が高いという関連もありましたが、体重を増やせば嗅覚がよくなるという因果関係ではありません。
一方、朝型・夜型によって一日の変化の形が違うかを四つの時間帯で調べた解析では、有意な違いはありませんでした。そこで朝と昼、午後と夜をそれぞれまとめた追加解析をすると、型による変化の違いが現れました。
朝型では前半、夜型では後半の得点が高い方向でしたが、それぞれの型の中での前半・後半の差は有意ではありません。夜型9人、朝型14人と人数も少なく、「朝型なら朝、夜型なら夜が最適」と決めるには足りません。著者らは、生活リズムの個人差が嗅覚にも関わる可能性を、さらに調べる必要があるとしています。
体内時計だけの効果は、切り離せていない
この研究では、同じ日の朝から順番に検査を繰り返しています。時間帯の変化と、検査に慣れることの影響は完全には分けられません。別の4人には、四つの時間帯を別々の日に測る探索的な検査も行いましたが、主な56人と同じ変化の傾向にはなりませんでした。4人だけで順序の影響を除外することはできません。
また、深夜を含む24時間全体を調べたわけではなく、空腹や満腹、ホルモンの状態、月経周期なども測定していません。体内時計を調べるために睡眠や光などを厳密に制御する実験とは異なり、通常の一日の中で起こる変化を観察した研究です。
著者らは、検査時刻を考慮すると嗅覚低下の見逃しを減らせるか、嗅覚訓練を行う時刻で効果が変わるか、といった臨床上の問いにつながると論じています。今回、診断の正確さや治療の成功率を時刻別に比較したわけではないため、検査や治療の時刻を変える根拠が確立した段階ではありません。
研究の謝辞にはVolkswagen財団の助成と、中国国家留学基金管理委員会の奨学金が記載されています。著者らは金銭的な利益相反なしと申告しています。
まとめ
今回の56人では、薄いにおいに気づく検査の平均得点が、朝より夜に高くなりました。鼻の吸気流量も夜に高かったものの、二つの変化は単純には対応せず、朝型・夜型などの個人差も関わる可能性が残りました。
嗅覚を一度だけ測った値を、その人の変わらない能力として扱うだけでは、見落とすものがあるかもしれません。時間帯と生活リズムを、鼻の通りや検査への慣れと分けて調べることが、嗅覚の変動を理解し、将来の検査や治療をより適切に行うための次の課題です。
参考文献
Mai, Y., Rosbach, M. C., & Hummel, T.(2023). Variations of olfactory function with circadian timing and chronotype. Rhinology, 61(5), 456–469. DOI: 10.4193/Rhin23.150. 原著全文PDF。


