活性炭は、におい成分を吸着する材料として知られています。ただ、黒い粉末をそのまま脇に塗るには、見た目が課題になります。2020年の研究では、活性炭を酸化チタンと高分子で白く覆い、においを捕まえる働きと、肌に塗ったときの見た目を両立する材料を作りました。
試験した材料入りのスプレーは、8人の片方の脇に塗る試験で、6時間後のにおいを無塗布側より低くしました。材料づくりから成分ごとの吸着試験、小規模な人体試験までをつないだ研究です。
体臭成分は、一種類の吸着材で同じように捕まる?
研究では、体臭との関わりが知られる五つの成分を選びました。ジアセチル、2-ノネナール、酢酸、3-メチル-2-ヘキセン酸、イソ吉草酸です。酸、ケトン、アルデヒドなど、化学的な性質の異なる分子が含まれます。
まず、活性炭と、比較材料の酸化亜鉛を調べました。各におい成分と材料を綿の小片に載せ、密閉した容器を37℃で30分間保ち、上部の空気に出てくる成分をGC–MSで測りました。材料を入れない対照から信号がどれだけ減ったかを、吸着の指標としています。試験管内の測定は独立した3反復でした。
活性炭は、ジアセチルと2-ノネナールで酸化亜鉛より高い吸着を示しました。一方、成分によって両材料の差は異なります。著者らは、酸化亜鉛が得意とする成分だけでなく、異なる性質の成分も捕まえられる活性炭を、材料開発の出発点にしました。
白くするほどよい、とは限らない
活性炭には、多数の細かな孔と広い表面があります。その表面に分子がとどまることが、吸着の基本です。研究者らは候補となる4種類の活性炭を比べ、材料の密度や孔の構造、表面の性質も吸着に関わると考えました。なお、この選別試験の図は、本文と図説明では酢酸、縦軸ではジアセチルと表記が食い違うため、成分別の細かな比較値は確定しにくい箇所です。
次に、選んだ活性炭を白く見せるため、光をよく散乱する酸化チタンを加えました。しかし、単に混ぜただけでは十分に覆えず、灰色が残りました。そこでアクリル系の共重合体を接着役にすると、電子顕微鏡でも酸化チタンによる被覆が確認でき、より白い材料になりました。論文ではこれを白色活性炭、WACと呼んでいます。
酸化チタンを増やすと白さは増す一方、ジアセチルの吸着は低下しました。著者らは、炭の孔がふさがれることが理由と考えています。見た目と吸着を合わせて検討し、試した範囲では活性炭と酸化チタンの比率1対6を選びました。また、平均粒径9.4マイクロメートルの炭より、40.5マイクロメートルの炭を使ったほうが、白さと吸着の点でよい結果でした。
前腕に塗った写真では、黒い活性炭だけの試料より肌の色になじむ外観が示されました。これは見た目の確認で、肌への安全性を長期間評価した試験とは別です。
完成した材料の吸着は、成分によって違った
WACを五つのにおい成分で調べると、酸化亜鉛より吸着が高かったのはジアセチルと2-ノネナールでした。酢酸では逆にWACのほうが低く、3-メチル-2-ヘキセン酸とイソ吉草酸では有意差がありませんでした。「どの体臭成分でも一様に優れる」という結果ではなく、得意な成分が異なることが重要です。
また、含まれる活性炭の量をそろえて比較したジアセチル試験では、WACと黒い活性炭の吸着に有意差はありませんでした。著者らは、白く覆った後も炭の孔が完全にはふさがらず、吸着能力が残っていると解釈しています。
酸化チタンだけの試験でも、一部の酸を捕まえる働きが見られました。今回の材料は、酸化チタンの光触媒作用で分子を分解させることを主眼にしたものではなく、白く見せる働きと吸着を利用した設計です。
8人の脇では、6時間後のにおいが低下
人体試験では、無香料の石けんで脇を洗い、片方へWACを1.5%含むスプレーを塗りました。試験品にはミリスチン酸イソプロピルと噴射剤も含まれています。反対側は何も塗らず、6時間後に5人の評価者がにおいを0〜5の尺度で判定しました。
塗布側の6時間後のにおい強度は無塗布側より低く、統計的な差がありました。開始時から6時間後までの評点の増加幅も、塗布側で小さくなりました。ここでの「増加幅」は評点の差で、におい分子が何%減ったかを表す数値ではありません。
研究者らは、同じ6時間後に脇から採取した試料のATPも測定しました。ATPの信号を表皮ブドウ球菌の基準に換算した菌量の指標には、塗布側と無塗布側の有意差がありませんでした。著者らは、殺菌よりも消臭・吸着機能がにおいの低下を説明すると考えています。
ただし、これは直接培養して菌を数えた比較ではなく、菌の種類や代謝の働きまで調べたものでもありません。また、WACだけを除いた同じ基剤との比較がないため、人体試験の差をWAC単独の作用として完全に切り分けることはできません。
材料開発の成果と、残る課題
この研究の成果は、活性炭の黒さという実用上の問題に対して、吸着を残しながら白くする構成を見つけたことです。単に白い粉を増やすのでなく、粒の大きさ、被覆、配合比を調整した点に材料研究としての意味があります。
一方、人体試験は8人、6時間の小規模な評価で、割付や評価の盲検化の詳細も示されていません。長期間の使用、汗の多い条件、さまざまな肌での使用感や安全性は、さらに検討する必要があります。著者らが挙げた壁材などへの応用や量産化も、今回確かめた範囲の先にある展望です。
まとめ
活性炭を酸化チタンと高分子で覆うことで、白い外観とにおい成分の吸着を両立する材料が作られました。完成した材料は、酸化亜鉛に比べてジアセチルと2-ノネナールをよく捕まえる一方、酢酸では吸着が低く、ほかの二つの酸では有意差がありませんでした。
材料入りスプレーを使った8人の試験では、6時間後の脇のにおいと、その増加幅が無塗布側より小さくなりました。におい成分を捕まえる力と、肌の上で使いやすい外観を同時に設計するという、消臭材料づくりの一例です。
研究の資金・利益相反:研究費はマンダムが提供し、研究当時、著者3人は全員同社の社員でした。論文の利益相反欄では、会社は研究設計、データ取得、出版判断に関与しなかったとも申告されています。
参考文献
Hara T, Nabei H, Kyuka A. Activated carbon/titanium dioxide composite to adsorb volatile organic compounds associated with human body odor. Heliyon. 2020;6:e05455. doi:10.1016/j.heliyon.2020.e05455


