香りのあるオイルを水へ加えると、単に薄くなるだけでなく、香りの性格が変わることがあります。2026年の研究では、コーヒーオイルを水に加えたとき、甘く香ばしい印象から、焙煎を思わせる香りが前に出る変化を調べました。
成分を分析するだけでなく、一部を取り除いて嗅ぎ直す方法を使い、1-フルフリルピロールと4-ビニルグアイアコールが、この焙煎様の香りに寄与することを示しています。
飲むコーヒーではなく、豆から圧搾したオイル
試料にはブラジル産の焙煎豆を使い、圧搾したオイルを遠心濾過して用いました。研究の目的は、このオイルを水へ加えたときの香調変化を確かめ、その変化に関わる成分を調べることでした。
オイル単独と、純水へオイルを加えてよく攪拌した試料を比較しています。水添加試料は、分析時には上層にオイルが浮かぶ状態でした。普段の抽出コーヒーに水を足して飲み比べた試験とは、試料も条件も異なります。
香気は40℃の試料上部から回収し、ガスクロマトグラフィー質量分析で調べました。官能評価は実験者3人が、各試料について3回行っています。
水を加えると、出てくる成分の構成が変わった
オイル単独は甘く香ばしく、水を加えた試料では焙煎様の香りが感じられました。分析では、水添加試料で検出される成分が少なくなり、特に分離の前半に出るフルフラールなどの信号が小さくなっていました。
ここで、条件間のピークの高さをそのまま濃度比にすることはできません。水添加試料の信号が小さかったため、オイル単独は1µLの油から1Lの気体を回収したのに対し、水添加では2µLの油と10mLの水を使い、計5Lの気体を回収しています。油量と捕集量が違うためです。
それでも、水を加えた試料では多く回収しても前半の成分が目立たなくなり、揮発する香気の構成が変わっていることが確認されました。香り全体の量だけでなく、どの成分が相対的に前へ出るかが重要になります。
一部を取り除いて、焙煎様の香りへの寄与を確かめる
機器で目立つピークが、香りの印象にも最も重要とは限りません。そこで使われたのが「オミッション」、つまり一部の成分を除いた香りをつくって比較する方法です。
研究者らは、水添加試料から出た香気を機器で分離し、低沸点成分、ピリジン・ピラジン類を含む部分、フラン類を含む部分、高沸点成分を中心とする部分の4画分に分けました。それぞれを除いて残りをバッグへ回収し、香りを評価しています。
高沸点中心の画分を除くと、焙煎様の印象が弱くなり、元のコーヒーオイルに近い甘香ばしさやナッツ様の印象へ戻りました。ほかの画分の除去では焙煎様の印象が残り、この高沸点画分の重要性が浮かび上がりました。
さらにその画分を詳しく調べ、1-フルフリルピロールと4-ビニルグアイアコールの2成分を除くと、焙煎様の香りが弱くなり、甘香ばしい方向へ近づきました。ただし、高沸点画分全体を除いたときには、さらに焙煎様の香りが弱まりました。2成分だけですべてを説明できるのではなく、ほかの成分も関わると考えられます。
水へ移る成分と、香りとして残る成分
著者らは、親水性の香気成分が水側へ移り、空気中へ出にくくなることで、残る成分の焙煎様の印象が表れやすくなったと考察しています。水を加えて新しく焙煎したわけではなく、もともとある成分の出方と組み合わせが変わった、という説明です。
機序の細部には確認が必要です。原著の考察には、2成分の揮発が「増加した」とする記述と、これらを含む疎水性成分では「大きな揮発変化はなかった」とする記述があり、後者の根拠データは掲載されていません。試料量や捕集量も違うため、2成分がどれだけ増えたかを確定した結果としては扱えません。
比較的はっきり確認されたのは、水添加で香調が変わることと、2成分や高沸点画分を除くと焙煎様の香りが弱まることです。実験者3人の評価で、官能差の統計検定は記載されておらず、一般消費者の好みや飲料としてのおいしさは今後の別の問いになります。
まとめ
コーヒーオイルを水へ加えると、甘香ばしい印象から焙煎様の香りが目立つ構成へ変わりました。成分を除く実験から、1-フルフリルピロールと4-ビニルグアイアコール、さらに高沸点画分のほかの成分も、この印象に関わることが示されました。
水への添加は、香りを一様に弱めるだけとは限りません。水や油への分かれ方が成分ごとに異なることで、香り全体の中で目立つ特徴が変わる。その考えを、コーヒーオイルで検討した研究です。
研究当時、著者2人はサントリーグローバルイノベーションセンター、1人はにおい科学研究所に所属していました。島津製作所による分析機器の運用協力に謝辞があります。独立した資金提供欄は見当たらず、著者らは開示する利益相反関連事項なしと申告しています。
参考文献
土屋貴嗣,石井仁,喜多純一.コーヒーオイルの水系への添加時に揮発される香気成分の解析.におい・かおり環境学会誌.2026;57(2):133–136.doi:10.2171/jao.2025.15


