ヘアカラー剤のにおいを評価するとき、「不快だったか」という回答と脳波を合わせると、違う側面が見えてくるかもしれません。2019年の小規模研究では、刺激臭を抑えた処方とアンモニアを含まない処方の間で、快不快の評点には明確な差がない一方、脳波には差が報告されました。
研究の目的は、においを嗅いでいる最中だけでなく、その後に安静にしている間の反応も調べ、製品のにおいの評価に脳波を使えるか検討することでした。
3種類のヘアカラー処方を、同じ10人で比較
参加者は健康な成人10人で、男女5人ずつ、平均年齢は約20歳でした。比較したのは、次の3種類のクリーム処方です。
- ①アンモニアを含まず、モノエタノールアミンを使った処方
- ②アンモニアを含むが、層状の構造でアンモニア臭を抑える工夫をした処方
- ③アンモニア臭を発する従来型の処方
参加者は、2分間の安静のあと、試料を30秒間混ぜ、続いて5秒間そのにおいを嗅ぎました。その後も2分間の安静時の脳波を記録しています。処方の順番は無作為にし、条件の間は少なくとも1日空けました。
混ぜる動作自体も脳波に影響するため、試料なしで同じ運動をする統制条件を設け、そのデータを差し引いて解析しました。頭皮の15部位で脳波を測り、課題終了後にはにおいの快不快を5段階で回答してもらっています。
従来型は、ほかの2処方より不快と評価された
快不快の評点は、数値が高いほど不快を表します。平均は①が2.6、②が3.2、③が4.2でした。③は①、②のどちらよりも統計的に有意に不快と評価されましたが、①と②の間には有意差がありませんでした。
この結果からは、今回の比較では、刺激臭を低減した②が従来型③より不快に感じられにくかったといえます。①と②の平均は同じではなく、10人の試験で差が明確にならなかったという結果です。
嗅いでいる最中のα帯域には、①と②の差も
頭頂部のPzという測定位置のα帯域を調べると、安静時に比べて、混ぜるときや嗅ぐときの活動値が低下しました。低下が最も大きかったのは③です。嗅ぐ段階では、②も①より低い値を示し、主観的な快不快の回答では明確にならなかった組み合わせにも差が現れました。
著者らはこの結果を、刺激臭がリラックス状態を弱める可能性として解釈しました。ただし、α帯域の変化は特定の感情だけに対応する指標ではありません。今回直接確認したのは、処方によって脳波の反応が異なったことです。
嗅いだあとのβ帯域にも、異なるパターンが残った
においを嗅いだ後の安静時には、β帯域の脳波から活動の分布を推定しました。①と②では左頭頂側、③では右頭頂側の活動が目立つと報告されています。処方間の比較でも、①・②と③には左右の分布の違いがあり、①と②を直接比べると①の左頭頂側の活動が高くなりました。
著者らは、過去の感情と脳活動の研究を手掛かりに、この左右差が快不快の違いに関係する可能性を論じています。研究の結論は、嗅いでいる最中とその後の脳波を併用すれば、質問紙だけでは捉えにくい製品の反応差も評価できるかもしれない、というものです。
活動の位置は15個の頭皮電極から計算で推定したもので、脳内を直接撮影した結果ではありません。また、原著には解析法の名称が方法欄と図で一致しない箇所があるため、細かな部位や推定手法の解釈には留保が必要です。
脳波が違うことを、何に結びつけられるか
今回の3処方は、アンモニアの有無だけでなく、ほかの成分やクリームの構造も異なります。空気中のアンモニア濃度を実測して段階的に比較した試験ではないため、差をアンモニア量だけに帰することはできません。
また、心理面で尋ねたのは快不快であり、本人が気付いていないストレスを別の方法で確認したわけではありません。脳波と評点の組み合わせは製品評価の手掛かりになりますが、この試験から健康への害や安全性、実際に髪を染める長時間の体験まで判断することはできません。著者らも、人数を増やし、年齢や経験などを考慮した検証を課題に挙げています。
まとめ
10人による比較では、従来型のアンモニア臭を発する処方が、ほかの2処方より不快と評価されました。刺激臭を抑えた処方とアンモニアなしの処方では、主観的な快不快の差は明確でなかった一方、嗅ぐときのα帯域と、その後のβ帯域には反応差がありました。
この研究は、製品のにおいを、言葉による評価と時間を追った脳波の両方で調べる意義を示しています。それぞれの指標が何を捉えているかを確かめながら使うことが、今後の評価法の課題です。
著者8人中5人は、論文発表時に日本ロレアル所属でした。同社による実験用製品の提供が謝辞に記載されています。独立した資金提供・利益相反の声明は見当たりません。
参考文献
兒玉隆之ほか(2019).ヘアカラー製品の匂いがもたらす神経生理学的影響.日本感性工学会論文誌,18(3),195–200.https://doi.org/10.5057/jjske.TJSKE-D-19-00003(原著PDF)


