ジャルディーニ ディ トスカーナ(Giardini di Toscana)――トスカーナの庭園が宿す、四代にわたる香りの物語

ジャルディーニ ディ トスカーナの世界観と代表製品「Bianco Latte Eau de Parfum 100ml」を表現したブランドイメージ ブランド創業者

「ビアンコ ラテをつけて初めて街を歩いたとき、名前を聞こうと人々が私のあとをついてきました。調香師として五十年以上のキャリアで、そんな経験は一度もありませんでした」
シルヴィア・マルティネッリ(創業者・調香師)

基本情報

設立 1942年(香水店創業)/2016年(法人設立)
創設者 シルヴィア・マルティネッリ(Silvia Martinelli)
共同経営者 ウンベルト・ドーニ・ジャンニーニ(Umberto Doni Giannini、代表取締役CEO(シーイーオー)・シルヴィアの息子)
本社所在地 イタリア・トスカーナ州ビッビエーナ(8月28日通り7番地/Via XXVIII Agosto, 7)
公式サイト https://www.giardiniditoscana.com

📌 読み方の補足:「Giardini di Toscana」はイタリア語で「トスカーナの庭園」を意味し、「ジャルディーニ ディ トスカーナ」と読みます。

創設者・ブランドの成り立ち

1942年:薬剤師の祖父が刻んだレシピ帳

ジャルディーニ ディ トスカーナの物語は、1942年のイタリア中部に始まる。トスカーナ州南東部、アルノ川上流の深い緑に包まれたカゼンティーノ地方——そこに佇む中世の面影を残す村、ビッビエーナ。シルヴィア・マルティネッリの祖父母、ジョバン・ピエロ(Giovan Piero)とエンマ・ドゥッチ(Emma Ducci)は、この村に小さな皮革製品や香水・軟膏を扱う店を開いた。

ジョバン・ピエロは薬剤師としての経験を活かし、独自の香水、石鹸、軟膏を調合した。その処方は手書きの「レシピ帳」に丁寧に記録されていった。このレシピ帳は今日もシルヴィアが大切に保管しており、ブランドのルーツを象徴する家宝となっている。

1960年代:母イルマが店を継ぎ、ブティックへと変貌

1960年代、店は祖父母の娘であるイルマ(Irma)に引き継がれた。イルマは持ち前のセンスと情熱で、もともとの小さな店を格調高い香水ブティックへと変貌させた。イタリアの調香文化が花開いていく時代に、ビッビエーナの小さな店は地域で知られるエレガントなアトリエとなっていく。

シルヴィアの幼少期:香りの中で育った感性

このブティックで生まれ育ったのが、シルヴィア・マルティネッリである。棚にはきらめくメゾン・ド・パルファンのボトルが並び、店の奥では特別な顧客のためにパーソナライズされたエッセンスが調合されていた。そうした環境の中で、シルヴィアは幼いころから唯一無二の嗅覚的感性を育てていった。

公式サイトの自己紹介の中で、彼女はこう語っている——「母と祖父母から、地方の現実を超えて探求したいという欲求と、フランス・イギリスの偉大なクチュリエに典型的な洗練と優雅さを求める生き生きとした好奇心を受け継ぎました」。

40年以上の現場経験とイタリア・フランスの調香学校

シルヴィアは40年以上(のちに50年以上と語るようになる)にわたって家業に従事した。メイクアップアーティストとして働き、化粧に関する著書「Make-Up. Tutti i trucchi del trucco(メイクアップ:トゥッティ・イ・トルッキ・デル・トルッコ)」(ソヴェーラ・エディツィオーニ、2013年)も執筆した。ファンデーションの香りに幼いころから魅了されていたと語るほど、彼女にとって香りは生活と切り離せない存在だった。

並行してイタリアとフランスの名門調香学校でも専門的な教育を受け、職人的な感性に理論的な裏打ちを加えていった。顧客から「特定の記憶を呼び起こす香水を作ってほしい」と個別に依頼されることも多く、カスタム調香の経験が彼女のいわば「感情的な嗅覚ライブラリ」(emotional olfactory library)を形成していった。

2010年:最初の作品 Eremo(エレーモ)と Madrigale(マドリガーレ)

シルヴィアが初めてブランドの香水として世に出した作品は、2010年に制作した「エレーモ(Eremo)」と「マドリガーレ(Madrigale)」だった。この二作は後に廃盤となったが、彼女の調香師としてのキャリアの原点となった。

「私はいつも予期せぬ嗅覚的な物語を作り出すのが好きでした」
シルヴィア・マルティネッリ

2015年末:8種のオードパルファン(EDP)を一斉ローンチ、ビアンコ ラテの誕生

2015年末、シルヴィアはビアンコ ラテを含む8種のオードパルファンを正式にローンチした。このときブランドは社名として「ジャルディーニ ディ トスカーナ」を冠し、2016年1月に法人としての活動を本格的に開始した。

ビアンコ ラテは発売前からすでに噂を呼んでいた。シルヴィアが試作品を纏って街を歩くと、見知らぬ人々が香りに引き寄せられて追いかけてきたという。彼女の長い経験の中でも初めての出来事だった。

「インスピレーションは顧客の声から生まれ、彼女たちの物語や共有された感情から育ちました。避難所のような、優しさのしぐさのような香水を作りたかった。ビアンコ ラテはミルク、ハチミツ、キャラメルでできていますが、それ以上に感情でできています。嗅覚的な抱擁、慰めと寄り添い」
シルヴィア・マルティネッリ

2019年〜:デジタルへの投資とグローバル展開

2019年にはeコマースをスタートし、初のディスカバリーキット(お試しセット)を発売。2020年にアメリカ市場へ進出し、その後ヨーロッパ各国へと展開を加速させた。

TikTok(ティックトック)を中心としたSNSでビアンコ ラテが口コミで広がり始めると、売上の伸びは急激なものとなった。2022年には80万ユーロだった売上高が、2023年には600万ユーロ超、2024年には1,800万ユーロ近くへと、わずか3年で約22倍に成長した。

「TikTok(ティックトック)はビアンコ ラテがすでにそうであったもの——本物のコネクション——を増幅したにすぎません。私たちは2019年からデジタルへの投資を続け、本物のコンテンツを作ってきました。愛好家やクリエイターたちの自然な口コミが残りをやってくれた。デジタルは今やマーケティングだけでなく、関係性です」
シルヴィア・マルティネッリ

「ビアンコ ラテ」を含む動画のティックトックでの総再生回数は累計1億8,000万回を記録し(ブランド調べ)、インスタグラムには関連投稿が6万3,000件以上蓄積されている。ニッチフレグランスとしては異例のバイラル現象といえる。

2025年12月5日には日本へも初上陸。東京のNOSE SHOP(ノーズショップ)麻布台・銀座などでの販売が始まった。2026年3月現在、80カ国以上、690以上の小売店に展開している。

ブランドのこだわり

香りづくりの哲学:感情と記憶を纏う、見えない芸術

ジャルディーニ ディ トスカーナのすべての香水は、シルヴィアが自らの手で生み出す「作家的な香水(author’s perfume)」だ。流行やジェンダーに縛られず、すべてのオードパルファンはユニセックス・高濃度で設計されている。

「私たちは香水を、見える者のためではなく、存在したい者のために作る。感じるものの中に自分を認識できる者のために」
ジャルディーニ ディ トスカーナ 公式サイト

シルヴィアは香水を考えるとき、常に「匂いと色のシナスタジア(共感覚)」を意識すると語る。ビアンコ ラテは「クレームシャンティリー」の白、チェレステ(Celeste)は「5月の晴れた春の日」の淡い青——香りのコンセプトに色の感覚が溶け込んでいる。

「香水を作るとき、私はいつも匂いと色のシナスタジアを考えます」
シルヴィア・マルティネッリ

素材へのこだわり:天然素材と最高品質の原材料

香水の処方から市販まで最低2年のリードタイムをかけ、数多くのテストを重ねる。厳選した天然素材——精油、花、樹脂——に加え、研究室で再現された合成分子も用いる。原材料の入手が困難になった際には、一部のフレグランスの生産を一時停止したこともあったという。

「私たちの香水に似せたデュープ(dupes)は、同じ処方・素材を持ちません。私たちは使用する原材料に非常に気を遣っています」
シルヴィア・マルティネッリ

ボトル・パッケージのデザイン:サステナブルな美学

研究・開発・生産はすべてイタリア国内で完結する。ボトルはイタリアの老舗ガラスメーカーが製造しており、50%のリサイクルガラスを使用し、旧来より10%少ないガラス量で設計されている。ボックスには70%、ボトルには50%のリサイクル素材を使用。

キャップには、国内外の自然災害などで傷を受けた森林の木材を採用している。また、森林再生イニシアチブ「WOWnature(ワウネイチャー)」のパートナーとして、生産プロセスで排出するCO₂以上の吸収を目指した植林・持続可能な森林管理プロジェクトを積極的に支援している。

香水ラインナップ

新コレクションのトリロジーに先立つ定番ラインは、13種のオードパルファン(100ml)で構成されている。その価格帯は€125〜€155(特別なラインを除く)で統一されており、すべてシルヴィアが自ら調香した。

ビアンコ ラテ(Bianco Latte)——看板作品

ブランドを世界的に知らしめた最重要作。「白いミルク」を意味するその名の通り、キャラメルのトップにハニーとクマリンのハート、バニラとホワイトムスクのベースで構成されたグルマン系フレグランス。

1992年のティエリー・ミュグレーのエンジェルを代表例として発展してきた食べ物系の香りは、ビアンコ ラテによって近年ふたたび大きな注目を集めることになった。シルヴィア自身は「グルマン(gourmand:食のコノサーを意味するフランス語で、食欲をそそる甘い香りの系統)の復権作」とは意識せずに作ったと語るが、2020年代の「ネオグルマン」トレンドの火付け役として香水業界内では広く認識されている。

カラーシリーズ:名前に色を宿す香水たち

ブランドの香水の多くは色彩と結びついた名前を持つ。シルヴィアの「匂いと色のシナスタジア」哲学が反映されたものだ。

  • チェレステ(Celeste)——「空色」。ライムとシー・ノートのトップ、バイオレット・ラズベリー・エキゾチックフラワーのハート、バニラとアンブロキサンのベース。地元の顧客の娘の名前にちなんで命名された。
  • ロッソ ルビーノ(Rosso Rubino)——「ルビーレッド」。ベルガモット・レモン・オレンジのトップ、ローズ・ベリー・カカオのハート、パチョリとオークモスのベース。
  • ロッソ ラディーチェ(Rosso Radice)——「深紅の根」。ベルガモット・ピンクペッパーのトップ、カシュメランのハート、ベチバー・アンブロキサンのベース。
  • ブル マーレ(Blu Mare)——「青い海」。ベルガモット・グレープフルーツ・レモン・ピンクペッパーのトップ、シーノートとサイプレスのハート、アンバーとオークモスのベース。地中海の海岸を思わせるアクアティックウッディ系。
  • ブル インダコ(Blu Indaco)——「藍色」。詳細な一次情報は確認できなかったが、インディゴブルーのニュアンスを持つ香り。

その他の主要フレグランス

  • アルマフォーリア(Almafolia)(€145)——チューベローズ(tuberose:夜の女王とも呼ばれる白い香花)を主役に据えたフローラル・アンバー系。チューベローズ・スイートオレンジ・ピーチのトップから、ジャスミン・ホワイトローズ・イランイラン・ココナッツが広がり、アンバーとバニラに落ち着く。
  • ボラボラ(Borabora)——南太平洋の楽園をイメージしたトロピカル系。ティアレ・イランイラン・ジャスミン・アプリコットのトップ、ジャスモラクトンとホワイトムスクのハート、バニラ・アンバー・キャラメルのベース。
  • シャビー シック(Shabby Chic)——ピオニーのトップ、ホワイトフラワー・ブルガリアンローズのハート、ムスク・ジャバノール・シダーウッドのベース。
  • シンティッラ(Scintilla)——「眩い閃光」の意。アップル・パイナップル・ブラックカラントのトップ、アイリス・バイオレット・ジャスミンのハート、オークモス・アンバーのベース。
  • コロニア ノービレ(Colonia Nobile)クリストス(Christos)ビアンコ オーロ(Bianco Oro)の3種についても公式サイトに掲載されているが、詳細なノート情報の一次情報は現時点では確認できなかった。

トリロジー(Trilogy)——2026年最新コレクション

2026年3月、ジャルディーニ ディ トスカーナは新コレクション「トリロジー(イタリア語名:Trilogia/トリロジア)」を発表した。シルヴィアのヴィジョンのもと、「自然」「感情」「美」という三つの次元を探求した3本のユニセックス フレグランスである。

「三つのプロファイル、三つの存在の次元。どの香水も独自のアイデンティティを持ちながら、一つの哲学を共有している——押しつけるのではなく、選ぶ者のパーソナリティと歴史の一部になること」
ジャルディーニ ディ トスカーナ 公式サイト

  • ヴェルデ レスピーロ(Verde Respiro)——「緑の息吹」。自然との深い再接続を求める意図から生まれた、フレッシュでグリーンな香り。
  • リコルダミ(Ricordami)——「私を覚えていて」。感情の記憶と愛着のテーマから生まれた、強く印象的な香り。
  • オーロ エ ミエーレ(Oro e Miele)——「金とハチミツ」。グルマン・プードレ(gourmand poudré:食のコノサー系と粉っぽさを合わせた香調)の系統に属する、美そのものをテーマにした香り。

ちなみに…

祖父のレシピ帳が現役で残っている
1942年に祖父ジョバン・ピエロが薬剤師として蓄積したノウハウを記したレシピ帳は、現在もシルヴィアが手元に保管している。直接の参照があったかは不明だが、家族の香りの記憶をつなぐ象徴的な存在として語られている。

「偽物」との戦い
ビアンコ ラテの爆発的な人気は、世界規模での「デュープ(dupe)」——オリジナルの香りを模した廉価品——市場を生み出した。シルヴィアはインタビューで「正直に言えば、コピーされることは嬉しい」と余裕を見せながらも、未認証の化学物質を含む偽物については健康上のリスクを公式SNSで警告している。

ポッドキャスト「イン・エッセンツァ(In Essenza)」
2025年6月20日、ジャルディーニ ディ トスカーナはイタリアの大手ポッドキャスト制作会社「チョーラ・メディア(Chora Media)」と共同制作した3エピソードのポッドキャスト「In Essenza(イン・エッセンツァ:エッセンスの中に)」を公開した。嗅覚の解剖学的・記憶的・感情的な側面を科学者や芸術家の証言を交えて探求する内容で、ナレーターはレオナルド・マッツェオ(Leonardo Mazzeo)、シルヴィアも各エピソードに登場する。

参考文献