ビーツの土を思わせる香りに関わる成分が、ゲオスミンです。それなら、この成分を少なくすれば、より好まれるビーツになるのでしょうか。
2022年に発表された参加型の品種改良研究では、答えはそれほど単純ではありませんでした。ゲオスミンが少ない系統も多い系統も消費者に受け入れられ、その濃度だけでは「土っぽく感じるか」「好きか」を一貫して説明できなかったのです。研究は同時に、農家、料理人、消費者の意見を取り入れ、5つの新品種を生み出しました。
分子の研究を、食べる人とつくる人の品種改良へ
研究の出発点は、ゲオスミンが少ない集団と多い集団でした。どちらも根の色に幅があり、風味と見た目に特徴のあるビーツを育てる材料として期待されていました。
目的は、米国ウィスコンシン州の有機農場で育ちやすく、食べる人にも好まれる品種をつくることと、実験室以外の場でゲオスミン濃度がどう受け止められるかを調べることです。比較したのは、一つの農場とそのスタッフ・購入者が参加する方式と、複数の農家や料理人、試食会の来場者から意見を集める方式でした。
2016〜2018年に選抜を進め、発芽、病気への強さ、雑草に負けにくい生育、根の形や見た目などを評価しました。前半の2回の選抜には、また食べたいかという評価も使い、最終年は栽培上の性質を中心に選びました。選んだ根から種を採り、次の世代を育てています。
蒸したビーツを、いつもの食に近い場所で評価した
試食には、丸ごと20〜22分蒸し、皮を残して切り分けたビーツを使いました。試料は記号で示しましたが、色は隠していません。農場やレストラン、消費者向けの催しで、「もう一度食べたいか」、見た目、ビーツらしい風味などを尋ねました。前半2回の消費者選抜には、農場側で計120人、広く参加者を集める側で計119人が参加しています。
さらに2018年と2019年には、育成した品種の一部と比較品種を、甘さ、土っぽさ、苦味、強さ、複雑さ、好みなどの5段階で評価しました。2018年は消費者38人と料理人7人、2019年は消費者38人、大学園芸部門の9人、料理人6人が、それぞれの会場で参加しました。
化学分析では、別に採った生の根の試料からゲオスミンと総溶解固形分(TDS)を測りました。TDSは糖分などを反映する指標です。試食した蒸しビーツそのもののゲオスミン濃度は測っていないため、調理による揮発や、一つ一つの根の違いは残ります。
ゲオスミンの少なさは、好みの順位を決めなかった
出発集団のゲオスミン濃度には明確な差がありましたが、TDSには平均の有意な差がありませんでした。ゲオスミンの違いを持つ材料から選んでも、多くの選抜場面では、どのグループをまた食べたいかに強い差は現れませんでした。
前半2回をまとめると、消費者が「また食べたい」と答えた評価の割合は、低ゲオスミン群で87%、高ゲオスミン群で85%でした。両群の差は有意ではありません。この数字は人の割合ではなく、複数試料に対する評価を集計したものです。成分量の大きく異なる材料でも、どちらも好意的に受け止められました。
選抜を経た低ゲオスミン集団は、二つの方式の間で濃度が分かれるようになりました。ただし、濃度が低い側が選ばれた場面も、高い側が選ばれた場面もあり、その選択時の好みの差は明確ではありませんでした。著者らは、好まれる濃度へ一方向に選抜されたというより、限られた親を残す過程での偶然の変動が関わったと解釈しています。
「土っぽい」と感じることも、濃度だけでは説明できない
後半の品種評価では、ゲオスミンが多い「Moving Target」「Blushing Not Bashful」と、少ない「Snowglobe」の間に、土っぽさの有意差は、いずれの試食会でも認められませんでした。反対に、測定濃度に有意差のない品種の間で、土っぽさの評価が違う場面もありました。
土っぽさと好みの関係も、2018年は負の相関、2019年は弱い正の方向と、年によって変わりました。今回の参加者には香りの基準試料を示していないため、「土っぽい」という言葉に、苦味や甘さの弱さなども重ねていた可能性があります。
一方、甘く感じられた品種ほど好まれる関係は、両年で有意でした。苦く感じられるほど好みが下がる方向も両年にありましたが、有意だったのは2018年です。甘さには品種差があってもTDSの有意差は見られず、糖分の指標だけでも感覚を説明し切れませんでした。
白いビーツが、見た目の予想を上回ることもあった
興味深い例は、白い根のビーツです。選抜中には、色付きの比較群より見た目の好みが大幅に低くても、また食べたいかでは同程度に受け入れられ、次世代へ選ばれた白い群がありました。
後の試食で「Blushing Not Bashful」は、甘さと好みの両方で上位の比較グループに入りました。この品種はゲオスミンが多い側から育成されています。土の香りの成分を減らすことだけが、好まれる品種への道ではなかったのです。
著者らは、見慣れない白さから低い期待を持ち、食べてみると予想よりよく感じた可能性を述べています。ただし、同じ試料の色だけを変えた実験ではありません。白い別品種がいつも高く評価されたわけでもなく、色だけの効果を確定することはできません。
5品種の開発と、料理人が参加する意味
研究から生まれたのは、低ゲオスミン系の「Evansville Ember」「Snowglobe」と、高ゲオスミン系の「Evansville Orbit」「Moving Target」「Blushing Not Bashful」です。最後の品種は消費者選抜でわずかに残らなかったものの、料理人が風味と見た目を評価したことで、別途育成されました。
著者らは、料理人の参加が新しい特徴を見いだす助けとなり、農家や消費者をつなぐ仕組みが、育成中から品種への関心を育てたと結論しています。各品種の選抜場所は一つで、通常栽培との並行比較もないため、どの地域の有機農場でも優れるかは、別途試す必要があります。
まとめ
蒸したビーツを日常の食に近い場で評価したこの研究では、ゲオスミンの少なさだけでは好みや土っぽさを一貫して説明できませんでした。甘く感じることは両年で高い好みと結び付き、ゲオスミンの多い品種にも、よく好まれるものがありました。
農家、料理人、消費者が参加する選抜からは、風味や色の異なる5品種が生まれました。著者らが示したのは、一つの成分を減らすことだけに注目せず、味、香り、見た目、食べる場面を合わせて品種を育てる重要性です。
研究は米国農務省のHatch助成による支援を一部受けています。開発品種はWisconsin Alumni Research Foundationを通じて商用ライセンスの対象となり、著者のHansonとGoldmanは、その収益の一部を受け取ると開示しています。
参考文献
Hanson SJ, Dawson JC, Goldman IL. Participatory plant breeding reveals that geosmin concentration is not the central determinant of hedonic liking in table beet. Euphytica. 2022;218:14. 原著論文


