コーヒーに加えるミルクをナッツ由来のものに替えると、香りだけでなく、甘さの感じ方や口当たりも変わります。その違いは、どのナッツを使い、どう加工したかによっても変わるのでしょうか。
2025年、Woorin Leeらは4種類のナッツからミルク状の飲料を作り、同じエスプレッソに混ぜて比較しました。研究の目的は、ナッツの種類と焙煎の有無によって、成分や物性、飲んだときの評価がどう変わるかを調べ、植物性のコーヒー飲料を改良する手掛かりを得ることでした。
4種類のナッツを、焙煎あり・なしで比べた
原料はアーモンド、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、クルミです。それぞれ、焙煎しないものと、140℃で15分焙煎したものを用意しました。ナッツ1に対して水9の重量比で砕き、布で濾してミルクを作っています。市販の植物性ミルクを買い集めた比較ではありません。
ブラジル産アラビカから抽出したエスプレッソ50mLに、ナッツのミルク150mLを加えました。比較用には市販の牛乳を混ぜたコーヒーも用意し、一部の成分分析では、同じ割合で水を加えたエスプレッソを基準にしました。
研究者は、揮発成分、脂肪酸、色、粒子の大きさ、粘度に加え、試験管内の抗酸化活性などを測定しました。試飲を担当したのは韓国の東国大学の訓練された17人で、年齢は22~28歳。試料はコードで示され、総合的な好みや口当たりなどを評価しました。
好まれたのは牛乳、ナッツの中ではカシューナッツが高め
1が非常に嫌い、9が非常に好きという総合評価の平均は、牛乳コーヒーが6.12で最も高く、ナッツ系では未焙煎のカシューナッツが5.24でした。ほかのナッツ系試料の平均は3.24~4.53です。
ただし、平均点の順番がそのまま確かな優劣になるわけではありません。原著の表の統計表示では、牛乳と未焙煎カシューナッツの間に有意差は示されていません。未焙煎カシューナッツと、ほかの多くのナッツ試料との間にも有意差はありませんでした。カシューナッツを有望な候補とする結果ですが、全種類に勝ると確定した試験ではありません。
口当たりの好みも、平均では牛乳コーヒーが最も高くなりました。ナッツを混ぜたときの香りだけを整えればよいのではなく、飲料としてのなめらかさなども改良の課題になりそうです。
なお、原著では味ごとの評点について、方法欄では好みの尺度、結果欄では一部を味の強度として説明しており、苦味やナッツらしさの強さには解釈上の制約があります。
ナッツ由来の香りと、コーヒーの香りが重なる
揮発成分の分析では、33成分が報告されました。ナッツ系のコーヒーでは、ベンズアルデヒドや一部のピロール類など、ナッツを思わせる香りと関連する成分の測定値が高くなりました。一方、牛乳コーヒーでは、5-メチルフルフラールや酢酸フルフリルなどの値が高く、混ぜる原料によって香りの構成が違っていました。
これらは、内部標準に対する分析ピークの面積比で比べた結果です。飲んだ瞬間にその成分だけをどのくらい感じたかを直接測ったものではありません。原料の成分や、脂肪・たんぱく質を含む飲料全体の状態が変わる中で、揮発成分の出方も変わっています。
焙煎による変化も単純ではありません。例えば、アーモンドを焙煎した試料では、未焙煎よりベンズアルデヒドが減りました。また、焙煎したナッツを使うと、色が暗くなって褐変の指標が上がり、粘度は下がりました。焙煎は「香ばしさを足す」だけの操作ではなく、成分と飲料の性質を一緒に変える処理でした。
成分の数値が高くても、好みが高まるとは限らない
脂肪酸の分析では、ナッツ系の試料は牛乳を使ったものより不飽和脂肪酸の量が高いと報告されました。試験管内でラジカルを消去する能力を調べたDPPH試験では、焙煎したナッツの試料は、それぞれの未焙煎試料より高い値でした。総フェノール量ではクルミ系が高く、原料ごとに違いがありました。
こうした成分特性を見て、著者らは栄養面も意識した植物性飲料への可能性を挙げています。しかし、この研究は飲んだ人の健康状態を追跡したものではありません。試験管内の抗酸化活性や脂肪酸の測定だけで、健康効果や、牛乳より体によいことが確かめられたわけではありません。
そして、成分上の特徴と、好まれることは別の結果でした。焙煎によって抗酸化活性の値が上がっても、総合的な好みが一律に高まることはありませんでした。製品開発には、目指す成分特性と、香味・口当たりの両方を見ていく必要があります。
著者らが提案したのは、香味と口当たりの同時改良
研究者が試料ごとの結果をまとめて調べると、アルデヒド類の測定値と総合的な好みには負の相関があり、口当たりの好みと総合評価には強い正の相関がありました。これを踏まえ、著者らは、好まれにくい苦味や後味に結びつく成分の生成を調整し、粒子や飲料の構造も改良する方向を提案しています。
ただし、相関は原因を確定するものではありません。特定のアルデヒドを減らしただけで好みが上がるか、粒子を細かくすれば同じように改善するかは、処方を実際に変えて確かめる必要があります。今回の研究は、その次の試作に向けて、成分と感覚のどこに注目すべきかを示したものです。
対象は17人と特定の配合で、各原料の産地も限られます。市販品には、甘味づけ、乳化、均質化など別の工夫が施されている場合があるため、今回の順位をそのまま商品選びの順位にはできません。オーツや大豆など、今回調べていない植物性飲料も対象外です。
研究は韓国研究財団の基礎研究プログラムなどの支援を受け、著者らは利益相反なしと申告しています。
まとめ
ナッツのミルクを使ったコーヒーでは、原料と焙煎によって、揮発成分だけでなく色や粘度、飲んだときの評価も変わりました。今回の試料の総合評価は平均では牛乳が高く、ナッツ系では未焙煎カシューナッツが比較的高い結果でした。
著者らが目指しているのは、ナッツ由来の成分特性を生かしながら、香味と口当たりが受け入れられる飲料を作ることです。そのためには、原料を替えるだけでなく、香りに関わる成分と飲料の構造を一緒に調整する余地があることを、この比較は示しています。
参考文献
Lee, W., Ahn, H., Yim, J., Kim, Y., & Lee, K.-G. (2025). Physicochemical properties and sensory attributes of nut-based milk coffee. Scientific Reports, 15, 24238. DOI: 10.1038/s41598-025-07554-w · 原著全文。
原著:© The Author(s) 2025. CC BY-NC-ND 4.0。


