香りを色にたとえるとき、何を手がかりにしているのでしょう。「この香水は男性向けです」「女性向けです」という説明を聞くだけでも、思い浮かぶ色は変わるかもしれません。
Zellnerらが2008年の『Chemical Senses』に発表した研究は、市販香水を使った4つの実験で、この問いを調べました。香りと色の対応が、鼻に届く成分だけで決まるのか、それとも香りについてどう考えるかという認知にも左右されるのかを探っています。
色を見るのではなく、色の名前へ点を配る
参加者は米国の大学生で、4実験の参加人数は順に63人、52人、60人、68人でした。実験ごと、また回答の欠けや評価によって、個別の解析に使われる人数は異なります。
香水は0.15ミリリットルをポリエチレンの粒に含ませ、外から中身を見られない嗅ぎ瓶で提示しました。元のボトルや液体の色を見て選ぶ課題ではありません。
参加者は、香りから思い浮かぶ色を考え、赤、青、黄、ピンク、白など11の色名に、合計5点を自由に配りました。一つの色へ5点でも、複数の色へ分けてもかまいません。ここでの色の割合は、人数の割合ではなく、配られた点数の割合です。
調べたのは「この香りに合う色」の連想です。香りを嗅ぐと本当に目の前に色が見えるという体験や、色の見分け能力を調べたものではありません。
最初は、販売区分の違う6香水を比べる
最初の実験では、女性向けのBeautiful、Calyx、Trésorと、男性向けのPolo、Hugo Boss、Drakkar Noirを使いました。参加者は、強さ、快さ、男性的・女性的に感じる程度を評定したあと、色を選びました。
この6種類では、販売区分に沿った性別の印象が見られました。色も、女性向け3種類ではピンク、白、黄、男性向け3種類では緑、青、茶に多くの点が配られました。ただし、個々の香水によって違いがあり、全員が同じ一色を選んだわけではありません。
この段階では、性別のイメージが色の選択を変えたのか、香りの成分や香調の違いが色を連想させたのか、分けられません。そこで、次の実験では同じ香水について、受け取り方の違いを比較しました。
同じユニセックス香水でも、受け取り方で色が違う
2番目の実験から使ったのは、Calvin KleinのCK OneとCK Beです。ともにユニセックスとして販売されていた香水ですが、嗅いだ人の評価は一様ではありませんでした。
研究チームは、それぞれの香水を女性的に感じた人と、男性的に感じた人に分け、色の配分を比べました。CK Oneを女性的に感じた人では白、ピンク、オレンジ、黄、男性的に感じた人では青や緑に多く配られました。CK Beでも、女性的と感じた場合はピンクや白、男性的と感じた場合は青や白が多くなっていました。
ただし、この分け方は実験者が無作為に作った群ではありません。本人の評定による事後的な分類です。もともとの匂いの感じ方など、群の間のほかの違いが関わる可能性も残ります。
先に性別の印象を尋ねたせいなのか?
最初の二つの実験では、色を選ぶ前に、男性的・女性的な印象を尋ねていました。その質問自体が、性別を意識させた可能性があります。
そこで3番目の実験では、順番を逆にし、まず色を選んでもらいました。そのあとで性別の印象を評定してもらうと、やはり女性的と感じた場合と男性的と感じた場合とで、色の配分は異なりました。
違いは前の実験ほどはっきりしない部分もありました。CK Oneを男性的と感じた群では、特定の色へ点が偏ること自体が、有意の基準に届きませんでした。それでも、性別の印象を先に質問することだけでは、全体の結果を説明できませんでした。
説明だけを変えると、色の選び方も変わった
最後の実験では、同じCK OneとCK Beについて、「男性向けの香水」「女性向けの香水」と説明しました。どちらの説明を受けるかは無作為に決め、色を選んだあと、ほかの印象を評定してもらいました。
女性向けと説明された場合は、同じ香水でも女性的な印象の評定が高くなり、男性向けと説明された場合は、男性的な印象の評定が高くなりました。さらに、色への点の配り方にも違いが表れました。
CK Oneでは、女性向けと説明された群でピンクへの配分が最も多く、男性向けと説明された群では青が最多でした。CK Beでは、女性向けの説明で黄、男性向けの説明で青が最多でした。女性向けなら必ずピンクになる、という単純な対応ではありません。
物質を変えず、説明を変えても色が変わったことから、香水について何を思い浮かべるかが、香りと色の対応に影響すると考えられます。一方、快さの評定には、説明による有意な差は見つかりませんでした。色のイメージが変わることと、香水を好きになることは別です。
言葉から色を連想したのか、匂いの感じ方が変わったのか
著者らは、二つの経路を区別しています。一つは、「男性的」「女性的」という意味と色の結びつきが、そのまま選択に表れた可能性です。もう一つは、説明によって香りの一部へ注意が向き、匂いの感じ方が変わり、その結果として別の色を選んだ可能性です。
今回の実験では、この二つを完全には分けられません。香水の説明が、色の連想に影響したことは示されていますが、鼻の感覚そのものがどう変わったかまで確定したわけではありません。
さらに著者らは、香りと色の対応には、感覚同士の対応、快さなどの感情、香りから浮かぶ意味という複数の要因が関わり、互いに影響し合うと考えています。今回の研究は、その中でも「意味」の役割を具体的に示すものです。
研究には、International Flavors and Fragrancesから、一部の香水試料と香水の分類に関する情報が提供されたことが、謝辞に記されています。
まとめ
同じユニセックス香水でも、男性向けか女性向けかという説明によって、香りの性別の印象と、連想する色への点の配分が変わりました。香りを色に置き換えるとき、人は成分だけでなく、その香りをどう理解したかも手がかりにしているようです。
ただし、米国の大学生と限られた当時の製品による結果です。青と男性、ピンクと女性の結びつきが、生まれつき決まっている、あるいはどの文化でも同じだと示した研究ではありません。香りと色の組み合わせを考える際、香調に加えて、言葉や経験が呼び起こす意味も関わる。その認知的な側面に光を当てています。
参考文献
Zellner, D. A., McGarry, A., Mattern-McClory, R., & Abreu, D. (2008). Masculinity/Femininity of Fine Fragrances Affects Color–Odor Correspondences: A Case for Cognitions Influencing Cross-Modal Correspondences. Chemical Senses, 33(2), 211–222. DOI: 10.1093/chemse/bjm081 / 原著全文。原著:© The Author 2007, Oxford University Press. All rights reserved.(オンライン公開2007年、巻号2008年)


