香り成分が同じでも、果実感は変わる?

香り成分が同じでも、果実感は変わる? 香りの科学

同じ香り成分を同じ量だけ入れても、口にしたときのリンゴらしさや洋梨らしさは同じになるのでしょうか。液体には、香り以外にも、アルコール、酸、甘味を感じさせる成分などが含まれています。それらの組み合わせが、一口の印象を変えるかもしれません。

2019年、Andrew R. PoveromoとHelene Hopferは、香りの配合をそろえた白ワイン風のモデル溶液を使い、口に入れてから感じ方がどう変わるかを調べました。目的は、どの成分が風味、味、口当たりの時間変化に関わるのかを見つけること。そして、一度だけ強さを採点する評価では見えにくい違いを、時間を追う方法で捉えることでした。

12種類のモデルワインで、香りの配合は共通に

研究チームが作ったのは、市販ワインそのものではなく、白ワインに似せた12種類のモデル溶液です。変えた要素は、エタノール10・12・14%の3段階、グリセロール5・15グラム毎リットルの2段階、カフェ酸20・60ミリグラム毎リットルの2段階でした。この3×2×2の組み合わせで、12試料を作っています。

グリセロールはワインに含まれ、甘味などに関わる成分です。カフェ酸は、ワインに含まれるフェノール性成分の代表として選ばれました。香りの混合物、酸度、pH、モデルとなるタンパク質の量はそろえています。香りの混合物には複数のエステルやリナロールなどが含まれていました。

評価者は、白ワインを月に少なくとも2~3回飲み、官能評価やワイン研究の経験を持つ23~65歳の12人です。女性8人、男性4人で、方法と表現の訓練を受けた後、各試料を3回ずつ、6回のセッションに分けて評価しました。

今感じているものを、同時にいくつでも選ぶ

使ったのはTCATAという方法です。画面には、リンゴ、洋梨、柑橘の風味、甘味、酸味、苦味、渋さ、温かい・熱い感じの8項目と「その他」が表示されました。参加者は、その時点で感じるものをすべて選び、感じなくなったら選択を外します。一番目立つものを一つだけ選ぶ方法ではありません。

試料を口に入れてタイマーを始め、10秒間口の中で動かしてから吐き出しました。その後も、余韻を含めて最大3分間、選択を続けています。解析では30秒ずつの区間に分け、どの項目が選ばれていたかを比べました。

この記録は、感覚の強さを直接点数で表したものではありません。選択される頻度や時間を捉えたもので、「多く選ばれた」をそのまま「何倍強く感じた」に換算することはできません。

アルコール量は、初めの果実感と長く残る苦味に関係

今回変えた成分のうち、最も広く時間的な感覚の違いに関わったのはエタノールでした。高い濃度の試料ほど、苦味や温かい・熱い感じが選ばれやすく、低い濃度の試料ほど、リンゴや柑橘の風味、甘味が選ばれやすい傾向を示しました。

違いが現れる時間帯は、項目ごとに異なりました。リンゴの風味と甘味では、最初の30秒にエタノール濃度の有意な効果が見られました。柑橘では最初の60秒に加え、120~149秒にも効果がありました。

一方、苦味に対するエタノールの効果は、開始から119秒まで続きました。温かい・熱い感じにも、評価時間の大部分で効果がありました。香りの配合が共通でも、早い時間帯の果実感と、後まで残る味や刺激では、土台となる成分の影響の現れ方が違ったのです。

グリセロールを変えると、洋梨の風味も変わった

グリセロールが多い試料では、甘味や洋梨の風味が選ばれやすくなりました。たとえば30~59秒の区間では、グリセロール濃度による洋梨の風味の違いが有意でした。同じ時間帯には甘味にもグリセロールの効果が見られています。

グリセロールが多いと、苦味や渋さは選ばれにくい方向でした。甘味への効果は最初の120秒、苦味への効果は最初の90秒、渋さへの効果は最初の60秒に認められました。さらに評価の後半の苦味では、エタノールとグリセロールの組み合わせも関係していました。成分の働きは、単純に一つずつ足し合わせれば分かるものではありません。

カフェ酸については、今回の20と60ミリグラム毎リットルという濃度差による単独の有意な効果は、評価項目に見られませんでした。著者らは濃度差の小ささが一因かもしれないと考えています。これは、フェノール性成分がどんな条件でも感覚に影響しないという結果ではありません。

香りそのものを増やさずに、果実感が変わる理由

著者らが重視した解釈は、感覚同士の相互作用です。たとえばグリセロールによる甘味が、洋梨のような果実の印象と結びつく可能性があります。甘い果物を食べる経験を通じて、果実の香りと甘味を一緒に捉えることが、その背景として考えられています。

甘味が増すと苦味が選ばれにくくなることについては、味同士が互いを弱める働きで説明できると著者らは論じています。また、エタノールが高いときの苦味と、リンゴの風味が選ばれにくくなる関係にも、味と香りの相互作用を考えています。

これらは結果に整合する解釈ですが、この研究が、脳の中の統合過程を直接測ったわけではありません。香りの成分量を液体中でそろえても、組成が変われば、香りが液体から出てくる挙動に影響する可能性もあります。今回の官能評価だけでは、物理・化学的な放出の変化と、感じ方の相互作用の寄与を完全に分けられません。

一度の採点と、時間を追う評価を組み合わせる

この研究のもう一つの帰結は、評価方法の使い分けです。著者らは、同じモデル試料を一度の強さの採点で評価した先の研究と比較し、共通して捉えられる違いがある一方、時間を追わないと見えない違いもあると指摘しました。

たとえば、口にした直後の印象を採点し終えた後に、苦味や熱い感じの差が残ったり現れたりするなら、最初の点数だけでは余韻を捉えきれません。反対に、TCATAは感じる・感じないの記録なので、強さの細かな差の表現には限界があります。著者らは、どちらかを置き換えるより、両者を組み合わせることを提案しています。

対象は訓練された12人と、限定した成分のモデル溶液です。実際のワインはさらに複雑で、著者らも実ワインでの検証を今後の課題に挙げています。今回の濃度比較を、特定の銘柄の味の予測や、好ましいアルコール度数の決定にそのまま使うことはできません。

まとめ

香りの混合物を同じ濃度にそろえても、エタノールやグリセロールを変えると、リンゴや洋梨などの風味が選ばれる時間経過は変わりました。果実感は香気成分の量だけでなく、一緒に感じる味や口当たりとの関係の中で形づくられる可能性があります。

しかも、違いが出るのは一口の最初だけではありません。成分が香り、味、余韻にどう関わるかを理解するには、その瞬間の強さに加え、いつ現れ、いつまで続くかも見る必要がある。そうした時間の視点を、ワインの評価に加えた研究でした。

参考文献

Poveromo, A. R., & Hopfer, H.(2019). Temporal Check-All-That-Apply (TCATA) Reveals Matrix Interaction Effects on Flavor Perception in a Model Wine Matrix. Foods, 8(12), 641. DOI: 10.3390/foods8120641 · 原著全文。

原著:© 2019 the authors. Licensee MDPI, Basel, Switzerland. CC BY 4.0。研究は米国USDAの助成を受けています。Hopferは食品企業からの講演・相談料の受領を申告しており、著者らは、そうした組織や資金提供者は本研究の設計・解析・公表判断に関与していないと記載しています。