フジの仲間にも、トロピカルフルーツを思わせる香りを放つ花があります。2026年の研究で調べられたのは、アメリカフジの栽培品種「アメジストフォール」。その緑を思わせる花香には、強いトロピカルフルーティー調の硫黄化合物が、主要な要素の一つとして関わっていました。
見つかったのは4-メルカプト-4-メチル-2-ペンタノン、略して4MMPです。研究では、リナロールとオイゲノールも主要な寄与成分として確認され、三つの異なる香調が花の特徴につながりました。
いつものフジとは違う香りを調べる
国内でよく知られるノダフジやヤマフジなどには、花の香り成分の研究があります。一方、アメリカフジの花については知見が乏しく、「アメジストフォール」の特徴的な香りを何がつくるかが、この研究の問いでした。
対象は、あしかがフラワーパークの圃場にある1株です。2025年5月中旬、八〜九分咲きの花序が多い時期に調べました。著者の一人は、果実様の硫黄化合物を思わせる特徴のあるグリーンフローラル調と表現しています。
同程度に咲いた枝を持ち帰り、10年以上のフレグランス開発経験がある4人が確認したところ、柑橘やトロピカルな印象を伴うグリーンフローラル調と捉えられました。この花の香りの特徴を、成分分析と結び付けていきます。
二つの捕集法で、微量の成分を探す
花の周りの空気に含まれる成分を集めるため、研究者たちは二つの方法を使いました。一つは、花序を覆った小さな空間に「ツイスター」という吸着材を60分置く方法。もう一つは、2つの花序を袋に入れ、空気を循環させながら140分かけて別の吸着材に成分を集める、ダイナミックヘッドスペース法です。
集めた成分は、ガスクロマトグラフィー・質量分析で調べました。加えて、空気を循環させて得た試料について、著者2人が、装置で分離された成分を順番に嗅ぐGC-O分析を行います。性質の異なる2種類のカラムを使い、においの特徴と現れる位置を標準品と照らし合わせました。
こうすると、成分が存在するかだけでなく、どの成分が鼻に届く特徴的な香りを持つかを探れます。
トロピカル、シトラス、スパイスの三つの特徴
におい嗅ぎ分析で特に目立ったのは、次の3成分でした。
- 4MMP:非常に強いトロピカルフルーティー調。
- リナロール:シトラスフローラル調。
- オイゲノール:スパイシーフローラル調。
リナロールとオイゲノールは、空気循環で捕集した試料の質量分析でも主要な構成成分でした。リナロールには鏡像関係にある二つの型がありますが、今回の試料ではS型だけが検出されました。
一方、4MMPは、におい嗅ぎ分析で強く感じられたにもかかわらず、その試料の質量分析では確認できませんでした。そこで、ツイスターで集めた試料のうち、全体の分析信号が大きかった方を詳しく調べると、予想される位置に4MMPの特徴的な信号が見つかりました。さらに標準品も同じ方法で捕集・分析し、対応を確認しています。
一つの分析で見つからなくても、捕集法を変え、鼻で捉えた特徴を手掛かりに詳しく調べることで、重要な微量成分に届いた例です。
硫黄を含む分子にも、果実を思わせる香りがある
「硫黄化合物」と聞くと、不快なにおいを思い浮かべるかもしれません。しかし今回、4MMPに対応する箇所で感じられたのは、強いトロピカルフルーティーな香りでした。元素の名前だけでは、その分子がどんな香りとして感じられるかは決まりません。
著者たちは、4MMPが食品の特徴に関わる微量香気成分としても知られることを、先行文献とともに紹介しています。ただし今回の成果は、この栽培品種の花にも4MMPが存在し、そのにおいの特徴に関わるという点です。花と果物の香り全体が同じという話ではありません。
また4人の経験者は、記憶している花の香りと、段階的に薄めた4MMP溶液を比較し、花で感じた強さが1〜10ppmの溶液に近いと推測しました。この数値は感覚比較に使った溶液の濃度です。花の周囲の空気中濃度を定量した結果ではないため、放散量の数値としては扱えません。
多く検出される成分と、香りの主役の違い
分析では、4-(2-プロペニル)フェノールなど、多く検出された別の成分もありました。しかしにおい嗅ぎ分析では、これらは注目すべき強さに達せず、花の特徴への寄与は低いと考えられました。4MMPのように、装置では捉えにくくても鼻には強く届く成分との対比が印象的です。
今回の主要成分の判断は、分離したにおいと標準品の照合に基づいています。3成分を混ぜて花を再現したり、成分を抜いて違いを確かめたりした実験ではありません。また1株・一つの開花時期の研究なので、ほかの株やアメリカフジの別品種にどこまで共通するかは、今後の調査で広げていく課題です。
まとめ
アメリカフジ「アメジストフォール」の花では、トロピカルフルーティーな4MMP、シトラスフローラルなリナロール、スパイシーフローラルなオイゲノールが、主要な香りの要素として確認されました。特に4MMPは、におい嗅ぎ分析の手掛かりと、別の捕集法による化学分析を組み合わせることで存在が確かめられました。
花らしさをつくるのは、分析で大きく現れる成分だけではありません。微量でも特徴を持つ分子を、人の鼻と装置の両方で追うことで、フジの仲間にある意外な香りの一面が見えてきます。
論文掲載時の所属は、著者2人が塩野香料、1人が足利フラワーリゾートです。著者らは開示する利益相反関連事項はないと申告しています。独立した研究資金の申告欄は確認できませんでした。
参考文献
遠藤普克・岡田茜・村岡伸朗(2026)「アメリカフジ『アメジストフォール』の花のにおい寄与成分の同定」におい・かおり環境学会誌、57(2)、125–128。doi:10.2171/jao.2025.12(原著公開ページ)


