香水や柔軟剤のにおいがある場所で、片頭痛の発作が起きた。こうした経験を調べるとき、どんなにおいが挙がるかに加えて、同じ人がどのにおいを一緒に挙げるかにも手掛かりがあります。香りと片頭痛の関係は、製品名を頻度順に並べるだけでは捉えきれません。
2023年、今井昇らは、日本の頭痛外来に通う片頭痛患者101人の回答から、発作と関連すると報告されたにおいを分類しました。香水や柔軟剤は多く挙げられましたが、研究の中心は、回答に共通する傾向を探し、それが片頭痛のタイプなどとどう結びつくかを調べることでした。
患者101人に、においと発作の経験を尋ねた
対象は、2020年4月から9月に静岡赤十字病院の神経内科を受診し、専門医が国際的な診断基準に基づいて片頭痛と診断した人たちです。登録した102人のうち、記載が不十分な1人を除く101人を解析しました。年齢は22~75歳で、16人が慢性片頭痛でした。
質問票には35種類のにおいが用意され、発作との結びつき、関連する場所、においへの対処などを尋ねました。選択肢にない経験も自由記述で答えられました。実際に同じ濃度のにおいを嗅いでもらって発作を比べる実験ではなく、過去の経験を振り返って答える調査です。
香水55.4%、柔軟剤32.7%という数字の意味
101人中79人、78.2%が、何らかのにおいと発作との関連を報告しました。全101人を分母としたにおい別の割合は、香水55.4%、たばこ47.5%、柔軟剤32.7%、体臭32.7%などでした。同じ人が複数のにおいを挙げられるため、これらは互いに排他的な内訳ではありません。
この数字は、調査に参加した片頭痛患者のなかで、どのにおいが経験と結びつけられていたかを示します。一般の人が香水を嗅いだときに55.4%の確率で発作を起こす、という意味にはなりません。また、においに接する回数や濃度を揃えた比較ではないため、報告の多さをそのまま製品の危険度に置き換えることもできません。
においを六つの群に分けると、何が見えるか
研究者は、あるにおいを挙げた人がほかに何を挙げるかという回答の組み合わせを、因子分析という統計手法で整理しました。そこで得られたのは、①悪臭、②調理に関わるもの、③石油由来など、④シャンプーとコンディショナー、⑤洗浄関連製品、⑥香水・殺虫剤・バラ、という六つの群です。第五の群には、整髪料、洗濯洗剤、柔軟剤が含まれました。
これは、回答の似た傾向をまとめ、研究者が名前を付けた分類です。同じ群に入った製品がすべて同じ成分を含むことや、同じ仕組みで発作に関わることを化学分析で確かめたわけではありません。
例えば、シャンプーなどの群と、洗濯洗剤などの群には、どちらにも花を思わせる香りがありうるのに、回答では別のまとまりになりました。著者らは、入浴中と日常の生活空間では、温度や湿度、気持ちの状態などが異なることが関係した可能性を挙げています。これは今回直接検証した説明ではありませんが、香りの成分だけでなく、どんな場面で接するかも次の研究で確かめる視点になります。
さらに六つの群への回答傾向を使って患者側を分類すると、三つの集団に分かれました。におい全般を同じように挙げるというより、どの群と結びつけるかに違いがあったのです。この探索的な結果は、患者間の違いを研究する手掛かりであり、新しい診断分類が確立したということではありません。
慢性片頭痛との関連は、どう読むべきか
慢性片頭痛の患者では、そうでない反復性片頭痛の患者に比べて、第五の群である洗浄関連製品と発作との結びつきが強く見られました。著者らは、片頭痛の慢性化に伴い、一部の化学物質に対する敏感さが増す可能性を考えています。
ただし、今回調べたのは、その時点で異なるタイプの片頭痛をもつ人たちの回答です。同じ人を慢性化の前後で追跡したわけではないため、慢性化によって敏感になったのか、においへの反応と別の要因が重なっているのかは分かりません。慢性片頭痛の参加者は16人と少なく、そのうち12人には薬剤の使用過多による頭痛も併存していました。見つかった関連の背景を分けて調べる必要があります。
においが先か、発作に伴う変化が先か
著者らは、論文の冒頭から「誘因」と考えられているものを、まずは「関連する要因」と捉える姿勢を示しています。過去を振り返った回答だけでは、においが発作を引き起こした場合と、発作の早い段階ですでににおいをつらく感じやすくなり、そのにおいを誘因と捉えた場合を区別しにくいからです。
この区別は、本人のつらさが本物かどうかを判定する話ではありません。においをつらく感じ、発作と結びついたという経験を受け止めたうえで、何がどの順番で起きたかを確かめるための問いです。調査に伴う記憶の偏りや結びつけ方の違いも、訴えを無視する理由ではなく、研究方法を工夫する理由になります。
また、一つの地域の頭痛診療を担う外来での調査なので、症状が重い人が集まりやすい可能性があります。この結果を、片頭痛患者全体や、香りによる体調不良を訴えるすべての人に広げることはできません。
著者らは、関連するにおいを把握できれば、避けることで発作の予防につながる可能性にも触れています。ただし、この調査は回避の効果を試していません。患者が使っていたマスクや空気清浄機なども、使用状況を聞いたもので、効果を比較した結果ではありません。研究の次の段階としては、においに接した時刻、においをつらく感じ始めた時刻、頭痛の経過を前向きに記録し、今回の関連が再現するかを確かめることが重要になります。
まとめ
この研究が示したのは、片頭痛患者の経験には、香水や柔軟剤を含む複数のにおいとの結びつきがあり、その回答を六つの群に整理できるということです。洗浄関連製品の群と慢性片頭痛との関連も、さらに調べるべき手掛かりになりました。
においの報告頻度だけでなく、患者ごとの違いや接する場面、発作の前後関係を見る。そうすることで、患者の経験を整理することから、その背景を確かめる研究へ進めます。今回の結果は、すべての香水の危険性を一括して決めるものではなく、香りと片頭痛の結びつきをより具体的に検証する出発点です。
参考文献
著者:Noboru Imai, Ayako Osanai, Asami Moriya, Masahito Katsuki, Eiji Kitamura
論文名:Classification of odors associated with migraine attacks: a cross-sectional study
掲載誌:Scientific Reports 13, 8469(2023年)
DOI:10.1038/s41598-023-35211-7
原著全文:Scientific Reportsの公開全文
権利表記:原著はCreative Commons Attribution 4.0 International(CC BY 4.0)で公開されています。


