試香の合間のコーヒー豆は、鼻をリセットする?

試香の合間のコーヒー豆は、鼻をリセットする? 香りの科学

香水をいくつも試していると、次の一本を嗅ぐ前にコーヒー豆を勧められることがあります。いったん別の匂いを嗅げば、香水の違いがまた分かりやすくなる。そんな「鼻のリセット」に、どのくらい根拠があるのでしょうか。

2011年、米国ベロイト大学のAlexis Grosofskyらは、市販香水を繰り返し嗅いだあとに、コーヒー豆、レモン、空気を比べる実験を発表しました。問いは、試香の合間に嗅ぐものによって、まだ嗅いでいない香水を選び出す成績が変わるか、というものです。

三つの香水を嗅いだあと、四つ目を見つける

参加したのは大学生63人です。研究者は市販香水4種類を試香紙に吹きつけ、乾かしてから小さな瓶に入れました。参加者はそのうち3種類を、それぞれ3回ずつ嗅いで評価します。香りの快さや強さなどを答えてもらったのは、同じ香りを繰り返し嗅ぐ場面を作るためでした。

計9回の試香のあと、参加者を無作為に三つの条件に分けました。コーヒー豆、レモンの切片、匂いを入れていない容器の空気のいずれかを、10秒間嗅ぎます。続いて、それまでの3種類と新しい1種類を渡し、初めて嗅ぐ香水を選んでもらいました。

コーヒー豆の優位は示されなかった

新しい香水を正しく選べた割合は、空気で57%、コーヒー豆で62%、レモンで86%でした。数字には開きがありますが、三つの条件の違いは統計的に有意ではありませんでした。今回の実験では、コーヒー豆が識別成績を改善するという結果は得られていません。

レモンの数字が一番高いことも、「レモンならリセットできる」と結論づける根拠にはなりません。また、有意な差がなかったことは、三つの方法が完全に同じだと証明したことでもありません。

そもそも、十分に鼻が疲れていた?

この研究を読むうえで大切なのは、著者ら自身が、実験で十分な嗅覚疲労を起こせていなかった可能性を認めている点です。四つから当てずっぽうで選べば正答率は25%ですが、どの条件でも半数以上が正解していました。著者らはこの成績から、香りを見分けられなくなるほどの疲労は生じていなかったと考えました。

したがって、これは「疲れきった鼻を、どの方法が回復させたか」を直接示す実験にはなっていません。香水を嗅ぐ時間や吸い込む量も厳密にはそろえず、参加者の嗅覚能力の正式な検査も行っていませんでした。瓶を手に取って嗅ぐという身近な方法には、条件を細かく管理しにくい面もあったのです。

まとめ

この小規模な実験では、試香の合間にコーヒー豆を嗅ぐ特別な利点は示されませんでした。著者らは販売店の慣行を見直すことを提案しています。一方で、十分な嗅覚疲労からの回復を確かめられていないため、「コーヒー豆はどんな場合も無意味」とまで広げることはできません。

試香の時間に取り入れるなら

ここから日常の試香を考えるなら、コーヒー豆を嗅いだことだけで「もう鼻は元どおり」と判断しない、という読み方ができそうです。違いが曖昧になってきたら、その場ですべて決めようとせず、気になった香水を記録して、あらためて試す余地を残す。これはこの研究が有効性を比べた方法ではありませんが、自分の印象を急いで決めつけないための工夫です。

参考文献

著者:Alexis Grosofsky, Margaret L. Haupert, Schyler W. Versteeg
論文名:An Exploratory Investigation of Coffee and Lemon Scents and Odor Identification
掲載誌:Perceptual and Motor Skills 112(2), 536–538(2011年)
DOI:10.2466/24.PMS.112.2.536-538