ブランド名を先に知ると、香水の評価は変わる?

ブランド名を先に知ると、香水の評価は変わる? 香りの科学

憧れのブランドだと分かってから嗅ぐ香水と、名前を知らずに嗅ぐ香水。中身が同じでも、受け取る印象は変わるのでしょうか。香りを自分の鼻で確かめているつもりでも、そのとき知っている情報が評価に加わる可能性があります。

2020年、ポルトガルの研究者Teresa Garcia-MarquesとMarília Pradaは、ブランド情報と感覚を通した体験が、商品の評価にどう関わるかを調べた論文を発表しました。香水店での試香と、紙に文字を書く実験を組み合わせ、ブランドの影響がどんな条件で大きくなるのかを問う研究です。ここでは、実際の香水店で行われた試香実験を中心に見ていきます。

パリの香水店で、ブランドを伝える順番を変える

試香実験に募集されたのは、パリの香水店を訪れた30〜50歳の女性観光客166人です。参加者には試香紙にのせた香水を嗅いでもらい、その体験をどれほど好ましく感じたか、7段階で答えてもらいました。

使われたのは、一つのフランスの高級ブランドから選んだ2種類の香水です。片方はそのブランドで最も売れている香水、もう片方は最も売れていない香水でした。ブランド名や銘柄は論文に記載されていません。著者らは売れ行きをもとに「高品質」「低品質」と呼んでいますが、成分や調香の質を客観的に検査した分類ではありません。

参加者は、どちらの香水を嗅ぐかと、いつブランド名を知らされるかについて、無作為に割り当てられました。ブランド名を試香の直前に伝える条件と、評価を答えたあとに伝える条件を比べています。同じ人がブランドを知る前後に二度評価したのではなく、条件の違う人たちの評価を比較した実験です。

参加者は全員、そのブランドをよく知っており、格の高いブランドと捉えていると回答しました。そのため、まったく知らないブランド名を伝えた場合や、さまざまな価格帯のブランドを比べた場合とは分けて読む必要があります。

ブランド名を先に聞いた人の評価が高かった

試香前にブランド名を聞いた人の平均評価は、7点満点で4.43でした。評価のあとに知らされた人では3.05です。この差は統計的に有意で、香りを嗅ぐ前にブランド情報があることと、好ましい試香体験の評価が結びついていました。

香水の種類による違いもあり、売れ行きが上位の香水は平均4.17、下位の香水は3.32でした。ブランド情報だけで評価のすべてが決まったわけではなく、香水の違いも評価に表れています。ただし、この二つの数字から、売れる香水ほど客観的に優れていると結論づけることはできません。

試香にどれだけ熱心だったかも関わる?

研究者がもう一つ注目したのは、参加者が試香の課題にどのくらい熱心に取り組んでいたかです。二人の観察者が、試すことへの積極性、試香紙を嗅ぐ回数、商品についての質問などを見て、参加者の動機づけの程度を評価しました。観察者には実験条件を知らせていません。

観察者から動機づけが低いと評価された人たちでは、ブランド名を先に聞いた場合の平均が5.22、あとで聞いた場合が2.84でした。一方、高いと評価された人たちでは3.64と3.27です。ブランド情報による評価の差は、前者で大きくなっていました。

ここでの「動機づけ」は、本人の自己申告でも、研究者があらかじめ高くしたり低くしたりした条件でもありません。外から見える行動に基づく評定です。そのため、「真剣に嗅げばブランドの影響をなくせる」という因果関係を示したものではありません。著者らも、この点を研究の大きな限界として挙げています。

香りそのものが変わったのか、評価の仕方が変わったのか

同じ論文には、91人が紙に文字を書いて使い心地を評価する、別の実験もあります。こちらでは、ブランド情報に加え、評価前にその紙を少し使う経験の有無を操作しました。先に使った経験がある条件で、ブランド情報の影響が大きくなる結果が得られています。

著者らは二つの実験を合わせ、商品の情報をじっくり検討しにくい条件では、ブランドが感覚体験の評価に強く関わると考えています。ただし、紙の実験は試香を繰り返した実験ではないため、同じ香水を何度も嗅ぐほどブランドの影響が増すとはいえません。

また、鼻で感じた香り自体が変わったのか、それとも点数をつけるときにブランドを判断の手掛かりにしたのかは、今回の研究では切り分けられていません。著者らは感覚体験自体への影響を重視しつつ、別の説明も残るとして、今後の検証を求めています。

香水実験は一つのブランドの2製品と、限られた年齢の女性観光客を対象にしています。さらに、原著には観察者の評定が一致しなかった3人を除外したという記載と、統計分析の人数に関わる記載に整合しない部分があります。結果をあらゆる店や買い手に広げたり、購入行動まで予測したりする際には、こうした範囲も考える必要があります。

まとめ

この店頭実験では、よく知られた高級ブランドの名前を試香前に聞くことで、香りを嗅いだ体験の評価が高くなりました。その差は、観察者から課題への動機づけが低いと評価された参加者で大きくなっています。香水の評価には、嗅いだ香りだけでなく、その前に知っている情報や、試香への向き合い方も関わり得るという結果です。

著者らが注目したのは、じっくり考えて評価するとは限らない条件で、ブランドの影響が強く表れたことです。紙の実験でも、先に少し使った場合に影響が大きくなりました。著者らは、使って慣れることで細かく検討しなくなる可能性を考えています。実際に試す経験があっても、評価がブランドから独立するとは限らない、という含意があります。

こうした結果から、著者らは、ブランドから品質をよく考えて推測したという説明だけでなく、感覚体験そのものが変わった可能性を重視しています。ただし、評価時にブランドを判断の手掛かりにしたという説明も残り、慣れがどう働いたかも未確定です。香水の試香を繰り返せば同じことが起こるとまではいえません。

参考文献

著者:Teresa Garcia-Marques, Marília Prada
論文名:When does brand matter more than our senses? The influence of touching or smelling experience on product evaluation
掲載誌:Análise Psicológica 38(2)(2020年)
DOI:10.14417/ap.1725
原著全文:SciELOの論文ページ