高い精油なら、品質も確か?

高い精油なら、品質も確か? 香りの科学

精油を選ぶとき、値段の高さや「100%天然」という表示は、品質の手がかりになるでしょうか。香りを楽しむ人が、買う前に瓶の中身を分析するのは簡単ではありません。

Marissa Piersonらが2021年に発表した研究は、主にオンラインで購入したネロリ、マンダリン、ベルガモットの精油を分析し、表示された精油らしい成分構成か、薄められていないか、価格が品質の目安になるかを調べました。消費者が、表示と中身のずれを見抜きにくい状況に着目した研究です。

香りの好みではなく、組成を調べる

対象は、柑橘に由来する三種類の精油です。ネロリはビターオレンジの花から蒸留して得る精油で、マンダリンやベルガモットは果皮の精油です。研究者らは、価格帯が広がるように市販試料を選び、香料会社から得た参照試料も分析しました。

中心となる方法は、ガスクロマトグラフィーです。混合物の成分を順に分け、質量分析などで何が含まれるかを調べ、検出された各成分の割合を比較します。必要に応じて、液体クロマトグラフィーや核磁気共鳴という別の分析法も使いました。

比べたのは、研究当時のISOやAFNORの規格が示す、特定の成分の割合の範囲です。これは、精油の化学的な特徴を評価する目安です。人がどの香りを好むか、使用した人に健康被害が出るかを測った試験ではありません。

著者らは、市販31試料について、45%超が用いた規格範囲を満たさず、19%超に希釈が認められたと報告しています。ただし、論文内には購入試料の内訳や参照試料の番号に不整合があり、これらは著者の集計報告として読む必要があります。現在の市場全体の不適合率を示す数字ではありません。

規格から外れることと、偽装は同じではない

ネロリの一部では、酢酸リナリルの割合が高く、ほかの特徴的な成分が少ない試料がありました。また、プロピレングリコールやジプロピレングリコールといった希釈剤が、分析上はっきり現れるものもありました。

さらに一部のネロリ試料では、著者らが合成香料と位置付ける、ネロリ様のにおいを持つ成分なども検出されています。成分を足して香りを整えた可能性と、単に自然な成分の変動が大きい場合とは、分けて考える必要があります。

マンダリンの一部では、リモネンの割合が約95%で、マンダリンの特徴に関わる別の成分が見つかりませんでした。研究者らは、スイートオレンジ精油への置き換えを疑い、別の成分群の分析パターンも、その解釈を支持するとしています。

一方で、規格の境界をわずかに外れる程度の試料もありました。植物の成分は、産地、季節、果実の成熟度、製造や保存条件で変化します。たとえばマンダリンは、収穫時の熟度が異なる原料が流通するため、一つの規格範囲との比較だけで、すべてのずれを偽装と決めることはできません。

研究には、タンジェリンとして販売された試料も含まれました。その組成がマンダリンの規格に合わなくても、表示された別のタイプとしては説明できる場合があります。規格を当てはめる前に、何を分析しているのかを正しく捉えることも必要です。

成分の比率が合っていても、薄められていることがある

ベルガモットでは、品質検査の落とし穴がよく分かる例がありました。一つの試料は、クエン酸トリエチルという溶媒の大きな信号を含んでいました。しかし、その信号を除き、残りの精油成分どうしの割合だけを比べると、規格の範囲に入りました。

別の試料も、精油成分の相対的な割合は規格に合っていましたが、植物油によって大きく薄められていると判断されました。この油は通常のガスクロマトグラフィーではそのまま見えにくく、核磁気共鳴による分析で、大豆油に特徴的なパターンが見つかっています。

精油の成分がどれも同じ割合で薄まれば、成分どうしの比率は保たれます。「リモネンとリナロールの比率がそれらしい」という結果だけでは、瓶の中身全体が精油なのかまでは保証できないのです。

この例が示すのは、成分表の比率を照合する検査と、希釈剤や揮発しにくい成分を探す検査を、組み合わせる意味です。規格に近い組成と、希釈されていないことは、同じ一つの条件ではありません。

最も高いネロリも、全項目を満たさなかった

研究者らは、購入時の価格を容器の容量で割り、1 mLあたりの価格と分析結果を比べました。ネロリは、この試料群で価格差が大きく、最も高価な試料でも、規格が示す13成分のうち六つが範囲を外れていました。

一方、全項目を満たした試料は、試料群の中では中ほどの価格帯でした。比較的安価でも、組成が規格に近い試料もありました。著者らは、この結果から「一番高いものを買えば問題が解決する」とは言えないと論じています。

ただし、安いものほど良いという逆の順位を示したわけでもありません。市場から無作為に大量抽出した調査ではなく、幅広い価格帯を含めようと選んだ、限られた試料の結果です。価格だけを品質保証に置き換える根拠が乏しい、というのが適切な範囲です。

表示の信頼性には、検査と追跡可能性が必要

著者らは、多くのラベルに、純粋、天然、あるいは治療用の等級を思わせる表現があっても、それだけでは分析結果との一致を保証しなかったと指摘しています。小売業者が自ら混ぜたのか、仕入れた段階ですでに中身が違っていたのかも、この分析だけでは分かりません。

研究者らが重視するのは、供給元の透明性と品質管理です。原料の由来をたどれ、仕入れたものが表示と合うかを確かめる仕組みがあれば、消費者自身が分析装置を持たない状況を補えます。単に有名なブランド名を付ければよい、という意味ではありません。

この研究は、購入者の肌症状や、吸入・摂取による影響を調べていません。不適合だった試料の割合を、そのまま危険な製品の割合へ読み替えることはできません。一方、表示と実際の成分が違えば、使う側が成分や濃度を把握しにくくなるという懸念は、品質管理を求める重要な理由です。

研究はコート・ダジュール大学とフランス国立科学研究センターの支援を受け、一部にはPharmapur UGからの研究助成がありました。著者らは、同社は実験の設計、分析、結果の提示に関与していないと説明し、それ以外の利益相反はないと申告しています。

まとめ

調べた柑橘精油には、規格からわずかに外れるものから、希釈剤や別の原料の存在を示すものまで、異なる問題がありました。高価格や「天然」という言葉だけでは、それらを十分に区別できませんでした。

研究の重要な帰結は、消費者が香りや表示だけで確かめきれない部分を、供給側の分析と追跡可能性で支える必要があることです。成分どうしの比率に加えて、希釈や別の成分の混入も調べ、自然な変動と不適切な表示を分ける。その積み重ねが、精油の品質への信頼を作ります。

参考文献

Pierson, M., Fernandez, X., & Antoniotti, S.(2021). Type and magnitude of non-compliance and adulteration in neroli, mandarin and bergamot essential oils purchased on-line: potential consumer vulnerability. Scientific Reports, 11, 11096. DOI: 10.1038/s41598-021-90307-2。原著全文。

原著:© The Author(s) 2021。CC BY 4.0で公開されています。