コーヒーの楽しみは、飲む瞬間だけにあるのでしょうか。2015年の研究では、香りや味を楽しむために飲む人は、目を覚ましたいなどの刺激を求めて飲む人より、準備中の香りを重視し、香りへの満足も高く報告しました。
両群とも飲んだ後の快さは高く、味への満足度には有意な差がありませんでした。同じコーヒーでも「何のために飲むか」と、準備から飲用までの体験の関係を調べています。
飲む目的の違う60人を比べる
研究の目的は、コーヒーを楽しみとして飲む動機と、刺激を得るために飲む動機が、体験の快さ、感情、五感の重要性と満足度にどう関係するかを調べることでした。最後の一口の評価だけでなく、準備の途中で感覚や気持ちが変わる点にも注目しています。
参加者はスイスのローザンヌ周辺に住む18〜60歳の60人で、全員が同じ市販のインスタントコーヒー製品を日常的に飲んでいました。30項目の質問票で飲む動機を調べ、感覚的な楽しみを重視する30人と、刺激を重視する30人に分けました。各群は男女15人ずつです。
この群分けは普段の動機に基づくもので、飲む目的を無作為に割り当てた実験ではありません。どちらの動機も同程度の人は対象から外しており、一般のコーヒー愛飲者を二つに分類し尽くす設計でもありません。質問票は企業内で作られたもので、全項目は公開されていません。
湯沸かし、容器の開封、準備、飲用を追う
試験は研究所内のキッチンで行いました。参加者は普段どおりのコーヒーと水の量を使い、砂糖や牛乳も習慣に応じて加えることができました。カフェインを事前に控える条件にはしていません。
まず開始前の快さと感情を評価し、その後、湯を沸かす、コーヒー容器を扱って開ける、カップで混ぜて準備する、飲む、という4段階ごとに質問に答えました。快さ、39の感情項目に加え、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚がその場面でどれほど重要か、どれほど満足できるかを記録しています。味の満足度は飲用後だけに尋ねました。
感情項目は似た回答をまとめて14のまとまりに整理し、動機の群と体験の段階を組み合わせて分析しました。このように一連の体験を追う方法も、研究の重要な部分です。
準備中の香りに、楽しみ目的群が高い評価
楽しみを重視する群は、香りの重要性と、香りから得られる満足を高く評価しました。湯沸かし時の香りの重要性、容器を開ける段階とカップの準備段階での味の重要性にも群差が報告されています。まだ飲んでいない段階でも、これから味わう感覚が体験の一部になっていることがうかがえます。
両群を通して見ると、香りと触覚の重要性・満足度、味の重要性は、体験の初めには低く、準備や飲用に向かって高くなりました。視覚は初めから高く評価され、聴覚は比較的中程度で安定していました。
飲用後の味の重要性と満足度は、どちらの群でも高くなりました。味の満足度の群差は有意ではなく、刺激を求める人が味を楽しめない、という結果ではありません。
快さと感情にも、共通点と違いがあった
快さの平均評点は、開始前には両群とも約7点、飲用後には約9点と近い値でした。途中の湯沸かしや開封、カップの準備では、楽しみ目的群の平均が高く、著者らは準備段階から楽しむ傾向があると解釈しています。
ここには資料の確認上の留保があります。公開著者原稿の本文表示では、快さの群差を有意と説明する一方、併記されたF値とp値が整合していません。最終版の図表と照合できていないため、その有意性は厳密に確認できません。また、群と時間の交互作用は有意ではありませんでした。平均の推移の違いを、そのまま「群ごとに変化の仕方が統計的に異なる」と断定することはできません。
感情では、満足、楽しさ、活力などの評点が、体験全体で楽しみ目的群のほうが高いと報告されました。ただし、すべての肯定的感情で群差が出たわけではありません。刺激目的群では興奮や落ち着かなさの評点が高く、興奮は開封・準備の段階で上がり、飲用後には開始前の水準へ戻る傾向がありました。
両群とも、飲用へ進むにつれて満足や活力などが高まりました。感情の各分析でも群と時間の交互作用は有意ではなく、著者らが描いた異なる「感情の道筋」は、主に平均値をまとめた図と群全体の差に基づく解釈です。
動機が原因なのか、普段の習慣も関わるのか
著者らは、食品の体験を調べる際には、誰がどんな目的でその食品を使うかも考慮すべきだと提案しています。商品を伝える場面でも、飲んだ後の効果だけでなく、容器を開ける香りや準備中の感情に着目する意義を論じています。
ただし、対象は一地域の一製品の利用者です。動機の違いに加え、濃さ、砂糖・牛乳の使い方なども参加者の習慣に任せています。飲む目的を変えれば香りの満足が必ず上がるか、カフェインの生理作用が群差を生むかは、この研究では切り分けられていません。
まとめ
感覚的な楽しみを目的にコーヒーを飲む群は、刺激を求める群より、準備中の香りを重視し、香りへの満足や複数の肯定的感情を高く報告しました。一方、飲用後の快さは近い平均値になり、味の満足度の群差は有意ではありませんでした。
快さの群差には公開著者原稿の検定値の記載に留保があるものの、香りや感覚の重要性が準備の段階から変化するという視点は残ります。コーヒーの体験を理解するには、カップの中身だけでなく、飲む目的と、そこへ至る一連の時間にも目を向けることが役立ちます。
研究当時、全著者はNestlé Research Centerに所属していました。公開著者原稿には独立した研究資金欄・利益相反声明は見当たりません。
参考文献
Labbe D, Ferrage A, Rytz A, Pace J, Martin N. Pleasantness, emotions and perceptions induced by coffee beverage experience depend on the consumption motivation (hedonic or utilitarian). Food Quality and Preference. 2015;44:56–61. doi:10.1016/j.foodqual.2015.03.017


