Nikos Parfums(ニコス・パルファン)― 彫刻と神話が香りになるとき

ニコス パルファンの世界観と代表製品「Sculpture Le Classique Eau de Toilette 100ml」を表現したブランドイメージ ブランド創業者

「私が建てたものはすべて崩れ落ちた。人間が死ぬために生まれるように、私が作ったものもすべて崩れ落ちた」

― Nikos Apostolopoulos(ニコス・アポストロプーロス)

基本情報

  • 設立年(香水部門): 1994年
  • 創設者: Nikos Apostolopoulos(ニコス・アポストロプーロス)
  • 公式サイト: https://www.nikos-sculpture.com

創設者・ブランドの成り立ち

パトラからパリへ――法学者の夢

ニコス・アポストロプーロスは、ギリシャのペロポネソス半島に面する港湾都市パトラで生まれた。彼が後に語るように、その少年時代は「素晴らしい家族の中で育ち、たくさんの愛と消えることのない香りに囲まれた」幸福なものであり、夢はいつもパリに向いていた。

18歳でアテネ大学法学部に進学し、1975年に卒業。続いてパリのソルボンヌ大学(パリ第一大学パンテオン=ソルボンヌ)で学んだ彼は、国際法(ヨーロッパ法)と政治学を学び、博士号などの学位を取得している。学位の種類や渡仏時期については資料間で記述が異なり、詳しい時系列は明らかではない。元々は外交官の道を志していたというが——「外交官になりたかった。その世界がとても好きだった」と後のインタビューで述懐している——取得した学位はむしろ実務への扉を開いた。

1980年、アポストロプーロスはパリのギリシャ商工会議所のマネージャーに就任する。その後1981年から1985年まで、大手ファッション関係の企業ジャン・クロード・ド・ルカでマーケティングマネージャーを務めた。この時期に彼は「ファッションの世界に対して絶対的な知識を持つようになった。それは魔法の世界だ」と確信を深めていく。

転機となったのは、ファッション業界の大手メゾンのディレクターを務めていたフランス人女性との出会いだった。「彼女が私に病みつきにさせてくれた」と本人は語っている。法学・外交官という当初の人生設計を大きく曲げる決断——しかしその「曲がり角」こそが、やがて世界的ブランドの誕生へとつながることになる。

ファッションデザイナーとしての台頭(1985〜1993年)

1985年、アポストロプーロスはパリで自身のファッションハウスを立ち上げる。最初のコレクションはメンズの下着・水着だった。彼のデザイン哲学の根底には、古代ギリシャの美の理想があった。

「私は古代ギリシャ人のようにしたかった。彫刻を見ればわかる。アレクサンダー大王からアリストテレスまで、古代の歴史はとても豊かで、男たちは自分の身体を大切にしていた。」

― ニコス・アポストロプーロス(Nikos Apostolopoulos)

彼はこうした美学をコットンとライクラを用いた伸縮性の高いミニマルな衣服に落とし込み、「下着は下着ではなく、服だ――外に着て出られるものだ」という革新的な主張を実践した。『コンテンポラリー・ファッション(Contemporary Fashion)』(当時の主要なファッション百科事典)はこのアプローチを「神々と半神が纏うコスチュームの現代的再解釈」と評している。

1987年にはレディースの下着・水着と、フルコレクションのメンズウェアへと拡大。1988年にはジーンズコレクションも展開し、ブランドの幅が広がった。そして1988年には、アメリカ人フォトグラファーのヴィクター・スクレブネスキーとのコラボレーションを実現。ハーブ・リッツ、グレッグ・ゴーマン、ティアンといった世界的写真家たちもキャンペーンに名を連ねていった。

さらに特筆すべきは、ニコスがファッションデザインにとどまらず舞台衣装の仕事も手がけた点だ。1989年のパリ春のフェスティバルではモンシニー作曲のオペラ「カディ・デュペ」の衣装を担当し、1990年にはモンペリエ・フェスティバルでリヒャルト・シュトラウスの「サロメ」の衣装も手がけた。バレエ・ドゥ・モンテカルロやジュネーブ現代バレエ・フェスティバルとの仕事もあったとされている。

「すべてのショーには演劇・映画・古代ギリシャをテーマに持たせた。舞台はキャラクターを生み、観客を別世界へ誘う場だった。」

― ニコス・アポストロプーロス(Nikos Apostolopoulos)

彼のショーは、モデルがただ歩くだけのパレードではなく、演劇的な演出に満ちた「体験」として当時大きな注目を集めた。

香水への転換、そして「彫刻」の誕生(1994〜1995年)

1994年、アポストロプーロスはランカスター社(Lancaster)のプロデュースのもと、初の香水「スカルプチャー(Sculpture)」を女性向けに発売した。『アドバタイジング・エイジ(Advertising Age)』は同年7月にランカスターの新しい香水ラインへの参入を報じており、この香水がいかに業界から注目されていたかがうかがえる。

スカルプチャー・プール・ファムは1994年のリリースであり、調香師はJean-François Latty(ジャン=フランソワ・ラティ)が担当。タラゴン、ピーチ、フリージアを核にしたトップノート、イランイラン・ジャスミン・オーキッドなど豊かなフローラルのミドルノート、そしてバニラ・サンダルウッド・トンカビーンが織りなすオリエンタルなベースノートが重なり合う複雑な構成で、「どのカテゴリーにも当てはめることができない」唯一無二の香りと評された。

翌1995年には男性向けの「スカルプチャー・プール・オム(Sculpture pour Homme)」が続いた。WWD(ウィメンズ・ウェア・デイリー)は1995年4月の記事で「スカルプチャーの成功を受け、ニコスが男性向け香水の製造に乗り出す」と報じている。こちらの調香は、世界的な名調香師ミシェル・アルメラック(Michel Almairac)が担当した。

ブランドのこだわり

「彫刻」という名の哲学

ブランド名「スカルプチャー」は、古代ギリシャ彫刻への深いリスペクトを体現している。公式サイトに掲載されている1995〜1997年当時の広告テキストには、このような詩的な言葉が刻まれている。

「私は大理石の台座をゆっくりと見上げた……お前の大理石の身体が私の感覚を奪い去った。石の身体の中に、脈打つ命を送り出す魂があった。何世紀も、この美は復活するのを待っていた……私はこの刹那の永遠に名前をつけた:スカルプチャー……夢のメロディ……神話の力。スカルプチャー……生命のエリクサー。」

― ニコス・スカルプチャー(Nikos Sculpture)公式(1995〜1997年広告テキスト)

このコピーが示すように、スカルプチャーは単なる香水ではなく、古代の美の理想を現代の香りという形で復活させようとする文化的・芸術的プロジェクトとして位置づけられていた。

ボトルデザイン:海と彫刻が交わるところ

スカルプチャー・プール・オムのボトルは、地中海の帆船の帆(セイル)を模した特徴的なシルエットを持つ。底部が丸みを帯びているためキャップなしでは自立しない設計は、見る者に「不完全であることの完璧さ」を感じさせる。ガラスの透明感と重さ、そしてその独特のフォルムは、香水ファンの間で長年語り継がれてきた。

一方、初期の女性向け香水スカルプチャー・プール・ファムのボトルは台座(ペデスタル)の形を採用しており、それ自体が彫刻作品の台のように見える。箱はマーブル状の青とゴールドの文字でデザインされ、ギリシャの石柱と地中海の空を想起させる。

ブランドのシンボルはグリフィン(グリフォン:鷹の翼と獅子の身体を持つ伝説の生き物)であり、2つの楕円の中に描かれ「ニコス・パルファン(NIKOS PARFUMS)」の文字が配されている。このシンボルは「原始的な創造力、素材を芸術へと変える力」を象徴するものだと、ブランドのコンセプトを設計したデザインスタジオ「Saint of Athens(セイント・オブ・アテネ)」は説明している。

調香師へのこだわり

スカルプチャー・プール・オムを担当したミシェル・アルメラックは、1953年にフランス・グラース生まれの世界的調香師である。グラースはまさに香水の世界的首都として知られる土地で、彼は1972年に名門ルール・ベルトラン・デュポン(現在のジボダン〈Givaudan〉の一部)の香水学校に入学した。その後タカサゴ、クリエーション・アロマティーク、ドロム、ロベルテといったフレグランスハウスでキャリアを積み、ディオール、バーバリー、グッチ、クロエなどの名門ブランドに嗅覚的アイデンティティを与えてきた。

「フレグランスは単なる職業ではなく、私の人生そのものだ。」

― ミシェル・アルメラック(Michel Almairac)

香水ラインナップ

クラシック・ライン

ニコスの香水の原点にして頂点は、1990年代に発表された「スカルプチャー」シリーズのオリジナル2作品だ。

スカルプチャー・プール・ファム(1994年)は調香師ジャン=フランソワ・ラティによるオリエンタル・フローラルの傑作で、タラゴンの青草っぽさとイランイランの官能性が共存する独特の個性を持つ。「どのカテゴリーにも収まらない」という評は、発売から30年以上を経た現在も変わらない。

スカルプチャー・プール・オム(1995年)はミシェル・アルメラックが手がけ、ベルガモット・マンダリン・オレンジブロッサムの柑橘系トップノートから、ジャスミン・スズランのフローラルハート、そしてトンカビーン・アンバーグリス・ベンゾインの甘くバルサミックなベースへと展開する。「地中海の風と、ゆったりとした海辺の散歩」を想起させることを目指して作られたというこの香水は、1990年代のミドルマーケット香水の中でも異例の支持を獲得した。『コンテンポラリー・ファッション(Contemporary Fashion)』の評によれば「広範なメディア広告とともに展開され、当時の高級小売業者の不振にもかかわらず非常によく売れた」とされている。

現在、男性向けのオリジナルは「スカルプチャー・ル・クラシック(Sculpture Le Classique)」(オードトワレ、100ml・60ユーロ)として継承されており、30年越しのロングセラーとして現在も公式サイトで展開されている。

現代のコレクション

2020年代に入り、ブランドは古典的な美学を守りながら、現代の香水愛好家に向けた新コレクションを積極的に展開している。現在の公式サイトに掲載されているラインナップは以下の通りである。

スカルプチャー・ル・パルファン(Sculpture Le Parfum)(オードパルファン、100ml・90ユーロ)はオリジナルのスカルプチャー・オムをベースに、より濃厚なオードパルファン濃度に仕上げたアップグレード版であり、2022年にはアリエノール・マシュネ(Aliénor Massenet)という調香師による新解釈版も登場している。

スカルプチャー・ミコノス(Sculpture Mykonos)(オードパルファン・フレッシュ、100ml・90ユーロ)は2023年に発売されたユニセックス香水で、ギリシャの島・ミコノスの情景を香りで描く。スパークリングなベルガモット・グリーンレモン・ブラックペッパーのトップ、ラベンダーとバジルのハーブ的なミドル、そして大地を感じさせるベチバーのベースで構成される。ブランドのウェブサイトにはこの香水を表すテキストが掲載されている。

「夢の中の夢のように、灰色の日の後、青い海に眠る。お前は何も知らない——すべてが忘れられる……どこかから——もし判断できるなら——涼しい風を感じる。雲を追い払い、きらめく波を友に、霧のヴェールを通して光り輝く滴が踊る……ミコノスとは夢であり現実であり、永遠への停泊地だ。」

― ニコス(Nikos、スカルプチャー・ミコノスの公式テキスト)

スカルプチャー・ヴォワイアージュ・アン・オリアン(Sculpture Voyage en Orient)(オードパルファン、100ml・90ユーロ)は2024年発売のオリエンタル系ユニセックス香水。クローブ・ジンジャーのスパイシーなトップから、バニラ・シナモンのミドル、ミルラ・アンバーのベースへと流れる温かく異国情緒あふれる構成で、「東方への魂の旅」というコンセプトを持つ。

スカルプチャー・レヴリー(Sculpture Rêverie)(オードパルファン・サンスュエル、100ml・90ユーロ)も2024年のリリースで、調香師はカリーヌ・ヴァンション=スペナー(Karine Vinchon-Spehner)。チェリー・サフラン・赤胡椒の官能的なトップ、ローズ・オレンジフラワーのフローラルなハート、そしてカカオ・ブルボンバニラ・パチョリの濃厚なベースが組み合わさる、甘くスパイシーなユニセックス作品だ。

スカルプチャー・エール・ド・リュン(Sculpture Air de Lune)(オードパルファン・エクストレーム、100ml・90ユーロ)も同じく2024年作で、プラム・マンダリン・タジェット(マリーゴールド)の芳醇なフルーツ系トップから、プラリネ・クローブのリッチなハートへ、パチョリ・ブルボンバニラ・ムスクの甘いベースへと続く構造を持つ。

最高峰に位置するのがスカルプチャー・ヴァーグ・ドール(Sculpture Vague d’Or)(オードパルファン・コンサントレ、100ml・150ユーロ)。「無限に触れる」というコンセプトを持ち、ギリシャ神話のヘスペリデス(「黄金の林檎の園」を守るニンフたち)に着想を得ている。カルダモン・シナモン・チェリーの複雑なトップ、ローズ・アイリスのフローラルなハート、そしてパチョリ・バニラ・カカオのコクのあるベースで構成される。ブランドが現時点でラインナップの頂点に据える一作である。

ブランドのこだわり(店舗・ビジュアルアイデンティティ)

2023〜2024年にミコノス島にオープンしたフラッグシップストアは、ブランドの世界観をそのまま建築に落とし込んだ空間として注目を集めた。デザインを手がけたのはアテネのデザインスタジオ「セイント・オブ・アテネ(Saint of Athens)」で、パルテノン神殿の建材と同じディオニュソス産のペンテリ大理石を使用し、採石場のような質感の内部空間を生み出した。

「その空間概念は、ブランドのアイコニックな香水ボトルのフォルム——船の帆あるいは彫られた大理石の一片を想起させる——から派生したものだ。」

― アーキエキスポ(ArchiExpo)/セイント・オブ・アテネ(Saint of Athens) プロジェクト説明

ブランド全体を通底する哲学は「地中海の文化と古代ギリシャの美学の融合」であり、香水・下着・水着を跨ぐすべてのコレクションが、「クラシカルな芸術性を守りながら、束の間のトレンドを超越する」という姿勢で設計されている。

ちなみに…

「崩壊」を経てのカムバック: アポストロプーロスは、パトラのインタビューの中で「私が建てたものはすべて崩れ落ちた」と述べており、ブランドがある時点で経済的な打撃を受けたことを示唆している。しかしその後、ブランドは「ニコス・アシーナ(Nikos Athina)」として再起動し、ミコノスにフラッグシップストアを構えるまでに至った。廃墟から美しい花が咲くというこのストーリーは、ギリシャ神話的な「死と再生」の物語と重なる部分が興味深い。

帆のボトルは「難しい」: スカルプチャー・オムのボトルはキャップがないと自立しないことで有名で、フレグランス愛好家のコミュニティ(フレグランティカ(Fragrantica)のレビュー等)では「美しいが油断すると倒れる」というあるある話が何十年も語り継がれている。

ミシェル・アルメラックの「ランキング」: 著名なフレグランス系ユーチューバー(YouTuber)らによる「ミシェル・アルメラックの代表作ランキング」では、スカルプチャー・オムはダビドフ・ジノやグッチ・プール・オム(2003年版)などと並んで代表作として挙げられる作品であり、調香師の代表作の一つとして広くみなされている。

この記事について

このブランドに関する公開情報のうち、創設者アポストロプーロスの具体的な生年については確認できなかった。また、ランカスター社との契約の詳細・終了時期、および商標上に記載されているニコス有限会社(Nikos GmbH)とブランドのオーナーシップに関する詳細についても、公開情報の範囲では確認できなかった。

参考文献