香りで戻る思い出は、年齢によって感じ方が違う?

香りで戻る思い出は、年齢によって感じ方が違う? 香りの科学

バニラの香りで、夏休みに食べたアイスを思い出す。石けんのにおいで、昔の旅行先のお風呂が浮かぶ。日本の成人を調べた研究では、こうした香りから呼び起こされた思い出を、高齢の参加者は若い参加者より快く評価しました。

2023年に公開されたこの研究が問うたのは、加齢とともに過去を肯定的に捉えやすくなるという「ポジティブ効果」が、においを手がかりにした自分の思い出にも見られるか、ということでした。さらに、記憶の鮮明さや懐かしさといった性質、そしてそれらを測る質問紙も検討しています。

自宅で、八つの香りを一日一つずつ嗅ぐ

研究には、日本の調査会社を通じて、20〜49歳の成人と60〜79歳の健康な成人を募集しました。途中で全手順を終えられなかった4人を除き、解析対象は若年側317人、高齢側181人でした。健康状態やにおいに関する問題は、本人の申告で確認しています。

香りは、桃、ジャスミン、ミント、オレンジ、固形石けん、バニラ、ヒノキ、バラの八つです。ミントには天然のスペアミント由来の香料を使い、ほかの七つは調合した香りでした。香りを含ませた無臭のセルロースビーズを、内容が分からない記号を付けた小瓶で送りました。

参加者は自宅で一日一つの香りを嗅ぎ、最初に浮かんだ個人的な出来事の内容と、そのときの年齢を答えました。思い出が浮かんだ場合は、その記憶について21項目の質問に回答します。何も浮かばなければ、香り自体の評価だけを行いました。四日間の評価、三日の休み、残り四日間という流れで、香りの順序は四つのパターンから無作為に割り当てています。

原著に載った例には、オレンジから冬に家族とミカンを食べた場面、バニラから夏休みのアイス、ミントから友人とガムをかんだ高校時代が浮かんだというものがあります。同じ香りでも、結び付く場面は人によって違います。

思い出全体の快さは、高齢群で高かった

中心となる結果は、「その記憶の全体的な印象」を、非常に不快から非常に快いまでの7段階で評価した点数です。高齢群は平均5.09、若年側は4.70で、高齢群の方が有意に高くなりました。効果量はr=.23でした。

この比較は、各人が思い出せた試料の評定を平均して行っています。若年側にも高齢側にも快い思い出が多く、そのうえで高齢群の平均がより肯定的だった、という結果です。すべての高齢者が明るい記憶だけを思い出すという意味ではありません。

著者らは、記憶が浮かんだ割合も高齢群で高かったと報告しています。ただし、原著には、除外前後の参加者数、想起率、総想起数、一人当たりの平均の間で数値が整合しない箇所があります。そのため、想起の多さは報告された方向として扱い、正確な割合や何倍という解釈は控える必要があります。主な結論は、想起された記憶への評定の比較にあります。

鮮明さ、懐かしさ、これからの行動にも違い

研究で用いた質問紙OEAMQは、香りから生じた自分の思い出を七つの側面で評価します。記憶の快い印象、過去から何かを学んだ感覚、鮮明さ、いつの出来事かという時間情報、これからしたい行動、味やにおいなどの感覚体験、懐かしさです。

高齢群は、この七つすべてで若年側より高い点数を付けました。たとえば鮮明さは4.23対3.78、懐かしさは4.16対3.85でした。思い出したことで何かをしたくなる、計画や考えが浮かぶといった「今後の行動」の評定も、高齢群の方が高くなっています。

これらは記憶について本人が感じた性質です。出来事の記録と照合して正確さを判定したものでも、実際に計画を実行したかを追跡したものでもありません。それでも、香りから戻ってくる記憶が、単に過去の映像としてではなく、今の意味付けや行動への思いも伴うことを、多面的に捉えています。

香り自体への評価と、記憶への評価を分けてみる

香りそのものの評価にも年齢群の違いがありました。高齢群は若年側より、香りによって生じた感情を肯定的に、感情の喚起を強く評価しました。一方、においの強さや親しみは、若年側の方が高く評価しています。名前を答えることへの自信には、有意な群差はありませんでした。

したがって、高齢群が単にどの質問にも高い点数を付けた、という一つの説明では捉えにくい結果です。ただし、回答の傾向や年齢に伴う経験の違いを完全に取り除いたわけではありません。

香りによって生じた感情が快い人ほど、記憶の七つの側面も高く評価するという関連は、両群に見られました。感情の喚起の強さも多くの側面と関連しましたが、若年側では、記憶の快い印象に関する因子との相関は有意ではありませんでした。すべての感情指標が、すべての記憶特性へ同じように結び付いたわけではないのです。

記憶を測る質問紙としての確認も行った

OEAMQは、以前は主に若い人で検討されていた尺度です。今回、高齢群でも各側面を構成する質問同士の回答がよくそろい、高い内的一貫性が確認されました。感情の評価との関連も含め、年齢の高い参加者の香りの記憶を調べる道具として、利用を支える結果が得られています。

一方、今回比べたのは異なる年齢の人たちで、同じ人が年を重ねる変化を追ったものではありません。長く生きた分だけ思い出の選択肢が多いことや、世代ごとの生活経験の違いも関わり得ます。著者らは、残された時間の捉え方や感情を重視する動機の変化、記憶の検索の仕方を候補として論じていますが、その機序を直接測った研究ではありません。

試料は全体として快く評価された香りで、不快臭を使った条件、無臭条件、言葉だけを手がかりにした条件はありません。自宅での提示環境も完全には統一できていません。ここでの知見は、健康な日本の成人が、この八つの香りから思い出した記憶に関するものです。認知症予防や心身の健康改善は、今後の応用を考える際の別の検証課題になります。

まとめ

八つの香りを手がかりにした自分の思い出は、高齢群で若年側より快く評価されました。鮮明さ、懐かしさ、過去からの学び、今後の行動への思いなど、質問紙の七つの側面も高齢群で高くなりました。香り自体は若年側の方が強く感じていたため、においの強さと、思い出の豊かさは同じ尺度では捉えられません。

香りと記憶の関係を考えるとき、何を思い出せるかだけでなく、その記憶を今どう感じるかも大切です。この研究は、年齢の異なる人々のその違いを、感情と記憶の多面的な評定から示しました。また、高齢群でも質問紙の回答に高い内的一貫性があり、香りの記憶を調べる尺度としての利用を支える結果が得られました。

研究費はJSPS科研費と花王が提供しました。研究当時、花王所属だった著者は、研究の設計、実施、原稿の修正に関与しており、論文に開示されています。

参考文献

Yamamoto, K., & Sugiyama, H. (2023). Influences of age-related positivity effect on characteristics of odor-evoked autobiographical memories in older Japanese adults. Frontiers in Psychology, 13, 1027519. 原著論文