一卵性双生児は、体臭の材料まで似ている?

一卵性双生児は、体臭の材料まで似ている? 香りの科学

人それぞれの体臭には、体が作る成分の違いがどれくらい関わるのでしょうか。一卵性双生児12組の脇の分泌物を調べた研究では、においのもとになる成分の組み合わせが、血縁のない人同士より双子同士でよく似ていました。

興味深いのは、同じ人でも採取日が違うと成分の比率が変わったことです。体臭の材料には、双子で共有する特徴と、日によって動く特徴の両方がありました。

「その人らしいにおい」を化学成分から探す

KuhnとNatschの研究は、2008年にオンライン公開され、2009年の学術誌に掲載されました。目的は、人の体臭に遺伝的な特徴があるという考えを、具体的なにおい成分の分析につなげることでした。

皮膚から検出される揮発成分には、体内で作られたものだけでなく、香水や化粧品に由来するものも混ざります。また、機械で検出できる成分すべてが、人の鼻にとって重要とは限りません。研究チームはそこで、脇のにおいに関わることが知られているカルボン酸の一群に対象を絞りました。

これらの酸は、皮膚から出るときにはグルタミンと結合した、においが出にくい「前駆体」の形を取ります。皮膚の細菌が持つ酵素によって結合が切れると、においのある酸が放出されます。今回は、この仕組みを利用して、人が分泌した材料の構成を比べました。

左右の脇を、日を変えて2回採取する

募集したのは一卵性双生児14組です。そのうち2組は、一方の参加者で多くの測定成分が検出限界を下回ったため除外され、最終的に12組24人を解析しました。

参加者は45~60分の運動中、左右の脇に綿のパッドを付けました。採取は1週間以上間隔を空けて2回行い、左右の試料も別々に分析しています。24人×2日×左右で96試料になる予定でしたが、1試料が失われたため、実際の解析は95試料でした。

食事や採取する時刻は統一せず、参加者は普段の生活習慣を保ちました。そのため、個人ごとの特徴に加え、日による変動も含んだ比較になっています。

全員の試料に同じ酵素を加えた理由

採取後は細菌による変化を抑える処理をし、抽出した試料に、組換え技術で作った共通の酵素N-AGAを十分な量だけ加えました。前駆体から酸を切り離す条件をそろえることで、皮膚にいる細菌の種類や働きの個人差をできるだけ小さくし、分泌された材料そのものに近づこうとしたのです。

複数人の試料を混ぜた比較では、酵素を加える前のにおいは弱く、加えた後には典型的な強い脇のにおいが生じました。研究チームは酵素処理で大きく増える成分に着目し、その中から全試料で測定できる24成分を選びました。

分析には、二つの分離工程を組み合わせる二次元ガスクロマトグラフィーと質量分析を使いました。酸を測定しやすいメチルエステルに変える工夫もしています。従来の方法では重なったり、検出しにくかったりする微量成分を、個人別に比較できるようにすることも、この論文の重要な成果でした。

つまり、ここで測ったのは、一定の酵素処理で前駆体から引き出した成分の構成です。普段の肌から空気中へ出ている体臭全体を、そのまま採った値とは区別する必要があります。

双子の成分構成は、別の人同士より近かった

汗の採れた量には差があるため、研究チームは各成分が占める相対的な割合を使いました。24成分のうち不規則な変動が大きかった1成分を除き、23成分の組み合わせがどれほど似ているかを計算しています。

数値が小さいほど似ている「距離」の平均は、同じ人・同じ日の左右の脇で0.09、同じ人の別の日で0.15、双子同士で0.18、血縁のない別の組の人同士で0.33でした。これは成分比から計算した指標で、鼻で感じるにおいの強さや、似ている割合を表す数値ではありません。

双子同士の違いは、同じ人を別の日に採ったときの違いより少し大きい程度で、血縁のない人同士より小さくなりました。男女の組み合わせを分けても、双子が近いという全体像は保たれていました。

さらに、各人の複数試料を平均して比較すると、24人中18人では、ほかの誰よりも自分の双子の相手が近い位置に入りました。別の4人でも、双子の相手が2番目に近い人でした。複数の統計的な整理方法でも、多くの双子の組が近くにまとまる傾向が確認されています。

似ていても、日々の変化と個人差は残る

一方で、すべての双子の組が完全にまとまったわけではありません。双子の中でも違いが見える組があり、同じ人でも採取日による変動が明確でした。成分ごとの解析でも、双子の組の間の違いが大きいものと、個人や採取日の違いが目立つものがありました。

著者らは、この結果を、体臭の材料の構成に遺伝的要因が関わる有力な手がかりと考えています。ただし、今回の比較には二卵性双生児の対照がなく、双子が共有してきた環境の影響と遺伝の影響を厳密に分ける設計ではありません。論文にある「組の違いが分散の平均51.5%を占める」という値も、体臭の遺伝率として読み替えることはできません。

また、体臭には硫黄を含む化合物やステロイドなど、今回の対象外の成分も関わります。実際のにおいには、材料の構成に加えて、細菌の働きや洗浄などの生活条件も重なります。免疫に関わるHLA遺伝子との関連は将来の研究課題として論じられましたが、この研究で原因となる遺伝子を特定したわけではありません。

まとめ

一卵性双生児12組の研究では、共通の酵素で脇の分泌物から放出させた酸の構成が、血縁のない人同士より双子同士で近くなりました。日を変えて採った同じ人の試料にも変動があり、体臭の材料には、比較的共通して保たれる特徴と日々の変化が共存していました。

微量のにおい成分を分けて測る方法によって、「その人らしい体臭」を、分泌される前駆体の組み合わせとして調べられるようになった点が、この研究の大きな収穫です。

論文では、著者2人はいずれもGivaudan Schweiz AG所属と記載されています。独立した研究資金・利益相反の声明は、確認した主本文には見当たりません。

参考文献

Kuhn F, Natsch A. Body odour of monozygotic human twins: a common pattern of odorant carboxylic acids released by a bacterial aminoacylase from axilla secretions contributing to an inherited body odour type. Journal of the Royal Society Interface. 2009;6(33):377–392. doi:10.1098/rsif.2008.0223. 公開原著全文.