ジャスミン茶の花の香りには、単独では糞便様、動物様とも表現されるインドールが含まれています。2017年の分析では、ジャスミンの花で香りを付けた緑茶でインドールが増え、リナロール、β-イオノン、アントラニル酸メチルとともに、香りへの寄与が大きいと見込まれる成分に挙げられました。
研究の中心は、意外な成分を見つけることだけではありません。花から茶へ移りやすい成分と残りにくい成分の違い、さらに製造中の加熱による変化を調べ、ジャスミン茶の香りがどう組み立てられるかを探っています。
花と茶を合わせ、乾燥する工程を3回繰り返す
研究に使ったのは、中国・広西で育てた茶品種「金萱」の新芽から作った緑茶と、ジャスミンの一種ジャスミン・サンバックの開花した花です。先に緑茶を製造し、花と茶葉を重量で4対5の比率で混ぜました。
38〜48℃で12時間置いた後、花を取り除き、茶葉を120℃で1時間乾燥。この着香と乾燥を合計3回行いました。原著の導入には一般的な乾燥条件の説明もありますが、この実験で使ったのは120℃です。
比較したのは、着香した茶、着香していない茶、それに新鮮な花の揮発成分です。茶は1グラムに熱湯100ミリリットルを加えて5分置き、浸出液の上の空気に出てくる成分を繊維へ集め、GC-MSで分析しました。花は別に、38℃でその周囲の成分を採取しています。各試料の種類について3つの生物学的反復を調べました。
花に多い成分が、そのまま茶の主役になるとは限らない
着香した茶では、着香前の茶と比べて34成分が増え、3成分が減っていました。たとえばリナロール、インドール、酢酸ベンジルは大きく増加しています。これらが花から茶へ取り込まれたことと整合する結果です。
一方、花の周囲で最も多かったα-ファルネセンは、着香茶ではずっと少なくなりました。花の成分の量だけを見ても、飲むときに立ち上がる香りの構成をそのまま予想できるわけではありません。
茶の浸出液と生の花では採取条件が異なり、成分が試料から空気へ出てくる割合もわかりません。著者らも、この二つの測定量を単純に直接比較することには限界があると記しています。
インドールも、花香をつくる候補の一つ
成分の量と、人がその成分を感じ始める濃度は別です。研究では、文献から閾値が得られた27成分について、測定量を閾値で割った「におい活性値(OAV)」を求めました。OAVが大きい成分は、香りへの寄与を考える際の有力な候補になります。
着香茶ではβ-イオノンのOAVが731.3、リナロールが288.9で、着香していない茶より高くなりました。インドールとアントラニル酸メチルも、重要と見込まれる成分に含まれています。
原著が整理した香調では、リナロールは花・果実・柑橘様、イオノンは木や花を思わせ、インドールには糞便様、動物様、花様という記述があります。一つの成分につく香調の言葉と、それを含むお茶全体の印象が同じになるとは限らないことが、この組み合わせからよくわかります。
OAVは感知閾値に対する比であり、「香りが731倍強い」という知覚強度の倍率ではありません。また、今回の研究は、インドールを加えると好ましくなるかを飲み手に評価してもらったり、特定成分を除いて香りの変化を確かめたりしていません。混合した香りへの寄与は、分析からの推定です。
茶に残りやすさは、成分ごとに大きく違う
研究者は、着香によって増えた量を花の測定量と比較する「着香効率」という指標も計算しました。α-ファルネセンの0.22%からβ-ミルセンの75.5%まで、大きな幅がありました。
ただし、これは花から茶へ移った成分の質量をすべて追跡した移行率ではありません。前述のように花と浸出液の採取条件が違い、茶の中で新しく生じる成分もありえます。この数値は、この分析条件での相対的な残りやすさの目安です。
著者らは、水に溶けやすい成分で高い値が多いことに注目しました。花から放出される水分を茶葉が吸い、その水の部分に香り成分が取り込まれる可能性を挙げています。ただし、ミルセンやリモネンのように水に溶けにくくても高い値を示す例もあり、揮発しやすさや茶葉との相互作用など、複数の性質が関係すると考えています。
加熱は、香りを生みも失わせもする
着香茶で増えた成分の中には、今回の花の周囲からは検出されなかったものもありました。β-イオノンや一部の酸化テルペンなどです。これらについて著者らは、花からの単純な取り込みに加え、加熱や水分による前駆体からの変換が関わった可能性を論じています。
反対に、ろうや油脂を思わせる香調を持つノナナールとデカナールは、着香茶で少なくなりました。繰り返す加熱によって、茶葉から離れて空気へ失われた可能性があります。
生成経路や損失量を直接追跡した実験ではないため、どの反応がどれだけ寄与したかは未確定です。それでも、花の香りが茶へ付着するだけという説明では、成分の増減全体を捉えられないことがわかります。著者らは、取り込み、保持、放出、化学変化を合わせて考えることが、製茶の香り設計に役立つと結論づけています。
まとめ
ジャスミンで着香した緑茶では、リナロールやインドールなどが増え、花香への重要な寄与が見込まれました。一方、花に多いα-ファルネセンは茶に同じようには残らず、ノナナールなど減る成分もありました。
ジャスミン茶の香りは、花の成分を丸ごと移したものというより、茶葉が何を取り込み、加熱で何が生まれ、何が失われるかの組み合わせです。インドールという意外な一成分も、その全体の中で考えると、花の香りを理解する手掛かりになります。
研究は中国国家自然科学基金の助成を受けています。著者らは利益相反がないと申告しています。
参考文献
Shen J-X, Rana MM, Liu G-F, Ling T-J, Gruber MY, Wei S. Differential Contribution of Jasmine Floral Volatiles to the Aroma of Scented Green Tea. Journal of Food Quality. 2017;5849501. doi:10.1155/2017/5849501


