自宅の香りに慣れると、外へ出てもすぐには戻らない?

自宅の香りに慣れると、外へ出てもすぐには戻らない? 香りの科学

同じ香りのある部屋で過ごしていると、だんだん気にならなくなる。その変化は、部屋を出ればすぐ元どおりになるとは限りません。1996年の研究では、自宅で2週間同じ香りに触れた女性8人全員に、その香りへの感度の低下が見られました。

香りを撤去してから2週間後にも、4人は曝露前の感度まで戻りきっていませんでした。研究者は、数分の実験で起こる鼻の慣れと、日常環境で長く香りに接することで起こる慣れを比較し、自宅での感じ方と実験室で測る感度の関係も調べています。

短い時間の「慣れ」は、別の香りにも起こるか

まず、男女8人で短時間の実験を行いました。使ったのは、柑橘様のシトラルバと、針葉樹を思わせる酢酸イソボルニルという、香りの異なる2種類の単一成分です。参加者ごとに感じる強さを近づけてから、どちらかを5分間繰り返し嗅ぎ、途中で両方の香りの強さを評価しました。

嗅ぎ続けた香りは早い段階から弱く感じられ、提示をやめると2分半の回復時間内に元の水準に戻りました。もう一方の香りにも小さな評定の低下がありましたが、嗅ぎ続けた香りの低下よりはるかに小さいものでした。

この確認により、長期間の実験では、自宅で流す香りと、実験室でだけ嗅ぐもう一方の香りを比べる設計が可能になりました。嗅覚全体の変化と、特定の香りへの慣れを区別するためです。

自宅に2週間、香りの装置を置く

長期間の実験には、短時間の実験とは別の女性8人が参加しました。年齢は18〜42歳で、4人ずつがどちらか一方の香りを担当しました。ファンで香りを広げる装置を寝室や寮の部屋に置き、2週間連続で運転しています。

実験室では、設置前に2回、使用中に1週間隔で2回、撤去後にも1週間隔で2回の検査をしました。さらに撤去24時間後には自宅でも検査しています。測定したのは、薄い香りを無臭の試料から見分けられる最低濃度に当たる「検出閾値」と、はっきり嗅げる5段階の濃度の強さです。

参加者は、部屋で過ごした時間、部屋の香りの強さ、入室してからどれくらい香りが続いて感じられるかも記録しました。在宅時間は人によって違い、実験室の検査も部屋を出て1〜2時間後の人から、4〜7時間後の人までいました。

2週間で、慣れた香りを見つけるには高い濃度が必要に

自宅で触れ続けた香りは、2週間後に全員が曝露直前より検出しにくくなりました。つまり、同じ香りの存在に気付くために、より高い濃度が必要になったのです。群全体でも2週間後の低下は統計的に有意でした。

一方、実験室でだけ嗅いだ対照の香りは、検査を重ねるにつれてむしろ検出しやすくなりました。研究者は、繰り返し検査する練習や知覚学習の影響を考えています。長く触れた香りの感度は、そのような上達と逆方向に変化していました。

強さの評価には、濃度による違いもありました。使用中に弱く感じられたのは、検査した5濃度のうち薄い2濃度です。高い濃度まで一律に弱くなったわけではなく、検査中にその香りをまったく検出できなくなった人もいませんでした。

撤去後は回復するが、人によって時間が違う

装置を撤去すると感度は回復方向に動きました。ただし、1週間後に曝露前の水準へ戻ったのは2人で、2人は途中まで、4人はまだ回復を示していませんでした。2週間後には4人が元の水準かそれ以上に回復し、残り4人は戻りきっていませんでした。

個人差と群平均は分けて見る必要があります。撤去2週間後の平均は曝露直前と統計的な差がなくなりましたが、検査を通じて感度が上がった対照の香りとの差は残っていました。全員が同じ速さで戻る、あるいは一定の日数で必ず戻るという結果ではありません。

短時間の実験では数分以内に戻ったのに対し、長期の実験では数日以上にわたる変化が見られたことが、この研究の重要な結論です。

自宅で弱く感じることと、検査の感度は関係していた

部屋の香りを弱く感じる人ほど、実験室でもその香りへの感度が低くなる関連がありました。また、長く部屋で過ごした人の方が、早い時点で感度の低下を示す傾向も見られました。ただし、在宅時間を無作為に割り当てた比較ではありません。

入室後に香りを感じ続ける時間も短くなり、2週目には1〜2分ほどと答える人もいました。一方、本人の報告では、訪ねてきた人は香りに気付いていました。これは、香りに接してきた履歴によって、同じ部屋の感じ方が違い得るという日常的な経験につながる所見です。

自宅という場所に戻るだけでさらに検出しにくくなるかも調べましたが、撤去24時間後の自宅検査では、その前日の実験室検査から追加の感度低下は確認されませんでした。ただし、香りの装置が稼働中の自宅を検査したわけではないため、場所や注意の働きをこれだけで除外することはできません。

まとめ

2週間、自宅で同じ香りに触れると、その香りを検出する感度が下がり、薄い濃度も弱く感じられました。部屋を離れた実験室でも変化が測定され、撤去後の回復には個人差がありました。

著者らは、長期の慣れには、感覚の反応の変化に加え、注意や記憶など複数の働きが関わり得ると考えています。女性8人と2種類の単一香料による研究ですが、「慣れた香りが弱く感じられる」という現象を、日常の自己申告だけでなく検出感度の変化として捉えた点に意義があります。

研究は米国NIHの研究助成とMonellへの研修助成を受けています。香りの提示装置についてWaterbury関係者、香料と助言についてInternational Flavors and Fragrancesへの謝辞があります。独立した利益相反の声明は見当たりません。

参考文献

Dalton, P., & Wysocki, C. J. (1996). The nature and duration of adaptation following long-term odor exposure. Perception & Psychophysics, 58(5), 781–792. https://doi.org/10.3758/BF03213109(原著PDF)