水出しコーヒーは、冷たいから酸っぱくない?

水出しコーヒーは、冷たいから酸っぱくない? 香りの科学

水出しコーヒーは、熱い湯で淹れたものより酸味が穏やかだといわれます。でも、冷たい一杯と熱い一杯を比べているなら、飲むときの温度が違います。濃さも違えば、抽出方法の効果だけを取り出すことはできません。

2022年、Mackenzie E. Bataliらは、飲料の濃度と飲む温度をそろえて、この問いを調べました。さらに産地と焙煎度を組み合わせ、抽出温度の影響がどの豆でも共通するのか、豆の特徴によって変わるのかを検証しています。

27条件を作り、すべて同じ濃度・同じ温度で飲む

使用したのは、エルサルバドル、エチオピア、スマトラからの3種類のアラビカです。それぞれを浅煎り・中煎り・深煎りにし、冷蔵(4℃)、室温(22℃)、初期湯温92℃の3種類の条件で抽出しました。3種類の豆×3焙煎度×3温度で、計27条件です。各条件を3回ずつ準備し、81の抽出試料を評価しました。81人を調べたという意味ではありません。

抽出は、粉を水に浸す「浸漬式」です。粉100gに水500gという比率をそろえ、成分の溶け出しがほぼ頭打ちになるまで待ちました。4℃条件は室温の水を加えてから冷蔵庫へ入れて24~36時間、22℃条件は12~14時間。熱抽出は92℃の湯を注ぎ、その後は追加加熱せず、室温で1~2時間置いています。

抽出後は、液に溶けている固形分の割合を表すTDSを測り、すべて2%になるよう水で薄めました。そのうえで一晩4℃で冷やし、どの抽出方法でも同じ冷たい温度で試飲しました。単に「冷たいコーヒーと熱いコーヒー」を比べる試験ではありません。

試飲には17人が進み、全日程を終えた14人のうち、繰り返し評価の一致が低かった4人を除いて、最終解析は10人分でした。評価者は言葉と基準試料を使って訓練し、27の香味・味・口当たりの項目を採点しました。感染対策のため評価は自宅で行い、試料のコードと提示順を管理しています。

同じ冷たさでも、水出しは酸味・苦味が弱かった

焙煎度と産地をまたいだ全体の比較で、抽出温度による違いが明確だったのは、花のような風味、ゴムを思わせる風味、苦味、酸味の4項目でした。

4℃で抽出したものは、22℃と熱抽出の両方より、花のような風味が強く評価されました。一方、苦味・酸味・ゴムを思わせる風味は熱抽出で強く、4℃と22℃の間には明確な差がありませんでした。

飲む温度とTDSをそろえても差が残ったので、「水出しの酸味が弱いのは、冷たく飲んでいるからだけ」とは説明できません。ただし、温度ごとに抽出時間や抽出率も異なるため、温度一つだけを切り離して操作した結果ともいえません。今回確かめられたのは、条件を整えた浸漬抽出の比較です。

感じる酸っぱさと、測定する酸度は同じではない

化学的な酸度の測定では、二つの指標が異なる様子を示しました。熱抽出のコーヒーは低温抽出よりpHが低く、この指標では酸性が強い結果でした。ところが、アルカリで一定のpHまで中和するのに必要な量を測る「滴定酸度」は、多くの豆で抽出温度による明確な差がありませんでした。

つまり、熱抽出のほうが酸っぱく感じられても、滴定酸度まで一様に高いとは限りません。酸の種類によって味への寄与が異なることや、苦味など別の感覚との組み合わせが、酸っぱさに影響した可能性があります。著者らは、苦味と酸味が互いの感じ方を強める可能性も挙げました。

これらの仕組みを確かめるには、どの酸がどれだけ含まれているかを詳しく分析する必要があります。この研究で測ったのはpHと滴定酸度で、個々の酸の成分構成までは測っていません。「水出しは酸っぱく感じにくい」という感覚上の結果を、酸が一律に少ないという意味へ置き換えることはできません。

花のような風味が残る理由は?

著者らは、水出しで花のような風味が強かった理由として、二つの可能性を考えています。一つは、熱抽出の間に揮発しやすい香気成分が失われたこと。もう一つは、熱抽出で強かった苦味や酸味が、花のような風味を感じにくくしたことです。

揮発成分を直接測った実験ではないため、どちらが実際に働いたのかは分かりません。また、今回の熱抽出は1~2時間置いてから冷やしています。抽出してすぐ氷で急冷するアイスコーヒーでは、香りの残り方が違う可能性があります。

実験では豆による特徴も残りました。例えば、エチオピアの豆では4℃抽出で果実のような風味が強まり、深煎りでは4℃抽出で木を思わせる風味が強まるなど、温度の影響は一種類の変化ではありませんでした。

抽出率だけから酸味を予測するのも難しい

抽出率は、使ったコーヒー粉のうち、どのくらいが液へ溶け出したかを表す値です。飲料の濃さを表すTDSとは異なります。今回、熱抽出では平均して低温抽出より多くの成分が溶け出しましたが、そのあと水で薄めて飲料のTDSをそろえています。薄めても、粉から何をどれだけ取り出したかという履歴までは同じになりません。

著者らが注目したのは、低温抽出のほうが抽出率が低いのに、酸味も弱かったことです。熱いドリップコーヒーで知られる「抽出率が低いと酸っぱくなりやすい」という関係とは、反対の方向でした。したがって、熱いドリップで得られた目安を、そのまま幅広い温度の浸漬抽出へ当てはめることはできないと論じています。

研究全体では、焙煎度による違いが20項目、産地による違いが13項目に表れ、温度の影響はそれらとの組み合わせでも変わりました。産地の3試料は収穫後の処理方法も異なるため、地理的な産地だけの効果ではありません。著者らは、豆と焙煎の特徴、目指す香味に合わせて抽出温度を選ぶための資料として、この結果を位置づけています。

どちらがおいしいかを決めた研究ではない

評価したのは、各特徴をどのくらい強く感じるかです。一般の消費者がどちらを好むかを直接比較した試験ではありません。最終解析の10人という規模、自宅で照明などを完全には統一できなかったこと、豆の種類が限られることも考慮する必要があります。

研究費はCoffee Science Foundationを通じて、水出し器具メーカーToddyの支援を受け、同社から抽出器具も提供されました。著者らは利益相反なしと申告しています。

まとめ

濃度と飲む温度をそろえても、低温で浸漬抽出したコーヒーは、熱抽出より酸味・苦味・ゴムを思わせる風味が弱く、4℃抽出では花のような風味が強い結果でした。ただし、感じる酸味の差は、滴定酸度の差と単純には一致していませんでした。

この研究が示したのは、冷たさや濃さをそろえても、抽出の過程によって香味を変えられるということです。その変化は焙煎度や豆の特徴とも関わります。水出しと熱抽出を一つの優劣で決めるより、どの香味を引き出したいかに応じて使い分けるための根拠を、著者らは示しました。

参考文献

Batali, M. E., Lim, L. X., Liang, J., Yeager, S. E., Thompson, A. N., Han, J., Ristenpart, W. D., & Guinard, J.-X. (2022). Sensory Analysis of Full Immersion Coffee: Cold Brew Is More Floral, and Less Bitter, Sour, and Rubbery Than Hot Brew. Foods, 11(16), 2440. DOI: 10.3390/foods11162440 · 原著全文。

© 2022 by the authors. CC BY 4.0。