布の柔らかさは、指で触れば分かるもの。それでも、同時に嗅いでいるにおいによって、評価が少し変わることがあります。
2006年の2つの実験では、同じ処理をした布でも、レモンやラベンダーの香りの条件では、動物を思わせるにおいの条件より、柔らかい側に評価されました。研究のポイントは、布の物性だけでなく、鼻から入る情報も手触りの判断に関わり得ることです。ただし、快い香りを加えると無香より必ず柔らかく感じる、という結果ではありませんでした。
鼻と指の情報は、どう組み合わさる?
研究チームが調べたのは、嗅覚と触覚という異なる感覚の相互作用です。香りのある布を単に「好きか」と尋ねると、手触りよりも香りの好みを答えている可能性があります。そこで、手触り自体が異なる複数の布を使い、それぞれの柔らかさ・粗さを同じ人に繰り返し評価してもらいました。
さらに、最初の実験では香りを布とは別の装置から鼻へ送り、次の実験では布そのものに香りを付けました。においが同じ対象から出る場合だけに評価の変化が起きるのか、香りの種類を変えても見られるのか、という点も検討しています。
最初の実験は、布を見ずに触る17人
実験1には、訓練を受けていない成人17人が参加しました。綿の布には、アミノシリコーン、柔軟仕上げ剤、デンプンのいずれかを用いた処理、または無処理を施し、4種類の手触りを用意しました。アミノシリコーン処理の布が最も柔らかく、デンプン処理の布が最も粗い試料です。
布はコンピューターで回転する装置に取り付け、カーテンで見えないようにしました。参加者は、右手の親指と人差し指で布をこすり、1を「柔らかい」、20を「粗い」とする尺度で評価しました。見た目から手触りを推測できないようにした設計です。
その間、鼻にはレモン調香料、動物様香料、または無臭空気を提示しました。においは触る2.5秒前に始まり、評価が終わるまで続きます。各試行では、まずにおいを快い・不快・無臭に分類してから手触りを評価し、香りにも注意を向けるようにしました。
4種類の布と3条件の香りを組み合わせ、順序を無作為に変えながら、1人当たり144試行を行っています。
レモンでは、動物様のにおいより粗さの評点が低い
参加者は、4種類の布の違いをはっきり区別していました。その上で、香りの条件による小さな差も見られました。
布全体を平均した粗さの評点は、レモン条件が10.64、動物様のにおいが11.08。レモン条件のほうが、有意に柔らかい側に評価されました。無臭空気は10.79で、レモンとも動物様のにおいとも有意差がありませんでした。
差は20段階の尺度で約0.44点です。布の種類による大きな違いを覆すほどではなく、同じ布の評価を少し動かす程度の変化でした。また、香りの影響が布の処理によって明確に変わるという交互作用も認められませんでした。
次は、布そのものに香りを付けた40人
実験2には、前の実験とは別の40人が参加しました。布は最も柔らかいアミノシリコーン処理と、最も粗いデンプン処理の2種類に絞り、ラベンダー調香料、動物様香料、無香の3条件を組み合わせました。
香料は布の角に付け、参加者も実験者も香料を付けた部分には触れないようにしています。参加者は目隠しをし、香りの名称は教えられず、布を指でこすって、においの快・不快と手触りを評価しました。今回は覚えて答えやすいよう、1から10までの粗さの尺度を使いました。
各組み合わせを5回ずつ、無作為な順序で計30試行行いました。レモンからラベンダーへ香りを変え、においの出る場所も鼻元の装置から布へ変えた、より日常の布に近い条件です。
ラベンダーと無香より、動物様のにおいで粗く感じた
実験2でも、柔らかい布と粗い布は明確に区別されました。香りの条件別の平均は、ラベンダーが5.15、無香が5.26、動物様のにおいが5.54でした。
動物様のにおいの布は、ラベンダーの布よりも、無香の布よりも有意に粗く評価されました。一方、ラベンダーと無香の差は有意ではありませんでした。
この結果は、「好ましい香りが無香の布を柔らかくした」と読むより、少なくとも実験2では、不快とされやすい動物様のにおいが、ほかの2条件より粗い評価につながったと読むほうが正確です。無香という比較対象を置くことで、香り同士の差がどちら側に表れたのかが分かります。
香りの好みだけで、すべては説明できる?
多くの試行でレモンやラベンダーは快い、動物様のにおいは不快と分類されました。各人の快・不快の回答に沿って整理し直しても、概ね同じ評価の傾向が得られました。
ただし、本人の香りの好みと、布の評価の変化は、常に一致したわけではありません。例えば実験1には、レモンを主に不快と答えたり、動物様のにおいを快いと答えたりした人もいましたが、その人たちにも、レモン条件で布を柔らかい側に評価する傾向がありました。
著者らは、日常の洗剤や柔軟仕上げ剤を通じて学んだ連想、快い香りと柔らかさの結び付き、感覚情報そのものの統合など、複数の説明を考えています。この実験だけでは、感じた手触り自体の変化と、回答の判断基準の変化を完全に分けることはできません。
においの場所を変えても、評価の違いは見られた
布とは別の装置から香りが来る実験1でも、布から香る実験2でも、香り条件による評価差がありました。においが必ず布と同じ場所から出ていることは、今回の効果が見られるための必須条件ではなかったと考えられます。
一方、実験間では香り、参加者、尺度、提示手順も変わっているため、場所だけの効果を厳密に切り分けた比較ではありません。両実験の効果の違いが有意でなかったことも、「どんな位置でも影響が完全に同じ」と証明するものではありません。
実験2では性別を加えた解析も行いましたが、手触り評価や香りの影響に有意な男女差は認められませんでした。香りを明示的に分類し、布の手触りを評価する、限られた条件での結果として捉えられます。
まとめ
布を見ずに触る2つの実験で、レモンやラベンダーの香りの条件は、動物様のにおいの条件より柔らかい側に評価されました。特に実験2では、動物様のにおいの布は無香の布より粗く評価され、ラベンダーと無香には有意差がありませんでした。
この影響は、香りを布とは別に鼻へ送っても、布に付けても見られました。布そのものの手触りの違いは保たれながら、鼻からの情報が評価を少し動かす。手触りの体験を、指だけでなく複数の感覚が関わるものとして理解する研究です。
著者M. L. Demattèはトレント大学の助成を受け、Unilever ResearchとQuest Internationalが試験用の香料を提供したと謝辞に記載されています。
参考文献
Demattè ML, Sanabria D, Sugarman R, Spence C. (2006). Cross-Modal Interactions Between Olfaction and Touch. Chemical Senses, 31(4), 291–300. 原著論文。


