勉強と睡眠に同じ香りを添えると、単語を思い出しやすい?

勉強と睡眠に同じ香りを添えると、単語を思い出しやすい? 香りの科学

単語を覚えるときに嗅いだ香りを、寝ている間にもそばに置く。そんな手がかりが、後で思い出す助けになるのでしょうか。

2020年の研究では、ドイツの生徒54人が普段の学校と自宅で英単語を学び、学習中と睡眠中にローズの香りを使った群は、香りを使わない群よりテストの誤答率が低くなりました。実験室の睡眠研究で見られていた効果を、日常の学習に近い条件で検討した研究です。

香りを、学んだ記憶の手がかりにする

先行研究では、何かを覚える際に香りを提示し、その香りを睡眠中に再び提示すると、関連した記憶の定着を助けることが報告されていました。この考え方は「標的記憶再活性化」と呼ばれます。

香りそのものが答えを教えるのではなく、すでに学んだ内容と結びついた手がかりとして働く、という発想です。睡眠中に記憶が整理される過程へ、外から働きかける可能性を調べます。

今回の研究には三つの問いがありました。学校と自宅という実生活でも効果があるか。脳波で睡眠段階を測って提示を調整せず、一晩中香りを置く方法でも効果があるか。そして、後日のテスト中にも同じ香りを加えると、さらに成績が上がるかです。

二つのクラスで、香りを使う場面を変えた

参加者は、ドイツの11〜12歳の生徒54人で、32人と22人の二つのクラスに分かれていました。全員、すでに1年間の英語授業を受けています。それぞれのクラス内で、半数ずつを香りを使う群と対照群へ無作為に割り付けました。

単語はまず学校の授業で、香りなしで導入されました。その後、自宅で学び、1週間後に学校でテストを受けます。テストには独英・英独の翻訳、文を作る課題、文を完成させる課題があり、綴りの誤り、訳の誤り、思い出せない回答を誤答として数えました。

研究では、次の条件を順に実施しました。

  • 香りなし:両群とも香りを使わずに学習とテストを行う。
  • 学習+テスト:香りを使う群だけが、自宅学習と学校のテスト中にローズの香りを使う。
  • 学習+睡眠:自宅学習と、その週の7夜の睡眠中に香りを使う。テストでは使わない。
  • 学習+睡眠+テスト:三つの場面すべてで香りを使う。

対照群は、どの期間も香りを使いませんでした。最後の三場面すべての条件は、学校の事情により32人の一クラスだけで行われています。

使ったのは市販のローズの香りのお香ですが、火はつけていません。そのままでも香るものを、勉強机、ベッドのそば、テストの机に置きました。睡眠中は一晩を通して置き、睡眠段階は測っていません。

学習と睡眠に香りがあると、誤答が少なかった

二クラス54人のデータを合わせると、「学習+睡眠」の条件の平均誤答率は、香り群25%、対照群36%でした。複数の比較を考慮した補正後も、群の差は有意でした。

一方、「学習+テスト」では、香り群32%、対照群34%で、有意な差はありませんでした。香りなしの期間も、33%と32%で明確な群差はありませんでした。

この組合せから、今回の条件では、学習時とテスト時に香りをそろえるだけより、睡眠中にも学習と同じ手がかりがある条件で、利益が見られたと考えられます。実生活の学習でも、睡眠中の記憶への働きかけを調べる価値があると示す結果です。

ただし、異なる条件では違う単語を学び、順番も全員固定でした。同じ条件内では両群が同じ単語を学んでいるため、群同士の比較はできますが、「ある条件の25%が別の条件の32%より低い」という数字だけで、香りの使い方の優劣を決めることはできません。

テストでも香りを足すと、さらによくなる?

32人の一クラスで行った「学習+睡眠+テスト」では、誤答率は香り群18%、対照群35%でした。この条件内の群差も有意でした。

しかし、それだけでは、テスト時に香りを追加した上乗せ効果が証明されたことにはなりません。同じクラスで「学習+睡眠」から三場面すべてへ変えたとき、対照群との差がどれだけ大きくなったかという交互作用を調べると、有意ではありませんでした。

論文は、追加提示が役立つ可能性を今後の課題として挙げています。学習と睡眠だけの25%対36%は二クラスの平均、三場面すべての18%対35%は一クラスの平均なので、その二組を直接並べて改善幅を計算する読み方にも注意が必要です。

一晩中の提示で見られたことの意味

睡眠研究では、脳波を測り、深いノンレム睡眠などの特定の段階に合わせて香りを出すことが多くありました。今回の方法はそれより簡単で、夜を通して香りのあるものを置いています。それでも成績の差が観察された点が、研究の重要な成果です。

ただし、一晩中のどの時間帯に手がかりが効いたかは分かりません。特定の睡眠段階だけに提示する方法と直接比較した実験でもなく、同じ効果や最適な方法が確立したという意味ではありません。

研究者が想定しているのは、学習と結びついた香りが、睡眠中の記憶の再活性化を助ける仕組みです。今回の試験では脳の活動を記録していないため、成績の違いから、その仕組みが日常でも働く可能性を検討しています。

日常の研究だから残る、確かめたい点

生徒が自宅で何時間勉強したか、香りをどれくらいの距離に置いたか、実際の睡眠時間や質は統制されていません。香りの使用状況も本人の報告に頼っています。

また、対照群には香りのない同じ器具を渡していません。香りを使っていると知ることで生じる期待や、学習行動の変化が、結果に関わった可能性が残ります。二クラスでは教師やテストの細部も異なりました。

こうした条件は、実験室を離れた研究の難しさであると同時に、次に改善できる点です。より多くの参加者で、条件順や学習量をそろえ、期待の影響も扱う研究が進めば、香りの手がかりをどこまで活用できるかが明確になります。

まとめ

学習中と、その後7夜の睡眠中にローズの香りを使った生徒は、香りを使わない群より単語テストの誤答率が低くなりました。睡眠段階を測らず、一晩中香りを置く日常的な条件でも、記憶の手がかりの効果を検討できると示した点が重要です。

テスト中にも香りを加えた条件は対照群よりよい成績でしたが、追加提示の上乗せ効果は未確定です。研究が示すのは、学習した内容を後で生かすための補助の可能性。まず覚えるという学習を土台に、香りと睡眠の関係を探っています。

論文公開費はドイツ研究振興協会とフライブルク大学の支援を受けています。著者は利益相反なしと申告しています。

参考文献

Neumann F, Oberhauser V, Kornmeier J. (2020). How odor cues help to optimize learning during sleep in a real life-setting. Scientific Reports, 10, 1227. 原著論文/公開全文