EX NIHILO(エクス ニヒロ)|三人の発想から、香りの体験をつくる

EX NIHILO Fleur Narcotiqueのボトル。ブランドのデザインと革新性を表した創作空間。

何もないところから始め、あらゆる分野から着想を得て、夢に見たブランドをつくりたかった。

ブノワ・ヴェルディエ

EX NIHILO(エクス ニヒロ)は、2013年にパリで生まれた香水メゾンである。マーケティング、金融、エンジニアリング。異なる仕事を経験した三人が、それぞれの蓄積を持ち寄った。調香師に託す香りと、店で個人に合わせる体験を結びつけるところに、このブランドの考え方が表れている。

基本情報

  • 創設:2013年
  • 共同創設者:ブノワ・ヴェルディエ(Benoît Verdier)、オリヴィエ・ロワイエール(Olivier Royère)、シルヴィー・ロデイ(Sylvie Loday)
  • 拠点:フランス・パリ
  • 主な分野:香水、ボディケア、ホームフレグランス
  • 公式サイト:EX NIHILO

創設者とブランドの成り立ち

学生時代に出会った二人が、それぞれの仕事を経て

ヴェルディエはプロヴァンス出身で、山と海の間で子ども時代を過ごした。パリ政治学院の初日に出会ったのが、赤いパンツをはいたロワイエールだった。いつか一緒に何かをつくろうという思いを共有したが、卒業後はそれぞれ実務経験を重ねていく。

ロワイエールは、祖父がラグジュアリー分野で働き、父が外交官という家庭で育った。自身も香水への関心が強く、ロレアルでのインターンを経て金融の仕事へ進んだ。一方のヴェルディエは、美容や香水を含むブランドのマーケティングを支援した。友情から生まれた構想に、事業とブランドを育てる経験が加わっていったのである。

宇宙の研究から、香水産業へ進んだロデイ

ロデイは、航空宇宙分野のエンジニアとして学んだ。MITでの論文研究ではNASAと協働し、国際宇宙ステーションのためのシステムを開発したと語っている。微小重力下での実験のため、放物線飛行にも参加した。

その後はマッキンゼーで米国とパリの仕事を経験する。ジボダンによるQuest買収後の統合案件を通じて香りの産業に惹かれ、ジボダン社内の戦略部門へ移った。さらに事業開発と顧客を担当するようになり、別のプロジェクトでヴェルディエとロワイエールを知った。そこで築いた関係は、後に小さな新ブランドが調香師や素材へアクセスする支えにもなった。

科学と直感は対立するものではなく、互いを補い合う。

シルヴィー・ロデイ

技術を知ることと、感覚に従って選ぶことを並べて扱う。その姿勢は、ロデイが構想した香りの個別調整の仕組み、Osmologue(オスモローグ)へもつながっている。

白紙から始めるために、自分たちの店を持つ

三人はそれぞれの仕事を離れ、2013年に会社を始めた。EX NIHILOという名前には、ラテン語で「無から」という意味がある。歴史ある会社の物語を引き継ぐ道もあるなか、自分たちの発想から新しいメゾンをつくることを選んだのである。

サントノレ通りの旗艦店は、その考えを空間として示す場所になった。高い賃料を負担して自店を持つ判断にはリスクがあったが、香りの世界観と、顧客に合わせるサービスを一緒に伝える場を得た。

ロデイによると、2026年時点では、商品構想や技術革新、店舗展開を含む戦略を自身が、創作やブランドを取り巻く人々との関係をヴェルディエが、財務や事業の仕組みをロワイエールが主に担っている。大きな判断は、三人で行う。それぞれの前歴が、役割の違いとして生きている。

ブランドのこだわり

名前とイメージを用意し、調香師へ渡す

創設者の三人自身は調香師ではない。ヴェルディエが説明する制作では、言葉を集め、名前から作品の調子を考えるところに時間を使う。70〜80年代のデザインや建築への関心も、その着想源にある。

最終的な香水ができる前に、いつも名前がある。

ブノワ・ヴェルディエ

名前に続いてムードボードをつくり、演劇の台本のように物語を書く。そこから調香師の仕事が始まる。目指す世界を伝えながら、香りにする専門家には創作の自由を渡し、香料の費用にも厳しい枠を設けないという。天然素材と現代の香料を組み合わせることも、その自由の一部である。

フルール ナルコティック──気に入った香りを生かす判断

Fleur Narcotique(フルール ナルコティック)は、カンタン・ビシュが手がけた初期の作品だ。ヴェルディエは、制作が早く進んだ理由を、香りの仕上がりを気に入ったことに結びつけている。

仕上がりがとても気に入ったので、処方にはほとんど手を加えなかった。

ブノワ・ヴェルディエ

現在のオードパルファムでは、ベルガモット、ライチ、ピーチの果実感から、オレンジブロッサム、ジャスミン、Petaliaを重ねた花の中心へ進む。ムスクと透明感のある木の表現が、その輪郭を支える。

素材を自由に読み替えるInitiale(イニシアル)の一作として見ると、花と果実の明るさを、木やムスクとどうつなぐかが読みどころになる。自由を与えるという方針は、調香師の提案をどこまで生かすかという、依頼する側の判断にも現れている。

Osmologue──完成した香りから、個人の好みへ近づける

Osmologueは、対話を通じて香りを調整するための精密な調合装置である。調香師が元の作品との相性を考えて用意した方向性から、顧客の好みに合う変化を探す。現在のサービスでは、InitialeとBabyloneの対象作品それぞれに、調整のために選ばれた三つの方向性が用意されている。

好みに合う組み合わせを決めると、店内で調合し、専門スタッフが計量、ろ過、瓶詰め、仕上げを行う。一部の店舗での対面サービスとして提供され、オンラインでは注文を受け付けない。完成した作品を選ぶ時間に、その香りのどの表情を自分へ近づけたいかを考える時間が加わるのである。

ブルー タリスマン──宝石の光から、香りの新しい面へ

Blue Talisman(ブルー タリスマン)は、2023年の十周年を記念し、ジョルディ・フェルナンデスと制作した作品だ。メゾン誕生の地に近いヴァンドーム広場を、宝石や肌のお守りのイメージへ結びつけている。愛好家やコレクターに向けた創造の場、Visionnaire(ヴィジョネール)に属する。

オードパルファムでは、洋梨の瑞々しさをムスクとAmbrofixに重ねる。オレンジブロッサムに加え、GeorgywoodやAkigalawoodも公式ノートに並ぶ。自然の果実を思わせる題材と、名前を持つ現代の香料を並べることで、明るさと抽象的な奥行きを一つの香りへまとめている。

2025年に登場したエクストレ・ド・パルファムは、同じフェルナンデスと約八か月かけて再構成したものだ。花の表情に厚みを与え、サンダルウッドとバニラの柔らかさを広げた。その意図を語るヴェルディエは、濃度だけを価値の基準にはしていない。

濃度が高いからといって、必ずしもより適切で、質も高いとは思わない。

ブノワ・ヴェルディエ

重視したのは、元の香りに別の面を見いだすことだった。洋梨とムスクがつくる光を入口にするか、花やクリーミーな木の表情へ関心を向けるか。同じ名前の二本にも、異なる創作の焦点がある。

感情、自然、建築へ広がる題材と再解釈

Interdite(アンテルディット)は禁じられた喜びや官能性を題材にし、ラスト イン パラダイスなどを展開する。自由な精神を掲げるIconoclaste(イコノクラスト)には、フェルナンデスのザ ヘドニストがある。荒々しい自然を着想源に、ジンジャー、シダーウッド、Akigalawoodなどを組み合わせた作品だ。

東西の文化が交わるBabylone(バビロン)では、ガエル・モンテロのチャンディーガル エクスプレスが、インドの都市と近代建築の構想を題材にする。建築やデザインから着想を得るという創設者たちの関心が、ここでは一つの香水の風景になる。

Quintessence(カンテサンス)は、代表作をエクストレとして読み替える場である。ゴールド イモータルズでは、洋梨、イランイラン、Petalia、Ambrofixなどを使ったオードパルファムを、同じフェルナンデスが再構成した。エクストレではバニラとアンバーの側面を前へ出す。香りの個別調整も、既存作の再解釈も、完成した作品に別の可能性を探る仕事として、このメゾンの中につながっている。

参考文献