自分に似合う香水は、姉妹が選べる?

自分に似合う香水は、姉妹が選べる? 香りの科学

誰かに香水を贈るとき、自分が好きな香りと、その人に似合う香りは同じだろうか、と迷うことがあります。相手をよく知っていれば、その人がまとったときの香りまで、うまく想像できるのでしょうか。

2017年、カレル大学のMarkéta Sobotkováらは、男性本人が選んだ香水と、身近な女性がその男性のために選んだ香水を比べた研究を発表しました。一方の実験では恋人、もう一方では姉妹が選び手です。血縁関係が香水選びに関わる可能性を探った研究です。

なぜ、恋人と姉妹に選んでもらうのか

研究の出発点は、香水と体臭の組み合わせです。先行研究を紹介した記事では、本人が選んだ香水と体臭の組み合わせが、指定された香水との組み合わせより好ましく評価された実験を取り上げました。人は、自分の体の匂いに合う香水を選んでいるのかもしれません。

ここに研究者が加えたのが、血縁者の体臭には似た特徴がある、という先行研究の知見でした。もし自分の体臭を手掛かりに香水を選んでいるなら、体臭に共通点のある姉妹も、兄弟に合う香水を選べるのではないか。逆に、血縁のない恋人が選んだ場合には、本人ほどよい組み合わせにならないのではないか。著者らは、姉妹の選択は本人と同程度、恋人の選択は本人を下回ると予想しました。

選んだ香水を、実際に体臭と組み合わせる

参加したのは、普段は香水を使わない若い男性と、その恋人または実の姉妹です。香水は調香師の協力で用意した男性向けの24種類。最初に六つの香りから好む系統を二つ選び、次にその系統の八つの候補から一つを選ぶ、二段階の方法を使いました。男性は自分がつけたいものを、女性は相手の男性に似合うと思うものを、別々に選んでいます。

男性は片方の脇に自選の香水、もう片方に女性が選んだ香水をつけ、綿のパッドで12時間、匂いを集めました。どちら側にどの香水をつけるかは無作為に決めています。そのパッドを、選び手とは別の女性20人が嗅ぎ、快さ、魅力、強さ、男性らしさを評価しました。評価したのは、容器に入れた匂いです。男性本人の見た目や振る舞いを含む魅力ではありません。

恋人が選んだ香水では、明確な差は出なかった

第1実験で香水を選んだのは16組のカップルです。このうち4組は同じ香水を選んだため、異なる香水を選んだ12組の試料を比較に使い、同じ香水の1組は確認用の試料としました。

恋人が選んだ香水との組み合わせは、本人の選択より快さの平均評価が高かったものの、統計的に有意な差には届きませんでした(p=0.051)。魅力にも有意な差はなく、予想していた「本人のほうがよく選べる」という結果は得られていません。一方で、この結果を「恋人のほうが優れている」と読むこともできません。

姉妹が選んだ香水では、魅力の評価が高くなった

第2実験には、男性とその姉妹12組が参加しました。こちらでは、姉妹が選んだ香水と体臭の組み合わせが、本人の選んだ香水との組み合わせより、魅力的だと評価されました(p=0.008)。快さ、強さ、男性らしさには有意な差がありませんでした。

研究者の予想は、姉妹と本人の選択が同程度に評価されることでした。姉妹が選んだ組み合わせの魅力が上回った点は、予想以上の結果だったのです。ただし、第1実験とは別の男性たちを調べています。同じ男性のために恋人と姉妹が選んだ香水を比べてはいないため、姉妹のほうが恋人より上手に選べる、と順位をつけることはできません。

香水そのものが好まれただけなのか

研究チームは、体臭と混ぜていない香水だけも、別の男女に評価してもらいました。二つの実験とも、本人と女性が選んだ香水の間に、単体の魅力や快さの有意な差はありませんでした。ただし、姉妹が選んだ香水は、単体ではより男性らしいと評価されています。香水だけなら、あらゆる印象が同じだったわけではありません。

それでも、姉妹の選択が魅力で上回ったのは、香水単体ではなく、体臭と組み合わさった試料でした。著者らはこの違いを、その男性の体臭との組み合わせが重要だと考える手掛かりにしています。単体の香りがより好ましく評価されたから、という説明だけでは捉えにくい結果です。

血縁の効果なのか、相手を知っている効果なのか

著者らは、姉妹が自分と遺伝的に似た兄弟の匂いに合う香水を選びやすい可能性を考察しています。さらに、兄弟の魅力を高めることが、その兄弟を通じて、自分と共通する遺伝子が次世代に受け継がれる機会にもつながりうる、という進化的な説明にも触れています。「包括適応度」と呼ばれる考え方からの仮説です。この実験で遺伝子や子孫の数を調べたわけではなく、姉妹の選択の理由が確かめられたわけではありません。

別の説明も残ります。著者らは、女性のほうが体臭と香水の混ざった匂いを想像しやすかった可能性や、男女が香水を選ぶときの基準の違いを挙げています。ただし、匂いを想像する能力については男女差が出なかった先行研究もあり、女性の能力によるものと決めることはできません。

相手への慣れも見逃せません。実は、同じ香水を選んだカップルは16組中4組で、偶然から予想されるより多い一致でした。一方、姉妹との12組では、同じ香水を選んだ組はありません。恋人は、相手がどんな香りを好むかを知っていたのかもしれない、と著者らは考えています。本人の好みと一致することと、身につけた匂いが他の人に魅力的と感じられることは、それぞれ別の結果として現れました。

今回の対象は少人数の若い男性で、混ざった匂いの評価者はホルモン避妊薬を使う女性に限られていました。香水の候補や選び方も決められています。血縁と親しさの影響を切り分けるには、同じ人の香水を恋人と姉妹が選ぶ比較や、女性を身につける側とした実験などが必要です。

まとめ

この研究が広げたのは、「自分に合う香水を選ぶ力」が、身近な人にもあるのかという問いです。香水単体の魅力には有意な差が見られなかった一方で、姉妹が選んだ香水がその男性の体臭と組み合わさると、本人の選んだ香水との組み合わせより魅力的と評価されました。この結果は、香水を選ぶときに、身につける人の匂いとの関係が重要であり、その相性を本人以外も捉えられる可能性を示しています。

著者らが血縁に注目したのは、体臭に共通点があれば、自分の匂いを手掛かりに、家族に合う香りも選べるかもしれないからでした。その仕組みはまだ仮説ですが、相手の好みを知っていることや、混ざった香りを想像することも含めて、「誰のために選ぶか」を香水研究の問いにした点に意味があります。似合う香水を探す過程には、香水そのものへの好みと、まとう人をどのように知っているかの両方が関わっているのかもしれません。

参考文献

著者:Markéta Sobotková, Jitka Fialová, S. Craig Roberts, Jan Havlíček
論文名:Effect of Biological Relatedness on Perfume Selection for Others: Preliminary Evidence
掲載誌:Perception 46(3–4), 498–515(2017年)
DOI:10.1177/0301006616682514
原著全文:著者サイトで公開されているPDF
原著の権利表記:© The Author(s) 2016。本文PDFにCreative Commonsライセンスの表示はありません。