誰かの香りを、会ったときの雰囲気と一緒に覚えていることはないでしょうか。では、その人と話して「また会いたい」と感じたあとには、同じ匂いから受ける印象も変わるのでしょうか。
2025年4月に発表されたJ. M. Gabyらの研究は、この問いを、女性同士が短時間ずつ話す「スピード・フレンディング」という交流会で調べました。特徴的なのは、香水や身の回りの製品の匂いを取り除かず、日常に近い、その人がまとっている匂いを扱ったことです。
普段の香水や生活の匂いも含めて集める
参加したのは、米国の大学で募集された18〜30歳の女性40人です。研究者は参加者に綿のTシャツを渡し、普段の生活の中で約12時間着てもらいました。匂いを集めたのは交流会の1〜3日前で、着用後のTシャツは袋に入れて冷凍し、当日に持参してもらっています。
香水やデオドラントなどは、いつもの習慣を変えずに使ってもらいました。ただし、通常の匂いを覆ってしまう強い匂いを避けるため、喫煙や飲酒は控えるよう指示しています。香りのある製品を使った人には、交流会にも同じ製品を使って来てもらいました。
研究では、こうした生活の中で人がまとっている匂いをdiplomatic odorと呼んでいます。ここでは「日常の匂い」と考えると分かりやすいでしょう。自然な体臭だけを取り出したものではなく、香料や日々の行動の影響も含む匂いです。
嗅いだのはTシャツ、尋ねたのは「友人になりたいか」
交流会の前に、参加者はほかの参加者が着たTシャツの匂いを嗅ぎ、その人について「もっと知りたい」「一緒に何かをしたい」「友人になりたい」など、四つの質問に7段階で答えました。
大切なのは、主要な結果が、匂いそのものの好き嫌いの点数ではないことです。匂いを手がかりに、その持ち主とどのくらい親しくなりたいと感じるかを調べています。研究ではこれを「友人関係への期待」にあたるfriendship potentialと呼んでいます。
参加者は事前に顔写真を0.1秒だけ見て、同じ四つの質問にも答えていました。その後の交流会では、一人につき約10人の相手と4分ずつ話し、会話のたびに相手への評価を記録。最後に、交流前と同じTシャツを、別の順番で嗅いで再び評価しました。
この流れによって、写真だけ、匂いだけ、実際に会って話したあと、という異なる場面の印象を比べられます。
会う前の匂いの印象は、会話後の印象とも関係した
まず、会う前に匂いから「友人になれそう」と高く評価した相手ほど、実際に話したあとも高く評価する傾向が見られました。この関連は、写真から受けた印象を統計的に考慮しても残りました。
つまり、写真からの第一印象だけでは捉えきれない部分に、匂いからの印象が関わっていました。ただし、匂いを別のものへ変えて、その後の会話の評価がどう動くかを調べた実験ではありません。匂いが会話の印象を直接よくした、とまで断定することはできません。
また、「匂いは見た目より大事」と順位をつけるのも早計です。写真は事前にオンラインで短く提示され、匂いは交流の直前にその場で嗅いでいます。情報を見る時間も、評価する場所やタイミングも異なるため、同じ条件で重要度を競わせた比較ではないのです。
話したあとの印象が、次に嗅いだときにも重なる
もう一つの結果は、交流後のTシャツ評価です。実際に話して、その相手とより親しくなりたいと感じた場合には、交流後に匂いだけを嗅いだときの評価も高くなる傾向がありました。交流前の匂いの評価や写真の評価を考慮しても、この関連は残りました。
同じTシャツを再び嗅いでいるため、「話した相手について得た経験が、その匂いから受ける対人印象と結びついた」という説明に合う結果です。香りの印象が人との出会いの前に決まって、そのまま固定されるとは限らないことを示唆しています。
ただし、全員の匂いに対する評価が一律によくなった、という話ではありません。また、ここでも変わったのは、匂いを通して判断した「その人と親しくなりたいか」です。「同じ匂いが、より甘く感じられた」「匂いそのものが好きになった」といった感覚の変化を、この主要結果から読み取ることはできません。
「誰からも好かれる匂い」より、人と人の組み合わせ
評価のばらつきを詳しく調べると、誰にでも高い点をつける人がいることや、広く好かれる相手がいることだけでは説明しきれませんでした。評価する人とされる人の組み合わせに固有の好みが、大きく関わっていました。
この点は、香りを一つの万人向けの魅力として考えるより、ある人が別のある人をどう受け取るか、という関係の中で考える手がかりになります。普段の匂いには香水や身の回りの製品も含まれていましたが、どの香水なら友人を作りやすいかを調べた研究ではありません。使う製品を変える操作や、無香料との比較は行っていないためです。
短い出会いから分かることの範囲
対象は米国の大学にいる若い異性愛女性に限られており、男性同士、ほかの年齢層や文化でも同じようになるかは分かりません。測ったのは短い交流直後の期待で、その後、本当に友人関係が続いたかを追跡したわけでもありません。
データが集められたのは2014年で、論文が公表されたのが2025年です。分析計画をデータ収集前に登録する「事前登録」は行われていません。会話や匂いの好ましさを無作為に変えた設計でもないため、因果関係を確定する研究というより、日常に近い出会いの中で、複数の印象がどう結びつくかを示した研究として読むのが適切です。
まとめ
人と話したあとには、同じ日常の匂いから受ける、その人への親しみの印象も、会話で得た印象と結びついていました。匂いは出会う前の手がかりになるだけでなく、出会った経験を重ねて受け取られるものでもあるようです。
そこには、誰にでも同じように好かれるかだけでは捉えられない、人と人の組み合わせがありました。相手の香りを思い出すとき、私たちは香料や体臭だけでなく、その人と過ごした時間も一緒に感じているのかもしれません。
参考文献
著者:J. M. Gaby, G. Gunaydin, V. Zayas
論文名:The interactive role of odor associations in friendship preferences
掲載誌:Scientific Reports 15, 11228(2025年)
公開日:2025年4月2日
DOI:10.1038/s41598-025-94350-1
原著全文:出版社の論文ページ
原著ライセンス:CC BY-NC-ND 4.0


