花粉を運んでくれる動物が変わるとき、花はどのように姿を変えるのでしょうか。色が変わって新しい相手を呼べても、その相手が蜜に届き、花粉を運べるとは限りません。香りや花の形も含めた変化を調べると、進化の途中らしい姿が見えてきます。
Katherine E. Wenzellらが2025年に発表した研究は、主にハチドリが花粉を運ぶ、赤い花のミムルス2種を対象にしました。どちらの種にも自然に生じた黄色い系統があり、研究者は色素、香り、形、遺伝子、マルハナバチの行動を比較。同じような変化が別々の種で起きる仕組みと、花粉を運ぶ相手が変わり始める段階を調べました。
同じ種の中で、赤い花と黄色い花を比べる
調べたのは、Mimulus cardinalisとMimulus verbenaceusです。それぞれ赤と黄の計4系統を温室で育てました。野生由来の植物をもとに、世代を重ねて維持してきた実験用の系統で、花を塗り替えた実験ではありません。
黄色い花では、赤みを生むアントシアニンが少ないだけでなく、黄色系の色素であるカロテノイドも増えていました。両種で、同じ3種類のカロテノイドが増え、その合成に関わる同じ二つの遺伝子の読み出しも高くなっていました。
一方、DNAの変化のパターンまで二つの種で同じだったわけではありません。著者らは、共通の遺伝的な仕組みを使いながらも、別々の変化によって似た色へ近づいたと解釈しています。
黄色い花は、香りの量も多かった
香りは、開いたばかりの花から24時間集め、GC–MSで成分を分析しました。同じ種の赤い花に比べて、黄色い花の放出量は、M. verbenaceusで約2.3倍、M. cardinalisで約1.7倍でした。
ただし、二つの種が同じ香りへ変わったわけではありません。もともとの香りの量にも大きな差があり、この分析で検出された成分には、2種に共通するものがありませんでした。一方の種は色違いでも全体の組成が比較的似ていましたが、もう一方では組成も大きく違っていました。
共通していたのは、「黄色い系統では放出量が増える」という方向です。人にとってどちらが良い香りか、どれほど強く感じるかを評価した研究ではありません。
訪問回数は、黄色が赤のおよそ2倍
次に、花にまだ慣れていないセイヨウオオマルハナバチを1匹ずつ飛行用のケージへ入れ、同じ植物種の赤い花4輪と黄色い花4輪を選ばせました。各植物種で10匹ずつ、30分間の訪問行動を記録しています。
M. verbenaceusでは、全89回の訪問のうち黄色が59回、赤が30回。M. cardinalisでは、全150回のうち黄色が99回、赤が51回でした。どちらも、訪問回数はおよそ2対1で黄色が多くなりました。
これは、同じハチによる繰り返しの訪問を含む回数です。ハチの個体差を考慮した解析でも、黄色への訪問が多い結果は保たれました。一方、各ハチの最初の一度だけを見ると、どちらの植物種でも黄色を選んだのが6匹、赤が4匹で、明確な偏りはありませんでした。
香りだけが、決め手だったとはいえない
黄色い花が多く訪れられた理由を、香りの増加だけで説明することはできません。花の色の見え方をモデルで調べると、黄色い花は赤い花より、緑の背景から目立つと推定されました。色、香り、形などが同時に違う花を比べているため、それぞれの効果を完全には切り分けられません。
香りを感じ取る反応は、9匹のハチから採った触角でも調べました。4系統の花の香り抽出物は、空気だけより大きな電気的反応を起こしました。ただし、抽出に使った溶媒だけとの比較では結果がそろわず、同じ種の黄色い花の香りが、赤い花より一貫して強く反応を起こすという結果ではありませんでした。
触角の反応は、ハチがどの花を好むかを直接表すものではありません。比較用の標準香料の濃度が低かったという測定上の限界もあり、今回の結果から、香りが無関係だったとも判断できません。
呼べる花と、花粉を運んでもらえる花は違う
黄色い系統は、どちらの種でも花の入口が広くなっていました。しかし、筒の長さの変化は同じではなく、M. cardinalisでは短く、M. verbenaceusでは長くなっていました。蜜の量には、同じ種の赤と黄で明確な差がありませんでした。
実際のハチは、黄色い花を多く訪れても、うまく中へ入れず、蜜に届くのに苦労していました。花粉を出す葯や、花粉を受け取る柱頭に、十分触れない姿も観察されています。無理に入り、花の筒を裂いてしまうこともありました。
著者らは、色のように誘引を大きく変える特徴が先に変わり、香り、入口の広さ、身体の位置を整える模様などの変化が続く、という進化の道筋を提案しています。今回の黄色い花は、ハチを呼ぶ力が増しても、効率よく花粉を運んでもらう形への変化は、まだ途中なのかもしれません。
ただし、実際の変化の順序を長い時間追跡したわけではありません。野外ではスズメガなど別の動物も関わる可能性があり、自然集団での訪花や繁殖成功を調べる必要があります。実験室での好みだけで、ハチドリからハチへの切り替えが完了したとはいえません。
まとめ
黄色い系統の花は、色素だけでなく、香りの放出量や入口の形も変わり、マルハナバチに多く訪れられました。それでも、ハチの身体と花の構造は、まだ十分にかみ合っていませんでした。
この研究が描くのは、色・香り・形が一度に完成形へ変わるのではなく、新しい相手を呼び、その相手に合う形へ近づいていく途中の可能性です。香りもその一部ですが、花粉を運ぶ関係が成立するには、目立つこと、感じ取られること、蜜に届いて花粉に触れることが、組み合わさる必要があります。
参考文献
Wenzell, K. E., Neequaye, M., Paajanen, P., Hill, L., Brett, P., & Byers, K. J. R. P. (2025). Within-species floral evolution reveals convergence in adaptive walks during incipient pollinator shift. Nature Communications, 16, 2721. DOI: 10.1038/s41467-025-57639-3(原著全文)。
研究はJohn Innes Centre、英国BBSRCなどの支援を受け、著者の一人は米国NSFの研究員支援を受けています。著者らは利益相反なしと申告しています。原著:© The Author(s) 2025、CC BY 4.0。


