LIBERTA PERFUME(リベルタ パフューム)— 山根大輝の転身と、対話・日本の素材から生まれる香水

雨に濡れた紫陽花と古寺の情景に、LIBERTA PERFUMEのレインブロッサムの瓶を置いたブランド紹介用の生成イメージ。 ブランド創業者

所有より「知る・体験する」喜びを提供したいのです。

山根大輝(創業者・調香師)

香水を手に入れるまでの時間に、どんな価値をつくれるだろうか。LIBERTA PERFUME(リベルタ パフューム)の創業者、山根大輝は、原料に触れ、調香師と話し、試作による変化を知る過程そのものを大切にしている。

その考えは、完成した香水にも現れる。香りのない紫陽花から雨と古寺の情景を構成し、梅酒づくりを終えた梅から新しい香料を取り出す。自分の好みを知ることと、日本の素材や風景を嗅覚で捉え直すこと。その両方を開いていくブランドである。

基本情報

  • ブランド名:LIBERTA PERFUME(リベルタ パフューム)
  • ブランド始動:2020年、東京
  • 創業者・調香師:山根大輝(Daiki Yamane)
  • 運営会社:Scentopia株式会社(2019年創業)
  • ブランド名の意味:イタリア語で「自由」
  • 公式サイト:LIBERTA PERFUME

創設者とブランドの成り立ち

コンサルティングの仕事と並行して調香を学ぶ

山根は1991年、千葉県に生まれた。大学を卒業すると外資系コンサルティング会社に入社し、働きながら香水の世界へ進む道を探した。もともと数百本の香水を集めるほどの愛好家であり、新しいものをつくる仕事にも魅力を感じていた。

いつか自分の事業を立ち上げたいと考えていた山根の背中を押したのは、勤務先の副社長から、やりたいことがあるなら今すぐ始めればよいと言われたことだった。自分の好きなものを見つめ直すと、香水が浮かぶ。国内の調香スクールや調香師へ連絡を取り、パルファン サトリの大沢さとりに出会った。

大沢のもとで香料と調香を学ぶ一方、調香師として就職する道の難しさも知った。それでも、自分の香りを早く世の中へ届けたい。山根は、自らブランドを立ち上げることを選んだ。2019年にScentopiaを創業し、翌2020年、リベルタ パフュームを始動させた。

2020年、オンライン診断で香りとの出会いを変える

出発点には、既製品から選ぶことだけでは満たされない思いがあった。山根は、自分に合う香りを知り、長く愛せる香りに出会える仕組みをつくろうとした。調香とカウンセリングの知見を診断の仕組みへ落とし込み、オンラインとポップアップを軸に展開を始める。

2020年当時のオンライン診断は、20の質問に答える形式だった。質問には、香りの好みを探るものと、その人に似合いそうな香りを考えるものがある。たとえば好きな飲み物を尋ね、味覚の好みから香りの方向を探る。香料名を知らなくても、自分の日常を入口にできる設計だった。

リベルタが掲げる「香りの民主化」は、誰もが自分の好きな香りを知り、愛する香りを纏えるようにするという考えである。診断は、そのための最初の接点となった。

2023年、中目黒で調合を見せるラボを開く

2023年には、中目黒に初の路面店となるラボパフューマリーを開いた。調香師のアトリエと香水の製造スペースが共存し、専属調香師チームを中心とするスタッフが直接カウンセリングをする場所である。

オンラインでは質問から香りの方向を探ったのに対し、ラボでは、香料を嗅ぎながら希望を言葉にし、試作で確かめられる。ラボでは、数十種類の香料を試し、五つのサンプルから一本を選ぶ流れを設けていた。カウンセリングの結果が店内のラボへ送られ、選んだ香料が調合される過程をガラス越しに見ることもできる。

香りはもっと開放されるべきで、楽しみ方の幅も広がるべき。

山根大輝(中目黒ラボの取材で)

大きなガラスで内部を見せる設計には、香水だけでなく、つくり手の仕事にも触れてほしいという意図がある。完成品を試す売り場に、香りが生まれる過程を重ねたのである。2026年9月にラボが三周年を迎えた際、山根は、フルオーダーと完成品の香水が交わるこの場所によって、創作が加速したと振り返っている。

一人の創業者から、チームの創作へ

山根は2023年、バンタンの講座で、香料や調香を学ぶことに加え、自分のブランドを立ち上げる道も伝えた。自身が実践の中で学んだことを共有し、国内外の専門家も招く教育を目指す。香りをつくる人や、香りの仕事を選ぶ人を増やすことも、ブランドの活動へ広がった。

2025年の五周年に山根が記したのは、異なる視点、技術、情熱が重なって進むブランドの姿だった。香水の現場には手と鼻に宿る経験があり、それぞれの創造性が出会って反応を起こす。その積み重ねに、独創的な香りの可能性を見ている。

私は独創的な香りとは、そうして生まれるものだと信じています。

山根大輝(2025年、ブランド五周年のメッセージ)

ブランドのこだわり

二つのコレクションの制作方針

フルオーダーで培う対話と調香は、既製品の「プレタポルテ」にも展開している。中でも二つのコレクションには、創作の入口の違いがある。

「LIBERATION(リバレイション)」は、香りを持たないものに香りを与える試みである。日本の文化や季節、日常のイメージを自由に香水へ移す。一方の「Japan Material(ジャパン マテリアル)」は、日本各地で素材を探し、その香りを再発見する。

梅雨と古寺を表すレインブロッサム

2024年6月15日に発売したRain Blossom(レインブロッサム)は、四季を表すリバレイションの四作品に、梅雨を加えた五作目である。題材は、紫陽花が咲く雨の古寺。紫陽花そのものから香りを抽出するのではなく、その花が置かれた情景を組み立てる。

降る雨の匂いと、雨粒が跳ねる土の匂いを合わせ、独自のレインアコードを開発した。アコードとは、複数の香りを合わせてつくる一つの香りのまとまりである。瑞々しい花のアコードに、インセンスやサンダルウッドを重ね、山門や寺院の静けさへつなぐ。

山根は、雨音、濡れた苔、山門を抜ける線香の気配までを重ねたと説明している。山根が和食に喩えるのは、要素それぞれの表情を活かす構成である。花だけを主役にするのではなく、雨と土と祈りの場を隣り合わせにした作品だ。

梅酒づくりの後に残る梅を、アマノウメの香料へ

ジャパン マテリアルの「天梅(アマノウメ)」は、梅の実と梅酒づくりを香料の探求へ結びつけた作品である。山根は、ブランドパートナーである英国の音響メーカーKEFを通して、和歌山県みなべ町のクラフト梅酒のつくり手、高田と出会った。

梅畑では、実から漂う酸味と甘みを感じ、完熟の桃を思わせる果肉の甘さから梅酒のコクへつなぐ着想を得た。制作では、梅酒づくりの後に残る梅、いわゆる残渣(加工後に残る部分)を買い取り、超高圧抽出で独自の梅酒エクストラクトを取り出す。

さらに、ジンをベースとするクラフト梅酒の個性を表すため、ジュニパーベリーやスパイスを組み合わせた。梅の香りに、醸造家の選択まで含めて構成するのである。山根には、市場の縮小や後継者不足によって失われつつある梅林を、つくり手との協業を通して守りたいという思いもある。

アマノウメは、オードパルファムとは異なるコロンコンサントレとして仕立てられている。ジャパン マテリアルでは、素材の個性を活かしながら、生活に馴染む軽やかな使い心地を目指す。そのために、香料素材の探し方と製品の設計を一緒に考えている。

2026年、地域素材を探る三つの新作

この探求は続き、2026年には、レモンの花、クチナシ、白桃を題材とする三作を発表した。10月のサロン ド パルファンで先行販売し、一般発売は11月1日からの予定である。白桃の作品では、加工用に回される規格外の桃の皮を買い取り、超高圧抽出する。地域のつくり手と協力し、身近なものの中から新しい香料を見出す方法が広がっている。

参考文献