使ってみる前の反応に、あとで好きになる香りの手がかりはある?

使ってみる前の反応に、あとで好きになる香りの手がかりはある? 香りの科学

初めて嗅いだときには、まだどれが好きかはっきりしない。けれど、暮らしの中で使うと「これを選びたい」が見えてくる。そんな柔軟剤の香りについて、最初の脳活動に、後の選択と結びつく情報があるかを調べた研究があります。

2025年の研究では、初回の「快い」「使いたい」という評価に明確な群の差がない段階でも、脳活動のパターンから、後に選ばれる香りと選ばれない香りを分類できる領域が見つかりました。さらに、約4か月使った後にも、その分類の手掛かりが残るかを調べています。

初めての香りから、日常で選ぶ香りへ

研究を行ったのは、情報通信研究機構(NICT)とLIONの研究者たちです。目的は二つありました。初めての香りに対する脳活動に、その後の好みに基づく選択が表れるか。そして、使い慣れた後も同じような情報が残るかです。

参加したのは、週3回以上柔軟剤を使い、主に香りを基準に自分で選んで購入する女性30人でした。途中辞退や測定データの問題などにより、最終的には25人、平均年齢42.2歳のデータを解析しました。

用意したのは、参加者が使ったことのない市販の柔軟剤3種類です。香りは、甘いフローラル系、みずみずしいフローラル系、フローラル系として説明されています。製品のパッケージからの連想を抑えるため、事前の選定段階を除いて容器の表示を隠しました。

3種類を試し、選んだ1種類を約4か月使う

まず1回目のfMRI測定で、三つの香りを嗅いだときの脳活動を記録しました。装置から鼻のマスクを通じて6秒間ずつ香りを届け、繰り返し測定します。それぞれの測定区間の後に、香りの強さ、快さ、使いたい程度を5段階で答えてもらいました。

その後、参加者は2週間以内に、3種類すべてを自宅で各2回使いました。その経験を踏まえて、お気に入りを一つ選びます。そして、選んだ柔軟剤だけを約4か月間、日常の洗濯で使い続けました。

最後に、もう一度同じfMRI測定と香りの評価を行いました。長期使用したのは3種類全部ではなく、本人が選んだ1種類です。この手順によって、最初の反応と、その後の選択、使い慣れた後の反応をつなげています。

最初の自己評価では、後の選択を分けきれなかった

研究では、後から選ばれた香りを「選択」、残り二つを「非選択」として、最初の評価を振り返って比較しました。

1回目の測定時には、選択された香りと非選択の香りの間で、快さや使いたい程度に有意な差はありませんでした。一方、約4か月後の測定では、選んで使ってきた香りの評価が有意に高くなっていました。

これは、最初は誰も好みを持っていなかったという意味ではありません。25人の結果をまとめた比較で、後の選択に対応する明確な差が、この5段階評価では見つからなかったということです。

脳の「強く反応した場所」より、反応の組み合わせを見る

では、脳活動はどうだったのでしょうか。まず、香りによって各領域の活動がどれだけ強くなったかを比べた解析では、選択と非選択の香りの間に、有意な差は見つかりませんでした。

そこで、研究チームは活動の強さを一つの平均にするだけでなく、複数の小さな領域にまたがる反応の分布パターンを使って分類しました。全体の平均が似ていても、どの部分がどの程度反応するかの組み合わせが違えば、手掛かりになる可能性があります。

分類では、参加者を一人ずつ外し、残りの人のデータで学習したモデルを、その一人に試す方法を使いました。判定するのは「後に選択される側か、非選択側か」という二つのカテゴリーです。三つの商品のうち、どれを買うかをそのまま三択で当てた的中率ではありません。

この解析で、最初の脳活動から、偶然の水準を超えて分類できる領域が見つかりました。主なものには、右側坐核、左の梨状皮質の前頭部側、左の上前頭領域などがあります。報酬に関わる領域だけでなく、嗅覚に関わる領域にも、後の選択と対応する情報がありました。

香りの種類や強さを当てているだけでは?

三つの柔軟剤は、選ばれた人数が4人、9人、12人と同じではありませんでした。また、香りの強さの評価にも違いがあり得ます。そのため、「好みを分類した」ように見えて、実は製品の香りの種類や強さを区別しただけという可能性を検討する必要があります。

研究チームは、同じ脳領域の活動から、香りの種類、強さ、快さ、使用意向も分類できるかを追加で調べました。右の内側眼窩前頭皮質では、香りの種類も区別できたため、この領域の結果には種類の違いが混ざっている可能性が残りました。

一方、右側坐核、左の梨状皮質、左の上前頭領域などでは、同じ解析で香りの種類や強さを有意に分類できませんでした。最初の快さや使用意向も、有意には分類できませんでした。これらの結果は、その場で答える評価と、後の使用経験に基づく選択が、完全に同じ情報ではない可能性を支えています。

約4か月後にも残ったのは、左の上前頭領域

2回目の測定では、初回に選択を分類できた領域を調べ直しました。その中で有意な分類ができたのは、左の上前頭領域でした。

さらに、初回のデータで学習して2回目のデータを分類する、またはその逆を行う解析でも、偶然を上回る成績が得られました。これは、二つの時点で、選択に対応するパターンに共通する部分があったことを示唆します。

一方、ほかの領域では同じような有意な分類が見つからなくなりました。ただし、それを「使い飽きて価値がなくなった」と読めるわけではありません。本人の快さや使用意向は下がっておらず、著者らも、主観的な評価と脳のパターンの関係をさらに調べる必要があると論じています。

「脳は本音を知っている」と言い切らずに読む

この研究が示したのは、特定の製品と参加者集団の中で、初回の脳活動に、後の選択と結びつく統計的な情報があったことです。本人にも分からない好みを、誰に対しても確実に読み出せる技術が完成したという意味ではありません。

対象は、香りを重視して柔軟剤をよく使う女性25人と、三つの製品です。また、本人が選んだ香りだけを長期間使ったため、選択したこと、繰り返し使ったこと、時間がたったことの影響を、それぞれ独立に分けることはできません。

それでも、その場で「好きですか」と尋ねるだけでは捉えきれない側面を、実生活での使用と脳のパターンを組み合わせて調べた点に、この研究の価値があります。

研究はLIONの資金で行われ、同社社員の共著者は給与を受けていることを開示しています。その他の金銭的な利益相反はないと申告されています。

まとめ

初めて嗅いだ柔軟剤の快さや使用意向に明確な差がない段階でも、脳活動のパターンには、後に選ぶ香りと選ばない香りを分類する情報が見つかりました。単に活動が強くなる場所を比べるだけでは、見つからなかった違いです。

さらに、選んだ香りを約4か月使った後も、左の上前頭領域には選択に対応する共通のパターンが示唆されました。最初の印象、暮らしの中での選択、使い慣れた後の好み。それぞれを追うことで、香りの好みが脳にどう表れるかを具体的に調べた研究です。

参考文献

Okumura T, et al. Latent preference representation in the human brain for scented products: Effects of novelty and familiarity. NeuroImage. 2025;310:121131. doi:10.1016/j.neuroimage.2025.121131