ブランドと業界の人々の間に生まれた帰属意識、アーティスティック・パフューマリーを囲む真のコミュニティがあるという自覚。
シルヴィオ・レヴィ、2018年
ミラノで開かれるEsxence(エクサンス)は、香水ブランドが新作を並べる見本市であると同時に、その香水を作る人、店で紹介する人、愛好家が顔を合わせるイベントである。冒頭の言葉は、共同創設者シルヴィオ・レヴィが、エクサンスの最大の成果として挙げたものだ。
一本の香水が生まれても、それを理解し、紹介する場所がなければ、遠くの人には届かない。エクサンスは、その間をつなぐ場として2009年に始まった。パリの香水店Nose(ノーズ)にも関わったレヴィの仕事をたどると、店とイベントが同じ問題に向き合ってきたことが見えてくる。
基本情報
- 名称:Esxence – The Art Perfumery Event(エクサンス)
- 初開催:2009年、イタリア・ミラノ
- 共同創設者:シルヴィオ・レヴィ(Silvio Levi)、マウリツィオ・カヴェッツァーリ(Maurizio Cavezzali)
- 主催:Equipe Exibit。現在はBolognaFiere Cosmoprofの事業として展開
- 対象:アーティスティック・パフューマリーのブランド、小売店、流通関係者、調香師、専門家、香水愛好家
- 次回:第17回、2027年2月24〜27日、Allianz MiCo Milano Convention Centre。開催情報は2026年10月15日確認
- 公式サイト:Esxence
アーティスティック・パフューマリーは、創作の独自性や作り手の表現を重視する香水を指す言葉である。エクサンスでは、香水そのものだけでなく、ブランドの一貫性、販売網、店頭で作品の背景を伝える姿勢も選考の対象となる。
エクサンスが生まれるまで
科学者から香水の流通へ
シルヴィオ・レヴィはミラノ出身で、有機化学を学び、製薬会社で研究に携わった人物である。1995年に科学の仕事を離れ、香水の輸入・流通を担うCalé(カレ)の会長となった。香りを作る仕事だけでなく、外国の香水をイタリアの店に届け、その背景を説明する仕事に入ったのである。
レヴィが1994年にアーティスティック・パフューマリーの世界へ入り、気づいたのは、業界としてのまとまった輪郭がまだ乏しいことだった。個々の店や流通会社に関係はあっても、国境を越えて経験や課題を共有するコミュニティは十分にできていなかった。香水の種類を増やすだけでなく、それを支える人々が会える場所が必要だった。
フィレンツェ、ボローニャでの試み
カレは2003年に始まるフィレンツェのPitti Fragranzeを後押しした。さらに2005年、ボローニャの美容見本市Cosmoprofに、招待制の香水エリアMasterpiecesが生まれる。カレもその運営に協力し、通常の大きな美容見本市の中に、創作香水を落ち着いて紹介する場を用意した。
しかし、イタリアの流通会社が各ブランドを紹介する仕組みと、ブランドの持ち主や輸出担当者が自ら海外の相手に会う仕組みは、同じではない。レヴィが目指したのは後者だった。ブランドが自分の言葉で説明し、小売店が自分の市場や客について話せる。間にある会社を通じた紹介から、当事者同士の対話へ踏み込もうとしたのである。
2009年、国際的な対話の場をミラノに作る
Masterpiecesの経験が終わり、2009年にエクサンスが誕生した。レヴィは2018年、ボローニャで構想を進めることが難しくなり、プロジェクトを離れると伝えた後、30日足らずでミラノの新しいイベントを立ち上げたと述べている。共同創設者のカヴェッツァーリは、イベントを手がけるEquipeの側からこの場を支えた。
ミラノを選んだ理由は、空路のつながり、都市のインフラ、メディアへの届きやすさにあった。世界各地から訪れやすい場所に集まることは、まだ海外の販売網を持たない小さなブランドにとって、新しい相手を見つける機会になる。ミラノは、香水を生産する土地というだけで選ばれたのではなく、人と情報を集め、次の取引へつなげる都市として選ばれた。
パリのNoseとのつながり
レヴィの活動は、ミラノのイベントとパリの店をまたいだ。カレの公式沿革の2014年の項目には、共同所有するNose Parisと開発した、iPadによる香りの診断システムをイタリアで紹介したことが記されている。これは2014年の出来事として記された共同所有関係であり、出資開始年を示す記述ではない。
Noseを率いるニコラ・クルーティエ(Nicolas Cloutier)も、2015年にはエクサンスについてこう語っている。
エクサンスは、久しぶりに会って近況を話せる、大きな家族の集まりのようなものです。
ニコラ・クルーティエ、2015年
また、エクサンスの2019年12月更新の公式資料には、Nose Parisのクルーティエが、技術委員会の委員を選ぶための専門家名簿に載っている。公式選考ページから現在リンクされる2025年12月更新の名簿にも、その名前は残る。選考規定上、実際に選ばれる委員の名前は公開されない。候補者名簿への掲載と、特定の回で委員を務めたことは区別する必要がある。
エクサンスの現在の主催者はEquipe Exibitであり、Noseが運営するイベントという位置づけではない。2026年の公式発表は、レヴィを共同創設者・技術委員会会長、カヴェッツァーリを共同創設者・Equipe Exibitの最高経営責任者として紹介する。歴史的な人のつながりと、現在の運営組織は別々に捉えると分かりやすい。
エクサンスの歴史年表
| 年 | 出来事 |
|---|---|
| 2003年 | カレが後押しするPitti Fragranzeがフィレンツェで始まる。エクサンスに先行する業界交流の場。 |
| 2005〜2008年 | ボローニャのCosmoprofでMasterpiecesを展開。招待制エリアで創作香水を紹介。 |
| 2009年 | ミラノでエクサンスを初開催。 |
| 2014年 | カレが共同所有するNose Parisの香りの診断システムをイタリアで紹介。 |
| 2019年 | 第11回を4月25〜28日、ミラノのThe Mallで開催。Essencionalが香水分野のオンライン認識を調べる研究を発表。 |
| 2020〜2021年 | パンデミックによって実会場での開催が途切れる。2021年6月21〜30日にオンライン企画Esxence on Airを実施。 |
| 2022年 | 6月15〜18日、第12回として対面開催を再開。会場を初めてMiCo Milano Convention Centreへ移す。 |
| 2025年 | 2月19〜22日、第15回をAllianz MiCoで開催。 |
| 2026年 | 6月3〜6日に第16回。9月19〜20日にはMilano Beauty Weekに合わせ、Palazzo BovaraでEsxence Boutiqueを開催。 |
| 2027年 | 第17回を2月24〜27日、Allianz MiCoで開催予定。 |
ブランドと小売、調香師をつなぐ仕組み
香りの質と、伝え方を一緒に審査する
出展ブランドは、申し込めばそのまま参加できるわけではない。公式の選考基準は、芸術的・品質的な検討と、流通のあり方の検討を分けている。裏付けのあるブランドの歴史や考え方が作品に表れているか、香水と視覚的なデザインに一貫性があるか、作品に独自性があるかを確かめる。
さらに、選択的な販売網と、店頭で説明する人の知識を重視する。販売員には、ブランドの歴史、哲学、作品の芸術的な特徴を、客へ正確に伝えるための情報が求められる。「珍しい香水を集める」だけではなく、「なぜその香水なのかを話せる店へ届ける」ことも、イベントの設計に含まれている。
まだ十分な販売網や国際展開の方針が整っていない新しいブランドには、Spotlightという区分がある。ブランドの成長段階を示しながら紹介する仕組みだ。技術委員会が検討し、最終的な出展承認は運営委員会が行う。
新作発表だけでなく、次の協働が始まる
調香師にとってもエクサンスは、香水を作り終えた後に関わる場である。2015年、独立した調香師セシル・ザロキアンは、既存の顧客や将来の顧客、世界各地の記者や協力者に会える機会として挙げた。ブランド側には作品を説明する機会があり、小売側には、自分の店で長く紹介できる相手かどうかを考える時間がある。
香水の分類と記録を続けるマイケル・エドワーズの言葉は、集まることの意味を短く表している。
4日間で、私は世界を嗅ぐのです!
マイケル・エドワーズ、2015年
一方で、ブランドが増えるほど、選ぶ仕事は難しくなる。2026年の会場でパネルに登壇したボード・クバルツは、欧州の老舗に加え、アジア、中東、ラテンアメリカの若いブランドが並び、一つの流行で全体を説明できなくなったと捉えている。小売店の役割も、品数を増やすことから、作品を位置づけ、客に分かる言葉で案内することへ重みを増す。エクサンスでは、新作と一緒に、その新作をどう届けるかが議論されるのである。
4日間の議論を、研究と教育へつなぐ
レヴィは香水を、完成した商品としてだけでなく、創作の仕事として理解してほしいと考えている。才能を見いだす仕事を目指すレヴィの、2021年の言葉にはその視点が表れる。
価値のあるものを取り出し、耳を傾ける感性を持つ人に提案すること。
シルヴィオ・レヴィ、2021年
そのため、エクサンスの活動は商談の4日間だけで完結しない。レヴィらはイベントのワークショップで得た経験を、業界の調査や継続的な情報発信へつなげた。Essencionalは、ブランドや小売、流通関係者の意見、オンラインでの香水の捉えられ方を調べ、講演や記事に反映する場となった。
パンデミック中の2021年にはEsxence on Airを実施した。試香と物語を店でどう伝えるか、デジタルで香水がどう語られるか、各市場で何が起きているかを議論し、香水史や持続可能性の講演も組み込んだ。香水を同じ場所で嗅げない時期にも、知識を交換する場は保とうとしたのである。
香水好きは、会場で何に出会えるのか
香水を嗅ぎ、作り手の説明に触れる
一般来場者にとっての中心は、ブランドごとの展示で作品を嗅ぎ、背景を聞くことにある。公式のイベント紹介は、展示エリアでブランドの物語に触れることと、実験的な体験やワークショップへの参加を挙げている。会場は、普段の店では並んでいないブランドを同じ日、同じ場所で知る入口になる。
ただし、ブランドの創設者や調香師がすべてのブースに常駐するという仕組みではない。参加者、企画、一般公開の範囲は回ごとに異なる。たとえば2026年は6月3〜6日の4日間のうち、一般来場者向けの公開日は最終日の6月6日だった。
絵画、音、風景を香りと一緒に体験する
香水を嗅ぐ方法そのものを変える企画もある。2022年のカレの展示では、RoborisとLibera Menteという二つの香水を、360度の映像と音を伴って紹介した。雨の直前のデスバレー、街の賑わいから日本庭園の静けさへ移る場面。映像を眺め、音を聴き、香水を嗅ぐことで、作品が思い描く情景を複数の感覚から伝えた。
同じ2022年、IFFとオランダのマウリッツハイス美術館による「Fleeting – Scents in Colour」の一部も会場に再構成された。17世紀の絵画の複製の下に、足で操作する香りの拡散装置を置き、描かれた風景の匂いを体験できるようにした。美術館の企画を香水イベントに持ち込むことで、瓶の中の香りから、絵画に描かれた生活の匂いへ関心を広げたのである。
香水史、原料、自然を学ぶ
2025年のプログラムでは、Accademia del Profumoがカラブリア産ベルガモットの歴史や生産技術、用途を紹介し、オスモテックは1920年代の香水に光を当てた。新しい香水を見つけるだけでなく、その手前にある原料と、過去の作品へ戻る道も用意された。
BRAVANARIZの創設者エルネスト・コラドによる、CityLife周辺の嗅覚散歩もその一つだった。少人数で歩き、植物や風景を鼻で捉える。試香紙の上の完成品から離れて、香りを感じる行為そのものを見直す企画である。
2026年の展示と、一般向けの小さなイベント
2026年の第16回は「Sensing The World」をテーマとし、400を超えるブランド、初参加108ブランドを集めた。公式の終了報告は来場を延べ2万件以上と発表している。これは4日間の来場実績であり、そのまま異なる来場者2万人という意味には取らない。
展示には、ロベルト・ヴァッリーニの木彫とItalian Perfumery Instituteが協力した香り、アイリスを扱う「Iris alla Radice della Bellezza」、オスモテックの歴史的な香水などが並んだ。初めて設けられたFashion Roomとの書店は、香水やビューティーの本を選ぶ場所を加えた。講演では、マイケル・エドワーズへのインタビューに加え、神経科学、人工知能、SNS、アジアの市場も扱った。
同年9月19〜20日には、Milano Beauty Weekの一環として、Palazzo BovaraでEsxence Boutiqueを開催した。本会に参加した一部のブランドが、消費者や愛好家へ直接、創作の着想や背景を話すための企画である。Italian Perfumery Instituteとの活動や、絵画・自然・香りを結ぶ「Sogni di Natura」も組み込まれた。大きな国際見本市と、一般の人へ近い距離で話す場を、別の形でつないでいる。
次回開催と一般来場の案内
2026年10月15日時点で、次回の第17回は2027年2月24〜27日、ミラノのAllianz MiCo Milano Convention Centreと公式発表されている。公式の「Where & When」は、詳しい案内を今後公表するとしている。
2027年の一般公開日、開場時間、入場条件は、次回向けの公式案内で確認したい。2026年の「一般公開は最終日」という日程や、さらに古い無料登録制の案内を、次回の条件として読み替えることはできない。開催日と会場を確かめる入口は、公式の開催案内である。
ちなみに…共同創設者が覚えている草の匂い
カヴェッツァーリの幼い頃の記憶には、トレンティーノの山で、鎌を使って刈ったばかりの草の匂いがある。最初に買った香水はGrey Flannelで、日常で好きな匂いにはラベンダーやセージを挙げる。世界各地のブランドを集めるイベントの共同創設者も、香りを身近な風景と結びつけている。
香水を、文化的な概念にもしていくこと。
マウリツィオ・カヴェッツァーリ、2025年
これは、次の挑戦を問われたときの答えの冒頭である。香水を見つけることに加え、それを知り、身につけ、語る文化へ育てること。展示、学び、交流が同じイベントにある理由を、創設者の短い言葉が伝えている。
参考文献
- Esxence, pléthore de parfums rares ! — Nez、シルヴィオ・レヴィらへの原Q&A、2018年4月3日
- Esxence is back – and bigger than ever! — Essencional、創設者と2022年の企画
- Esxence Boutique発表 — Esxence公式、2026年9月
- Where & When — Esxence公式、2026年・2027年開催案内
- Selection and Evaluation Criteria — Esxence公式、出展審査と委員会の仕組み
- The Event — Esxence公式、展示・ワークショップと来場体験
- Silvio Levi — Class Editori、研究職からカレへの経歴
- As I see it… Silvio Levi — 本人による業界形成と研究活動の記述
- La nostra storia — Calé公式、2003年・2005年・2009年・2014年ほかの沿革
- Esxence, The Spirit of Niche Perfume — Sarah Colton、参加者への原取材、2015年
- Professionals of the artistic perfumery industry — Esxence公式、2019年12月更新名簿
- Professionals of the Artistic Perfumery Industry — Esxence公式、2025年12月更新名簿
- 第16回開幕発表 — Esxence公式、2026年6月3日
- Esxence 2019 — 公式開催記録
- Esxence on Air: The virtual event — Essencional、2021年オンライン企画
- A Twelfth Edition With a High Rate of Innovation — Esxence公式、2022年の再開・会場・展示
- 第15回開幕発表 — Esxence公式、2025年2月19日
- Esxence 2026 – More brands. Greater complexity. — EPCnews、ボード・クバルツの現地報告
- Come si racconta un profumo — Rivista Studio、シルヴィオ・レヴィ原インタビュー、2021年9月30日
- Upon Second Sniff — BeautyMatter、2022年の現地取材とカレのVR展示
- Esxence at 15: Celebrating the Perfumer — Essencional、2025年の原料・香水史・嗅覚散歩
- 第16回終了報告と第17回開催日 — Esxence公式、2026年6月9日
- Maurizio Cavezzali: questionario olfattivo — Beauty Scenario、本人への原取材、2025年12月2日


