子どもと10代の汗のにおいには、どんな微生物が関わるのでしょうか。フィリピンの30人を調べた研究では、脇のにおいには表皮ブドウ球菌、子どもの首のにおいには別のブドウ球菌が関連していました。菌のDNAを調べるだけでなく、集めた汗で菌を培養し、酸っぱいにおいにつながる成分を作ることも確かめています。
2018年のこの研究は、大人の脇を中心に進んできた体臭研究を、成長段階と体の部位に広げたものです。においを一つの「汗臭さ」で括らず、どの菌が、どんな材料から、どの成分を作りうるかを探りました。
子ども15人と10代15人、三つの部位を二回測定
参加者は5〜9歳の子ども15人と、15〜18歳の10代15人。各群とも女性8人、男性7人でした。無香料で抗菌成分のない石けんでシャワーを浴び、その1時間後と8時間後に、脇、首の後ろ、頭皮を調べました。
その間には、運動と休憩を交互に行う4〜5時間のプログラムがありました。環境は約32℃、湿度66%で、八時間を通じて空調のない場所で過ごしています。したがって、二回の差には運動だけでなく、シャワーからの経過時間や暑い環境も含まれます。
一人の専門の調香師が、各部位のにおいの強さを0〜100で評価し、酸っぱい、硫黄様、脂っぽいなどの特徴も記録しました。皮膚からはテープで試料を採取。30人×三部位×二時点の180試料について、微生物のDNAを広く読む「ショットガン・メタゲノム解析」を行っています。180人を調べたわけではありません。
10代の脇は強くにおい、運動後には硫黄様の特徴も
両年齢群とも、脇のにおいはシャワー1時間後より8時間後に強くなりました。また、どちらの時点でも、10代の脇のにおいは子どもより強い結果でした。首と頭皮のにおいは、概して脇より弱くなっていました。
子どもの脇には酸っぱい特徴や、それに硫黄様の特徴が混ざったにおいが見られました。10代では、8時間後に硫黄様の特徴が優勢になる傾向がありました。頭皮には脂っぽい特徴も見られ、体のどこを評価するかでにおいの性質が異なっています。
保護者による「においがある・ない」という区分と、調香師による強度評価は、はっきり対応しませんでした。そこで主な解析では、保護者の区分よりも、調香師が測ったにおいの強さと微生物の関係を用いています。
多い菌と、においに関わる菌は同じとは限らない
脇で最も多かった細菌は、両年齢群ともStaphylococcus hominisでした。ところが、脇のにおいの強さとの関連が特に目立ったのは、表皮ブドウ球菌とも呼ばれるStaphylococcus epidermidisです。両年齢群を合わせた解析で明確な正の相関が見られました。
一方、子どもの首ではS. hominisの割合とにおいの強さが関連していました。同じ菌でも、部位や年齢群によって対応の仕方が変わるのです。脇にはCutibacterium avidumなどとの正の関連もあり、首には一部のCutibacteriumやAcinetobacterの割合と弱いにおいが結び付くパターンがありました。
頭皮では、今回の解析でにおいと関連する微生物は特定されませんでした。頭皮の微生物構成自体には年齢群による違いがありましたが、構成の違いがあることと、においを説明できることは別の結果です。
菌との関連を探す解析では、多数の比較を補正したうえで、候補を拾う基準にFDR 0.1未満を用いています。個々の関連は、さらに確かめるための探索的な手掛かりです。
なお、種より大きなくくりの「属」でまとめると、脇での重要な関連が見えなくなりました。どんな菌が多いかを細かく区別することが、この研究では重要でした。
酸っぱいにおいを作る経路を、菌の種類ごとに追う
研究者は集めた汗を混ぜて分析し、乳酸、グリセロール、アミノ酸などを確認しました。汗を24時間培養した後の分析では、酢酸とイソ吉草酸が主要なにおい成分として見つかりました。これらは、観察された酸っぱいにおいを説明する候補です。
次に、DNAから分かる代謝関連遺伝子を調べました。遺伝子をすべて一括して数える方法では、一つの反応経路として整理しにくい結果でした。しかし「その遺伝子はどの菌に由来するか」まで区別すると、酢酸やイソ吉草酸の生成につながる経路とにおいの関係が見えやすくなりました。
具体的には、10代の脇ではS. epidermidisに由来する、乳酸やグリセロール、分岐鎖アミノ酸などを利用する経路が注目されました。子どもの首では、似た経路が主にS. hominisと結び付きました。菌の名前だけでなく、菌が持つ代謝の仕組みを、その場所の汗の材料と一緒に考える解析です。
ただしDNAに遺伝子があることは、その瞬間に酵素がどれだけ働いているかを直接測ったこととは異なります。この点を補うため、培養実験も行われました。
汗で菌を培養すると、二種類の菌がにおい成分を作った
参加者から分離した菌を、ろ過滅菌した汗に一種類ずつ加え、37℃、空気のある条件で24時間培養しました。S. epidermidisとS. hominisは、酢酸とイソ吉草酸を明確に生成しました。一緒に調べたC. acnesとMicrococcus luteusでは、同じような生成は見られませんでした。
これは、皮膚上で見つかった相関に加え、対象の菌が汗の材料から実際ににおい成分を作れることを示す結果です。ただし、今回の培養条件での能力と、皮膚上での寄与の大きさは区別する必要があります。
硫黄様のにおい物質3M3SHにつながる酵素の候補も、遺伝子解析で見つかりました。ただし、とくにS. epidermidisがそれを作るかという点は、原著でも追加の培養確認が必要とされています。酢酸・イソ吉草酸の確認と、硫黄系の生成仮説を同じ確かさには置けません。
まとめ
この集団では、10代の脇は子どもより強くにおい、運動などを含む一日の後半には硫黄様の特徴も目立ちました。菌との関連は一様でなく、脇ではS. epidermidis、子どもの首ではS. hominisが重要な候補になりました。両菌が汗から酢酸とイソ吉草酸を作る能力も、培養実験で確認されています。
発見の中心は、年齢と体の部位に加え、「どの菌の、どの代謝経路か」まで見ると、においの成り立ちを詳しく捉えられることです。フィリピンの30人を一日調べた結果なので、成長を長期間追った結論や、子どもへの消臭製品の推奨には直結しません。皮膚の常在菌を一律に除くのではなく、具体的な反応経路を研究する手掛かりになります。
研究はA*STARとP&Gの共同研究助成を受け、P&Gの資金が研究の一部の設計・実施に使われました。複数の著者は研究当時P&Gに雇用され、同社株式を保有する可能性と、雇用上の守秘義務により特許活動を開示できないことが申告されています。
参考文献
Lam TH, Verzotto D, Brahma P, et al. Understanding the microbial basis of body odor in pre-pubescent children and teenagers. Microbiome. 2018;6:213. doi:10.1186/s40168-018-0588-z


