冷蔵したトマトは、なぜ香りが弱くなる? 果実の中で起きる変化

冷蔵したトマトは、なぜ香りが弱くなる? 果実の中で起きる変化 香りの科学

冷蔵したトマトの風味が弱くなるとき、果実の中では何が起きているのでしょうか。2016年の研究は、赤く熟したトマトを低温に置き、香り成分、遺伝子の働き、DNAに付く化学的な目印をまとめて調べました。

5℃で約1週間保存すると香り成分が減り、室温に戻しても十分には回復しない条件がありました。その背景には、収穫後も続く香りを作り足す仕組みの変化が見えてきます。

冷蔵による風味の変化を、分子の働きまで追う

トマトの風味には、糖の甘さや酸の酸っぱさに加え、鼻で感じる揮発性の香り成分が関わります。この研究の中心的な問いは、低温で香りが減るとき、その成分を作る遺伝子や、果実の成熟を調節する仕組みがどう変わるかでした。

研究チームは、伝統的な品種のAilsa Craigと、比較的新しい育種系統のFLA 8059を使用。傷などのない、十分に赤く熟した果実を選びました。まず5℃で1日、3日、7日保存し、その後20℃に1日または3日戻す試験で、変化が現れる時期を確かめました。

詳しい成分・遺伝子解析では、収穫時の果実、5℃で8日間保存した果実、5℃で7日間保存した後に20℃で1日置いた果実を比較しています。揮発成分は刻んだ果実から1時間に出る量を集めて測定し、主な成分分析には6果をまとめた試料を3組用いました。

1〜3日と、約1週間では結果が違った

最初の試験では、1日または3日の冷蔵後に、収穫時と比べた揮発成分の有意な減少は認められませんでした。一方、7日間の冷蔵後には両品種で減少し、20℃に3日戻しても収穫時の水準には達しませんでした。

Ailsa Craigの詳しい分析では、5℃で8日保存した試料の総揮発量は、収穫時より約65%少なくなりました。7日冷蔵後に1日室温へ戻した試料では回復が見られたものの、なお収穫時を下回りました。この65%は測定した揮発量の差で、人が感じる香りの強さが同じ割合で下がったという数値ではありません。

食べたときの評価も調べています。76人の消費者が、7日冷蔵後に1日室温へ戻したAilsa Craigと、別の日に新しく収穫した同じ熟度の果実を評価したところ、冷蔵した果実の総合的な好ましさが低くなりました。対照は「20℃で同じ8日間保存した果実」ではなく、新しく収穫した果実です。

その一方で、ブドウ糖、果糖、リンゴ酸、クエン酸には有意な差がありませんでした。糖や酸の大きな減少よりも、香り成分の変化が風味の低下に関わったと考えられる結果です。

すべての香り成分が、一様に減るわけではない

2品種、2作期で共通して冷蔵の影響が認められたのは12成分でした。減ったものには、脂肪酸から作られるヘキサナール、(Z)-3-ヘキセナール、(E)-2-ヘキセナールや、アミノ酸に関連する3-メチル-1-ブタノールなどがあります。

反対に、カロテノイドに由来する6-メチル-5-ヘプテン-2-オンやゲラニアールは増えました。トマトの香りは、単純に全体の音量が下がるように変化するだけでなく、成分の組み合わせも変わります。

増加した成分については、対応する合成酵素の遺伝子の働きが高まったわけではありませんでした。著者らは、冷蔵ストレスに伴ってカロテノイドが酵素によらず酸化・分解される可能性を挙げています。これは結果を説明する仮説として示されたものです。

香りを作る遺伝子と、成熟の調節が変わる

遺伝子の働きは、その情報を写したRNAの量を調べて追跡しました。冷蔵中には広い範囲の遺伝子のRNA量が変わり、室温に戻すと多くが収穫時に近づきました。ただし、すべてが同じ速さで戻るわけではありません。

例えば、脂肪酸由来の香り成分を作るLoxC、HPL、ADH2という酵素の遺伝子では、冷蔵中にRNA量が低下し、室温で一部回復しました。アミノ酸関連の香りやエステル類に関わる遺伝子にも、低下が残るものがありました。

さらに、成熟に関わる多くの遺伝子をまとめて調節するRIN、NOR、CNRなどのRNA量も低下していました。成熟を調節する植物ホルモンのエチレンの生成も減り、室温で部分的に回復しています。一方、エチレン合成酵素のRNAは一律に減っておらず、RNA量より後の段階での調節も関わると考えられました。

香り成分は果実から外へ出ていくため、収穫後も補充が必要です。著者らは、低温でその生産が抑えられることが、香りの減少につながると説明しています。冷蔵の影響を、果実が行う代謝の変化として捉えた点が、この研究の重要な成果です。

DNAに付く目印にも、一時的な変化

研究チームはDNAメチル化も調べました。これはDNAの塩基配列そのものを書き換えることではなく、DNAにメチル基という小さな化学的な目印が付く変化です。遺伝子の読み出し方と関係することがあります。

冷蔵後には、遺伝子の読み出しを調節するプロモーター領域で平均的なメチル化率が上がり、20℃へ1日戻すと収穫時に近い水準へ戻りました。RINや香り合成に関わる一部の遺伝子では、メチル化が増える時期にRNA量が減る対応も見られました。

ただし、この研究は「メチル化の変化がRNA低下を引き起こした」のか、その逆なのかまでは決めていません。また、メチル化が速やかに戻ることと、香り全体が十分に回復することは別の結果です。成分、RNA、DNA上の目印を併せて測ることで、冷蔵への応答が複数の段階に及ぶと分かりました。

「4日間では差がなかった」研究とは、条件が違う

2020年の研究を紹介した記事では、流通を想定した3日間の保管後に、7℃と20℃で4日間保存した熟したトマトを比べています。この条件では、訓練した評価者が感じる香りや味に有意な保存条件の差は認められませんでした。

2016年の研究も完熟果実を使っているため、違いを熟度だけで説明することはできません。温度、日数、品種、流通を想定した処理、対照が異なり、消費者の好ましさと訓練パネルの特性の強さという評価の違いもあります。2020年の揮発成分分析は相対的な構成を扱い、電子舌の適性も検討しています。

合わせて読むと、冷蔵の影響を考えるには「何℃で何日、どのトマトを、何と比べたか」が大切だと分かります。2016年の試験内でも、短期間と約1週間では結果が異なっていました。

まとめ

赤く熟したトマトを5℃で約1週間保存すると、香り成分の減少と好ましさの低下が見られ、室温に戻しても回復が十分でない条件がありました。糖や酸の変化が小さい一方、香りを作る遺伝子、成熟の調節、DNAメチル化が大きく変わっていました。

この研究が明らかにしたのは、冷蔵後の香りを支える「作り続ける仕組み」の重要性です。成分によって増減も回復も異なり、保存温度と期間を含めて捉えることで、風味が変わる理由がより具体的に見えてきます。

米国NSF、中国の研究プログラム、浙江大学などの支援を受けた研究で、著者らは利益相反なしと申告しています。

参考文献

Zhang B, et al. (2016). Chilling-induced tomato flavor loss is associated with altered volatile synthesis and transient changes in DNA methylation. PNAS, 113(44), 12580–12585. 原著論文。

Kanski L, Naumann M, Pawelzik E. (2020). Flavor-Related Quality Attributes of Ripe Tomatoes Are Not Significantly Affected Under Two Common Household Conditions. Frontiers in Plant Science, 11, 472. 比較した原著論文。