尿のにおいが生まれる反応を、香料で抑えられる?

尿のにおいが生まれる反応を、香料で抑えられる? 香りの科学

尿のにおいを考えるとき、アンモニアだけに注目すると、別の重要な経路を見落とすかもしれません。2016年の研究は、もともと揮発しにくい形で尿に含まれている物質が、酵素によって分解され、においを放つ過程に着目しました。

そして香料成分を調べると、その分解酵素を抑えるものが見つかりました。酵素を加えた尿の実験では、無臭に近い形の物質が保たれ、尿臭の増加も抑えられました。香りを重ねるだけでなく、においが生まれる反応を抑えるという発想です。

においのもとが、揮発しにくい形で入っている

研究が注目したのは、p-クレゾールなどのフェノール化合物です。こうした成分の多くは、排尿直後の尿では、グルクロン酸や硫酸が結び付いた「抱合体」という形で存在します。結び付くことで水になじみやすく、揮発しにくくなるため、通常はにおいがありません。

ところが、結び付きが外れれば、揮発性のある成分が再び現れます。研究者たちは、尿の中でどちらの抱合体が減るかを確認し、分解に関わる酵素を抑える成分を探し、さらにその効き方と尿臭への影響まで調べました。

減ったのは、グルクロン酸が結び付いた方

尿は30〜50代の健康な男性4人から採り、等量ずつ混ぜて使いました。最初の試験では、フィルターで除菌した尿と、除菌していない尿を室温で保存し、p-クレゾールの二つの抱合体を液体クロマトグラフィー・質量分析で追いました。

除菌していない尿では、日数とともにグルクロン酸抱合体が大きく減りました。除菌した尿では減らず、硫酸抱合体は、どちらの条件でも減少しませんでした。この結果から、研究者たちは、微生物が関わるグルクロン酸抱合体の分解に焦点を絞りました。

次に、除菌した尿へ、市販の大腸菌由来の酵素「β-グルクロニダーゼ」を加え、室温で1日反応させました。するとフェノール化合物やインドールが生成し、専門評価者2人が感じる尿臭も強くなりました。抱合体を切り離すこの酵素反応が、尿臭の増加につながることを確かめた実験です。

193種類の香料から、酵素を抑える成分を探す

研究者たちは、構造の異なる193種類の香料化合物を、酵素の試験液に100ppmずつ加えて調べました。この段階では、尿そのものではなく、酵素に分解されると色を測れる物質を使い、反応がどの程度進んだかを比べています。

上位5成分は90%以上の阻害活性を示しました。特に、8-シクロヘキサデセン-1-オン(8Cy16)を含む上位2成分は、酵素活性を半分にするために必要な濃度が低く、どちらも大きな環を持つ「大環状化合物」でした。

そこで関連する大環状化合物15種類を詳しく比較すると、ケトン構造を持つものや、環の中に二重結合を持つものに、強い阻害活性を示す成分が多い傾向がありました。8Cy16の50%阻害濃度は、この測定条件では、既知の阻害剤D-グルカロ-1,4-ラクトン(1,4-GL)の約40分の1でした。

この比率は、特定の酵素試験で必要だった濃度の比較です。製品の消臭力が40倍という意味ではなく、次の実験へ進める候補を選ぶための指標です。

酵素を壊すのではなく、働きを一時的に抑える

8Cy16の作用を調べるため、酵素と混ぜた後に、ゲルろ過という方法で8Cy16を取り除きました。すると酵素活性が元の水準まで回復しました。この結果は、酵素を不可逆的に壊す作用よりも、取り除けば戻る可逆的な阻害に合っています。

さらに、酵素が分解する材料の濃度を変えながら反応速度を測ると、8Cy16は「非競争型」の阻害に合うパターンを示しました。材料を増やしても酵素の最大の処理速度が下がるタイプで、比較した1,4-GLの競争型阻害とは異なりました。

酵素のどこにどう結び付くかを立体構造で見た研究ではありませんが、単に反応が遅くなるという観察から一歩進み、阻害の性質を絞り込んでいます。

尿でも、抱合体の分解とにおいの増加を抑えた

最後に、除菌した尿へ大腸菌由来の酵素を加え、37℃で2時間反応させました。阻害剤を加えない場合、p-クレゾールのグルクロン酸抱合体は約40%分解し、2人の評価者による尿臭強度の平均は、0〜5の尺度で1から3へ上がりました。

一方、8Cy16を0.01%加えた条件と、1,4-GLを0.1%加えた条件では、抱合体の分解が抑えられ、尿臭の増加も小さくなりました。8Cy16は、10倍の濃度を加えた1,4-GLよりも、評価者が感じる尿臭の強さが低い結果でした。

8Cy16自体には香りがあるため、尿臭を感じにくくするマスキングも考えられます。ただし、化学分析で抱合体が保たれたことに加え、においのない1,4-GLでも尿臭の上昇が0.5以内に抑えられました。これらは、酵素反応を抑えること自体がにおいの増加を減らしたという説明を支えます。香りによる効果の割合まで完全に分離した試験ではありません。

評価者は2人で、酵素試験も主に2回測定の平均に基づく初期的な検討です。また、実際の介護環境にいる微生物やその酵素、使用時の人体への安全性は、この研究では検証されていません。著者たちも、現場の微生物を特定して効果を確かめることを次の課題としています。

まとめ

この研究では、尿中のp-クレゾールのグルクロン酸抱合体が、除菌していない条件で減少し、その分解酵素を加えると尿臭が強まりました。香料成分8Cy16は、その酵素を可逆的に抑え、酵素を加えた尿でも抱合体の分解とにおいの増加を小さくしました。

尿臭対策には、すでに出たにおいを捉える方法に加え、においを出しにくい分子の状態を保つという考え方があります。実用化に向けた条件の確認は残るものの、香料が酵素反応に働きかける可能性を示した研究です。

著者4人は、論文掲載時に花王の香料開発研究所所属と記載されています。独立した研究資金・利益相反の申告欄は確認できませんでした。

参考文献

森一郎・矢吹雅之・石田浩彦・柏木光義(2016)「β-グルクロニダーゼ阻害剤による尿臭気の生成抑制」におい・かおり環境学会誌、47(3)、222–229。doi:10.2171/jao.47.222(原著全文)