The Perfume House(ザ・パフューム・ハウス)|香水を売るだけでなく、香水の図書館でありたい

The Perfume House(ザ・パフューム・ハウス)を題材にした編集イラスト。香水を売るだけでなく、香水の図書館でありたい。アメリカ・ポートランド。

「手に入れられる限り、最良の香水をそろえる。」

— クリス・ツェファラス(共同創業者)

アメリカ・オレゴン州ポートランドのホーソーン通りに、1984年から続く香水店がある。The Perfume House(ザ・パフューム・ハウス)は、ヨーロッパのクラシックな香水と、現代のニッチ・独立系ブランドを扱うマルチブランド店である。

店の始まりは、海外の香水を輸入して小売店へ届ける仕事だった。その拠点だった一軒の家を一般客に開き、香水を売るだけでなく、香りを知る場所へ変えていった。創業者が亡くなった後も、ガラスケースを挟んで客と向き合う仕事が続いている。

基本情報

  • 名称:The Perfume House(ザ・パフューム・ハウス)
  • 創業:1984年夏
  • 共同創業者:Chris & Christina Tsefalas(クリス&クリスティーナ・ツェファラス)
  • 主要実店舗:アメリカ合衆国・オレゴン州ポートランド
  • 所在地:3328 SE Hawthorne Blvd, Portland, OR 97214
  • 業態:クラシック、ニッチ、独立系香水を扱う専門店。オンライン販売も行う
  • 公式サイト:The Perfume House

輸入の仕事から、ホーソーン通りの香水店へ

ポートランドに育ち、ヨーロッパの香水を学ぶ

クリス・ツェファラスは1926年8月10日、ポートランドに生まれた。地元のフランクリン高校を卒業したのは第二次世界大戦中である。海軍に入り、カリフォルニア州ヴァレーホのメア・アイランド海軍病院で、手足を失った人々のためのプログラムに従事した。戦後はウィスコンシン大学、続いてマーケット大学で学んだ。

その後に選んだ輸出入の仕事は、彼を世界各地へ連れていった。ヨーロッパの修道院で作られてきた香油から、中東に伝わる香りまで。商品の流通に携わりながら、香水の背景についても知識を蓄えていった。

ヨーロッパでは、ドイツ・ケルンの4711にいたヴァルター・ラウシュナー博士を師とした。やがて複数の香水会社の国際マーケティングを担い、アメリカへ戻ってからは輸入と流通に軸足を移す。オレゴン州の小売業者ノーム・トンプソンとの仕事も、その時期の重要な経験となった。

卸売の拠点だった家を、1984年に一般客へ開く

1970年代末、クリスは輸入会社Tamak, Inc.を設立した。ホーソーン通りとSE33番街の角にある家が拠点となり、地元の小売店に香水を供給していた。

1984年夏、クリスと妻のクリスティーナは、その家を一般客に開いた。これがザ・パフューム・ハウスである。流通先に届けていた香水を、今度は使う本人と一緒に確かめる。輸入の知識を、店頭での対話に生かせる場所ができたのである。

クリスが思い描いたのは、売場であると同時に香水の図書館や博物館でもある店だった。長く香水を愛用してきた人も、初めて関心を持った人も、香りを通じて話せる。その考えが、家族とともに築いた店の基礎になった。

香水の知識を、人へ手渡す

2006年、クリスはガラスケースのある小さな一角で、身ぶりを交えながら香水の物語を語っていた。灰色のツイードの上着に白いシャツ、暗赤色のシルクのネクタイ。香水についての知識だけでなく、客を迎える人物の姿までが記録に残っている。

「香水に、誰にでも合うものはありません。」

— クリス・ツェファラス

彼が大切にしたのは、豊富な知識で好みを決めてしまうことではなかった。同じ香水でも、すべての人のための一本にはならない。その言葉は、珍しい香水を集める仕事と、一人の客に向き合う仕事の違いを端的に示している。

「どの香水も、一つの記憶なのです。」

— クリス・ツェファラス

その姿勢を間近で学んだ一人が、後にポートランドで別の香水店フュムリーを開くトレイシー・ツェファラスだった。結婚後、夫の家族が営む店で義父と働き始めた彼女は、ゲランやキャロンといったクラシックな香水に触れた。義父の情熱と親切さに接するうちに知識が育ち、モリナールの「ハバニタ」との出会いが、自分自身の香水への情熱を決定づけたという。

クリスは2020年6月2日に93歳で亡くなった。現在の公式サイトには追悼の言葉とともに、その仕事の歩みが残されている。

ザ・パフューム・ハウスの年表

年代 出来事
1926年 クリス・ツェファラスがポートランドに生まれる。
第二次世界大戦中〜戦後 海軍での勤務を経て、大学で学ぶ。その後、輸出入の仕事に進む。
1970年代末 輸入会社Tamak, Inc.を設立。ホーソーン通りの家から小売店に香水を供給する。
1984年夏 クリスとクリスティーナがザ・パフューム・ハウスを一般客に開く。
2020年 6月2日、クリスが死去。
2026年 同じホーソーン通りで営業。店長マーク・リーブマンとスタッフによる接客が続く。

クラシックと現代のニッチ香水をつなぐ選品

キャロンからズーロジストまでを一つの店で扱う

創業者が集めてきたクラシックな香水は、店の記憶の一部である。2011年のクリス自身の選品には、キャロンの「モンテーニュ」、アムアージュの「ディア」と「ゴールド」、ランセの香水が登場する。香りだけでなく、特別なボトルや作り手の背景も、彼にとって語る対象だった。

一方、現在の店は過去の名香だけを保存する場所ではない。2026年10月時点の公式カタログには、Amouage(アムアージュ)、Parfums de Marly(パルファム ドゥ マルリー)、Xerjoff(セルヨッフ)、Zoologist(ズーロジスト)、Maison Crivelli(メゾン クリヴェリ)、D.S. & Durga(ディーエス&ダーガ)などが並ぶ。キャロン、ゲラン、ウビガンといった名前と、新しい独立系ブランドのClue(クルー)やMalka Sima(マルカ・シマ)も同じカタログに載っている。

たとえば、ウビガンの「フジェール ロワイヤル」は、旧来の作品を現代に向けて再構成した香水として販売されている。歴史を持つ名前を入口にすることも、現代の作り手から未知の表現へ入ることもできる。この時代の幅が、店の選品を特徴づけている。

調香師の名前を、作品の情報として残す

公式サイトの商品説明には、可能な限り調香師の名前を記す方針がある。作り手をアーティストとして扱い、作品への貢献を名前とともに伝えるためである。確認できない場合は「unconfirmed」と示す。

店が提供するのは、ブランドを横断して香りを比較できる環境だけではない。同じ棚に並ぶ香水にも、それぞれ異なる作者がいると分かるようにする。創業者が大切にした香水の背景を伝える仕事が、オンラインの商品情報にも表れている。

ガラスケース越しの接客と、時間をかける試香

長く働く店長が、選択肢を案内する

2026年2月時点で店長を務めるマーク・リーブマンは、同店に約30年携わってきた。輸入香水が百貨店以外では珍しかった頃を知る人物である。店内にはクラシックな香水、独立系の作品、展示専用の装飾的なアンティークボトルが共存する。

香水は金色の装飾を伴うガラスケースの向こう側にあり、スタッフが客の希望を受けて案内する。すべてを自分で手に取る売場とは異なり、人に話しかけることが試香の入口になる。リーブマンはその品ぞろえを、客が自分では考えなかった香水を知る機会と捉えている。

「今日、香水は本当に、あらゆる人を包み込む芸術なのです。」

— マーク・リーブマン(店長)

近年は12〜18歳の少年たちも来店するという。長い歴史を持つ店にも新しい世代が訪れ、香水を選ぶ人の幅は変わり続けている。

その場で決めず、肌とサンプルで確かめる

同店は購入前の試香と、肌につけて時間をかけることを勧めている。店内で肌に試せるほか、ほぼすべての取扱香水について、店舗とオンラインでサンプルを販売する。急いで一本を選ばせるより、香りへの反応を確かめる余地を残す方針である。

試香の合間にコーヒー豆を嗅ぐサービスは設けていない。代わりに、外の空気を吸う、香りのついていない自分の肌を嗅ぐ、といった休憩を案内している。香水を作るための原料販売や常設の調香体験を中心にした店ではなく、完成した多様な作品を知り、選ぶための専門店である。

現在のポートランドの店舗とオンライン販売

2026年10月15日時点で公式に案内されている主要実店舗は、アメリカ合衆国・オレゴン州ポートランドの3328 SE Hawthorne Blvdにある。創業者が学んだドイツ・ケルンではなく、一般客が訪問できる現在の店舗もポートランドである。

営業時間は月曜と水曜〜日曜の12〜18時、火曜休業。祝日は変更されることがある。訪問時には公式の店舗案内で最新情報を確認できる。

公式オンラインショップも営業しているが、FAQでは配送対象を米国領を除くアメリカ国内としている。日本への通販案内と、ポートランドで実際に訪ねられる店の情報は区別しておきたい。

参考文献

  1. Sagas of Scent — Emily Burton, Portland Monthly(2011年11月23日)
  2. About Us:共同創業者、輸入会社からの沿革、クリスへの追悼 — The Perfume House
  3. Chris T. Tsefalas Obituary — The Oregonian(2020年6月11〜14日掲載)
  4. Transcendent Scent — Lance Sparks, Eugene Weekly(2006年2月9日、39頁)
  5. Tracy Tsefalas, André Gooren:香水の仕事に入った経緯 — Gabrielle Badach, Nez(2017年6月26日)
  6. Products:現行の取扱ブランドと商品 — The Perfume House
  7. Fougère Royale:現行商品の説明とボトル画像 — The Perfume House
  8. FAQ:選品、調香師の表記、サンプル、試香、配送範囲 — The Perfume House
  9. 3 Portland Perfume Shops Offer 3 Distinct Ways to Try and Buy Fragrance — Caitlin Pangares, Willamette Week(2026年2月3日)
  10. Contact Us:現行店舗の住所と営業時間 — The Perfume House