桃のような香りを「食べ物の香り」と聞いて嗅ぐときと、「ボディローションの香り」と聞いて嗅ぐとき。どちらも自然な説明ですが、脳がその香りを扱う様子は同じでしょうか。
女性21人のfMRI研究では、由来を示す名前と用途を示す名前で、前帯状皮質の応答に違いが見られました。一方、本人が答えた快さと強さには、名前による明確な差はありませんでした。言葉の影響を、好き嫌いが変わる場合に限らず調べた研究です。
よい名前と悪い名前ではなく、「由来」と「用途」を比べる
においの名前には、「何から出る香りか」を示すものもあれば、「どんな場面で使うか」を示すものもあります。バラの香りを花と捉えることも、化粧品の香りと捉えることもできます。
この研究の主目的は、その二つの分類の仕方が、においを嗅いだときの脳活動を変えるかを調べることでした。さらに、食品系の香りと花系の香りで、名前の影響の現れ方が異なるかも検討しています。論文は2012年にオンライン公開され、2014年の巻号に掲載されました。
4種類の同じ香料を、二つの説明で提示する
参加したのは、嗅覚が正常で右利きの女性21人で、平均年齢は24.4歳でした。使ったのは桃、チョコレート、リンデンの花、バラを思わせる調合香料です。ボディローションにも使われるような香りで、実物の食品や花を嗅いだわけではありません。
各香料を二つの名前条件で提示し、一人あたり計8セッションを行いました。由来の条件では、桃とチョコレートを「食べ物」、リンデンとバラを「花」と口頭で説明します。用途の条件では、4種類とも「ボディローション」と説明しました。名前は各セッションの前に伝え、セッション順は無作為にしています。
装置は温度と湿度を調整した空気に香りを載せて鼻へ送りました。21秒間の香りあり・なしを交互に繰り返し、その間の脳活動をfMRIで記録します。各セッション後に、快さと強さを評定しました。
予備的な確認では10人が、4種類の香りに各名前がどの程度当てはまるかを評価しました。「食べ物/花」と「ボディローション」は、関係の薄い比較用の「スパイス」「薬」よりよく当てはまり、由来と用途の二条件の当てはまりには有意差がありませんでした。少なくとも、片方だけが明らかに不自然な説明という設計ではありません。
快さと強さの評点には、名前の差が見られなかった
主実験では、由来を聞いた場合と用途を聞いた場合で、快さにも強さにも統計的に明確な差はありませんでした。したがって、この研究を「桃と呼べばおいしそうに、ローションと呼べば不快に感じる実験」とまとめることはできません。
また、装置の外で14人に同じ提示方法を行い、嗅ぐ時間と吸気量を測った確認でも、名前条件による有意差はありませんでした。著者らは、次に述べる脳活動の違いを、単に呼吸の変化だけで説明する可能性は低いと考えています。
名前を直接比べると、前帯状皮質は由来の条件で高かった
まず、それぞれの名前条件で、香りを出している時間と出していない時間を比べました。由来の名前を伝えた条件では、内側眼窩前頭皮質、前帯状皮質、島皮質に応答が見られました。用途の名前を伝えた条件では、内側眼窩前頭皮質に応答が見られました。
さらに二つの名前条件を直接比べると、前帯状皮質では由来の条件の方が用途の条件より高い応答を示しました。逆向きに、用途の方が高い領域は、この解析では見つかりませんでした。
ここでは比較の種類が大切です。島皮質については、片方の条件で無臭時との差が検出され、もう片方では検出されなかったという結果です。二つの名前を直接比較して差が報告された前帯状皮質と、同じ強さの証拠として扱うことはできません。
解析は、嗅覚や言語の影響に関係すると事前に選んだ脳領域の範囲で行われました。多重比較補正をしていないp<.001に、活動のまとまりの大きさの条件を加えています。小規模な探索的研究として、今後の確認につながる結果です。
食品系と花系で、応答の現れ方も調べた
食品系の桃・チョコレートだけを取り出すと、由来名の条件では、無臭時に比べて島皮質、前帯状皮質、内側眼窩前頭皮質に応答があり、用途名の条件では内側眼窩前頭皮質に応答がありました。
花系のリンデン・バラでは、由来名の条件で内側眼窩前頭皮質と前帯状皮質に応答が見られ、用途名では設定した基準を満たす領域がありませんでした。著者らは、とくに食品の名前で島皮質が反応するパターンを、食べ物の香り、味、言葉が過去の経験で結び付いている可能性と関連付けています。
ただし、食品系と花系では元の知覚強度にも差があり、食品系の方が弱く感じられました。食品か花かという意味だけを完全に切り分けた比較ではなく、味との連合も今回直接学習させて検証したものではありません。
言葉が呼び起こす文脈を、脳の応答から考える
著者らは、においの神経的な表現が、使われる言葉の分類に依存するという結論を示しています。何の香りか、どこで使う香りかという説明によって、同じ刺激が異なる経験や知識と結び付き得る、という解釈です。
追加解析では、香りを出していない時間だけを取り出して由来名と用途名の条件を比べても、明確な脳活動差はありませんでした。著者らは、言葉だけの反応より、においがある場面での文脈効果を支持する結果と考えています。
一方、由来の条件では「食べ物」と「花」の2語を使い、用途の条件では「ボディローション」の1語だけを使っています。著者ら自身、この非対称さが一部の結果に関わる可能性を挙げています。対象も若い女性21人と4種類の香料に限られます。脳活動差から、本人の気づかない本当の好みや、製品の購買意欲が変わったと結論することはできません。
まとめ
同じ4種類の香料でも、「食べ物/花」という由来の説明では、「ボディローション」という用途の説明より前帯状皮質の応答が高くなりました。内側眼窩前頭皮質の応答は両条件に共通し、食品系・花系の副解析では別の応答パターンも見られました。
それでも、快さと強さの評点には明確な名前の差がありませんでした。香りの文脈は、好き嫌いの点数が動く場合だけでなく、同じにおいをどの知識や経験と結び付けて扱うかにも関わる。そんな可能性を、脳画像から探った研究です。
研究当時、共著者Nicola PhillipsはUnileverに所属していました。試料はFirmenich製です。確認した出版社の原著本文には、独立した資金助成欄と利益相反声明は見当たりません。
参考文献
Bensafi M, Croy I, Phillips N, et al. The effect of verbal context on olfactory neural responses. Human Brain Mapping. 2014;35(3):810–818. doi:10.1002/hbm.22215


