香りのある展示を楽しんだ子どもに、絵を描いてもらう。そこには、嗅いだ香りの印象も表れるでしょうか。言葉で説明しにくい匂いの体験を、絵や色から捉えようとした研究があります。
KucirkovaとSpeedは2023年、ノルウェーの子ども向け博物館で、『三匹の子豚』をもとにした展示を調べました。参加したのは4歳半〜8歳の28人です。研究の目的は、香りを足せば学びが向上するかを点数で判定することではなく、物語、色、音、触れるものがある空間で、子どもが匂いにどう反応するかを詳しく捉えることでした。
物語の中に、5つの香りの箱を置く
子どもたちは、子豚の家などが並ぶコースを歩きました。展示には触れられる小道具や、オオカミの声などの音もあります。コースの各所には、ふたを開けて匂いを嗅げる木製の箱が固定されていました。
箱の取っ手と内部の板の色は、香りや登場人物と組み合わせて決められています。母ブタの場所は黄色で、豚小屋や排泄物を思わせる匂い。おしゃれな子豚はピンクで果物やキャンディー、読書好きの子豚は緑で松や森、賢い子豚は茶色でチョコレートやココア。オオカミは黒で、濡れた犬や動物の毛を思わせる匂いです。いずれも展示用に調合された香りでした。
正式公開前の調査期間に、近隣の2つの園から女児14人、男児14人が、2つのグループに分かれて訪れました。研究者は見学後の反応を、指さし、会話、描画から調べています。
好きな匂いは指さしで、好きな登場人物は絵で
見学後のテーブルには、展示と同じ香りの箱を小さくしたものが置かれました。研究者は、好きな匂いと嫌いな匂いの箱を指さしてもらい、子どもの言葉も記録しました。色を見ても匂いを思い出せない場合は、箱を開けて嗅ぎ直すよう促しています。
描画には、母ブタと3匹の子豚が印刷された紙を使いました。子どもは好きな登場人物に色を塗り、同じ紙や別の紙に自由に絵も描けます。色鉛筆は箱に対応する5色に、展示には使われていないオレンジと紫を加えた7色でした。つまり、匂いだけを抽象的に描かせた課題ではなく、好きな登場人物への色塗りも含む方法です。
チョコレートの箱にも、嫌な匂いという反応
指さしと会話では、ピンクの箱を好み、茶色、黒、黄色の箱を嫌う傾向が見られました。ピンクの匂いはキャンディーやイチゴなどに結びつけられました。一方、茶色の箱はチョコレート系の香りなのに、黒や黄色の箱と同じように、排泄物を思わせる匂いとして受け止められる場面がありました。
ただし、全員が同じ反応をしたわけではありません。茶色の箱を好きと答えた子もいれば、好きな箱を選ばず、複数の箱を嫌う子もいました。子どもたちの説明は、よい匂いかどうかを述べるものと、何の匂いかを挙げるものが中心でした。
著者らは、茶色から排泄物や腐ったものを連想したり、最初の黄色い箱の匂いが後の体験に影響したりした可能性を考えています。友達同士で笑い合ったり、嫌な匂いについて言い合ったりしたことも、反応を強めたかもしれません。
これは、色と匂いを別々に変えて確かめた実験ではありません。同じ香りを別の色の箱で提示する条件がないため、茶色がチョコレートの匂いを不快に変えた、と原因を特定することはできません。色、物語、提示順、香りそのもの、友達の反応などを含む展示全体から生まれた観察です。
絵に表れたのは、香りより登場人物だった
28人のうち26人が描画課題に取り組みました。展示の登場人物の色と明確に対応した絵は4人分、部分的な対応が見られたものも4人分で、18人分では展示と違う色が使われていました。研究者は、絵の中に匂いを表す特徴を見つけられませんでした。母ブタと賢い子豚は、絵から見ると人気の登場人物でした。
この結果は、子どもが香りを感じなかった、あるいは香りを忘れたことを意味しません。実際、指さしや会話では好き嫌いを示しています。今回の色塗りや描画では、香りとの結びつきよりも、物語や登場人物の好み、描くこと自体の楽しさが表れやすかったと著者らは考えています。
匂いの体験を捉えるには、嗅いだ直後に、その匂いから何を思い浮かべるかを尋ねるなど、問いと匂いの結びつきをもっと明確にする必要がある。これが、この研究から得られた方法上の大切な気づきでした。
香りを足すときは、ほかの感覚との組み合わせも考える
研究者にとって、茶色とチョコレートは意味の合う組み合わせでした。しかし、その場にいた子どもが茶色に結びつけた意味は、必ずしも同じではありません。著者らは、見た目の印象が匂いの受け止め方を左右し、視覚が優先された可能性を、多感覚の相互作用から説明しています。
箱の形や、ふたを開ける動作による触覚、開けた瞬間の匂いの強さも関係したかもしれない、と論文は議論しています。ただし、これらも今回分離して調べた要因ではありません。28人のひとつの展示での事例から、子ども全般に当てはまる仕組みが決まったわけではないのです。指さしでも、ほかの子の回答が見えることがありました。
著者らが博物館づくりへ提案しているのは、感覚への刺激をただ増やすのではなく、色や香りが何を意味し、互いにどう支え合い、時に食い違うかを考えることです。子どもの言葉や認知の発達、刺激への感じ方にも配慮し、展示ごとに無理のない感覚のバランスを探す必要があります。
まとめ
今回の絵には、研究者が期待した香りの特徴よりも、登場人物や物語への反応が表れました。一方で、指さしと会話は、好みや、制作側が予想しなかった匂いの受け止め方を伝えていました。
香りの展示をつくることは、匂いをひとつ追加するだけでは済みません。色や物語、周囲の人と一緒に、ひとつの体験として受け取られます。その体験を子どもの視点から知るには、絵だけに頼らず、匂いと結びついた問いかけや行動も合わせて見ることが重要なのです。
参考文献
Kucirkova, N. I., & Speed, L. J. (2023). Children’s multisensory experiences in museums: how olfaction interacts with color. Frontiers in Education, 8, 1242708. DOI: 10.3389/feduc.2023.1242708 / 原著全文。原著:© 2023 Kucirkova and Speed, CC BY。


