ボン パフューマー(Bon Parfumeur)― 記憶を香りに変える、パリ発のアトリエ

ボン パフューマーの世界観と香水「001 Cologne Première」を表現したブランドイメージ ブランド創業者

「写真で美しい瞬間を残す人がいるように、私は香水を信頼することにした。」

— ルドヴィック・ボヌトン(Ludovic Bonneton)、創業者

基本情報

  • 設立年: 2016年とする初期資料がある一方、現公式の沿革は2017年の創業者の帰国を起点としている
  • 創設者: ルドヴィック・ボヌトン(Ludovic Bonneton)
  • 本拠地: フランス・パリ
  • 公式サイト: bonparfumeur.com

※ブランド名「ボン パフューマー(Bon Parfumeur)」はフランス語で「素敵な調香師」を意味する。また、「ボン(Bon)」の3文字は創業者の姓「ボヌトン(BoNNeton)」の頭3文字と重なっている。

創設者・ブランドの成り立ち

幼少期から育まれた嗅覚の記憶

ルドヴィックにとって、香りとは幼い頃からの「謎解きゲーム」だった。

「記憶にある限り、私の鼻はずっと好奇心旺盛だった。気になる香りを嗅ぐたびに、たとえ知らない人でも『これは何?』と聞かずにはいられなかった。公園でどれだけ通行人を呼び止めたことか!」

— ルドヴィック・ボヌトン

彼自身のオルファクトリー(嗅覚)の遍歴は多彩である。10代にはゲランの「ジッキー(Jicky)」やカルヴェンの「ヴェティベール(Vetiver)」を愛用し、その後はゲランの「アビルージュ(Habit Rouge)」やカロンの「プール アン オム(Pour un Homme)」に親しんだ。カムス・パリのインタビューでは、「子供の頃に魅了されたのはオピウムの香りで、のちにパリの調香師たちに出会った。15歳のときに一番好きだった香水はジッキーだ」とも語っている。

ニッチ香水との出会い、そして転機

メジャーブランドへの親しみを経て、ルドヴィックが次に発見したのは、規模は小さいながらも香り本来の美しさを追い求める「コンフィデンシャル(confidential)」なメゾンの世界だった。それらのハウスは、かつての香水作りの原点——香りをプロダクトの中心に置くという姿勢——に立ち返ろうとしていた。

「アーティスティックで、真摯で、クリエイティブな香水作り。ボン パフューマーが生まれたのは、そのアイデアからだった。」

— ルドヴィック・ボヌトン

キャリア面では、フランスの美容・コスメ大手ロレアル(L’Oréal)でプロダクトマネージャーを3年あまり務め、その後自ら会社を立ち上げた経験を経て、イヴ ロシェ(Yves Rocher)でデジタル&eコマース責任者を担った。香水のプロではなく、デジタルとマーケティングのバックグラウンドを持つ人物が、なぜ香水ブランドを?——その答えがコロンビアにある。

コロンビア、太平洋岸での啓示

ルドヴィックはカリ(Cali)に移り住み、ある日、コロンビアの太平洋岸のどこかで、熱帯の風に語りかけられた。カカオ、コーヒー、芳香を放つ花々——それらの濃密な匂いの中で暮らすうち、香りを通じて自分の感情と記憶を共有したいという衝動が明確な形を取り始めた。

「コロンビアから帰国したとき、香りがいかに強く感情を揺さぶり、記憶を解き放ち、深く個人的な物語を語れるかを痛感した。香りは固定したアイデンティティを必要としない——それは言語であり、生きた自己表現の形だ。それが『ボン パフューマー』の出発点だった。」

— ルドヴィック・ボヌトン(ウッドベルク(Woodberg)インタビューより)

後に彼はこう振り返る。「香水の中には、ボン パフューマーよりずっと前から存在しているものがある。旅の中で、出会いの中で、感情の中で、美しい素材を集め続け、それらが私の人生のスナップショットになっていった。私の香水作りは、私のフォトアルバムなのだ」。

ブランドの誕生と命名

愛好家として長年香水を「収集・混ぜ合わせ・味わって」きた経験を持ちながらも、それを仕事にすることへの躊躇があったとルドヴィックは認める。「熱狂的なファンがそうであるように、私も好きなことを職業にするのが怖かった。踏み出す後押しをしてくれたのは、友人と家族だ」。

ロノレ・マガジン(L’Honoré Magazine)の2019年の記事では、2年間の開発期間を経て2016年にブランドが誕生したと紹介されている。一方、現公式の沿革ではコロンビアからの帰国を2017年としており、年次には資料差がある。「ボヌトン(Bonneton)」——創業者の姓そのままの名前——から「ボン パフューマー」に改名したというエピソードについては、公式資料での裏づけを確認できていない。現在の名称にも、「ボン(Bon)」の3文字が創業者の名前を静かに宿している。

2025年末には、そのコロンビアでボン パフューマーの正式ローンチが行われ、ルドヴィック自身がボゴタを訪れてマスタークラスを開催した。「コロンビアで旅が始まった。そこでボン パフューマーを正式にローンチできることを、心から嬉しく思う」と彼はリンクトイン(LinkedIn)に記している。

ブランドのこだわり

香りづくりの哲学:調香師への「白紙委任状」

ボン パフューマーの香り作りに最も特徴的なのは、調香師に対する「カルト ブランシュ(carte blanche)」——白紙委任状——の制度だ。2020年のブランド紹介では、香りのテーマや素材の選択において、調香師が自由に想像力を発揮できる姿勢が説明されている。現在の公式説明でも、ルドヴィックの記憶や感情を起点に、調香師と創造的な対話を重ねる協働が重視されている。これにより、キャラクターが際立った個性的な香りが生まれる。

現在、コレクションは14名の調香師によって制作されており、フランスを代表するマスター調香師から若き才能まで多彩な顔ぶれが揃う。アンヌ フリポ(Anne Flipo)、カリン デュブルイユ=セレニ(Karine Dubreuil-Sereni)、ジュリエット カラゲウゾグロウ(Juliette Karagueuzoglou)、ポール ゲラン(Paul Guerlain)、クレマン マルクス(Clément Marx)らがその名を連ねる。

ルドヴィックは言う。「良い香りとは、美しい素材を核として、その周りで強い嗅覚的コントラストが展開するものだ——例えば、バニラで柔らかくなったリキュール系のローズ(106番)、ミモザの雲の上で供されるカルダモン ティー(102番)のように」。

数字が名前——調香師のアトリエから生まれた命名規則

ボン パフューマーの香水は、香りを識別する基本の名称として数字を用いる。001、102、602……この命名規則には明確な意味がある。最初の数字は10種類の「フレグランスファミリー」を示し、下2桁はそのファミリー内での発売順を示す。

「数字は、調香師のアトリエでボトルに付けられた番号へのオマージュだ。私の香水作りが根ざしている職人的な伝統の痕跡を残しておきたかった。」

— ルドヴィック・ボヌトン

各ボトルのラベルには香りを代表する3つのメインノートが記載されており、「フレグランスに添えられた詩的な言葉ではなく、素材そのものが語る」という透明性への意志が込められている。

ボトル・パッケージ:フランス全土から集めた職人技

ボン パフューマーにとって「メイド イン フランス(Made in France)」は、単なる原産地表示ではなく、ブランドの根幹をなすアイデンティティである。

  • ボトル: ノルマンディー地方「ガラスの谷(ヴァレ デュ ヴェール/Vallée du Verre)」に位置するポシェ デュ クルヴァル(Pochet du Courval)社製。4世紀にわたりラグジュアリー業界のためにガラスを作り続けてきたこの工房は、「フランスのガラス職人界のロールスロイス」と称される。透明で凛としたそのフォルムは、テーマを主張しすぎず、香りそのものを引き立てるシンプルさを持つ。
  • ジュ(フレグランス本体): グラース(Grasse)——「香水の世界の首都」——で製造。
  • ラベル: コニャック(Cognac)で印刷。
  • パッケージ: グリニャン(Grignan)で製造。最終的な梱包はシャルトル(Chartres)の「コスメティック バレー(Cosmetic Valley)」で行われる。

外箱に使用されるカートンは、FSC(エフエスシー)認証(持続可能な森林管理の証明)付きのリサイクル繊維、または管理された森林由来の紙が使用されている。2019年の紹介記事では、50mlおよび100mlボトルにリフィル(詰め替え)方式を取り入れ、廃棄物の削減を図る設計が紹介されている。

クリーン処方:最大99%の自然由来成分

「クリーン(clean)」な処方へのこだわりも顕著だ。ブランドは最大99%の自然由来成分を使用し、着色料を加えない方針を掲げている。パラベン、フタル酸エステル、ホルムアルデヒド、BHA(ビーエイチエー)、EDTA(イーディーティーエー)、フェノキシエタノールなどの不使用や、ヴィーガン対応・動物実験不実施(クルエルティフリー)も、ブランド紹介資料で説明されてきた特徴だ。

香水ラインナップ

10のフレグランスファミリーと数字のシステム

ボン パフューマーはオードパルファムをはじめ、30本以上の香水を展開しており、その全ラインが10のフレグランスファミリーに分類されている。各ファミリーにはカラーコードが与えられ、ボトルのラベルバンドの色がそのままファミリーを表している。

番号帯ファミリー名カラー香りの傾向
000番台コロン(Cologne)グレーシトラス中心の爽快な香り
100番台フローラル(Floral)ライトピンクデリケートな花々のブレンド
200番台フルーティ(Fruity)イエローフルーツの軽やかな香り
300番台アンバー&スパイシー(Amber & Spicy)レッド官能的でインテンスな香り
400番台バニラ&ムスク(Vanilla & Musk)パープルバニラやムスクの温かみある香り
500番台グルマン(Gourmand)マゼンタスイーツを思わせる甘い香り
600番台ウッディ(Woody)グリーン力強くウォームなウッドノート
700番台アロマティック(Aromatic)ブラウンハーブとウッドが交わる個性的な香り
800番台アクアティック(Aquatic)ブルー夏を運ぶ清涼感あふれる香り
900番台スペシャル(Special)ブラック分類不可能な異端の香り

代表的な香水

コレクションの中でも特に知られる香水をいくつか紹介する。

001(オードパルファム) — コロンファミリーの起点にして、ブランドを象徴する一本。オレンジブロッサム、プチグレン、ベルガモットのトリオが奏でるタイムレスなコロン。「誰もが愛する、包み込むような上品な柔らかさ」を持つ、ブランドの「コロン アンテンポレル(La Cologne Intemporelle)」として愛されている。

105(オードパルファム) — ルドヴィックが「最初に創った香水」と語るフローラルファミリーの一本。ロンドンのホクストン スクエア(Hoxton Square)にインスパイアされたダーク ローズだという。マンダリン、フリージア、サフランから始まり、ジェラニウムとシナモンが絡み合い、サンダルウッドとシダーで落ち着く、アンドロジナスなスパイシー ローズ。後にロンドンのファッションブランド・YMC(ワイエムシー)とのコラボレーションで「105 YMC(ワイエムシー)」として特別版がリリースされた。

602(オードパルファム) — ペッパー、シダー、パチョリを柱とするウッディファミリー。ルドヴィックがオーヴェルニュ(Auvergne)の散歩を思い起こすという香りで、中国を含むアジアの顧客にも支持されてきた。「ボン パフューマーとアジアが出会ったのは、まさにこの602の地・オーヴェルニュだった」とルドヴィックは語る。

502 イリス カルタヘナ(Iris Cartagena、エクストレ・ド・パルファム) — コロンビアへのトリビュートとして生まれたグルマン ファミリーの香り。クレマン マルクス(Clément Marx)による創作で、ラム、カカオ、マンダリンのプチグレンから始まり、アイリスとバニラのクリーミーな心地よさへ移行し、コーヒー、ヴェティベール、サトウキビ、パピルスで落ち着く。「カルタヘナの夜を香水にしたかった——コロンビアとその香りへのオマージュだ」とルドヴィックは語っている。

ミックス&マッチ——「自分だけの香りを作る」哲学

ボン パフューマーの最大の特徴のひとつが、ミックス&マッチ(Mix & Match)という思想だ。各ボトルのラベルには、相性の良い他の香水番号が記載されており、2〜3本を重ねてスプレーすることで、市場に存在しないビスポーク(bespoke)な香りを生み出せる。ルドヴィックはエル(ELLE)誌のインタビューで、「季節、天候、気分に合わせて2〜3種をレイヤリングするのが好きだ。例えば今朝は602と004を合わせた」と明かしている。

このアプローチについて彼はこう語る。「レイヤリングはいつも自然なことに感じていた。洋服を選ぶようなものだ。ベースとなる香りを第二の肌のように纏い、スカーフのような軽いタッチを加えるか、コートのような深みを加えるか——あるいは、肌と髪と洋服に別々の香りをつけて、立体感と動きを出すこともできる」。

ちなみに…

ブランド名の二重の意味: 「ボン パフューマー(Bon Parfumeur)」は「素敵な調香師」というフランス語の意味であると同時に、「ボン(Bon)」の3文字が創業者の姓「ボヌトン(BONneton)」と重なるという、遊び心のある二重構造をなしている。

キャリアの多様性: ルドヴィックのリンクトイン(LinkedIn)プロフィールによれば、彼のキャリアはロレアルのプロダクトマネージャーからスタートし、不動産ポータルサイトの創業、バケーションレンタル会社のeコマース責任者、そしてイヴ ロシェのデジタル責任者を経て調香師の世界へ踏み込んだという、異色の軌跡をたどっている。香水業界の出身ではない視点が、このブランドの型破りなコンセプトを生んだともいえるだろう。

コロンビアで完結する円環: ボン パフューマーが生まれた地・コロンビアで、ルドヴィックは2025年にブランドを正式ローンチし、フレグランス愛好家や地元メディアに向けてマスタークラスを開催した。旅の出発点がそのまま凱旋の地となった——そんなエピソードが、このブランドの「人生を香りに刻む」という哲学を体現している。

パリの3店舗と中国4店舗: 2025年時点で、パリ市内に3店舗(マレ地区の11 Rue des Francs-Bourgeois(フラン ブルジョワ通り11番地)、68 Rue du Faubourg Poissonnière(フォブール ポワソニエール通り68番地)、17 Rue Sainte-Croix de la Bretonnerie(サント クロワ ド ラ ブルトヌリ通り17番地))を構え、中国にも4店舗を展開している。日本ではブルーベル・ジャパンが正規販売代理店を務め、ジャルダン デ パルファム等の店舗を通じて取り扱っている。

参考文献