同じにおいでも、よい印象の名前を聞くと快く、悪い印象の名前を聞くと不快に感じることがあります。この変化は、名前から食べ物や物の姿を頭に思い浮かべるために起きるのでしょうか。
2021年の研究は、幼い頃から目の見えない人、3歳を過ぎてから視覚を失った人、晴眼の人を比べました。すると、どの群でも音声で聞いた名前が香りの快さを変え、むしろ失明した二つの群で変化が大きくなりました。視覚的なイメージを、この現象に不可欠な仕組みとは考えにくいという結果です。
「名前が効く理由」を、視覚経験の違いから調べる
この研究の目的は、名前で香りの評価が変わることを、もう一度示すだけではありません。言葉の意味と視覚的な想像のうち、何がその変化を支えているのかを調べることでした。
研究チームは、言葉から呼び起こされる視覚的なイメージが重要なら、幼い頃から視覚経験が少ない人では、名前による変化が小さくなると予測しました。この仮説と主要な解析計画は、実験に先立って登録されています。
参加者は64人。3歳より前に失明した早期失明群17人、3歳より後に失明した後期失明群15人、年齢と性別を対応させた晴眼群32人です。早期群の13人は先天盲でした。研究で使った失明の基準は視力0.05未満で、32人全員がまったく光を感じない状態だったわけではなく、完全に視覚を失っていたのは17人でした。
録音した名前を聞いてから、同じにおいを嗅ぐ
全員が目隠しを着け、録音した名前をスピーカーで聞いてから、瓶のにおいを3秒間嗅ぎました。声の調子が条件ごとに変わらないよう、録音を使っています。
対象となるにおいは10種類で、それぞれを肯定的な名前、中立な数字、否定的な名前で1回ずつ提示しました。たとえばシトラールには「搾ったレモン」「26」「トイレ用洗剤」、酢酸イソアミルには「熟したバナナ」「35」「塗料の薄め液」という名前を付けました。これらは同じ試料に与えた説明です。
繰り返しに気づきにくくするため15種類の別のにおいも挟み、全45回を提示しました。同じ対象臭の再提示までに少なくとも5試料を置き、試料間は60秒空け、途中にも休憩を入れています。
参加者は、快さ、強さ、親しみをそれぞれ9段階で口頭回答しました。事前には、名前ではなく、においそのものを評価するよう伝えています。その後、16種類のにおいを四つの名前から選んで同定する別課題を行い、最後に実験の狙いに気づいたかを尋ねました。
快さは肯定名、中立名、否定名の順に高かった
全参加者をまとめた快さの平均は、肯定名で5.96、中立の数字で5.25、否定名で4.53でした。9段階の中央は5です。三つの条件の差はいずれも統計的に明確で、肯定的な名前から否定的な名前へ、評価が低くなりました。
この並びは早期失明、後期失明、晴眼の各群でも見られました。さらに、肯定名と否定名の差、および肯定名と中立名の差は、失明した二つの群の方が晴眼群より大きくなりました。一方、中立名と否定名の差については、群間に明確な違いはありませんでした。
したがって、「見えない人は全体的ににおいを好ましく評価した」という結果とは少し違います。全条件を平均した快さには群間の有意差がなく、違ったのは名前によって評点が動く幅でした。研究者が予測した、早期失明群では変化が小さくなるという方向とは逆の結果です。
強さ、親しみ、においの同定はどうだったか
強さにも名前の影響はありましたが、快さほど大きくありません。全体では肯定名の方が中立の数字より、わずかに強く評価されました。否定名が最も強くなるという事前の予測は支持されませんでした。
名前にかかわらず平均すると、早期失明群は晴眼群より強く評価しました。ただし、この研究では検出閾値を測っていないため、評点の高さだけから、より薄いにおいまで嗅げるとは判断できません。
親しみは肯定名の方が否定名より高くなりました。親しみへの名前の影響が視覚の群によって変わるという明確な結果はなく、親しみが高い人ほど快さも高く評定する関連は、三つの名前条件で見られました。
16種類のにおいの同定成績は、早期失明群で平均12.7問、後期失明群で13.1問、晴眼群で12.4問の正答で、群間に有意差はありませんでした。少なくとも今回の課題では、名前による快さの変化の大きさを、単純な同定能力の優劣だけで説明する結果にはなっていません。
実験の狙いに気づいた人にも、名前の影響は残った
64人のうち34人は、においの繰り返しか、名前の入れ替えに部分的または完全に気づいていました。この34人だけを調べても、名前による快さの変化と、その変化の群間差は残りました。親しみへの影響も残りましたが、強さへの小さな影響は有意ではなくなりました。
著者らは、名前の効果を、単に参加者が実験の仕掛けに気づいていなかったためとは説明しにくいと考えています。ただし、事後の質問で期待や回答の仕方の影響をすべて取り除けたわけではなく、ここは頑健さを確かめる追加解析として読むことができます。
視覚的な想像だけでは説明できない
著者らの中心的な結論は、言葉による嗅覚の変化の一般的な仕組みを、視覚処理そのものに求めることはできないというものです。視覚経験の乏しい早期失明群でも、名前による快さの変化は十分に起きていました。
なぜ失明した群で変化が大きかったのかについては、言葉による説明を日常的に重視することや、音・触覚・においのイメージ、思い出などが候補として挙げられています。しかし、実験中の心的イメージの鮮明さや嗅ぐ量を直接測った研究ではありません。
また、視覚を失う時期を実験で操作したものではなく、異なる経験を持つ人たちの比較です。失明がそれだけで変化を大きくしたという因果や、晴眼者では視覚的想像が一切関与しないことまで、この結果だけで決めることはできません。確かな手掛かりは、視覚的な像を必須としなくても、言葉の意味が香りの評価に入り込むことです。
まとめ
早期失明、後期失明、晴眼のどの群でも、同じにおいの快さは肯定的な名前で高く、否定的な名前で低くなりました。肯定名を含む比較では、失明した二つの群の変化が晴眼群より大きく、視覚経験が乏しいほど効果が弱まるという予測は支持されませんでした。
においの同定成績には群間の明確な差がなく、強さや親しみへの影響は快さとは異なる形で現れました。香りを意味付ける働きは、物の姿を頭に描くことだけに依存せず、言葉や経験との結び付きからも生まれることを示す研究です。
研究はスウェーデンの人文・社会科学財団と研究評議会の支援を受けました。資金提供者は資金援助以外の研究活動に関与せず、著者らは利益相反がないと申告しています。
参考文献
Cornell Kärnekull S, Gerdfeldter B, Larsson M, Arshamian A. Verbally Induced Olfactory Illusions Are Not Caused by Visual Processing: Evidence From Early and Late Blindness. i-Perception. 2021;12(3). doi:10.1177/20416695211016483


