掃除中のほこりから、柔軟剤のような甘い香りがする。学生が気付いたそんな出来事を出発点に、2020年の研究は、ハウスダストと柔軟剤のにおいを比べました。成分を分けて嗅ぐ分析では、両方に共通するにおいの現れる箇所が7つ見つかりました。
研究者たちが考えたのは、香りを長持ちさせるマイクロカプセルが、衣類からほこりへ移った可能性です。柔軟剤を乾かしてからこすると香りが強まるか、ほこりとどの製品の香りが似ているか、共通する物質の候補は何か。三つの段階で調べています。
香りを包む小さなカプセルに着目した
マイクロカプセル化香料は、香料を小さな樹脂の膜で包んだものです。衣類に付いたカプセルが摩擦などで壊れると、内部の香料が放出されるという仕組みが、香りの持続に使われています。
佐賀大学の学生演習室で、ほこりに柔軟剤のような香りがあると指摘されたことから、研究者たちは、カプセルが衣類から落ちてほこりに混じり、拭き掃除のときに壊れて香ったのではないかと考えました。
2019年9〜10月、大学内の演習室、実験室、コミュニティールームの3室で、床から1m以上の棚などに積もった細かいほこりを採取しました。各室の5か所以上から集め、床のワックスや粗い粒子の影響を避けています。ほこりは保存せず、試験ごとに新しく採りました。
1週間乾いた柔軟剤も、こすると香りが強まった
最初の実験では、カプセル使用の表示がある柔軟剤Dを、薄い紙に100µL含ませ、容器のふたを開けて1週間乾かしました。その後、紙を薬さじでこする前後のにおいを、嗅覚検査に合格した20代の6人が評価しました。各人3回の反復です。
6段階の臭気強度評価の平均は、摩擦前の2.0から摩擦後の3.6へ上がりました。甘い香りや洗剤、コインランドリーを思わせる印象から、果物のような甘さ、フレッシュさ、ブドウを思わせる印象も挙げられるようになりました。この数値は、柔軟剤を含ませた紙の実験で得られたものです。
機器分析でも摩擦後に大きくなるピークが多数あり、におい嗅ぎ分析で捉えた箇所は41から50へ増えました。対して、カプセルを使っていないとみられる別の柔軟剤Aでは、同様の摩擦による強度の増加は観察されませんでした。
これらは、乾燥後も残っていた香料が、摩擦によって新たに放出されるというカプセルの働きに合う結果です。ただしAとDは別の製品なので、カプセルの有無だけを変えた同一処方の比較ではありません。
ほこりと似ていた柔軟剤を、11製品から選ぶ
次に、3社の柔軟剤11製品を、それぞれ1週間乾燥させて摩擦し、ほこりのにおいと交互に嗅ぎ比べました。評価者は、ほこりと似ている製品を1〜3位まで選び、その順位を点数にして合計しました。
最も似ていると評価されたのが柔軟剤Dでした。そこで研究者たちは、Dとほこりの共通点を、さらに細かく調べました。ここで選ばれたのは、調べた製品の中でにおいが最も似ていた候補です。実際に誰がその製品を使い、どの衣類から移ったかを追跡したものではありません。
共通する7つのにおいから、物質の候補へ
ほこりと乾燥後の柔軟剤Dをそれぞれ摩擦し、35℃で1時間、放出される成分を集めました。GC-Oという、装置で分離された成分を人が嗅ぐ分析では、女性評価者1人が5回確認し、3回以上似た結果が得られた箇所を採用しました。
両試料には、現れる時間帯やにおいの印象、強さが共通する箇所が7つありました。一方、質量分析で見た成分全体のパターンは大きく異なり、そのまま比べるだけでは類似性を判断しにくいものでした。そこで鼻で捉えた7箇所に絞り、におい情報と質量スペクトルのデータベースを照合しました。
結果として、ある箇所にはイソ吉草酸イソプロピルまたはノナン、別の箇所にはトリデカナール、さらに別の箇所にはサリチル酸ヘキシルが候補として挙がりました。7箇所すべての物質が確定したわけではなく、原著も、標準物質を用いた確認を今後の課題としています。
残り方を調べる手掛かりができた
この研究の成果は、ほこりの甘いにおいを、単なる印象で終わらせず、柔軟剤と共通するにおいの箇所と、物質の候補にまで結び付けたことです。柔軟剤の乾燥・摩擦試験も合わせると、カプセル化された香料がほこりに残り、摩擦で香りを放つという説明を支持します。
ただし、ほこりの中のカプセル粒子そのものを同定したり、衣類からの移行量や残留期間を追跡したりした研究ではありません。今回の試験期間中に印象の大きな変化がなかったことから、月単位・年単位の残留期間を確定することもできません。健康への影響も測定していません。
まとめ
1週間乾かしたカプセル使用表示のある柔軟剤は、摩擦後に香りが強まりました。また、大学のほこりと最も似ていた柔軟剤を詳しく分析すると、共通するにおいの箇所が7つあり、一部について物質の候補が得られました。
ほこりの香りを手掛かりに、衣類へ付けた香りが室内でどこへ移り、どんな状態で残るかを調べる道筋を示した研究です。由来やカプセルの状態、残留の長さを確かめることが、次の検証につながります。
著者7人は、論文掲載時に佐賀大学大学院農学研究科所属と記載されています。独立した研究資金・利益相反の申告欄は確認できませんでした。
参考文献
松元美里・古賀夕貴・樋口汰樹・松本英顕・西牟田昂・龍田典子・上野大介(2020)「におい嗅ぎガスクロマトグラフィーを用いたハウスダスト中マイクロカプセル化香料の検索」におい・かおり環境学会誌、51(5)、319–322。doi:10.2171/jao.51.319(原著全文)


